【絵本の紹介】「おばけリンゴ」【272冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年の夏は酷暑が続いたり、大雨や台風や地震の被害もあって、農家の人々も大変だったと思いますが、そろそろ実りの秋ということで、こんな絵本はどうでしょうか。

おばけリンゴ」です。

作・絵:ヤーノシュ

訳:矢川澄子

出版社:福音館書店

発行日:1969年3月31日

 

作者のヤーノシュさんは1931年ポーランド(当時はドイツ領)の工業都市に生まれます。

錠前屋とか織物学校とかを転々とした後、ほとんど独学でデザインを学び、1960年に初めての絵本「うまのヴァレクのはなし」で絵本作家デビューします。

 

200冊を超える作品を発表し、ドイツ児童文学会では最も成功した作家と言われています。

が、実は美術学校を「才能がない」という理由で中退しているのですね。

 

絵本の絵というものは一見子どもが描いたようなラフなタッチのものも多く、この「おばけリンゴ」に代表されるヤーノシュさんのイラストも、「へた」と取られることもあるのかもしれません。

しかし、この表紙の主人公の表情など、じっと見ていると何とも言えない深い味があります。

 

また、ヤーノシュさんの作る物語はユーモラスで可愛らしい中に、どこか「大人の寂しさ」を感じさせる部分があり、そこが魅力にもなっています。

大人でも、つい引き込まれてしまう人も多いのではないでしょうか。

 

さて、内容を見て行きましょう。

主人公はワルターという名のヒゲの男。

貧乏ですが、リンゴの木を一本持っています。

ところが、この木はまだ一つも実が生ったことも花が咲いたこともないのでした。

 

ワルターはベッドで悲しみに暮れながら、心を込めて祈ります。

ひとつで いいから、うちのきにも リンゴが なりますように

すると、その小さな願いは叶えられ、ワルターの木に花が一つ咲きます。

ワルターは喜び、その花を大切に守ります。

花の成長を見守るワルターは幸せで、生き生きとしてきます。

 

ついにリンゴの実が生り、大きく育ちます。

が、ここでワルターにちょっとした欲が芽生えます。

リンゴが日増しに大きくなるので、取り入れを先送りし続けるのです。

 

そうするうちに、リンゴは化け物みたいな大きさになってしまいます。

そうなると、ワルターはこれを誰かに取られないかと心配になり、リンゴの番をするようになります。

やっとリンゴを市場に売りに行く気になったワルターでしたが、おばけリンゴは汽車にも積めず、背負って歩くことに。

おまけにあまりに常識外れの大きさのおばけリンゴは、買い手もつかないのでした。

ワルターは落ち込みます。

 

一方このころ、この国を脅かす一匹のリュウがいました。

国じゅうの作物を食い荒らすリュウを退治するか、贈り物で大人しくさせるか、王様が秘密警察(マフィアにしか見えない)に命じます。

 

秘密警察(マフィアにしか見えない)たちは、ワルターのおばけリンゴを思い出し、それをリュウに差し出すことにします。

リュウはおばけリンゴに猛然とかぶりつき、そしてリンゴをのどに詰まらせてあっけなく死んでしまいます。

国に平和が戻り、そしてワルターも悩みが解消されて元気を取り戻します。

そして今度からは「ふたつで いいから」、かごに入るくらいの小さなリンゴが生るようにと祈るのでした。

 

★      ★      ★

 

リンゴが生ってあんなに喜んでいたワルターが実はリンゴが嫌いだったとか、やたら悪そうな王様とか、あまりにも情けない竜とか、後半の超展開は突っ込みどころ満載で、笑っていいのやらなんやらわからなくなりますが、ワルターの心情の変化は、人間の欲望や期待について普遍的な真理を衝いています。

 

願いというものは叶いつつある時が最も幸せで、実際に叶ってしまうと何故か不幸になってしまったり。

また、何も持っていなかった時のワルターの願いは純粋でささやかなものだったのが、手に余るものを持ってしまってからは打算的な欲に変わり、そして持つことによって不安や心配まで抱え込んだり。

 

人間の幸福とは何ぞや、と、都会を離れて創作活動を続けた作者は問うているような気がします。

ヤーノシュさんの作品に漂う寂しさは、彼自身の人生に関係しているのかもしれません。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

リュウの恐ろしさ度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おばけリンゴ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「どうぞのいす」【271冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「どうぞのいす」です。

