【絵本の紹介】「せいめいのれきし」【200冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は200冊目に相応しい超大作絵本を紹介しましょう。

絵本界に屹立する巨匠、バージニア・リー・バートンさんが8年の歳月をかけて完成させた「せいめいのれきし」です。

作・絵:バージニア・リー・バートン

訳:石井桃子

出版社:岩波書店

発行日:1964年12月15日

 

我が家の息子が、私が仕事に行こうとするたびに泣いてしがみついてくる時期がありました。

なんとか納得してもらうために、「絵本一冊だけ読んでから行くね」と言ったりすると、そういう時の息子は必ず長めのおはなしを選んで持ってきたものです。

その中でも、「さすがに勘弁してくれ」と思ったのが、この「せいめいのれきし」です。

 

とにかく長い。

そして、絵の情報量も物凄い。

大人でも、じっくり読めば1時間以上はかかります。

 

バートンさんについてはこのブログでも何度か取り上げていますが、科学者の父と音楽家の母を持ち、その作品は知的で精密でありながら、全編が楽しい音楽的リズムに貫かれています。

この作品は、そんな彼女の集大成ともいうべき絵本です。

 

劇場で上映される、全五幕からなる壮大な劇。

内容は太陽と地球の誕生から始まり、現在までの生命の進化と変化。

私たちは観客となり、学者たちのナレーションに耳を傾けます。

なかなか難しい内容なのですが、バートンさんは妥協をしません。

それは子どもの知性に対する信頼と敬意があるからこそです。

専門的な言葉や理論が理解できなくとも、ここには何か「ただごとではない」スケールの物語が描かれていることを、子どもは直感します。

 

そう、これは科学絵本であり、図鑑のような絵本でもあるのですが、その本質は「物語」です。

この絵本が上梓されたのが1962年、それから科学研究はどんどん進み、今では様々な新しい知見が発表されています。

それに従い、2015年に「せいめいのれきし 改訂版」が新たに出版されました。

 

これは恐竜学者の真鍋真氏の監修で、現在の学説をもとに修正・加筆されたものです。

例えば、上のプロローグでの太陽系の惑星から冥王星が削除され、2幕4場の恐竜絶滅のシーンには隕石衝突説が加筆されています。

 

学説は常に古くなり、図鑑などは書き換えられるべきものですが、芸術や文学は普通、「古くなったから新しくしよう」とはなりません。

なのにこの絵本がわざわざ「改訂」されたというのは、それだけ科学的・学術的要素の濃い作品だからでしょう。

 

しかし前述したように、私はこの作品の本質は物語であると思っています。

生物の進化の歴史が描かれる左画面では、恐竜の骨格が見られますが、これはバートンさんがアメリカ自然史博物館に入り浸りでスケッチされたものです。

ちなみに、本編終了後の見開き画面で詳細に内部を描かれているのが、その博物館です。

よーく探せば、熱心にスケッチするバートンさん本人の姿が確認できますよ。

時間は目まぐるしく進み、ついに舞台には人類が登場します。

物語の時間速度は過去にさかのぼるほど早く、今に近づくほどゆっくりとなっていきます。

 

気の遠くなるような太古の時代から、見覚えのある現代へ。

5幕からはナレーターはバートンさん本人に交代します。

そして、微妙に語り口が変化し、だんだん読み手に「近づいてくる」ような印象を持たせます。

 

ナレーターはこれまでの場面でも「わたしたち」という言葉を使っていますが、それはどこか遠く、人類すべてを代表しての「わたしたち」でした。

しかし5幕以降の「わたしたち」は、バートンさん自身を指しているように思われます。

 

わたしたちは、このふるい果樹園と草地と森を買い、ちいさな家と画室をはこんできて、そのまん中にたてました

 

ここで出てくる小さな家はバートンさん一家の家であり、そしてどう見てもあの名作「ちいさいおうち」です。

「ちいさいおうち」を巡る四季。

 

