【絵本の紹介】「やまたのおろち」【473冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本神話より「やまたのおろち」を紹介します。

文は映画監督の羽仁進さん、絵は安定の赤羽末吉さん。

文:羽仁進

絵:赤羽末吉

出版社:岩崎書店

発行日:1967年

 

知らない人はいないほど有名な神話のひとつだと思っていますが、最近の若い人はどうなのでしょうね。

その存在くらいは知っていても、細かいエピソードについては何も知らない人も多そうです。

そういう私も別にさほど詳しいわけではありませんが。

 

しかしながらこのやまたのおろちの伝説を幼い頃に絵本で読んだ時の興奮とインパクトは忘れることができず、ずっと心に残っていました(その当時読んだ絵本の絵は覚えているのですが、残念ながら見つけることはできていません)。

 

何と言ってもやはりやまたのおろちの造形とスケールが怪獣好きの子ども心に刺さります。

かっこよすぎません?

 

キングギドラもびっくりの八つの頭を持ち、その巨大さたるや八つの谷、八つの峰にまたがるほど。

表面に苔や杉を生やし、生贄に女を要求し、酒も飲む。

女好きの酒好き怪獣ですね。

口から炎を吐くところも実に怪獣らしくていい。

 

この怪物と戦う主人公はスサノオノミコト。

神話によくある暴れ者タイプの神で、乱暴が過ぎて姉である天照大神の不興を買い、下界に追放されます。

人間臭いですね。

 

追放者スサノオは川を上って村へたどり着きます。

そこで泣いている村人に事情を聞くと、やまたのおろちという怪物が娘を食べにやってくるのだといいます。

その娘はクシナダヒメといい、すでに七人の姉がおろちに食われたといいます。

 

スサノオは自分がそのおろちを退治してやろうと引き受けます。

スサノオは乱暴者ですが兵法も心得た知恵者で、八つの瓶に毒を混ぜた強力な酒を用意しておろちを待ち構えます。

やがてその恐ろしい姿を現したやまたのおろちはあっさりとこのトラップに引っ掛かり、酒を飲み始めます。

知能のようなものはほとんどないらしい。

 

けれどもその生命力は半端なく、毒をもってしても死なず、ただ眠りこけてしまいます。

スサノオはそこへ襲い掛かりますが、おろちは目を覚まし、炎を吐いて応戦します。

絵本によってはここの戦闘シーンをあっさり終わらせているものもあり(眠ったおろちを切り殺すだけとか)ますが、この作品では実に6ページにわたって苛烈な戦いが描かれます。

映画監督らしい臨場感ある場面と、赤羽さんの生き生きとした絵筆が見どころです。

ついに勝利するスサノオですが全身に八十八もの傷を受けます。

八という数字にこだわるあたりも神話あるある。

 

クシナダヒメの賢明な看護で傷は癒え、二人は結婚します。

やがて子どもも生まれ、彼らは山の奥で鉄を見つけて道具を作り、蚕を飼って絹糸を作り、出雲の国に村を興します。

 

★            ★            ★

 

おろちの体内から発見される草薙の剣は別名雨の叢雲、有名な伝説ですね。

これについては様々な解釈がありますが、物語最後にも描かれる通り製鉄技術の発展や鉄文化との関りを指摘されています。

 

神話や民話は全てが象徴的ですから、八という数字や蛇、櫛、酒といったワードにも何かしらの意味があるのだと考えられます。

そうしたことも含め、想像力をかき立てられる物語です。

 

そして海外にも悪役としての蛇の怪物の登場する伝説は見られます。

酒を飲ませて退治する神話もあります。

 

こうした類似点は単純に海を渡って物語が伝わったというより、人間に共通する根源的なイメージや心魂的に通じる象徴なのだと考えられます。

などとあれこれ考察する楽しみもありますけど、やっぱりやまたのおろちの怪獣っぷりが単純に魅力的ですねえ。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

