【絵本の紹介】「じめんのうえとじめんのした」【109冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どもは本来、大人よりもずっと知に対して貪欲で、この世界の法則を知りたがっています。

大人を質問攻めにする時期が来たら、それは喜ぶべきことです。

 

長い将来に亘って、子どもが主体的に何かを学ぼうとする態度を身に付けることができるかどうかは、この時期の過ごし方にかかっていると言っても過言ではないと思います。

 

どんな「はあ?」と言いたくなるような質問でも、大人は丁寧に答えてやるべきです。

知ったかぶりや嘘はいけません。

もし、自分でもわからないことを尋ねられたなら、「それは知らない」と正直に答え、後で子どもと一緒に調べるのがいいでしょう。

「知らないことを調べる」という一種の作法を、子どもに伝えることになります。

 

子どもが、ごく幼い時期から自然科学に大きな興味を示すものだということを、私に教えてくれた絵本があります。

それが今回紹介する「じめんのうえとじめんのした」です。

作・絵:アーマ・E・ウェバー

訳:藤枝澪子

出版社:福音館書店

発行日:1968年3月1日

 

ウェバーさんはアメリカの植物博士。

ですから、プロの絵描きさんではありません。

でも、味のあるイラストです。

内容は単純にして明解。

地面の上にすむ動物と、地面の下にすむ動物。

それに、その両方ですむ動物がいることを説明します。

 

そして、普段は見えない地面の下に、植物の根が伸びていることを断面図で解説。

植物にもいろいろあり、ナラやポプラの木、そしてジャガイモや人参など、それぞれが違った形態で生長していることを丁寧に教えてくれます。

さらに、植物の光合成に触れ、

じめんの うえに すむ どうぶつも じめんの したに すむ どうぶつも、しょくぶつの おかげで いきているのです

と締めくくります。

 

★      ★      ★

 

最初手に取った時、こんなに地味な絵と文で、本当に淡々と事実だけを語るような絵本が、子どもに受けるのかどうか、疑問に思ったものです。

けれど、息子(当時2歳)に読んでやったところ、意外に喜んで、興味津々で見ていたんですね。

 

もちろん、内容を完全に把握して理解できたわけではないと思います。

たぶん、「断面図」が気に入ったんでしょう。

 

「見えない部分」を見せてくれることに喜んだのです。

 

息子はこの絵本を読んでから、外に出かける際には、木や草の根元をじっと見つめたりするようになりました。

きっと、その下に広がっているであろう世界を想像していたのだと思います。

 

この絵本が長年に亘って人気なのは、子どもの知的な好奇心や探究心が、いかに深いかを証明しています。

それなのに、成長するにつれ、次第に「勉強嫌い」になっていくのは、やっぱり我々大人の責任ではないでしょうか。

 

また、私が個人的に気に入っているのは、作者が「腐植土」などの難しい言葉を使うことを忌避していないところです。

文体はあくまで易しく丁寧であっても、あえて「子どもにもわかる言葉」だけで語ろうとはしていないあたりに、子どもへの敬意を感じられるのです。

 

絵本にはひとつかふたつくらい、今の年齢では理解しがたいような言葉が入っていてもいいと思います。

それがまた、子どもの言葉や知識への欲望を刺激するからです。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

ザ・科学絵本度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「じめんのうえとじめんのした

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「かばくん」【103冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どもが生まれてから、動物園に行ったのは3回。

けれど、いつ行っても、さほど喜んでいる様子が見えないんですよね。

 

まだ動物に興味が薄いのか。

絵本や図鑑では面白がって読むんですけどね。

 

それともこっちの誘導が下手なのか。

 

でも、考えてみれば、動物園の動物って、たいてい寝てることが多くて、幼い子の興味を引き続けるのはなかなか難しいかもしれません。

男の子は特に「動いているもの」が好きですから、じーっとしてる動物なんか、ちらっと見ておしまい、ということも多い。

 

そんな中で、ただいるだけでも子どもの気を引けるのは、やっぱり大きい動物。

ゾウやキリンに負けずとも劣らぬ存在感を放つ巨大動物と言えば、カバでしょう。

 

今回紹介するのは、「かばくん」です。

作:岸田衿子

絵:中谷千代子

出版社:福音館書店

発行日:1966年12月25日

 

1962年に「こどものとも」で発表されて以来、じわじわと人気を保ち続け、海外でも高い評価を受けているロングセラーです。

 

特に話の筋というほどのものはなく、動物園のかばくんを、簡潔な文章で描いただけ。

でも、この言葉のリズムや響きが、なんとも心地良いんですね。

これは、黙読ではわかりません。

声に出して読んでみてください。

 

おきてくれ かばくん どうぶつえんは もう11じ ねむいなら ねむいと いってくれ つまらないから おきてくれ

たべてくれ かばくん あおい きゃべつに とうもろこし きらいなら きらいと いってくれ すきなら はやく たべてくれ

やたらぐいぐいくる男の子(ペットはかめくん)。

 