きょ年のふゆは……とくべつにながい冬でした

きのうは、ほんとにいい日でした

という文章は、延々と続いてきたこの長い生命の物語が、いつの間にか読み手のすぐ間近に、息のかかるような距離に迫っていることを感じさせます。

 

ついに読み手は否応なしに気づかされます。

「これは、わたしの物語だったのだ」

と。

最終場面において、バートンさんはもはや隠すこともなく、まっすぐに読者自身の顔を見つめて語りかけます。

 

さあこれで、わたしのおはなしは、おわります。こんどはあなたがはなすばんです

このあとは、あなたがたのおはなしです

その主人公は、あなたがたです

時は、いま

場所は、あなたのいるところ

 

私は、作者のこの途方もないスケールの仕掛けに、鳥肌が立ちました。

想像力の射程外のような遠い宇宙に始まって、「今、ここ」の「わたし」にまでつながる物語。

人間の歴史がいかに短いものか、そして人間ひとりの一生がいかに一瞬のものか―――。

 

だからこそ、とはバートンさんは口にはしません。

しかし、そこに込められたメッセージは明確です。

さあ、生きなさい」。

 

自分もまた、宏大な生命の流れの一部であり、地球の、そして宇宙の力に貫かれているのだという実感。

専門化し、ぶつ切りにした科学ではこうした実感を子どもたちに与えることはできません。

すべてを呑み込む巨大なスケールの「物語」の力によって、それらは与えられます。

 

人間が他のあらゆる生物と根本的に違っているのは、「物語」によって生命力を高める生き物だという点です。

それは子どもも大人も変わりません。

 

そう考えた時、絵本の持つ役割とか、存在意義というものがおぼろげに見えてくるような気がします。

 

なぜ、子どもに絵本が必要なのか。

どうして子どもは絵本を読んで欲しがるのか。

 

彼らはこれからの長い人生を生きる上での「物語」を欲しているのです。

想像力を刺激し、生命力を高めるような良質の「物語」を与えられるかどうかは、その後の人生を左右するほどに大きな影響を及ぼします。

 

それを知悉し、なおかつ知性・音楽的才能・職人的画力を兼ね備えたバートンさんのような絵本作家は、大げさでなく人類にとって得難い存在だったと思います。

願わくは、これからの時代にも、彼女のような作家が次々と現れて欲しいものです。

 

推奨年齢:小学校中学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

スケールのデカさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「せいめいのれきし

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「まよいみち」【124冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は安野光雄さんの1974年の作品「まよいみち」を紹介します。

作・絵:安野光雄

出版社:福音館書店

発行日:2002年4月1日(かがくのとも特製版)

 

安野さんは、美術のみならず文学や数学にも造詣が深く、その知識を生かした独創的・実験的な絵本を多数発表されています。

このブログでは、以前に「かず」を紹介しました。

≫絵本の紹介「かず」

 

作家の司馬遼太郎さんや数学者の森毅さんとも交流があり、その作風からはいつも落ち着いた知性が感じられます。

そんな安野さんの「まよいみち」、タイトルどおりの「迷路」についての絵本ですが、いわゆるゲームブックではありません。

「迷い道とは何か」を根本的に考察する科学絵本です。

もちろん、安野さんの素敵な絵で、迷路を楽しむこともできます。

難しさを楽しむというより、一種のアート作品としての迷路といった風ですね。

「枝分かれする木」や「橋のかかった町」を例に挙げながら、「一筆書き」の概念までたどり着きます。

ワクワクするような知的展開。

そして最後はこれ。

がいこくの ふるいおてらの かべに のこっていた むかしむかしの まよいみちです

 

芸術を感じますね。

そして、昔の人々が何を思ってこんな迷い道を描いたのか、それも興味を引かれます。

 

★      ★      ★

 

迷路遊びは、数学の得意な子を育てるらしいです。

私も子どものころ、迷路は大好きで、自分でも紙によく迷路を描いて遊んでいました。

数学の成績は惨憺たるものでしたが……。

 