戦闘シーンの濃密さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「やまたのおろち

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【絵本の紹介】「うらしまたろう」【434冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

日本昔話の三太郎として誰でも知っている超メジャー作品でありながら、どこか腑に落ちないバッドエンディングによって子ども心にモヤモヤを残す「浦島太郎」のお話。

もちろん絵本作品は多数あり、そのバージョンは様々ですが、やはりクライマックスの玉手箱を開けるシーンは外せません。

あの理不尽さが何を意味するのかについては本当に色んな解釈があるんですけど、今回はモダンで賑やかなイラストとちょっと珍しいラストシーンが他作品とは一線を画すミキハウス社から発行された「うらしまたろう」を紹介したいと思います。

文:川崎洋

絵:湯村輝彦

出版社:ミキハウス

発行日:1989年11月20日

 

絵本ごとに切り口は様々あれど、ラストの衝撃ゆえにどうしても悲劇のイメージが強い「うらしま」ですが、湯村さんのヘタウマとでも表現したくなる緩い絵柄とポップなタイトルロゴには暗い印象を吹き飛ばして余りあるインパクトがあります。

 

カラフルな原色をふんだんに使った彩色、ところどころ英字が入っていたり、パロディを盛り込んだり、縦読み横読み織り交ぜ、さらには仕掛けもあって、とにかく賑やかな画面。

「え、これがうらしまたろうのお話なの?」と呆気にとられる大胆さ

川崎さんの文も軽妙で、うらしまたろうを「あんちゃん」と表記したり、ことごとく従来のイメージを突き崩すスタイル。

しかしながらストーリーそのものは原作通りに進んでいきます。

 

一方で他のうらしま作品が手短に語ってしまいがちな竜宮城での日々の描写にかなりのページ数を割いているのも特徴です。

確かに今の子どもは「鯛や鮃の舞い踊り」の優雅さに心躍ったりしなさそうです。

この絵本の竜宮での遊びは本当に楽しそうで、月日が経つのを忘れてしまうのも無理はないと思わせる説得力を持っています。

さらに読み始めるとすぐに気づくのですが、この絵本が斬新なのはカメラフレームです。

最初と最後のカットを除き、全編通して「主人公の目線」に構図が固定されているんですね。

そのため、うらしまたろうのビジュアルは想像しにくいものの、読者を物語に巻き込む力はとても強い仕掛けになっているわけです。

 

さて、そんなドタバタめまぐるしい展開が続き、それでもやっぱりうらしまが村へ帰る時がきます。

おとひめさまは「けっして ふたを あけないでくださいね」と玉手箱を渡します。

 

竜宮の楽しい描写の長さに比して、帰ってから自分の家が無く、村にも知ってる人がいないというシーンは実に短く、わずかワンカットで語られ、うらしまは何の躊躇もなく玉手箱を開け、白い煙に包まれます。

やはり老人になるのですが、その後にさらに「きれいな つる」に変化し、大空へと飛び立っていく、というラスト。

 

★                   ★                  ★

 

お話の筋は変わりませんが、上記のような構成によって悲劇性はとことん取り除かれた「楽しい浦島太郎」絵本となっています。

浦島太郎が鶴に変身する、というのは別に川崎さんの独創ではなく、ちゃんとそういうバージョンも存在します。

さらには鶴になった後乙姫様と再会して夫婦になるというハッピーエンドもあるのですね。

 

そっちの方が話がすっきりしてる気もするのですが、ほとんどの浦島太郎では主人公が禁を破って玉手箱を開け、老人になるところで物語を終わらせていますね。

どちらが好みかは脇に置いて、何故乙姫様は呪物とでも言うべき玉手箱を恩人である浦島太郎に渡したりしたのか、このお話の教訓はいったい何なのか、など色々な解釈可能性へ読者を導くという意味では、バッドエンドの方が深みがあるかもしれません。

 

