【絵本の紹介】「はじめてのふゆ」【208冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

真冬の寒さが続いていますね。

都会で暮らす人間にとっては「寒い」で済む話かもしれませんが、自然の中に入り込めば、冬は生死に係わる過酷な季節です。

 

動物たちは様々な備えをし、時には驚くような知恵をもって、この季節を乗り越えます。

生命のもろさ・儚さと同時に、意外なほどの力強さを、彼らの姿から感じることができます。

 

今回紹介するのは「はじめてのふゆ」です。

作・絵:ロブ・ルイス

訳:ふなとよしこ

出版社:ほるぷ出版

発行日:1992年11月30日

 

可愛い絵で、あたたかみのある落ち着いた色使いが魅力的です。

生まれてすぐに母親を亡くし、「ちいさいのに ひとりぼっち」の、じねずみのヘンリエッタ。

孤独な設定ですが、ヘンリエッタからは悲壮感のようなものは感じられません。

 

冬を体験したことのないヘンリエッタは、秋の紅葉の美しさを楽しんでいます。

そんなヘンリエッタを心配して、仲間たちは冬に備えて食べ物を集めておくように忠告します。

 

ヘンリエッタは苦労して貯蔵庫を掘り、木の実や草の実を集め、安心して眠ります。

しかし雨が降ってくると食べ物置き場は浸水被害に遭い、せっかくの食べ物が全部流れてしまいます。

 

ヘンリエッタは雨漏りを直し、もう一度食べ物を集めてきます。

ところが、今度は虫たちが食べ物を食べてしまいます。

くたびれ果てたヘンリエッタを可哀そうに思った仲間たちが、食べ物集めを手伝ってくれます。

嬉しくなったヘンリエッタは、仲間たちとパーティーを開きます。

 

が、調子に乗って食べ過ぎたのか、またも食べ物は空っぽに。

外には雪が降り、もう木の実も草の実も残っていません。

どうしようもなく、ヘンリエッタは眠りにつきます。

 

そして目が覚めてみると……。

 

★      ★      ★

 

最後は「なんじゃそりゃ」と突っ込みたくなるような、突然のハッピーエンド。

でも、それがいい。

 

健気に苦労する身寄りのないヘンリエッタを、子どもは内心で応援し続けます。

中途半端な終わり方では、子どもの不安や心配を完全に吹き飛ばすことはできません。

大人には肩透かしでも、これくらい強引な方が子どもは「よかった」と安心できるのです。

 

「はじめてのふゆ」とは、幼い子どもがやがて必ず体験するであろう、人生の辛い時期、悲しい出来事を意味しています。

そんな時、どう対処すればよいのか、単一のマニュアルは存在しません。

 

でも、大人が子どもに伝えるべきことはひとつです。

それは「必ず、最後には幸せになれる」という無条件で力強いメッセージです。

 

生きて行く上で重要な意味を持つその確信は、特に幼い頃の物語体験によって培われるものです。

 

それにしても、ヘンリエッタの住居の素敵なこと。

よく見ると椅子は空き缶だし、暖炉にはクリップ、窓格子にはマッチ棒が使われていて、飾り棚にはコインが並んでいます。

 

これは亡くなったお母さんが作ったインテリアでしょうか。

近くに人間が住んでいることを思わせる、作者の遊び心です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

ホームインテリアの趣味の良さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「はじめてのふゆ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「ヒッコリーのきのみ」【201冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年の秋は雨ばっかりでしたね。

あまり外にも出かけられないうちにだんだん寒くなってきて、もう秋が終わってしまう感が。

秋っぽい絵本を紹介できるのも今のうちかもしれません。

 

というわけで、今回は「ヒッコリーのきのみ」を取り上げます。

作:香山美子

絵:柿本幸造

出版社:ひさかたチャイルド

発行日:1985年11月

 

コラージュかと思うような、ふんわりとした毛束感のあるリスの絵。

そして暖かみのある赤。

 

柿本さんの絵は優しさと温もりのある色使いが魅力ですが、この赤や茶は、やっぱり「秋」の物語にこそ合いますね。

 

子りすのバビーが、ヒッコリーの木と交わした約束とは。

 

作者の香山さんは「シートン動物記」をもとにこのお話を書いたそうです。

自然界のルールの不思議さ、尊さ、強さ。

そんなものを感じさせてくれる、なかなかに深い話です。

 

森へヒッコリーの木の実を拾いに行ったバビー。

虫食いの実は避けて、大きい実、小さい実を拾います。

持ち帰った実を、お母さんといっしょに食べます。

残った実は、冬に備えて、地面の中に埋めて隠しておくことにします。

隠し場所をちゃんと覚えていられるか心配するバビーに、お母さんは、

それで いいのよ

と言います。

 

冬が過ぎ、春が来ます。

森に行くと、バビーが隠して忘れてしまったヒッコリーの実から、小さな芽が出ていたのでした。

お母さんは、

それが ヒッコリーの きと りすの やくそく

なのだと、バビーに教えます。

 

