【絵本の紹介】「みずとはなんじゃ?」【447冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

2018年5月に92歳で逝去された加古里子さん。

最後の最後まで現役であり続け、絵本を作り続けた、日本絵本界の長老的存在です。

今回は加古さんが最後に残した作品「みずとはなんじゃ?」を紹介しましょう。

作:かこさとし

絵:鈴木まもる

出版社:小峰書店

発行日:2018年11月11日

 

加古さんは緑内障のために絵の仕事が困難になっており、さらに出版社の担当とこの本の打ち合わせを続ける途中で体調が悪化し、作品を完成させるのは難しいかもしれないという状況でした。

子どもが読む本に妥協は許されないという信念ゆえに、加古さんは自分の作品に非常に厳しい人であり、中途半端な仕上がりでは納得しないことは明らかでした。

なんとか絵の仕事を引き継いでもらえる人はいないかという加古さんの家族の要望に、担当が鈴木まもるさんの名前を挙げたのです。

 

鈴木さんは鳥の巣の研究家でもある絵本作家で、様々な科学絵本を手掛けてきた加古さんの熱烈なファンでもありました。

過去には手紙のやり取りなどもしていたそうですが、実際に面識はなかったそうです。

しかし加古さんは鈴木さんの仕事を信頼しており、彼にならということですぐに納得し、苦しい容体を押して細かい打ち合わせを行い、鈴木さんも加古さんの想いに懸命に応えようと、通常数か月かかるラフの仕事を2週間で仕上げ、加古さんが亡くなるぎりぎりのタイミングでの作品完成に間に合わせたのでした。

 

その内容は加古さんの「子どもにもわかる内容で、水の性質を伝えなければならない」というこだわりが反映されたものです。

表現は平易に、絵は楽しく、科学的事実はそのままに。

個体、液体、気体という言葉は使わず、水蒸気を「にんじゃ」と表現したり、次々に姿を変える水の性質を役者に例えたり。

忍者や歌舞伎役者が出てくるあたりは実に加古さんらしいと感じます。

水がすべての生き物の命にとっていかに大切な役割を担っているか。

スケールは星全体に広がり、そしてその大切な資源である水を守ろうという加古さんの子どもたちへのメッセージへと繋がります。

若い頃に「子どもたちのために残りの人生を捧げよう」と決意した加古さん。

本当に最後の最後まで、未来の子どもたちのためにその人生を尽くしきった生き様には敬意の念しか湧きません。

 

★                   ★                  ★

 

大ファンを自認するだけあって鈴木さんの絵は実に加古さん作品と合います。

もちろん今作は加古さんの下絵をもとにしたということもあるでしょうけど、タッチや人物の表情など、加古さんを彷彿させるものがあります。

 

鈴木さんの他作品と比べてみるとその微細なタッチの違いがよくわかります。

 

≫絵本の紹介「ピン・ポン・バス」

 

加古さんの絵本作家としてのデビュー作は「だむのおじさんたち」。

そしてこの「みずとはなんじゃ?」が最後の作品。

どちらも水に関する絵本であることは象徴的ですね。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

料理人と医者のキャラクターが加古さんがモデルなの泣ける度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「みずとはなんじゃ?

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【絵本の紹介】「天動説の絵本」【410冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本界を代表する知性(と私が勝手に思っている)・安野光雅さんの「天動説の絵本」を紹介します。

作・絵:安野光雅

出版社:福音館書店

発行日:1979年8月5日

 

色々な見方があるでしょうけど、私が安野作品から受ける最大の印象は「静かな知性と深い教養」です。

おなじみの小人が登場する「はじめてであうすうがくの絵本」シリーズでは、初歩的な数学の考え方を描きつつ、単なるお勉強や解説に留まらず、根本的・哲学的な思考へと幼い読者を導く工夫がされています。

 

≫絵本の紹介「かず」

≫絵本の紹介「まよいみち」

 

エッシャーのだまし絵にインスピレーションを受け、それを幼い子どもにも手の届きやすい形で描いた「ふしぎなえ」。

世界各地の美しい自然や街並みを描き、テキストがないにも関わらずしっかりと物語となっている「旅の絵本」シリーズ。

 

≫絵本の紹介「ふしぎなえ」

≫絵本の紹介「旅の絵本」

 

この「天動説の絵本」は、地球を中心に太陽や星々が回っているという考えが一般的だった時代から、その大前提が覆るまでの歴史のうねりを描いた作品です。

昔の人々は天の星を観察し、それが一定の動きを見せることに気づいていました。

太陽や星々を動かしているのは神の手であると感じられました。

 