「かぐやひめ」もそうですが、古いお話には現代では解釈に苦しむようなエンディングが用意されていたりして、そこがまた味わい深いところでもあります。

そしてこの昔話がこんなにも長い時を超えて語り継がれているのは、ひとつには「時の流れ」の不思議さを子どもに強く印象付けるからでしょう。

 

有名な解釈として浦島太郎は宇宙人によって連れ去られた人の体験談である、というのがありますよね。

アインシュタインより先に特殊相対性理論を描いた昔話だ、とか。

竜宮と村を、魂の生きる霊界と肉体を持つ現実界になぞらえて捉えて、時間というものを考察したり。

ただ、この絵本では村が変わっていたのは竜宮と地上では時の流れが違うため、という説明は省かれています。

 

いずれにせよ、色々なバージョンの「うらしまたろう」を読み比べると再話者の意図や解釈が見えてきて面白いですよ。

ショップも覗いてみてくださいね。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

悲劇的度:☆

 

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【絵本の紹介】「うまかたやまんば」【429冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は昔話絵本を。

福音館書店より「うまかたやまんば」です。

再話:おざわとしお

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1988年10月1日

 

絵は安定の赤羽末吉さん。

歯をむき出した凄い表情で走る馬に必死にしがみつく馬方という表紙絵。

一見して暴れ馬かな?と思うのですが、よく見るとこの馬には前足が一本しかありません(裏表紙を見ると後ろ足も一本しかないことがわかりますが、体に隠れているだけのようにも見えます)。

さて一体?

 

その内容はなかなかにスリリングで少し怖いところもあり、それだけに子どもが喜ぶお話です。

浜でどっさり仕入れた魚を馬の背に乗せ、山道を登る馬方。

そこへ現れたやまんばが、「そのさかな おいてけ」としわがれ声で脅します。

 

やまんばを恐れた馬方は片荷の魚を投げ捨てて逃走しますが、魚を食ったやまんばはさらに追いすがってきます。

そこで馬方は残りの魚も投げ捨てて逃げますが、それも食ったやまんばは「うまのあし、一ぽん おいてけ。おかなきゃ、おまえを とって くうぞ」。

無茶苦茶な要求ですが、命には代えられず、馬方は愛馬の後ろ足をぶった切って投げ、馬は三本足で「がった がった がった」と走って逃げます。

 

それでもやまんばの食欲は収まらず、追跡は続きます。

馬方は馬の足をもう一本切り、ついには馬を捨て、木に登って身を隠します。

馬を食べられ、どうにかこうにかやまんばを振り切った馬方はやぶの中の一軒家を見つけて逃げ込みます。

そこはやまんばの家で、馬方が梁の上に潜んでいますとやまんばが帰ってきて甘酒を沸かします。

ここから画面は縦開き展開に。

馬方はやまんばが居眠りしてる隙に萱を使って囲炉裏の甘酒を盗み飲みます。

 

目を覚ましたやまんばは怒りますが、馬方が「ひのかみ、ひのかみ」と囁くとそれを真に受けて「ひのかみさんが のんだんじゃあ、しかたねえ」と今度は餅を焼き、同じように馬方に盗み食われます。

これまた火の神の仕業ということで引き下がったやまんばは、木の唐戸(からびつとも言う、蓋つき収納)で眠りに入ります。

馬方はきりで唐戸に穴を開け、そこから煮え湯を注ぎ込んでついにやまんばを殺すことに成功します。

 

★                   ★                  ★

 

やまんばの執拗な追跡はかなり怖いし、馬の足を切り落として逃げ切ろうとする馬方の必死さも手に汗握ります。

この追いかけっこの緊迫感は同じやまんばを描いた民話「さんまいのおふだ」を思い起こさせますね。

 

≫絵本の紹介「さんまいのおふだ」

 