そして、何気ない絵の構図もよく計算されていて、かばくんの大きさや動きが伝わってきます。

 

動物園に来た子どもたちを

ちょっと みてこよう

なんて言うかばくんも、関係がひっくり返ってるみたいで面白い。

やっぱり、カバの最大の魅力は、あの途方もなく大きな口でしょう。

上下にぐわっと口を開いただけで人を感動させます。

 

どでーんとして、のそーっとして、ぐでーっとしたイメージだけど、実はかなり速く走れたり、ライオンにも負けないくらいの戦闘力を持ってたり、一部では「カバ最強説」なんてのもある、意外性のある動物。

 

うんちを撒き散らかすのだけは要注意だけど、私も大好きです。

でも、なかなか水から出てきてくれないんですよね。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

アフリカの人々から恐れられている度:☆☆☆☆☆

 

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絵本の紹介「よあけ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

たまに手に取って、読み返したくなる。

絵本が単に子どもの本、というカテゴリーに収まらない芸術作品であることを再確認させてくれる。

 

今回紹介するのは、そんな一冊、「よあけ」。

作・絵:ユリー・シュルヴィッツ

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1977年6月25日

 

作者のシュルヴィッツさんは、東洋の文芸・美術に造詣が深く、この「よあけ」(原題・『DAWN』)は、日本の浮世絵を彷彿とさせるようなタッチで描かれており、また、唐の詩人・柳宗元による七言古詩「漁翁」がモチーフとなっています。

 

漁翁夜西巌に傍ひて宿し、暁に清湘を汲みて楚竹を燃す。……

 

漢詩の持つ、美しい言葉の響きと雄大で荘厳な自然のイメージを、絵本の世界に顕現させることに見事に成功した名作です。

山間の大きな湖。

夜明け前の静寂。

湖面の月と山の影。

 

やがて少しずつ生物の気配が広がり始めます。

こうもり、蛙、鳥。

 

湖畔に寝ていたおじいさんとその孫が起き出し、暗い中で水を汲み、たき火をします。

それからボートを湖に押し出して、こぎ始めます。

 

その一瞬。

鮮やかな日の光が、景色を一変させます。

 

★      ★      ★

 

最後のシーンは、息をのむほど鮮やかです。

 

そして、原作が漢詩ということで、訳文の方も詩的表現がちりばめられ、文章自体も美しい。

つきが いわにてり、ときに このはをきらめかす

やまが くろぐろと しずもる

もやが こもる

とりがなく。どこかでなきかわす

 

子どもには難しい表現かもしれませんが、説明は不要だと思います。

これは歌と同じで、美しい響きとイメージの余韻を残せれば、それで十分です。

 

絵そのものの美しさはもちろん、ひんやりと肌に伝わる温度や蛙が水に飛び込む音など、五感すべてで読める本です。

一本の映画にも似て、大人の鑑賞にも十分に耐えます。

 

絵画であり、画集であり、詩であり、映画であり、文学であり、そしてそのどれでもない。

絵本でしか成せない表現を成し遂げた点で、「よあけ」は画期的な作品と言えるでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

瀬田貞二さんの本気度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「よあけ

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絵本の紹介「わたしとあそんで」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、コールデコット賞受賞作品「わたしとあそんで」です。

文・絵:マリー・ホール・エッツ

訳:与田凖一

出版社:福音館書店

発行日:1968年8月1日

 

以前紹介した「もりのなか」の作者、エッツさんのもう一つの代表作です。

 

≫絵本の紹介「もりのなか」

 

「もりのなか」は単調なようでいて、実に深い謎めいた構造になっている絵本でしたが、この「わたしとあそんで」も、独特の読後感があり、単純に見える一方、なかなか一筋縄ではいかない作品です。

 

えほにずむショップ上で、私は自分で作ったカテゴリに(無粋であることは承知で)絵本を分類しているのですが、「わたしとあそんで」をどうカテゴライズするか、ずいぶん悩みました。

 

結局「しぜん・どうぶつ・むし」の項目に入っていただきましたが、そうすることで一種の固定概念を植え付けてしまうのではと、いまだに迷っています。

 

そもそもこの絵本は特定のジャンルへの分類にはなじまないものです。

かと言ってお高く止まったような作品でもなく、非常に読みやすいものです。

つまり、読み手それぞれの自由な解釈を許してくれる、懐の広い絵本なのです。

 

暖かな春を連想させるクリーム色を基調とした色彩。

わたし」は、原っぱへ遊びに行きます。

そこで、色々な動物に、

あそびましょ

と近寄りますが、動物はみんな逃げてしまいます。

誰も遊んでくれないので、「わたし」は池の傍の石に腰かけて、水すましをじっと見ていました。

 

わたしが おとを たてずに こしかけていると

さっき逃げ出した動物たちがだんだんと戻ってきます。

そのままじっとしていると、動物たちは警戒を解き、「わたし」に近寄ってきてくれます。

 