この小さな芽が、大きい木に育ち、そしてまたたくさんの実をつけてくれるのです。

 

★      ★      ★

 

柿本さんのイラストの、愛のあること。

バビーの膨らんだ頬とか、毛虫とか、可愛くないものが存在しない。

 

食べ物を地中に隠しておいて、忘れてしまうリスの習性を、単純に「馬鹿だなあ」と思っていましたが、この話を読んで、そこに込められた深い意味を知りました。

 

実際、クルミなどの中には、リスに運ばれることを前提としている種類もあるそうです。

共生とか共存とか、そういうものは本当は自然界にしかなくて、私たち人間が口にしても空疎なだけだと感じてしまいます。

 

自然の不思議さ、強さ、美しさを見ていると、いくら物質文明の中に生きている私たちでも、その背後にある叡智のようなものを感じずにはいられません。

その叡智こそが「神」と呼ばれるものかもしれません。

 

そう考えてみると、自然界の中で人間だけが、この叡智から離れようとしているのがわかります。

しかし、いくら本能を失おうとも、人間もまた自然の一部である事実は変わりません。

子どもを見ていれば、それがよくわかります。

 

人間が自然を破壊し、物質文明を突き進むことに、様々なところから警鐘を鳴らす人々がいます。

多かれ少なかれ、みんなが不安を抱いていることは確かでしょう。

 

私は別に、原始の生活に戻るべきだとは思いません。

戻ろうとしても戻れやしませんし。

ただ、考えること(それは人間にしかできないことです)を放棄すべきではないし、具体的な行動を惜しむべきではないと思います。

「このままの道」を進んでいくと、どうもやばいな、と感じるとすれば、それは人間に残された最後の「叡智」の声なのかもしれません。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

虫食い擬音の独特度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ヒッコリーのきのみ

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【絵本の紹介】「14ひきのかぼちゃ」【194冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

もうすぐハロウィン。

すっかり国民的行事として定着した感がありますが、私が子どものころは、友だちの誰も知らないようなお祭りでした。

もともとは秋の収穫を祝う行事のはずなんですが、いつの間にかコスプレ祭りと認識されている気がします。

 

私がハロウィンを知っていたのは、スヌーピーの漫画『ピーナッツ』を読んでいたからで、そこにライナスがハロウィンの日にやってくる「かぼちゃ大王」なる存在を信じて、毎回かぼちゃ畑で待ちぼうけを食わされる、というお約束的エピソードがあるんですね。

アメリカではクリスマスと並んで子どもたちが楽しみにしているイベントのようです。

 

さて、今回紹介するのは「14ひきのかぼちゃ」です。

作・絵:いわむらかずお

出版社:童心社

発行日:1997年4月25日

 

突っ込まれる前に言っておきますが、かぼちゃ以外にハロウィンとの関連はありません。

スヌーピーも関係ありません。

無理矢理ハロウィンに繋げたかっただけ。

 

さて、久々に「14ひき」シリーズの登場となりました。

海外でも人気の高いいわむらさんの絵本。

過去記事と合わせてお読みください。

 

≫絵本の紹介「14ひきのひっこし」

≫絵本の紹介「14ひきのぴくにっく」

 

毎回美しい自然が描かれるシリーズですが、今回はおじいちゃんのかぼちゃの種を、みんなで植えて育てるというストーリー。

 

これは かぼちゃの たね、いのちの つぶだよ

と、大切そうに箱から種を取り出すおじいちゃんが印象的です。

種から芽が出るシーン。

まばゆい命の光が輝いているかのよう。

かぼちゃに「かぼちゃん」と名前を付け、みんなで世話をします。

嵐の日には、ずぶぬれになって守ります。

 

激しい嵐の場面の後には、静かな月夜の場面。

ゆっくりと育まれる命を感じさせます。

そしてついに実った、大きくて立派なかぼちゃ。

 

中身をくりぬいて、ずらりと並ぶかぼちゃ料理の数々。

苦労があったからこそ、収穫の喜びは大きい。

 

★      ★      ★

 

誰もが子どものころ、一度くらいは「種を植えてみた」経験があるのではないでしょうか。

私も公園に色んな種を埋めましたが、もちろん芽吹いたことは一度もありませんでした。

 

ただ埋めればいいってものじゃないですからね。

ちゃんとした知識と、そして根気が必要です。

私はそのどちらもない子どもで、ただ好奇心だけがありました。

 

でも、その好奇心がとても大切なのです。

その最初の衝動を大事に導き、真理に到達する喜びを与えてやるのが大人の務めだと思います。

正しく満たされた好奇心は、主体性につながります。

いずれ学校の授業でやるにしても、そこに主体性がなければ、それはただ言われたことをやっただけになります。

それでは生命の不思議さとか尊さを、心の深い部分に感じることはできないでしょう。

 

いずれ息子がそういうことに興味を持ちだした時に備えて、私も色々と勉強しておかなくてはと思っています。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