その時代の天文学者は占星術者でもあったのです。

ペストなどの疫病、どうにもならない災厄は悪魔によって引き起こされるとされました。

いわゆる魔女裁判によって、大勢の罪もない人々が無残に刑に処されました。

 

しかし船舶技術や天文学が発達するにしたがって、これまでの考えが次第に覆されて行きます。

太陽が大地の周りを回っている、大地が不動で平らであるとすれば説明のできない現象が次々発見され、ついに学者の中でも地動説を唱える者が増えてきます。

画面は象徴的に平面から地球儀のような球形に変わっていきます。

最終場面で、冒険家が船で出発します。

もし地球が丸いのであれば、西へ西へとまっすぐ進み続ければ、やがては一回りして戻ってくるはずです。

 

人々は祈るような気持ちで船を見送ります。

 

★      ★      ★

 

知性とはなんでしょう。

科学的な態度とはどういうことでしょう。

 

天動説が自然科学的に間違いであったとはいえ、それを理由に単純に「昔の人々はなんと愚かなことを信じていたのだろう。現代人は賢い」などと考えることは自制せねばなりません。

安野さんが解説とあとがきで触れているように、その時代の天文学や錬金術は科学の発展に大変重要な功績を残しました。

先人たちの研究や実験や冒険があったから、今我々は様々なことを知っているのです。

 

私たちは地動説を信じ、それが未来永劫変わらない真理であると思い、賢い気でいます。

その態度は天動説を狂信し、それに異を唱える者を火刑台に送り込んだ昔の人々とどう違うのでしょう。

 

天動説を唱えたプトレマイオスなどの天文学者の説明は、精確な観測に基づいた仮説です。

その思考は、ただ情報を取り入れて賢くなった気でいる現代人よりも明晰で理論的だと言えます。

 

問題は天動説ではなく、それを狂信し、「間違っているかもしれない」という可能性を頭から除外し、異端者を迫害した迷信深い態度なのです。

「天動説などを信じていた昔の人々は愚かで、地動説を理解している我々現代人は科学的で賢い」という考えはそういう意味で「科学的ではない」のです。

 

科学的な態度とは、世界をすべて既知の範囲に収め、説明のつかない現象は無視するということではありません。

「未知のもの」に遭遇した時、それをすぐに記号化して説明しようとするのではなく、あらゆる可能性を除外せず、自分のこれまでの常識が覆るかもしれないことを常に計算に入れておく、言い換えれば世界に対する畏敬の念を忘れない態度こそが「科学的」なのです。

 

想像力によってのみ、私たちは目に見えるもの、手で触れるもの以上の世界へ橋を架けることができます。

一方で私たちは現実の身体を持っていることによって、空虚な幻想を否定することができます。

 

その均衡を保つこと、狂信的にならないこと、自分の常識や体験をいつでも留保できること。

私はそれが知性であると思っています。

 

その上で、問いたいのです。

現代人は知性的であると言えるでしょうか。

先人たちより科学的であると言えるでしょうか。

 

「絶対に自分が正しい」と思い込んで何事かを語る人々に対して、私は恐怖心を覚えます。

繰り返しになりますが、それは「魔女裁判」の悲劇を生んだ狂信と繋がるものだからです。

私が安野さんの作品を読むときに覚える一種の安心感は、彼が常に反証を受け入れる態度で物事を語っていることを感じられるからなのです。

 

推奨年齢:小学校中学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

解説必読度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「天動説の絵本

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【絵本の紹介】「かわ」【346冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

日本の「絵巻物」は、現代の絵本の原型であるとも言われています。

横長の紙をくるくると広げていくとどこまでも展開されていく絵巻物は、今見ても楽しいものです。

 

福音館書店の「こどものとも」をきっかけとして多くの横長絵本が世に出ましたが、あれも絵巻物のスタイルが元になっているようです。

今回はそんな「横に絵を見て行く」楽しみが顕著な科学絵本「かわ」を紹介します。

作・絵:加古里子

出版社:福音館書店

発行日:1966年9月1日

 

「だるまちゃん」「からすのパンやさん」といったシリーズが人気の加古さんですが、一方で非常に多くの科学絵本を手掛けられたことでも知られています。

 

≫絵本の紹介「だるまちゃんとてんぐちゃん」

≫絵本の紹介「だるまちゃんとかみなりちゃん」

≫絵本の紹介「だるまちゃんとうさぎちゃん」

≫絵本の紹介「からすのパンやさん」

 

加古さんが絵本の道に入られたのは「こどものとも」編集長の松居直さんの薦めによります。

松居さんは当時ダム建設をテーマにした絵本を、人間的な共感をもって描ける作家を探していました。

 