鹿の赤ちゃんも現れて、「わたし」が「いきを とめていると」、近寄ってきてほっぺたを舐めます。

この時の「わたし」の幸せそうな、くすぐったそうな、なんとも言えない表情が素敵です。

 

最後は動物たちに囲まれながら、

ああ わたしは いま、とっても うれしいの

なぜって、みんなが みんなが わたしと あそんでくれるんですもの

という笑顔で終わります。

 

★      ★      ★

 

この絵本を「友達を作ること」「人間関係」についての示唆として読んでもいいし、「孤独に耐えたのちの希望」の物語として読んでもいいし、それこそそのまま「自然の中での遊び方」や「野生動物観察の手引書」として読んでもいい。

どれも間違いではありません。

 

それは、この絵本が、エッツさんのリアルな体験に基づいた作品であるがゆえに、あらゆる「読み方」に耐える厚みを持っているからです。

 

エッツさんは幼少時より自然に親しみ、結婚後も、病気の夫とともにシカゴ郊外の森の中で過ごしたりと、豊かな自然体験を持ったひとです。

彼女は、そこで自分が自然から学んだ様々なことを、そのまま写し取ったような絵本を描きます。

 

ですから、エッツさんの絵本はどれも自然そのものであり、「説教臭さ」も「押しつけがましさ」もなく、ただ(空想も含めての)「真実」のみが描かれているような印象をたたえています。

 

「自己アピール能力」や「プレゼン能力」や「不屈の行動力」のようなものばかりが重要視される現代社会。

「自分が」「自分が」と幼児的に主張し続けることで、いつしか仕事にも、家庭にも、人間関係すべてに疲れてしまった人々が増えているのではないでしょうか。

 

でも、この絵本の女の子のように、自分を抑制し、自然と一体化することで、はじめて手に入る幸福感もあるのです。

 

大切なことは、自然の中でこそ学ぶことができる。

 

私がエッツさんの絵本から読み取るのは、そんなメッセージです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

表現力の確かさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入は商品詳細ページからどうぞ→「わたしとあそんで

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絵本の紹介「飼育係長」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、一度見たら忘れられないインパクトの絵本、「飼育係長」です。

作・絵:よしながこうたく

出版社:長崎出版

発行日:2008年2月11日

 

作者のよしながさんは福岡出身のイラストレーター。

初めての絵本「給食番長」が大人気となり、以後、「わんぱく小学校シリーズ」として続編を次々に刊行。

 

この「飼育係長」はその2作目に当たります。

 

何と言っても、絵が衝撃的。

ちょっと自己主張が強すぎる画風に、敬遠される方もいるかもしれません。

 

登場する動物たちは、可愛いというよりも不気味だし、画面の隅々でうごめく小さな動物たち(これを探すのも楽しみの一つですが)は、「どこの星の生物?」だし。

 

でも、内容はわりとテーマがはっきりした、オーソドックスな絵本だったりします。

わんぱく小学校1年2組の個性あふれる生徒たち。

今回は動物大好き、飼育係の「まさお」が主役。

 

動物園からの遠足の帰り、まさおのリュックに動物の子が潜り込んでいました。

まさおはこの子を「シマ子ブタ」だと言い張り、こっそり学校で飼うことにします。

「しまぷー」と名付けた子ブタに、まさおは毎日たくさんエサをあげますが、夏休みの終わり、しまぷーは巨大な姿に成長、キバまで生えてきます。

 

どうやらブタではなく、イノシシだった模様。

でも、まさおは相変わらず小屋の中でエサをやり続けます。

 

そしてある日、しまぷーは飼育小屋から脱走してしまいます。

 

探し回っても見つからず、仕方なくまさおたちは動物園に行き、園長に打ち明けます。

園長は、動物を飼育することの難しさや責任について、まさおたちに説いて聞かせます。

エサをあげればいいってもんじゃないんですよね。

そこで、しまぷーと感動の再会。

しまぷーは狭い小屋を抜け出して、動物園に戻ってきたのでした。

 

★      ★      ★

 

絵は個性的でも、メッセージは明確。

そしてこのシリーズのもう一つの特徴は、「福岡」という作者の地元を強力に押し出した「ご当地絵本」であること。

 

標準語の本文の他に、博多弁バージョンの文がついた、方言バイリンガル絵本なのです。

面白い試みだと思いますが、私としては、むしろ標準語は完全に排除して、博多弁一本で勝負して欲しかったです。

 

子どもが幼いうちからの英語教育に熱心な方が、子どもが方言を覚えることを嫌がるのは奇妙な気がします。

「多様な言語文化」を学ぶことが目的なら、どんどん方言を教えても問題ないはずです。

何よりも、子どもは方言が大好きですし。

 

標準語版がいらないという理由のひとつは、ページにおける活字の配分を少なくしてほしいからです。

だって、絵の情報量が凄いから。

どうしても字が邪魔に感じてしまうんですよね。

どうせなら手書き字体のほうが、この絵にはしっくり来るような気がしますが、どうでしょうかね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆(博多弁に馴染みがない人の場合)

地元愛度:☆☆☆☆☆

 

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