【絵本の紹介】「いちご」【204冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

世界で活躍する彫刻家の新宮晋さんという方がいます。

彼の作品は風や水といった自然エネルギーでのみ動きます。

 

現在、兵庫県の県立有馬富士公園にて、新宮さんの彫刻12点が展示されています(風のミュージアム)。

 

新宮さんは絵本も描かれており、それらは自然を見つめ続ける芸術家の精神が生き生きと伝わる作品ばかりです。

今回紹介する「いちご」は、彼が初めて世に出した絵本です。

作・絵:新宮晋

出版社:文化出版局

発行日:1975年5月10日

 

内容はまさに「いちご」賛歌。

それも、新宮さん独特の感性によって「いちご」をどこまでも深く見つめたものです。

 

デッサン風のイラストも迫力ですが、言葉のセンスも脱帽もの。

本当は1画面ごとに語りたいくらい。

また、テキストは日本語・英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語でそれぞれ書かれています。

 

まず、最初と最後の見開きページをグレー一色にして、同じフレーズで締めるという演出。

いちごの生長の中で、いちごと同化して、いちごと同じ景色を見ているような気分にさせます。

雪の中で眠る。静かに。静かに。

こごえる夜 数えきれないほどの星を見る。

風が光をはこんでくる。

太陽が金の雨を降らせる。

みごとな夕やけを見た。もえるような赤に心がときめいた。

という、見開きを赤一色に染めたシーンの印象的なこと。

 

そして、

赤い実のまん中には 太陽のとどかない 白いつめたい世界がある。

いちごに対してこんな文章、ちょっと他に書けるひといないんじゃないでしょうか。

この絵本には、視覚だけでなく、五感すべてに訴えかける力があります。

新宮さんは意図的にそうしています。

 

ほら、本を閉じると、いちごの冷たさや、甘い香りが感じられるはずです。

 

★      ★      ★

 

私はこの絵本を読むと、ゲーテの自然研究法としての「直観」を思い浮かべます。

ゲーテは自然を観察する際、主観や偏見を排し、「ありのまま見る」ことで自然の背後にある秘密を解き明かそうとしました。

 

理性的な思考だけで物事を捉えては、真実が曇らされてしまうとゲーテは感じたのです。

自らも自然の一部となり、自然に向き合うとき、自然はその秘密を語ってくれるのです。

 

新宮さんの表現の中には、そうした「直観」でしか把握できないような「いちご」の姿が描き出されています。

新宮さんはいちごを「星」と表現します。

 

いちごには北極がある。南極がある。その間には金の鋲が打ってある。

 

地球に生まれ育ったものはすべて、地球からの力と、太陽に代表される宇宙からの力の影響に晒されています。

その結果として作り出されたいちごの形態が「地球の模造」であることに思い至る時、私は「いちご」を美しいと思わずにはいられません。

 

クリスマスシーズン、ケーキの上に乗った「いちご」を口にする前に、その美しさに思いをはせてみてください。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

いちご愛度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「いちご

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「急行「北極号」」【203冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

早いもので、今年も終わりが見えてきました。

そろそろクリスマス絵本も取り上げていきたいと思います。

 

今回は「急行「北極号」」を紹介しましょう。

作・絵:クリス・ヴァン・オールズバーグ

訳:村上春樹

出版社:あすなろ書房

発行日:2003年11月10日

 

ジュマンジ」と同じく、映画化もされたオールズバーグさんの傑作絵本。

 

≫絵本の紹介「ジュマンジ」

≫絵本の紹介「魔術師ガザージ氏の庭で」

 

私は観ていませんが、映画版のタイトルは原題の「ポーラーエクスプレス」です。

確かに、オールズバーグさんの絵本はどれも映画映えしそうな作品ばかりで、特にこの「北極号」の幻想的シーンの数々を映像化してみたいと思う製作者側の気持ちは理解できます。

 

これまでこのブログで紹介したオールズバーグさんの絵本はどちらもモノクロ作品でしたが、今回はカラー彩色。

抑えた色調ながらも、効果的な美しさを放っています。

凍てつく夜空に舞う雪。

そして光。

 

オオカミのうろつく森の中を一直線に走る「北極号」の印象的なことといったら。

私は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を連想しました。

 

どこか不可解さを残す結末の多いオールズバーグさんの絵本ですが、この作品では、実に心温まるハッピーエンドが描かれています。

 

クリスマスイブの夜中、サンタを信じて鈴の音を待つ少年が体験した、奇跡の物語。

突然家の前に停車した汽車「北極号」に、少年は乗り込みます。

中にはたくさんのパジャマ姿のままの子どもたち。

汽車は北極点を目指して、北へとひた走ります。

 

到着した北極点は大きな町。

ここの工場で、世界中の子どもたちへのプレゼントが作られており、「北極号」に乗った子どもたちの中から、サンタがプレゼント第一号を渡す子どもを選ぶのだと車掌が説明します。

町の真ん中に集まった小人たち。

そしてサンタが姿を現し、少年はプレゼント第一号を渡す相手に選ばれます。

 

何が欲しいかを尋ねられて、少年は、サンタのそりについている銀の鈴が欲しいと言います。

サンタはそれを少年に手渡してくれます。

 