化学会社で勤務し、工学に造詣の深い加古さんは、学生時代にはセツルメントの子ども会で自作の紙芝居などを上演していた経験もあり、まさにこの仕事に適任であると思われたのです。

そして加古さんは会社勤めも続けながら「だむのおじさんたち」で絵本作家デビュー。

その後も二足の草鞋を履きながら次々と絵本を発表していきます。

 

加古さんの科学絵本は単に知識を並べただけの冷たい本ではありません。

全ての作品には「人間」が柱として据えられ、血の通った興味と理解を得ることができます。

そして幼い読者の主体的な学びを起動させるために様々な工夫を凝らしています。

 

そのために最も基本的で重要なのが「読む楽しみ」がそこにあることです。

この「かわ」はまさにそんな絵本で、表紙絵の大きな町の地図に記された地図記号を、裏表紙の表で確認することができます。

さらに読み進めていくとわかるのですが、絵本に描かれている町の図とこの地図は合致しているので、何度も何度も内容と表紙・裏表紙を見比べて楽しめるようになってるんですね。

スタートは高い山。

降り積もった雪が溶け、雨が降って、水が流れ出します。

 

その水の流れは川となり、自然の中で曲がりくねりながらふもとに降りて行きます。

人々は川の近くに集まり、生活し、仕事をします。

水を使った発電、農業、浄水場。

要所要所に登場する人々も生き生きと描かれ、そこには確かに温もりや息づかいを感じることができます。

やがて川は大きな都会に流れ出します。

川幅は広くなり、船の姿が見えます。

 

最終的には一面の水平線が広がります。

川のゴールは海なのです。

しかし、その海の先にも果てしない世界は広がっています。

そのことを予感させ、読者の想像力を刺激し、物語は幕を閉じます。

 

★      ★      ★

 

私の息子も長い絵巻物を描いてやるととても喜びます。

私自身も子どもの頃、何かでもらった人間の体の中を旅する(口から入って消化器官を通って肛門から出る)絵巻を今でも覚えています。

 

「かわ」では自然豊かな山奥の描写から始まり、都市の港までの水の旅が描かれているわけですが、クライマックス付近では多くの工場から流れ出る汚水やごみや煙などで川が汚れて行く様子も見られます。

しかし加古さんはそれが「悪い」という描き方はしません。

ただ事実だけを描き、それをどう感じるかは読者ひとりひとりの感性に委ねます。

 

これは他のすべての加古さん作品にもあてはまるスタンスです。

それほどまでに読者である子どもたちの「主体性」「精神の自由」を尊重するのは、加古さん自身の戦争体験が影響していると思われます。

 

子どもの「精神的自由」は、戦時下においては最も邪魔なものです。

学校では自分でものを考えない人間、奴隷的精神の人間を「教育」します。

一度は時代に乗せられて軍人を志向した加古さんは、戦争が終わってから手のひらを返した大人たちに深く失望し、自身を恥じたと言います。

 

だからこそ、加古さんは子どもに何らかの思想を植え付ける行為、善悪を決めつける行為を自粛するのでしょう。

そして加古さんの絵本を読む子どもたちは、そうしたことを理解はできずともちゃんと感じ取っています。

子どもたちが加古さん絵本を支持し続けるのには、そういう隠れた理由も存在していると思います。

子どもは本能的に「自分の人生をコントロールしようとする大人たち」から逃げ出すからです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

表紙と内容行ったり来たり度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「おなら」【328冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに科学絵本。

それも長新太さんによる真面目な科学絵本です。

ズバリ「おなら」。

作・絵:長新太

出版社:福音館書店

発行日:1983年8月20日(かがくのとも傑作集)

 

絵だけでなく文や構成まで長さん自身が手掛けた科学絵本というのは珍しいのです。

というか、管見の及ぶ限りこれ一冊だけかもしれません。

長さんの熱の入れようがわかります。

 

表紙はゾウの後ろ姿、裏表紙が正面像。

普通は逆ですが、「おなら」についての絵本ですから当然こうなるわけです。

 

何しろあの長さんですから、科学絵本らしからぬふざけた内容になるのでは……と心配しますが、そこはさすが安心と実績の「かがくのとも」。

ちゃんと科学してます。

 

ものを たべたり のんだりするとき、くちから くうきが はいる

そのくうきが くちからでると げっぷとなり こうもんからでると おならになる

 

