【絵本の紹介】「貨物船のはなし」【452冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

小さかった頃は乗り物が大好きだった息子ですが、最近はPCゲーム「マインクラフト」に夢中で、さほど乗り物に興奮することもなくなりました。

とはいうものの、構造や仕組みに強い関心を持つという性質は年齢と共に顕著になっており、ゲームやアニメに登場する架空の乗り物を見ると、動力はどうなっているのかとか、内部はどうなっているのかとか、独特の目の付け方をします。

 

そういう子どもの知的好奇心を大いに満足させてくれる絵本が今回紹介する「貨物船のはなし」です。

作・絵:柳原良平

出版社:福音館書店

発行日:2014年4月1日

 

作者は船が大好きなイラストレーターの柳原良平さん。

速さでは鉄道や自動車、飛行機にかないませんが、船は、大きなものや重いものでも運ぶことができるし、ものをたくさん運ぶこともとくいです」という一文に、作者の船への愛情が表れている気がします。

 

19世紀の帆船や、江戸時代の北前船から始まって、人類の歴史と共に進化していく貨物船を紹介していきます。

普通に大人が読んでもためになります。

目的に応じて新しくなっていく貨物船。

時には戦争のために作られ、破壊される時代もあります。

貨物船のはなしというタイトルですが、貨物船だけではなく、貨客船や周遊船なども登場します。

大浴場やレストランや劇場まで備えた豪華客船の解説はワクワクします。

そのデザインの美しさ、目的に特化した機能美は時に感動すら呼び起こします。

コンテナ船、石油タンカー、クルーズ船、自動車運搬船。

最後にはソーラーハイブリッド船や、風の抵抗を減らす流線型の船の開発など、楽しみになるような船の将来を示します。

 

★                   ★                  ★

 

やっぱりロマンがありますよね。

豪華客船の旅してみたい…。

 

大人になってからこういう絵本を読むと、普段当たり前みたいに見過ごしている船に込められた人類の叡智とか、歴史とか、そんなものに気づかされます。

作者の瑞々しい感性や船への純粋な憧憬が伝わってきて、鈍感になっていた自分の感性が刺激されるのを感じます。

 

息子が小さい頃に大好きだった絵本ですが、今でもたまに一人で読み返しているようです。

そういう姿を見ると嬉しくなりますね。

 

推奨年齢:小学校低学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

乗ってみたくなる度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「貨物船のはなし

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【絵本の紹介】「ボートにのって」【409冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはとよたかずひこさんの「ボートにのって」です。

作・絵:とよたかずひこ

出版社:アリス館

発行日:1997年10月20日

 

「ももんちゃん」シリーズで人気の作家さん。

ほんわかした画風とゆったり流れる時間の表現が和みます。

どちらかというと幼児向け作品が多く、私も息子が小さなころはよくお世話になりました。

 

≫絵本の紹介「どんどこももんちゃん」

 

この「ボートにのって」は「うららちゃんののりものえほん」3部作の2作目にあたり、他に「でんしゃにのって」「さんりんしゃにのって」が発表されています。

幼児向けとは言い条、大人にとっても単なるノスタルジー以上の何かを感じて惹きつけられてしまう不思議な魅力を持った絵本です。

 

主人公のうららちゃんは名前の通りおっとりしたタイプの女の子で、あまり口数も多くありません。

身の回りで起こるちょっと不思議な現象に対して、ささやかに驚きつつも大騒ぎはせず、そっとその時間を大事にするような振舞いがとっても可愛らしくて素敵。

お父さんと二人で、たぶん公園の池の貸しボートに乗っているのでしょう。

池の真ん中でお父さんが昼寝を始めると、うららちゃんは「ちいさなこえで」歌を歌います。

 

すると歌に引き寄せられるようにちょうちょやかえるやあひるたちが次々に「あそびましょ」とボートに乗ってきます。

「おひさま ぽかぽか かぜ そよそよ」

その時お父さんが目を覚まします。

すると友だちはボートから降りて姿を隠します。

お父さんは何も気づかずに、「そろそろ かえろうか」とボートをこぎ出します。

 