息つく間もなく走り続ける前半戦からインターバルを挟んで、後半の定点アングルからの知恵と勇気の駆け引き。

この構成の見事さは昔話としての完成度の点からかなり高い評価ができます。

 

最初はただただ恐ろしかったやまんばですが、後半は火の神様のふりをする馬方にあっさり騙されたり、間の抜けた面を見せます。

少しずつ馬方が主導権を奪っていく過程も巧妙で、これによって読者である子どもたちは恐怖心を克服し、最終的に完全勝利を収める馬方に同化してカタルシスを得ることができるのです。

 

このお話を残酷だ、怖い、などと思って子どもに読むことを躊躇う大人もいるかもしれませんが、そんなものは子どもにとって何の害にもなりません。

子どもにとっての本当の害悪は気づきにくい形で大人の心の中に巣くっているものです。

 

「やまんば」はたいていこの「うまかたやまんば」のように恐ろしい人食いの化け物として描かれますが、その起源は飢饉のときに口減らしで山に捨てられた老婆のなれの果てと考える説があります。

そう考えると、この絵本のように孤独に山奥で暮らし、人や馬を食らって生き、一方で火の神様を信じる素朴で信心深い老婆としての面を見せるやまんばが哀れな存在にも見えてきます。

いつかは悪役としてではないやまんばが登場する絵本も紹介したいと思っています。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

二本足で走る馬の方が化け物度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「いっすんぼうし」【415冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

何かと忙しくて更新頻度も下がっており、申し訳ありません。

体調はいたって元気です。

 

さて、今回は誰もが知る昔話絵本を紹介しましょう。

日本の戦後絵本界・児童文学会の最大の功労者と言ってもいい石井桃子先生の再話による「いっすんぼうし」です。

再話:石井桃子

絵:秋野不矩

出版社:福音館書店

発行日:1965年12月1日

 

秋野さんの水彩画は実に味わい深く時代の美しさも感じさせます。

同時に絵本の絵として存分に動きを見せてもいます。

 

石井先生の再話はオーソドックスな内容ながら、わかりやすく美しい文章で、なおかつユーモアも織り込まれてます(特に鬼退治のシーン)。

 

むかしむかし、子どものいない老夫婦が「てのゆびほどの ちいさい こどもでも」いいから子宝が欲しいと願いますと、本当に手の指ほどの大きさしかない子どもが生まれます。

おじいさんおばあさんはこの子に「いっすんぼうし」という名前を付け、大切に可愛がります。

 

しかしいっすんぼうしは12,3の年齢まで成長しても体の大きさは元のまま。

村の子どもからも馬鹿にされます。

そこでいっすんぼうしは青雲の志を抱いて都へ出ることにします。

お椀の笠、箸の杖、針の刀といういでたちで旅立った彼はやがて都にたどり着き、大臣のお屋敷前に立ちます。

 

就職希望の旨を伝え、最初は屋敷の人に鼻で笑われますが、いっすんぼうしが蠅を刺したり、扇の上で舞を舞ったりといった芸を見せると、屋敷中の人に認められ、働くことを許されます。

中でも大臣のお姫様はいっすんぼうしを気に入り、傍に置きます。

何年か経ったある日、清水寺へのお参りの帰り道、姫の一行を鬼が襲います。

そこでいっすんぼうしは勇敢に立ち向かい、小さな体を活かした戦法で鬼を撃退します。

鬼たちは「打ち出の小槌」という宝を投げ捨て、後も見ずに退散。

 

どんな願いも叶うというその宝で、姫はいっすんぼうしの望みを叶えてあげようと言います。

いっすんぼうしは「わたくしの のぞみは、わたくしのからだが おおきくなること」。

 

そこで姫が小槌を振ると、いっすんぼうしはずんずん大きくなって立派な若者になります。

いっすんぼうしは出世し、姫を娶り、両親も都に呼んで幸せに暮らします。

 

★                   ★                  ★

 

