【絵本の紹介】「フレデリック」【193冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はレオ・レオニさんの作品の中でも「スイミー」に並んで人気の高い「フレデリック ちょっとかわったのねずみのはなし」を紹介します。

作・絵:レオ・レオニ

訳:谷川俊太郎

出版社:好学社

発行日:1969年

 

有名な絵本ですから、内容もご存知の方が多いでしょう。

これもまた、レオニさんらしい哲学的物語です(そのせいで一部の読者からは敬遠されたりもしてるようですが)。

 

なじみ深い「アリとキリギリス」っぽい寓話ですが、レオニさん特有の視点により、結末は180度違います。

 

石垣の中の隠れ家で暮らす野ねずみたち。

冬に備えて、野ねずみたちはせっせと食料を運び込みます。

けれど、「ちょっとかわった」野ねずみのフレデリックだけは、全然働かずに座り込んでぼーっとしています。

どうして きみは はたらかないの?

仲間たちに尋ねられて、

さむくて くらい ふゆの ひの ために、ぼくは おひさまの ひかりを あつめてるんだ

とフレデリック。

 

仲間たちにはフレデリックの言っていることが理解できません。

その後もフレデリックは働かずに、

いろを あつめてるのさ

ことばを あつめてるんだ

そんなフレデリックに、忙しく働く仲間たちは少々腹を立て始めます。

 

やがて冬が来て、野ねずみたちは隠れ家にこもります。

はじめのうちは暖かく、食べ物もたくさんあり、話も弾み、楽しく過ごします。

 

けれどやがて食料は尽き、寒さに凍え、口数も減っていきます。

そんな時、仲間たちはフレデリックが集めたもののことを思い出します。

きみが あつめた ものは、いったい どう なったんだい、フレデリック

 

そこでフレデリックは、お日さまの話を始めます。

すると、不思議に野ねずみたちは体が暖かくなってくるのを感じます。

色についてフレデリックが話すと、仲間たちははっきりと色どりを心に感じます。

フレデリックが四季についての詩を紡ぐと、仲間たちは拍手喝采。

おどろいたなあ、フレデリック。きみって しじんじゃ ないか!

みんなに言われて、フレデリックは恥ずかしそうに、

そう いう わけさ

 

★      ★      ★

 

コミュニティにおける異端者が、最終的にコミュニティを救う」というこのお話は、レオニさんが好んで使う物語形式です。

フレデリックのような「変わり者」が一定数含まれているほうが、社会集団としては健全であるということです。

 

それは様々な思想や価値観を互いに尊重し合う、多様性を認める寛容な社会を意味しています。

ファシズムと戦い続けた思想家であるレオニさんだからこそのメッセージでしょう。

 

また、この作品のもう一つのテーマとして「芸術家の持つ役割」というものがあります。

「飯の種」をせっせと運ぶ働き者の野ねずみたちは社会経済を担っています。

それは生きるために必要なことですが、「人はパンのみに生きるにあらず」。

詩人・画家・音楽家・作家などの芸術家たちは、人の精神生活を豊かにします。

 

しかしながら、経済発展至上主義の時代にあっては、精神生活の重要性は忘れ去られがちです。

そして芸術を「しょせんは娯楽」と軽んじ、文化を「金になるか、ならないか」のものさしで量ろうとします。

 

もう一つのテーマ、と書きましたが、「多様性を認めないファシズム」と「文化の軽視」は実はセットになっています。

独裁的な権力者は、多様な文化を好みません。

人権の軽視、差別の推進、企業の保護、メディアコントロール、軍事優先、犯罪の厳罰化なども同様です。

 

ファシズムやマッカーシズムは、遠い過去の出来事ではありません。

それらの怨念は社会の至る所に身を潜め、常に復権の機会を伺っています。

彼らはまず、フレデリックのような者を排除することを志向します。

 

私たちの社会をふと見回し、「フレデリックがいない」ことに気づいたとしたら、その時にはすでに遅いかもしれません。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

シャイな表情が素敵度:☆☆☆☆☆

 

関連記事≫絵本の紹介「スイミー」

 

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【絵本の紹介】「わすれられないおくりもの」【192冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

命、愛、死……秋になると自然とそんなテーマの絵本を選びたくなります。

今回紹介するのは「わすれられないおくりもの」です。

作・絵:スーザン・バーレイ

訳:小川仁央

出版社:評論社

発行日:1986年10月10日

 

私は幼い頃、死ぬことが恐ろしくて気が狂いそうな時期がありました。

死んだらどうなるのか

どんな大人に尋ねても、納得のいく答えは返ってきませんでした。

 

「死」をテーマにした絵本はたくさんありますが、この「わすれられないおくりもの」では、「死にゆくもの」の在り方と、「残されたもの」がその悲しみをどう乗り越えていくのかという二つの側面から「死」について物語っています。

 

物知りで親切で、誰からも慕われているアナグマ。

しかし彼も年を取り、死期が近いことを自覚していました。

 

アナグマは死ぬことを恐れてはいませんでしたが、残していく友だちのことを気にかけていました。

でも、その時はやってきます。

 

アナグマは夢の中で、長いトンネルを走っていました。

不自由だった体は軽くなり、自由になったと感じられます。

 

翌朝、集まってきた友だちは、アナグマが亡くなったことを知ります。

アナグマは彼らに向けた手紙を残していました。

長いトンネルの むこうに行くよ さようなら

みんなはやりきれない悲しみに沈みます。

中でもモグラの悲哀は深いものでした。

 