うららちゃんは特に何も言いませんが、後ろを振り向くとさっき遊んだかえるやこいたちが池から顔を出して、

また あそぼ

 

うららちゃんは嬉しそうに笑いながら唇に指をあてて秘密めいた仕草をします。

 

★      ★      ★

 

童心に返ることができるところが、大人から見たこの作品の魅力なのかもしれません。

お父さんには動物たちの話す姿が見えるのでしょうか。

おそらく見えないのでしょう。

 

現代の大人たちは感覚世界に足を下ろし、見える世界だけを感じながら生きています。

でも子ども時代を思い出せば、世界は今とは同じではなかったはずです。

 

現実意識と夢像意識の間、微妙に揺れる境界こそが子どもたちの生きる世界なのです。

子どもたちにとってはそれは確かに存在する世界であり、大人は明晰な意識を手に入れる代わりにその世界を失います。

しかし、無意識下では今現在も、その境界は現実レベルで世界に影響を与え続けているのです。

 

この絵本を読めばすぐに思い出すのはマリー・ホール・エッツさんの古典名作「もりのなか」です。

 

≫絵本の紹介「もりのなか」

 

「もりのなか」以来、これは絵本のひとつの王道話型となっています。

子どもが親と離れ、わずかな時間「境界」に足を踏み入れ、そして大人の登場とともに現実へと帰還する。

人間にとってその時間にどんな意味があるのか。

それは単に子どもを「大人になる前段階としての未熟な通過点」としか捉えない人間観の持ち主には考察できません。

 

ですが、この「王道」は時代を超え、形を変え、表現を変えたとしてもこれからも残り続けるでしょう。

いつか人間がもっと人間のことを理解できる時代が来るまで。

 

推奨年齢:2歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

最後のうららちゃんの表情が可愛い度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ボートにのって

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【絵本の紹介】「もぐらとじどうしゃ」【342冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

10月に入ってようやく少し涼しくなってきましたね。

しかし今年ももう10月ですか……。

色々忙しい1年でしたが、充実していたと思いま……いや、まとめるには気が早すぎますね。

 

今回は絵本大国・チェコから来た人気シリーズを初紹介しましょう。

もぐらとじどうしゃ」です。

作:エドアルド・ペチシカ

絵:ズデネック・ミレル

訳:内田莉莎子

出版社:福音館書店

発行日:1969年5月1日

 

チェコの絵本って世界中で人気なんですよ。

とにかく可愛くておしゃれだというので、インテリアとしてのコレクターもいるそうです。

 

私はやっぱり内容を読みたい人なので、邦訳されてない絵本についてはあまり詳しくないですけど、物語や構成に関しても高いレベルの作品が揃っているようです。

この「もぐらとじどうしゃ」はアニメ化もされているシリーズです。

翻訳絵本が刊行されたのはかなり古い話で、この表紙か、または姉妹作「もぐらのずぼん」の表紙を見ると懐かしい気持ちになる人も多いのではないでしょうか。

 

本国チェコでは知らない人はいないくらいの人気シリーズで50作以上も刊行されていますが、日本では上の2作品以降、長い間新作が翻訳出版されていませんでした。

2002年になってようやく偕成社から木村有子さんの翻訳で「もぐらくんおはよう」が出版され、以後シリーズ絵本として定期的に刊行されるようになりました。

福音館書店の「もぐらとずぼん」が1967年、この「もぐらとじどうしゃ」が1969年の発行ですから、実に30年ごしの新作ということになります。

 