子どもたちは小さな自分自身にいっすんぼうしを重ねて、その痛快な活躍に快哉を叫ぶでしょう。

その面白さは「御伽草子」の時代から現代まで変わらず支持されています。

 

一方、いっすんぼうしの小ささは、単に未成熟な子どもというだけではなく、何らかのハンディキャップを表現したものとも読めます。

いっすんぼうしは年齢を重ねても小さなままというハンディキャップを負った人物です。

しかし、おじいさんおばあさんは彼に無償の愛を注ぎ、いっすんぼうしはハンディキャップを逆手にとって「個性」として活かし、自分の居場所を見出します。

 

ここからは私の個人的な感想になるのですが、絵本の素晴らしさは変わらないものとして、現代人としてはこの物語にはそのまま納得できない部分もあります。

 

それはいっすんぼうしが個性を発揮し、仕事に就いたとしても、結局のところ最後には「人並みに大きくなりたい」(つまりマジョリティ側に立ちたい)という願いを叶えることによって出世し、結婚し、幸福になるという構造です。

 

ハンディを武器として成功したように見える彼ですが、マジョリティ側は彼を一種の愛玩ペットのような意味で面白がり、可愛がっていたに過ぎず、どんなに活躍してもいっすんぼうしの「マジョリティになりたい」という願いは変わらないのです。

 

昔話が時代とともにその姿を変化させることはこれまで何度も書きましたが、このラストが不変であることは、つまるところ昔も今も「ハンディキャップを持つ人々」に対する社会的な構造が何も変わっていないことの現れかもしれません。

 

今、ちょうどハンディキャップを持つ人々によるスポーツの祭典が行われていますが(無茶な開催だと思うし、観てもいませんが)、それを観戦する側の意識が「ハンディを乗り越えて頑張る姿に感動をもらった」とかいうレベル(そこには拭い難い差別意識が存在します)に留まるのであれば、私たちはいまだに不自由な精神を克服できないままであり、どこに開催の意義があるというのでしょう。

 

いつか「いっすんぼうしが小さいまま幸せになる」ラストが一般的になる時代は来るのでしょうか。

発達障害を持つ子の親としては、そんなことを考えてしまうのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

絵と文章の完成度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「いっすんぼうし

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【絵本の紹介】「かにむかし」【299冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

自分でも楽しみながらやってきたこの絵本紹介も、ついに299冊目ですか。

うん、まだまだ行けますね。

1000冊目くらいまではネタに困りそうにないです。

 

今回は日本昔話絵本。

木下順二さん再話・清水崑さん絵による「かにむかし」を紹介しましょう。

文:木下順二

絵:清水崑

出版社:岩波書店

発行日:1976年12月10日

 

別名「猿蟹合戦」、誰でも知っている昔話ですが、例によってストーリーの細部は地方・時代・再話者によって様々に異なります。

日本昔話史上に残る猟奇残虐復讐譚「かちかちやま」と同様、「復讐」のカタルシスが物語の芯になっており、それゆえに現代では色々と物議を醸している作品でもあります。

 

≫絵本の紹介「かちかちやま」

 

この「かにむかし」は、木下さんによる方言を使ったリズミカルな文章と木下さんの筆絵(やっぱり日本昔話には筆が合います)、それに縦30センチ、横25・5センチという大きさが特徴のロングセラーです。

 

「猿蟹合戦」絵本の中ではかなりポピュラーな一冊なんですが、実はその内容はかなりオリジナリティに溢れ、少なくとも王道とは呼べないものになっています。

 

まず、物語の発端はかにが柿の種を拾うところから。

他の絵本では大抵描かれる、さるとの「握り飯のトレード」はカットされています。

かには自分の庭に種をまき、「はよう 芽をだせ かきのたね、ださんと はさみで ほじりだすぞ」。

と、ここは定番の文句を歌いながら、三度に亘る繰り返し構成にて柿の木の成長を見せます。

 