悲しみのうちに冬が来て、やがて春が来ると、仲間たちは互いにアナグマの思い出を語り合うようになります。

ハサミの使い方を教えてもらったこと。

スケートを教えてもらったこと。

ネクタイの結び方を教えてもらったこと。

パンの焼き方を教えてもらったこと。

 

誰の心にも、アナグマの知恵や優しさが、思い出として残っていました。

それはみんなの心を温かくし、悲しみを溶かしてくれました。

 

モグラは丘の上で、アナグマの残してくれたおくりものに対して、お礼を言うのでした。

 

★      ★      ★

 

死んだらどうなるのか

成長の過程で必ず子どもが発するこの問いに答えることは困難です。

 

しかし、質問の裏にある「望まれている答え」というものは実は誰しも同じではないかと思います。

それは即ち、「魂は不滅である」という回答です。

 

それさえ確信できれば、死はそう怖いものではなくなります。

ですが、ただ単に言葉で「魂は不滅である」と言われても、それを信じるのは難しいことです。

 

一度も死んだことのない人間が、どうして『死んでも魂は残る』などと知っているのか

子どもは論理的ですから、必ずこう考えます。

そして、求めるものは結局言葉では得られないことを知ります。

 

かつては「霊」や「魂」について、わりと素朴に信じられた時代があったのでしょう。

科学の発達とともに、そういう超感覚的な存在はリアルさを失ってしまいました。

時代が唯物的になったことを嘆く声もありますが、これは進化の結果ですから、否定すべきことではないと思います。

 

科学と思考が進化・発展した時代で、それでもなお、「魂の不滅性」をどう信じ、どう納得するのか。

単純な神仏論にすがらず、論理的思考を放棄せずに、「魂」について考え抜くこと。

それが現代に生きる人間の課題ではないでしょうか。

 

そのためには、一方に豊かな人生経験と、そしてもう一方に豊かな物語体験が必要です。

これらが両輪としてしっかり噛み合うことで、目には見えないものに対する認識が深まり、生きる上での軸となります。

 

おそらく、この「わすれられないおくりもの」のような物語は、子どもにとっては「悲しい話」であり、あまり好まれないと思います。

でも、物語は子どもの心に何かを残します。

そして成長のどこかで、ふと、「もう一度あの話が読みたい」と思う時が来ます。

読み返した時、以前とは違う何かが、心に根付きます。

その繰り返しによって、情緒は深みを増していくのです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

アナグマの博識度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ぼちぼちいこか」【191冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

最初の子は慎重派、などと聞きますが、我が家の息子も、小さな頃からちょっと臆病なところがありました。

公園の遊具、風船、花火、掃除機、ドライヤー……変なものを怖がります。

 

それだけでなく、根気がないというか、失敗を自分で許せないようなところもあります。

積み木遊びも、少しでも崩れるとやめてしまうし、絵を描いていても、線が上手く引けないと怒るし。

 

このまま行けば完璧主義者になってしまうんじゃないかと心配したり。

 

どうしても初めの子どもに対しては、親の方があれこれ心配するので(表には出さないように気を付けているつもりだったんですが)、その影響は免れないのかもしれません。

しかしその一方で、子どもには失敗を恐れず何事にも果敢にチャレンジして欲しいと願う親心もあったり、いずれにせよ期待される子どもは大変です。

 

そんな時、ふっと肩の力を抜いて、気持ちを入れ替えることのできる絵本を紹介します。

ぼちぼちいこか」です。

作:マイク・セイラ―

絵:ロバート・グロスマン

訳:今江祥智

出版社:偕成社

発行日:1980年7月

 

独特のタッチで描かれたカバくん。

このカバくんが、様々な職種に挑戦しては、ことごとく失敗するというお話。

 

失敗の理由は主に体重。

消防士になろうとして梯子が壊れ、船乗りになろうとしては船が沈み、パイロットになろうとしては飛行機が真っ二つ。

でも、カバくんは少しもめげずに、次々に新しいことに向かって行きます。

「自分には何が向いているのか」と悩む前に、とにかく行動。

失敗はどれもユーモラスですが、絵に加えて、今江さんの関西弁での訳文がこのカバくんにぴったりハマるんですね。

原文にはないシャレを盛り込んだりして、大いに遊んでいます。

一通り失敗した後で、初めてカバくんは立ち止まり、

どないしたら ええのんやろ

と呟きます。

 

でも、慌てず騒がず、

ここらで ちょっと ひとやすみ

と、ハンモックに寝そべります。

ま、ぼちぼち いこか―――と いうことや

 

★      ★      ★

 

就活で悩む学生さんにもオススメしたい一冊。

そう、人生は長い。

 

私は子どものころ、今江さんの児童文学が大好きでしたが、この絵本の訳文に関西弁を持ってくるのは流石だと感心します。

もう、関西弁じゃないカバくんが思い描けないくらい。

「ぼちぼち いこか」というセリフも、代替不能なニュアンスを持った言葉です。

 

最近になって、ようやく息子も少しずつ色んなことに手を出すようになってきました。

焦らずとも、子どもは必ず前に進もうとする生き物です。

 

子どもはもちろん、親も「ぼちぼち」行きましょうか。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

関西弁のマッチ度:☆☆☆☆☆

 

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