作:香山美子

絵:柿本幸造

出版社:ひさかたチャイルド

発行日:1981年11月

 

香山さんと柿本さんのタッグ作品では、以前に「ヒッコリーのきのみ」を取り上げたことがあります。

 

≫絵本の紹介「ヒッコリーのきのみ」

 

この「どうぞのいす」は、「交換と贈与」をテーマにした人気絵本。

テンポのいい繰り返し展開が読者を飽きさせず、柿本さんのふんわりとしたタッチと温かい色使いの力もあって、優しい思いやりの気持ちが自然と心に染み入るような素敵な物語になっています。

 

うさぎさんがDIYで椅子を作ります。

この椅子をどこに置こうかと考えたうさぎさんは、大きな木の近くに、「どうぞのいす」と書いた立札と一緒に置きます。

つまり、誰でも座って休める公共物として社会に寄付したのです。

はじめにやってきたろばさんは、どんぐりでいっぱいのかごを椅子に置いて、自分は木陰で昼寝。

 

するとそこにくまさんが来て、どんぐりの乗った「どうぞのいす」を見ます。

これは ごちそうさま。どうぞならば えんりょなく いただきましょう

勘違いしたくまさんはろばさんのどんぐりを全部食べてしまいます。

しかしここでくまさんは、

からっぽに してしまっては あとの ひとに おきのどく

と、代わりにハチミツの瓶をかごにいれて行きます。

 

後にはきつねさんがやってきて、ハチミツをなめて、代わりに持っていたパンを。

その次にやってきた十匹のりすさんたちは、パンを食べ、代わりに栗を置いて行きます。

こんな風に次々と物々交換が繰り返され、ろばさんが目を覚ました時には、どんぐりの代わりにたくさんの栗が、椅子の上のかごに置かれていたのでした。

 

★      ★      ★

 

我が家の5歳の息子は一人っ子。

幼稚園にも行かず、社会経験は皆無に等しいです。

 

家の中では好きなようにやらせてますので、「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」なジャイアニズム。

でも、本来子どもとはそんなもの。

 

私は倫理や道徳を、外的に押し付けないように子どもと接しています。

しかしそれでは、人間を人間たらしめている「どうぞ」の精神を学ぶ機会などないかのように思われるかもしれません。

 

子ども(あとのひと)に対し、大人が「どうぞ」と言い続けると、子どもの人格が曲がってしまうと信じる人たちが大勢います。

しかし、私は見てみたいのです。

本当に心からの「どうぞ」を与えられ続けた子どもが、どう成長するのかを。

 

本心から「どうぞ」と言うためには、「私は十分に満たされている」と思えなければなりません。

だから、「あとのひと」に対し、「私はもういいから、どうぞ」という言葉が出てくるのです。

 

世の中を見ていると、十分に満たされていない子どもたちが、大人からの押しつけによって「どうぞ」と言わされているような光景を度々目にします。

 

子どもたちに「どうぞ」と言わせたければ、まずは子どもたちを完全に満たしてやらなければならないはずです。

それは物やお金ではなく、健全な愛情によってという意味です。

 

そうすることで初めて人間は、「自分には与えられたものを『あとのひと』に贈る義務がある」と感じるのです。

 

そして、この絵本のように楽しく美しい(教訓臭くない)物語を与えてやることも、子どもたちの自然な倫理観を育成する重要な手段だと思います。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

つぶらな瞳度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「どうぞのいす

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【絵本の紹介】「ベンジャミン・バニーのおはなし」【270冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は世界で一番愛されているうさぎ「ピーターラビット」シリーズより、「ベンジャミン・バニーのおはなし」を紹介します。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1971年11月1日

 

このシリーズは私も個人的に大好きでして、全作品を取り上げたい気持ちなのですが、こればっかりやるわけにもいかず、いつになるやら。

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

≫絵本の紹介「パイがふたつあったおはなし」

 

さて、「ピーターラビットの絵本」は、同じ世界を舞台にした様々なキャラクターの活躍を描くシリーズです。

「ピーターラビットの」とタイトルは付けられていても、ピーターが登場しない作品のほうが多いです。

 

しかし、意外なところでキャラクター同士の繋がりがあったり、ストーリーには絡まなくてもイラストのみに登場するキャラクターがいたり。

こういう群像劇っぽいシリーズは、絵本では珍しいような気がします。

 