おいしそう度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「トマトさん」【171冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

お盆を過ぎてから、また一段と暑くなってきた感がありますね。

今回紹介するのは、「トマトさん」です。

作・絵:田中清代

出版社:福音館書店

発行日:2006年7月15日(こどものとも傑作集)

 

いかがです、この表紙絵のインパクト。

そしてタイトル。

 

いったいどんな「トマトさん」なのか、中を開かずにはいられません。

 

ある なつの ひるさがり

まっかに うれた トマトさんが トマトのきから どった、と おちた

 

どった」という擬音がいいですね。

トマトさんの熟れっぷり、重量感が伝わってきます。

 

実にアンニュイな表情をしたトマトさん。

暑いんです。

 

ミニトマトたちは転がって川に飛び込み、通りかかったやけにカラフルなとかげたちも、トマトさんを川へ誘います。

しかし、トマトさんはつーんと断ります。

 

でも、その後もどんどん暑くなって、とうとうトマトさんは「あまい においの なみだ」を落とします。

本当はトマトさんも泳ぎに行きたいのです。

でも、身体が重くて転がれないのでした。

 

それを知った虫たちが、トマトさんを転がしてやろうと集まります。

とかげたちも加わって、ついに重たいトマトさんは、

ごろん ごろん ごろごろごろ

じゃっぷーん

と、川へ飛び込みます。

 

念願かなって、「ああ、つめたい! なんて きもちいいんだろ

とても嬉しそうなトマトさん。

 

泳いだ後は河原で涼風に吹かれて、みんな涼しくいい気持ち。

 

★      ★      ★

 

トマトさんの表情の衝撃が大きすぎて、シュールな印象を受けがちですが、内容は幼児にもわかりやすく、ほのぼのしたものです。

 

上でも触れましたが、擬音語・擬態語の選び方も秀逸で、テキストも良質です。

ずんずん」「ぴかぴか」「しんなり」「ぽっちゃん ぽよん」「どっぷん とっぷん」など、声に出して読むとなお楽しい。

 

ぱっと見ではわかりませんが、この絵本は銅版画で描かれています。

どうしてもトマトさんに目が行きますが、とかげたち他のキャラクターデザインも味があって可愛いです。

 

実はこのトマトさんとカラフルとかげは、作者の田中さんの別作品「みつこととかげ」に登場したキャラクターなんです。

機会があれば、そちらも読んでみると面白いですよ。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

トマトさんの唇の色っぽさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「しまふくろうのみずうみ」【142冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

北海道の釧路市動物園で、天然記念物のシマフクロウの孵化に、7年ぶりに成功したとの発表がありました。

というわけで、今回紹介するのは「しまふくろうのみずうみ」です。

作・絵:手島圭三郎

出版社:福武書店

発行日:1982年3月1日

 

手島圭三郎さんのデビュー作にして、絵本にっぽん賞を受賞した名作です。

古いものは福武書店から、現在はリブリオ出版が復刻版を刊行しています。

 

まず、版画絵の圧倒的な力強さに目も心も奪われます。

手島さんは北の国の広大で荘厳な自然と、そこで暮らす生き物を描いた絵本を数多く発表しています。

手島さんは幼少期を、北海道の北端で過ごした方で、自らこの作品を「少年時代の体験が、郷愁とあこがれに昇華して作り出された」と語っています。

 

ほっかいどうの ふかいふかい やまおく」の、「だれも しらない みずうみ」を舞台に、シマフクロウの親子の暮らしを描きます。

版画絵に彩色する手法。

翼を広げたシマフクロウの迫力に息を呑みます。

お腹を空かせて待つひなのために、湖で狩りをする父親。

水の跳ねる音に耳を澄ませ、一瞬のきらめきのうちに、水面に上がってきた魚を捕らえます。

月明かりに照らされた湖面に、どんどん広がっていく波紋。

静と動の見事な対比。

 

★      ★      ★

 

小学校のころ、彫刻刀で木版画を制作したことを思い出します。

全員無口になるんですよね。

 

それは素晴らしい版画を鑑賞する時も同じで、ここに描かれた静謐な世界の前では、余計な言葉は自然に消えてしまいます。

 

フクロウが流木の上で羽を休めながら、じっと目を閉じている姿は、沈思黙考しているようで、「森の賢者」なんて異名にも納得です(ゴリラも「森の賢者」でしたっけ)。

アイヌの人々はこの鳥を「コタン・コル・カムイ」(村を守る神様)と呼びました。

フクロウの威圧的な鳴き声が、悪魔を追い払ってくれると信じられていたのですね。

 

私も実物を見たことはありませんが、昼間の動物園で見るのと、北海道の野生を見るのとでは、その迫力や神秘性はまったく違うでしょう。

厳しい自然を知る作者だからこそ、ここまでの表現が成しえたのだと思われます。

 

子どもを引き込み、神秘的な野生を感じさせるのにじゅうぶんな力のある作品です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

北海道の雄大な自然の表現度:☆☆☆☆☆

 

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