うちの息子も、最近やっと迷路のルールが理解できたようで、色々な迷路絵本を持ち出してきては遊んでいます。

よく見ると、ちょいちょいズルしてますが。

ま、楽しければ何でもよろしい。

 

迷路で遊べる絵本はたくさんあり、最近のものは平面だけではなく立体であったり、一方通行などのルールが設けられていたり、複雑さも色んな段階が用意されています。

でも、こういう形の迷路絵本は他に見ませんね。

安野さんの過去作品は手に入りにくいものも多いので、ファンの方はどうぞ。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

迷路そのものの難易度:☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「まよいみち

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【絵本の紹介】「うんちしたのはだれよ!」【113冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、ドイツの作家さんによる、科学的で、高尚で、ためになる、「うんち絵本」を紹介しましょう。

その名も「うんちしたのはだれよ!」です。

文:ヴェルナー・ホルツヴァルト

絵:ヴォルフ・エールブルッフ

訳:関口裕昭

出版社:偕成社

発行日:1993年11月

 

ふざけてませんよ。

もぐらくんは帽子じゃなくてうんちを頭に乗っけてますが、真面目です。

 

……ま、抵抗ある方もいらっしゃるかもしれませんが。

 

「うんち絵本」には色んな種類があって、わりと綺麗な印象でまとまっているものもあれば、どストレートな表現のものもあり、これは後者です。

 

ある日のこと、地面の上に顔を出したもぐらくんに、とんでもない悲劇が(文字通り)降りかかります。

 

なんて ひどいことを!

だれだ、ぼくの あたまに うんちなんか したやつは?

 

というわけで、もぐらくんの犯人捜しが開始されます。

 

通りかかった動物たちに、

ねえ きみ、ぼくの あたまに うんち おとさなかった?

と尋問して回ります。

すると動物たちはそれぞれ、もぐらくんの前でうんちをしてみせます。

自分のうんちの形態が、もぐらくんの頭のものと違うことで、身の潔白を証明するわけです。

この描写がとってもリアル。

 

なおかつ、喩えが食べ物。

ハトのうんちは「ヨーグルト」、ウマは「おだんご」、ウサギは「まめつぶ」、ヤギは「あめだま」……。

最後にもぐらくんが出会ったのは、二匹のハエ。

なんというか、その、お食事の最中。

うんちのことなら彼らに聞け。

ということで、もぐらくんはハエに犯人を尋ねます。

 

ハエたちはもぐらくんの頭の上のものを味見することで、犯人をズバリ言い当てます。

果たして「にくやま にくえもん」とは何の動物……?

 

★      ★      ★

 

私も息子のおむつを替えますけど、最初はやっぱり抵抗ありました。

赤ちゃんのうんちって、真っ黒で粘ついてて。

 

でも、慣れてくると、うんちには色んな情報が詰まっていることがわかります。

 

食べたものがどれくらいで出てくるのか、消化の悪い食べ物は何なのか。

色や硬さに体調の良不良のサインが出ていたり。

 

さらに、子どもとずっと一緒に生活していると、気配でうんちが出ることを察知できるようになります。

そうすると、うんちが愛おしくさえあります。

……まあ、臭いものは臭いけど。

 

うんちは、そこまでタブー扱いされるようなものじゃないはずです。

誰だってするし、しないと大変なことになるわけで。

 

親が子どもの排便に対して嫌悪感を見せたり、ことさらに「汚い」「臭い」と言い過ぎるのはよろしくないでしょう。

おむつに関しても、無理に卒業を急がせると、将来的に異常性癖の原因にさえなる……というのはフロイトの説で、正しいかどうかはわかりませんけど。

 

それを参考にしてるわけではありませんが、我が家ではトイレトレーニングを急いではいません。

 

……でも、いい加減トイレでしてほしいのが本音ですけど、ね。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

「にっくきにくえもん」の原文が気になる度:☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「うんちしたのはだれよ!