この「ベンジャミン・バニーのおはなし」は、シリーズ2作目にあたり、唯一前回からの流れを引き継いで展開される物語になっています。

つまり、「ピーターラビットのおはなし」で、マグレガーさんの畑に侵入したピーターが散々な目に遭い、靴も上着もなくして逃げ帰ってきた後のお話です。

ベンジャミン・バニーはピーターのいとこ。

ピーターのお母さんの兄の息子にあたります。

 

ほっぷ・すきっぷ・あんどじゃんぷ」をしながら登場。

ベンジャミンはおばさんであるピーターの母親は苦手のようですが、ピーターとは仲良し。

 

元気なく赤い木綿のハンカチにくるまっているピーターから、先日の災難について聞き出します。

ベンジャミンは、マグレガーさんたちが馬車で出かけている隙にピーターの服を取り返しに行こうと考えます。

 

二人は連れ立ってマグレガーさんの畑に侵入します。

かかしに着せられていたピーターの上着と靴はすぐに回収できました。

すっかり怯えていて、終始そわそわしているピーターに対し、ひどい目に遭ったことないベンジャミンは怖いもの知らずといった様子で、畑から玉ねぎを失敬し、おみやげにしようとしたり、レタスをつまみ食いしたりします。

 

そしてゆうゆうと帰ろうとした時、二人はマグレガーさんの猫に遭遇してしまいます。

ベンジャミンはとっさに自分とピーターに大きなかごをかぶせ、隠れます。

 

ところが猫が近づいてきて、そのかごの上に乗って昼寝を始めてしまいます(5時間も!)

 

ここで救世主のごとく登場するのが、ベンジャミン・バニーのお父さん。

その名もベンジャミン・バニー氏。

 

くわえパイプに、手には短い鞭を持ち、猫などまったく問題にしない堂々たる態度でやってくると、いきなり猫に飛びかかって温室に蹴り込んで戸に鍵をかけて閉じ込めてしまいます。

ベンジャミンたちはかごから助け出されますが、ベンジャミン・バニー氏に鞭でお尻をぶたれてしまいます。

絵を見ると、ピーターも一緒にぶたれています。

 

二人はお尻を押さえて泣きながら、ベンジャミン・バニー氏はたまねぎの入ったハンケチを持ってゆうゆうと、マグレガーさんの畑を後にします。

 

ピーターのお母さんは、ピーターが上着と靴を取り戻してきたことを喜び、ピーターは叱られずに済みます。

 

★      ★      ★

 

ピーターもベンジャミンも、作者のポターさんが飼っていたうさぎの名前です。

ことに、ポターさんは「興奮しやすく、快活で、愚かしく見えるほどに人懐こくてセンチメンタルで、見下げ果てた臆病者」と日記に評してあるベンジャミンを可愛がっていたようです。

本物のベンジャミン・バニーについては、ポターさんの日記上に愉快なエピソードがいくつも残されています。

 

そして、頼もしくも恐ろしい父親ベンジャミン・バニー氏ですが、息子たちが成人した後のエピソード「キツネどんのおはなし」では、息子の嫁に叱られる子どもっぽいおじいちゃんになってしまいます。

そのあたりの変化も、シリーズ通しての発見の楽しみです。

 

イラストの美しさは言うに及ばず、テキストにおいても相変わらずポターさんの筆は冴えわたっており、必要なこと以外は何も語りません。

その一方で、前回は描かれなかったピーター一家の暮らしぶりなどが描かれ、ピーターのお母さんが「うさぎの毛の手ぶくろ」や「そで口かざり」を編んだり、せんじ薬や「うさぎたばこ」(ラベンダーのこと)を売ったりして生計を立てていることなどがわかります。

 

そこでさらりと「わたしも、まえに、ばざーで、ひとくみ かったことがあります」とポターさんは言うのです。

こんなふうに、このシリーズでは時折作者自身が作中に登場します。

 

このたった一言で、この世界は単なる空想ではないことが読者に伝わります。

ポターさんは「現実に」ピーターたちと会って、関りを持っているのです。

マグレガーさんからは追いかけ回され、パイにされてしまいそうになるうさぎたちは、一方で人間相手に商売をしているのです。

 

この一文に、大人は戸惑い、子どもたちはワクワクさせられるのです。

ポターさんの絵本の凄みは、このようなさりげない一文にも秘められているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ベンジャミン・バニー氏無双度:☆☆☆☆☆

 

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