けれど、30年前の絵本業界にとって、この色彩豊かで躍動感のある「もぐらくん」は非常に魅力的に映ったことだと思います。

たくさんの色が使われた賑やかな画面を、もぐらくんが所狭しと駆け回ります。

町を走る自動車を見て、自分も自動車が欲しくなったもぐらくん。

乗り物に憧れる気持ちは大人と子どもでは違うもの。

もぐらくんの情熱は子どもの純粋な自動車への憧憬そのものです。

もぐらくんは自動車を手に入れるために東奔西走。

工場で構造を学び、材料を集め、組み立て、失敗し、試行錯誤する過程がしっかりと描かれています。

テキストもなかなか多め。

紆余曲折あってついに念願の自動車を手に入れます。

ゼンマイ式だけど、ちゃんと乗って動く自動車です。

 

もぐらくんは他の自動車に混じって公道を思う存分走り、ありくんに道路の渡りかたを教え、いぬくんに自動車を披露し、いい気分で家に帰ります。

もぐらくんは自動車のねじを大事に抱えて眠るのでした。

 

★      ★      ★

 

かなり読み応えあります。

個人的には最初のブリキ缶で作った自動車が実際に動いて欲しかったです。

工作としてはなかなかよくできてます。

 

車輪のことを「くるま」と訳してるあたりに時代を感じます。

じどうしゃには くるまが ぜったいいるな

今はほとんど「車」=「自動車」という認識が一般的ですので、子どもが読むと「?」となりそうです。

 

それでも色あせない面白さ。

子どもの乗り物への情熱が失われない限り、こうした作品は時代を超えて読み継がれるでしょう。

 

私の息子も人並みに自動車熱を持ってましたが、最近は興味の範囲が広がって、昔ほど自動車に興奮しなくなりました。

鉄道、貨物船、飛行機、宇宙探査機……。

本人はやっと補助輪付きの自転車デビューしたところですがね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

もぐらくんの器用さ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ガンピーさんのドライブ」【296冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

新年を迎えたばかりで、また絵本作家さんの訃報が届きました。

1月4日、イギリスを代表する絵本作家、ジョン・バーニンガムさんが逝去されました。

 

このブログでも何度か取り上げていますが、そのユーモラスで飄々とした作風の絵本作品はもちろん、人間としても非常に興味深い人物です。

彼は少年時代、9つもの学校を転々としましたが、そのうち2校が私が本を読んで感銘を受けた人物の創設した学校だったのです。

ひとりはアレクサンダー・サザーランド・ニイルで、もうひとりはルドルフ・シュタイナーです。

彼らはそれぞれ思想は違えど、子どもの教育において「自由」の理念を掲げた点で、その時代では大変に進歩的な教育者でした。

 

子どもを「矯正」しようとする教育ではなく、子どもを認め、尊重し、その主体性を伸ばそうとする彼らの姿勢と、そして真に問題なのは子どもではなく親であり、教育者であり、周囲の大人なのだという視点は、私の育児観の基礎となっています。

 

そうした学校で少年時代を過ごしたことがバーニンガムさんの作品にとってどういった影響を与えたのかはわかりません。

それでも私には確かに、彼のすべての絵本に流れる子どもへの眼差しの中に、温かい光を感じることができるのです。

 

今回は追悼の意を込めて、「ガンピーさんのドライブ」を紹介します。

作・絵:ジョン・バーニンガム

訳:光吉夏弥

出版社:ほるぷ出版

発行日:1978年4月10日

 

ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した傑作「ガンピーさんのふなあそび」の続編になります。

関連記事≫「クシュラの奇跡」

 

バーニンガムさんは自伝「わたしの絵本、わたしの人生」の中で、自分の外見が日々ガンピーさんに似てきており、どうやらガンピーさんは自分自身の将来を暗示したキャラクターだったらしいと述懐しています(ちなみに、同書にはバーニンガムさんの若い頃の写真もありますが、めちゃくちゃカッコイイです)。

 