しかし、帰りの汽車の中で少年は、ポケットに穴が開いていて、鈴をなくしてしまったことに気づきます。

がっかりする少年。

でも家に送り届けられ、次の日のクリスマスの朝、妹のサラとともにプレゼントの包みを開けて行くと……。

 

★      ★      ★

 

ラストのページで、小さな鈴のカットとともに、印象的に語られるメッセージ。

サンタの鈴の音は、子どもには聴こえる。

けれど、周りの友達も、妹も、大人になるにつれ、その音を聴くことができなくなっていきます。

しかし、主人公はすっかり大人になってしまった今でも、その音を聴くことができるのです。

 

子どもの頃に持っていた純真さ、物事をありのまま見る目。

そういうものは大人になるにつれ失われていきます。

そうなれば、もう聴こえないもの。

この物語で「鈴の音」と表現されているものは、実は私たちの過ごす日々の中に、たくさん存在しているのではないでしょうか。

 

子どもには見えるもの、聞こえるもの、感知されるもの。

それは確かに存在するのだけれど、知識を身に付けることでそうしたものを否定するようになると、もう感じ取れなくなります。

「大人になる」ことは、そういう意味では「退化」とも言えます。

 

人類の進化を、一人の人間の成熟過程として見てみると、やはり昔の人々のほうが、「目には見えないもの」を感じ取る能力が発達していたように思われます。

それらを迷信や妄信といっしょにして、価値のない幻想だと嘲笑うことは簡単です。

しかし、太古の人々は、現代の科学がいまだに説明できないような文明を残してもいるのです。

 

科学の発展は素晴らしいことだと思います。

でも、だからといって「感性」の領域を軽視する必要はないのです。

子どもの持つ感性を残したまま成長すること。

人類の進化の仕方についても、同じことが言えるのではないでしょうか。

 

大切なものは何なのか。

大人の心にこそ、深いメッセージを残す絵本です。

 

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【絵本の紹介】「ゆきのひ」【202冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはキーツさんの「ピーター」シリーズ第一作にあたる「ゆきのひ」です。

作・絵:エズラ・ジャック・キーツ

訳:木島始

出版社:偕成社

発行日:1969年12月

 

以前に紹介した「ピーターのくちぶえ」は、この絵本の続編です。

 

≫絵本の紹介「ピーターのくちぶえ」

 

絵本作りの技法的には「ピーターのくちぶえ」と同じ、コラージュと油彩の合成です。

この絵本が発表された時、シンプルでありながら、その鮮やかさ、美しさに多くの批評家たちが絶賛し、その年のコールデコット賞に選ばれました。

 

ですが、以前の記事でも書きましたが、私はキーツさんが真に優れている点は、子どもの「ありのまま」を捉える描写力だと思っています。

 

ストーリーは実に単純で、ピーターが様々な雪遊びを楽しむ、というもの。

一面に積もった雪を見るピーターの驚きや歓び、好奇心などが、短いテキストの中に本当に初々しく表現されています。

誰もが一瞬のうちに子ども時代に引き戻されるのではないでしょうか。

冷たい雪に触れた指先や、雪の中に足を突っ込んだ時の足裏の感触。

そんなものが生き生きと蘇り、読者はたちまちピーターに同化します。

 

ピーターの取る行動は、子どもなら誰もが必ずやるであろう遊びばかり。
雪の上に足跡を残し、棒切れで木の枝に積もった雪を落とし、雪だるまを作り……。

 

大きい子どもたちの雪合戦に混じりたいという気持ちや、ポケットに詰めて持ち帰った雪が溶けて消えてしまった時の悲しみ。

つくづく、キーツさんが「子どもの目」をそのまま持ち続けていることに感心します。

今日一日、自分が何をしたか、お母さんにすべて話し、お風呂の中で何回も何回も反芻するピーター。

この一日で、確実に自分が成長していることを感じているのでしょう。

 

★      ★      ★

 

目に見えるほどの早さで自分が変化しているという感覚も、大人が忘れてしまっているものです。

だからでしょうか。

純粋そのもののピーターを見るとき、どこか疼くような胸の痛みすら感じてしまうのは。

 

この作品には、「アメリカにおいて、黒人の子どもが主人公になった初めての絵本」という側面があります。

当時はちょうど人種差別撤廃宣言がなされた1960年代。

そういう意味で、この作品を差別と戦い、勝利を収めた象徴として見る向きもあります。

 

ただ、キーツさん自身はことさらに運動的な意識でこの絵本を描いたわけではなさそうです。

彼は晩成型の絵本作家でしたが、このピーターという愛らしい黒人少年はずっと以前から作者の頭の中に住んでおり、それが長い時を経て、この「ゆきのひ」でついに登場するに至ったということです。

 

貧民街で生まれ育ったキーツさんにとって、社会的マイノリティを描くことはごく自然なことだったのでしょう。

確かに、ピーターのどこを見ても、差別と戦うといった悲壮感のようなものは微塵も感じられず、ただただ伸びやかな少年の姿だけが描かれています。

 

自然で、自由な、子どもの目。

それを失わないことこそが、差別や偏見のない社会への道筋なのだと思います。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

読み手の五感に働きかける力度:☆☆☆☆☆

 

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