テキストはシンプルで、いつもの長さん節も封印。

就学前の幼児でも理解しやすい内容です。

ちゃんと人体の断面図なんか用いたりして。

けんこうな ひとは 1かいに やく 100みり りっとるの おならをだす

1にちでは やく 500みり りっとるの おならをだす

肉を食べる動物のおならは臭いとか、腸の手術をした後でおならが出ると腸が正常に動き出したことがわかるとか、大人なら知っていることがほとんどで、そこまで専門的な話にはなりません。

でも、普段あまりしない話だけに、改めて読むと妙に感心してしまいます。

そして、やっぱり行間から長さんらしさを感じてしまうのです。

 

★      ★      ★

 

うちの息子はいまだ羞恥心というものが芽生えていないかのように見えます。

ずっと家で生活してるからでしょうかね。

 

最近、おならをするたびに報告してきます。

今、プッてなった!」と。

別にいちいち言わなくていいのに。

それも、面白がってるわけでも照れてるわけでもなく、真剣に報告してくるのです。

 

この絵本も、ふざけたり照れたりせず、淡々と事実を語っている形式に見えます。

ところが、それがかえってムズムズするんですね。

ことさら真面目な顔をした長さんが、こちらのそんな気持ちを見透かしているような気がします。

 

真面目なのか、笑わしてるのか、その微妙な空気。

最後に思いっきりすっとぼけた調子で「さようおなら」。

そして見返しにびっしりと「おなら音」。

 

ぷう ぷお ぷおお ぶう ぶうう ぶぷー ぶるるる……」。

うん、絶対笑かしにきてる。

 

この絵本を息子に読んだのはもうかなり前のことですが、この見返しを繰り返して読まされるのには辟易した思い出があります。

何回も何回も読んでるうちに、ゲシュタルト崩壊起こしたり。

 

なんにせよ、これもまた名作絵本には違いありません。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

最後の方のおなら音ありえないだろ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「しずくのぼうけん」【277冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はポーランドのロングセラー科学絵本「しずくのぼうけん」を紹介します。

作:マリア・テルリコフスカ

絵:ボフダン・ブテンコ

訳:内田莉莎子

出版社:福音館書店

発行日:1969年8月10日

 

しずくから棒状の手足が伸びただけのシンプルなデザイン。

子どもが入って行きやすい絵です。

 

れっきとした科学絵本ではありますが、少しも難しいことは書いていません。

とにかく主人公のしずく(女性)の目まぐるしい冒険にワクワク・ドキドキ、そしてしずくの自由自在な変化が痛快です。

文章はやや長めですが、名翻訳者・内田莉莎子さんによるテンポのいい訳文で一気に読めます。

 

ある すいようびの ことだった むらの おばさんの バケツから ぴしゃんと みずが ひとしずく とびだして ながい たびに でた ひとりぼっちで たびに でた

 

こんな具合に5・7・5調の心地よいリズムが続くんですね。

泥水に混じったり、太陽に照らされて蒸発したり。

雲の上で雨粒になったしずくは、怖い黒雲に再び地面に戻されます。

 

そして今度は寒い夜に氷のかけらに変身。

小川に転げ落ちて水道管に入り、民家へ。

息をつく間もない展開が読者を引き付けて離しません。

何度も状態変化を繰り返し、どんな環境でも生き延びるしずく。

水は不滅なのです。

 

★      ★      ★

 

幼い子どもにとって、水はもっとも身近な自然観察の対象です。

水が蒸発して見えなくなるということを、この絵本は非常にわかりやすい物語の形式で教えてくれます。

 

そこから学べることは、単なる科学知識だけではありません。

目の前にある水は、見えなくなってもちゃんと存在しており、ずっと「旅」を続けているのだという、壮大な物語の想像力を受け取ることができるのです。

 

今、ここにある水は、いつか遠い異国を旅して辿り着いた「しずく」なのかもしれない。

消えてしまっても、見えなくても、必ずいつかは再び大地に戻ってくる。

 

大げさに思われるかもしれませんが、この科学的事実から、人間は「見えないものを見る」力、そして「輪廻転生」の概念をも受け取ることが可能なのです。

 

頭の固い大人たちは、「子どもには実証された科学知識だけを教えるべき」だと思い込みます。

しかし現実には、人間が生命力を得るのは、豊かなイメージの世界からなのです。

「水の不滅性」から、子どもはどれほど力強いイメージを受け取ることでしょう。

それこそが、彼らの長い人生においての真の礎となるのです。

 

正しい自然法則から、美しい想像の世界へ橋を架ける時、科学知識は初めて生命を吹き込まれます。

その崇高な架橋に成功したからこそ、この絵本は世界中で愛され続けているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

しずくのネガティブ思考と立ち直りの早さ度:☆☆☆☆☆

 

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