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絵本の紹介「おへそのひみつ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は福音館書店の月刊科学絵本「かがくのとも」より、「おへそのひみつ」を紹介します。

作・絵:やぎゅうげんいちろう

出版社:福音館書店

発行日:2000年11月10日

 

著者の柳生弦一郎さんは、「おっぱいのひみつ」「あたまのなか」「かさぶたくん」などの、人体に関する科学絵本を多数作っています。

絵にインパクトがあるので、一目でそれとわかりますね。

「おへそ」ってなんだろう?

何にも使えないし、ほんとにただの飾りみたい。

 

そんな素朴な疑問に、丁寧にわかりやすく、なおかつコミカルに、ただし厳密な科学知識に基いて教えてくれます。

いざ「おへそ」について子どもに訊かれると、たいていの大人は困るのではないでしょうか。

 

なぜなら、「おへそ」を科学的に説明しようとすると、必然的に「赤ちゃんはどこから生まれるの?」という問いにぶつからざるを得ないからです。

 

この絵本は、そこから逃げたりごまかしたりせず、真摯に子どもに答えます。

自分の身体は、人間にとって最も身近な自然であり、謎です。

手の感覚を得た頃の赤ちゃんは、自分の手をじーっと見つめていたりします(話が逸れますが、子どもが自分の性器をいじり回すのは単に興味からであって、絶対に無理にやめさせるべきではありません)。

 

こういう根源的な疑問、不思議に思う気持ちに対し、大人は誠実・正直に答えてあげるべきです。

子どもが「なぜ?」「どうして?」と、ことあるごとに言い出したら、それは喜ぶべきことです。

 

もちろん、自分でもわからないことに関しては、素直に「わからない」と言い、あとで子どもと一緒に調べるといいでしょう。

その際には、できる限りインターネットではなく、本や辞典を繙いて欲しいものです。

それが、将来的に自主的な読書へと繋がりますから。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

おへそを取るかみなりさんが怖い度:☆☆

 

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絵本の紹介「みんなうんち」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

我が家の息子は、3歳を過ぎてもまだおむつが取れません。

「おまるでうんちしてみようか?」

と持ち掛けても、

「しないの!」

と一蹴。

焦る必要はない……とはわかっているつもりでも、何か特別な原因でもあるのかと、つい悩んでしまいます。

 

トイレ関係の絵本は山ほど読んできたのですが、絵本は気に入っても、自分自身の排泄は別物として考えているようです。

 

そう、今では山ほど出版されているトイレの絵本。

しかし、かつては「うんち」を絵本に登場させることはハードルが高かったようです。

こぐまちゃんおはよう」の中に排泄シーンを入れることについても、当時はやはり冒険だったそうです。

 

≫絵本の紹介「こぐまちゃんおはよう」

 

そうしたハードルを取り払い、「うんち絵本」に市民権を与えたのが(少々大げさかな)、今回紹介する「みんなうんち」です。

出るわ出るわ、色んなうんちのオンパレード。

「ひとこぶらくだは ひとこぶ うんち

ふたこぶらくだは ふたこぶ うんち

これは うそ!」

などの、五味太郎さんのユーモアも交えていますが、これはれっきとした科学絵本です。

登場する動物のうんちの形、うんちの仕方、それぞれの習性などがちゃんと描かれているのです。

 

動物も小さな子どもも、何一つ悪びれずに、堂々と「うんち」をします。

大人だけが、「うんち」に対して照れたり、隠したり、難しい言葉で距離を取ろうとしたりします。

子どもはそんな大人の狼狽をちゃんと見抜いているから、ことさらに大声で「うんち!」と叫ぶのです。

真面目くさった顔をしてても、みーんな「うんち」をするんだ、という事実が、なんだかおかしかったり、親しみを持てたりするから笑うのです。

 

「うんち」の話をするときは、笑ってもいいんです。

笑いながら、正しい科学知識を教えてあげればいいんです。

この絵本から、そんなメッセージが聞こえてきそうです。

 

 

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