外見だけではなく、ガンピーさんはもしかするとバーニンガムさんそのものなのではないかと私は思っています。

絵本に登場する大人の中で、私が尊敬するキャラクターと言えば、真っ先にこのガンピーさんを思い出します。

「ふなあそび」で見せた彼の懐の深さと、押しつけがましくない理解と優しさには、何度読み返しても深く感じ入ってしまうのです。

彼こそが本物の大人だと思います。

さて、今回はガンピーさんは愛車でドライブに出かけます。

この車のモデルになったのは、作者の最初の車、1934年型幌付きオースチン・セブンだそうです。

車に疎い私にはさっぱり。

 

「ふなあそび」では順番に登場した子どもたちや動物たちが、一度に出てきて「いっしょに いっても いい?」。

もちろんガンピーさんは「いいとも」。

だけども、ぎゅうぎゅうづめだろうよ」。

 

子どもたちはそんな言葉はお構いなしに「どやどや」乗り込みます。

快適で楽しいドライブ。

テンポのいい文章と風を感じるイラストに、読んでいるこちらも浮き浮きしてきます。

 

が、前方に灰色の雲が広がり、物語の波乱を予感させます。

果たしてどしゃぶりの雨が降り出し、自動車はぬかるみにタイヤをとられて空回りし始めます。

 

だれか くるまから おりて、おさなくちゃ なるまいよ

ガンピーさんの言葉に、子どもと動物たちはいっせいにその役目のなすりつけ合いを始めます。

 

わしは だめだ

ぼくも だめ

あたしたちも だめ

 

ぬれたら、かぜを ひいちゃうもの

おなかが いたいんだもの

きぶんが わるいんだもの

 

自分勝手な主張を耳にしても、ガンピーさんは腹を立てたりはしません。

ただ、「これじゃ、ほんとに たちおうじょうだ!」と、危機的状況を伝えます。

誰が誰に命令することもなく、みんなが車から降りて押し始めます。

力を合わせて、やっとぬかるみから脱出します。

 

雨雲も去り、空にはお日さまがきらきらと輝きます。

かえりは、はしを わたって うちまで ひとっぱしりだ

ガンピーさんは言います。

まだ、およぐ じかんは たっぷり あるよ

 

みんなはガンピーさんの家の前の川で気持ちよく泳いで遊びます。

そして、やっぱり最後はガンピーさんの限りない優しさに満ちた言葉で締めくくられます。

また、いつか のりに おいでよ

 

★      ★      ★

 

わたしの絵本、わたしの人生」には、バーニンガムさんがニイルの創設したサマーヒル校で過ごした日々のことが記されています。

サマーヒル校では生徒たちが自分で校則を作り、授業に出席するかどうかさえも自由でした(それでも最終的にはほとんどの生徒が授業に出るようになるのです)。

そこで作者は絵ばかり描いていたそうです。

ある時、学校の食料貯蔵庫の鍵を盗み出した生徒がいて、それを取り上げたバーニンガムさんは悪友と共に自由に食料庫に忍び込み、夜な夜な缶詰や飲み物を盗み出すようになりました。

 

それが校長のニイルの知るところとなり、バーニンガムさんは校長室に呼び出されます。

ニイルは「貯蔵庫の鍵を盗み出したやつがいるんだが、ひょっとして、きみが知っているんじゃないかと思ってね」と言います。

 

バーニンガムさんは部屋を出て、鍵を持って校長室に戻りました。

するとニイルは新聞を読んだままで鍵を取り上げ、それ以上なにも言わなかったそうです。

 

ガンピーさんは子どもたちの保護者的存在ですが、「ふなあそび」でも今回の「ドライブ」でも、子どもたちに対し、何ひとつ強制しません。

この絵本では「困難に対し、全員が個人的な損得を抑制して力を合わせることで大団円に向かう」というひとつの王道物語が示されていますが、ガンピーさんのあまりのさりげなさによって、そしてすべてを子どもたちの自主性に任せる器の大きさによって、少しの説教臭さも感じさせません。

 

ガンピーさんのような大人が常に近くにいて、手も口も出さずに見守っていてくれてこそ、子どもたちは本当にのびのびと成長できるのです。

それは無責任な「放任」とは似て非なるものです。

 