作物に対する愛情の無さは措くとして、子ども心にも楽しい前半の山場です。

「ほじくる」とか「ぶったぎる」とか「もぎりきる」という言葉の響きが、幼い子には無条件にウケます。

 

さて、いざ柿の実が生っても、かには木に登ることができないで難渋します。

そこではじめてさるが登場。

柿の木に上り、自分だけが柿を食い、下からせがむかにに向かって青い実をぶつけて殺害。

 

ここも再話者によってニュアンスが変化する箇所でして、裁判では問題となる「明確な殺意」がさるにあったかどうか微妙な描き方をする作家もいます。

ただ青い実を放ったら、たまたまかにに命中して死んでしまった、というような。

この絵本ではさるの心情は描かれませんので、そのあたりは謎です。

 

さあ、死んだかに(♀)のお腹から生まれた無数の子がにたち。

なんと、「にっぽんいちの きびだんご」というアイテムを使い、成長し、親の仇討ちに乗り出します。

 

≫絵本の紹介「ももたろう」

 

これは木下さんの独創でしょうか。

管見の限り、「きびだんご」が登場する「猿蟹合戦」は読んだことがありません。

そして、この昔話を最も楽しいものにしてくれる、数々の奇妙な助っ人たちも、「きびだんご」を貰うことで仇討ちに加勢することになります。

「ぱんぱんぐり」「はち」「うしのふん」「石うす」。

で、もう一体「はぜぼう」なる棒っきれも仲間になります。

これも、他作品ではあまり馴染みのないキャラクターです。

 

子がにたちは大挙してさるの家に押しかけ、さるの留守中にそれぞれの持ち場に待機。

帰ってきたさるは、くり→子がに→はち→うしのふん→はぜぼう→石うすの順に制裁を受けます。

ここは見開きの絵で先に見せておいて、後から文章の補足が入るというスタイル。

ラストも作品によって様々で、さるが完全に死亡するもの、痛めつけられるが命だけは助かるもの、反省して仲直りするものなどに分かれますが、ここではさるは「ひらとう へしゃげて」しまったということで、生死は不明です。

 

★      ★      ★

 

「かに」は農民、庶民、「さる」は年貢を取り立てる権力者として解釈されることもあり、「搾取される民の怒り」を描いた民話として読むこともできます。

そういった形式の昔話は海外にもあります。

 

≫絵本の紹介「ランパンパン」

 

問題視されるのは昔話特有の残酷性で、親がにの理不尽な死があるにせよ、さるに対する執拗すぎる復讐劇は「スカッとする」よりも「嫌悪感」を抱いてしまう読者も多いのでしょう。

子どもに見せるにはあまり相応しくない、との見方もあります。

 

ゆえにここを改編した作品も多いわけですが、さるとかにが仲直りするようなラストには「ぬるい」「過保護」との批評も上がります。

 

しかし、それらはすべて大人の目線です。

子どもが問題にするのは「おもしろいか、そうでないか」だけです。

 

その意味で、この昔話が圧倒的人気を保ち続けているのは、究極に洗練された物語構成や小道具や演出の力だと思います。

起承転結がはっきりしており、前半・中盤・後半のすべてが繰り返しのパターンとリズムを持っています。

 

柿の木の成長とかにの歌の滑稽さ、仇討ちに加勢する仲間たちの奇抜さ、さるへの攻撃布陣のワクワク感。

それらを破壊しなければ、この物語は必ず面白くなります。

もちろん、絵の力は重要です。

 

そもそも昔話のいいところは「原作者不明」で「著作権がない」ことで、時代によってどんどん改編されること自体は私は悪いとは思いません。

そうやって数多の脱皮を繰り返すことで、昔話は洗練され、今日まで生き残ってきたからです。

 

さて、次はいよいよ300冊目の絵本紹介。

何をやるかはもう決めてます。

お楽しみに。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

牛糞のそのまんま度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「かにむかし

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