子どもたちも動物も、自分たちがガンピーさんに何かを教えられたとは少しも思っていないでしょう。

ただ、雨上がりの美しい景色と共に、楽しい思い出と共に、魂の深い部分に静かに根付いたものが必ずあるはずです。

それはバーニンガムさんの数々の絵本を読んで育った子どもたちの胸に根付く感情と同じものです。

 

バーニンガムさん、素晴らしい絵本を本当にありがとうございました。

ご冥福をお祈りいたします。

 

また、いつか

 

関連記事≫絵本の紹介「ボルカ はねなしがちょうのぼうけん」

絵本の紹介「なみにきをつけて、シャーリー」

絵本の紹介「おじいちゃん」

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

空の印象的な美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「エンソくんきしゃにのる」【273冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は奇才・スズキコージさんの初期の代表作「エンソくんきしゃにのる」を紹介します。

作・絵:スズキコージ

出版社:福音館書店

発行日:1990年9月15日(こどものとも傑作集)

 

スズキさんの描く絵はいつもどこの国かわからないんですが、独特のムードがあって、本当にこんな国がありそうな気がします。

一度ハマるとクセになるタッチで、「こどものとも」などで人気の画家だったスズキさんですが、この「エンソくんきしゃにのる」は彼が初めて文も自分で書いた作品です(たぶん。間違ってたらごめんなさい)。

 

あの絵を描く人がいったいどんな物語を作るのか、興味をそそられる人も多かったのではと思いますが、期待を裏切らない摩訶不思議ワールドを展開してくれます。

ほげたまちの ほげたえき」に、主人公の「エンソくん」が登場。

これから一人で汽車に乗っておじいさんのところへ遊びに行くのです。

主人公が汽車で旅をするというのは乗り物絵本の定番というか、王道ど真ん中なストーリーではあるんですが、そこはスズキさん。

登場人物は駅員も乗客も、実にエキセントリックです。

 

そして途中で通る町や駅の情景は強烈なまでにオリジナリティに溢れています。

高原の駅では、羊飼いの男が羊の大群と共に乗り込んできて、車内は羊で埋め尽くされます。

そこにまた個性のある駅弁売りがやってきて、エンソくんはお弁当を買います。

中身は「ひつじのかたちの コロッケ」と「ゆでた とうもろこしが ぎっしり」。

さらに羊飼いが羊の弁当の草を堂々と床に撒き、羊たちはいっせいに食べ始めます。

もう何だか凄いことになってます。

 

そして終点では、これまた普通でない感じのおじいさんが、ヤギ(たぶん)に乗って迎えに来ます。

 

★      ★      ★

 

エンソ」という名前は元素から。

それに「くん」をつけて「遠足」とかけているそうです。

 

スズキさんの言語感覚というのは本当にユニークで、「ほげた」とか、途中の駅の「ほんと」終点の「ほいざ」とか、ネーミングセンスが攻めてます。

 

自由過ぎる作風は今も昔も変わりませんが、それでもやっぱり、最近のスズキ作品と読み比べてみると、初期の頃の初々しさのようなものも感じます。

それは代替不可能な感性を持った作者が「絵本」を描く時、どうやっても既存の枠からはみ出してしまうことに対して、「ほんとにこれでいいのかな?」と少々不安を抱きつつ、結局「でも、どうしてもこうなっちゃうな」と筆を進めていく過程を表しているような気がします。

 

それが、エンソくんの「はじめて ひとりで きしゃに のるので きんちょうしています」という一文に重なっているような気がする……と言ったら、私の読み過ぎでしょうかね。

 

関連記事≫絵本の紹介「ガッタンゴットン」

≫絵本の紹介「ガラスめだまときんのつののヤギ」

≫絵本の紹介「サルビルサ」

≫スズキコージ絵本原画展とサイン会に行ってきました。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

車内フリーダム度:☆☆☆☆☆

 

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