【絵本の紹介】「おんちょろちょろ」【225冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本の民話絵本「おんちょろちょろ」を紹介します。

再話:瀬田貞二

絵:梶山俊夫

出版社:福音館書店

発行日:1970年2月1日(こどものとも)

 

「おんちょろ経」「ねずみ経」などのタイトルで、地方ごとに少しずつ細部が違う形で伝わっています。

しかしその秀逸なユーモア、痛快さ、伏線回収の見事さは全国共通です。

 

一人の男の子が道に迷ってしまうところから物語が始まります。

日が暮れてしまい、男の子は山のふもとの一軒家で、一晩泊めてもらおうとします。

 

その家のじいさんとばあさんは男の子を見て、お寺の小僧さんだと思い込み、親切にもてなしてくれます。

男の子は違うとも言えず、そのまま小僧になりすまします。

ご飯がすむとばあさんは、男の子に、「うちの ほとけさまに、ひとつ おきょうを あげてくださらんか

 

困った男の子は仕方なしに仏壇の前に座って手を合わせ、ちょうど壁の隅から出てきたねずみを見て、そのねずみの行動を即興のお経に仕立てて読み上げます。

おんちょろちょろ、でてこられそろ

おんちょろちょろ、のぞきもうされそろ

おんちょろちょろ、ささやきもうされそろ

おんちょろちょろ、ばちあたりそろ

おんちょろちょろ、でていかれそろ

 

こんなでたらめなお経でもじいさんとばあさんは有難がって、繰り返し唱えます。

次の日、男の子を町まで送ってあげた後も、じいさんとばあさんは毎日仏壇の前で「おんちょろちょろ」。

 

さて、そこへ三人組のどろぼうが忍び寄ります。

けれど、そこへじいさんとばあさんの「おんちょろちょろ、でてこられそろ」が聞こえたので、どろぼうたちはぎくりとします。

障子の破れ穴から中を窺うと、「のぞきもうされそろ」。

 

こちらの動きをすべて見通しているかのような言葉に、どろぼうたちはいよいよ驚き、小さな声で相談していると、「ささやきもうされそろ」。

いっそ二人を殺害してしまおうか、と言うと「ばちあたりそろ」。

どろぼうたちは震え上がって退散してしまいます。

 

じいさんたちは何も知らずに、「でていかれそろ」。

 

★      ★      ★

 

前段では進退窮まった男の子の機転に笑わされ、後段ではがらりと雰囲気が変わって、どろぼうたちの侵入にハラハラ。

そこで思いもよらぬ撃退劇に、感心するやら可笑しいやら。

 

実に無駄のない演出と構成です。

笑い話としてもよく出来ています。

 

「そろ」は「候」のことで、こういう言い回しは現代ではなおさら耳馴染みがなく、難しい気がしますが、それだけにもっともらしく聞こえます。

 

こういう、本人が全然そのつもりのないことで、偶然に災厄から逃れるという昔話は色々とあります(「ふるやのもり」とか)。

人生の幸運も災難も、己のあずかり知らぬところで、紙一重の差でやってくるもの。

親切や信心は、どんな形で役に立つかわからないもの。

 

じいさんとばあさんの純朴さが印象深く、そうやって純朴に生きていれば、悪いことが起こっても気づかず、悪いことの方から勝手に避けていくのだ、という慈愛のこもった人生観も見えます。

 

しかしまあ、今時はこういう老人は真っ先に詐欺被害に遭いそうですが。

それすらも、本人が気づかなければ幸せ……なのでしょうか。

 

純朴には生きにくい世の中だからこそ、こうした昔話が光を放つのかもしれませんね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

男の子の臨機応変度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「つるにょうぼう」【217冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

久しぶりに昔話絵本を紹介しましょう。

つるにょうぼう」です。

再話:矢川澄子

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1979年10月25日

 

冬の定番としてなじみ深い昔話です。

昔話というものは地域によって様々な話型に分かれるものですが、この物語は大きく「鶴女房」verと「鶴の恩返し」verに分けられます。

 

どちらも怪我を負った一羽の鶴を主人公が助けるところは同じですが、「鶴の恩返し」では主人公が翁、「鶴女房」では若者となります。

その後、鶴が美しい娘に化けて訪ねてきて、自らの羽を抜いて機を織り、恩を返すのですが、最終的には主人公が「見てはいけない」という約束を破ってしまい、正体の知れた鶴は飛び去ってしまう……というのが、概ね共通したあらすじです。

 

両者の一番の違いは、「鶴女房」verではタイトル通り、主人公と鶴が結婚する異類婚姻譚である点でしょう。

悲恋的要素が加わることで、より切ないラストとなります。

 

今回取り上げる「つるにょうぼう」は、再話は「ぞうのババール」シリーズなどの翻訳も多数手がける矢川澄子さん、絵は安定の赤羽末吉さんが担当しております。

最後の鶴が飛び去って行くシーンは、赤羽さん渾身の見開きカットで描かれ、非常に印象深い美しさを放っています。

貧しい独身男「よ平」が、翼に矢を受けた鶴を介抱してやります。

赤羽さんは雪の絵にはなかなかこだわりがあるようです。

 

その夜、「品よく、美しい」むすめが、よ平の家を訪ねてきて「女房にしてくださいまし」。

普通ならどう考えても新手の結婚詐欺を疑うところですが、いつの時代も男は美人に弱いのか、はたまた鶴の魔力か、雪のせいか、よ平はあっさりむすめを家に入れます。

 

それからよ平は幸せな新婚生活を送りますが、貧乏は変わらず、二人が食うのもやっと。

そこでむすめは自分に機を織らせてくれるよう、よ平に言います。

ただし、「けして のぞき見なさいませんように」と妙な条件を出されます。

 

三日三晩かかって織り上げられた一反の布は、驚くばかりの美しさでした。

織物は町で高く売れました。

 

しかしそのお金も底をつき、むすめは「もう一どだけ」と機を織ります。

出来上がった織物はさらに美しい輝きを帯びていました。

しかし反対に、むすめはやつれた痛々しい風情となっています。

 

この織物のことを知ったとなりの男が、よ平にある提案を持ちかけます。

都のお大尽のところへ織物を持って行って売れば、もっと儲かるというのです。

 

この話を聞いたむすめは、

なんでそんなにお金がいります

ふたりして暮らせさえすれば、十分ですのに

 

この言葉に、この絵本の核があるように思います。

 

しかし結局むすめは機を織ることになります。

これが最後で、そしてやはりのぞき見をしないことを条件として。

しかし、よ平はついに好奇心に負けて禁忌を犯してしまいます。

そこで目にしたものは、血にまみれながら自分の羽を引き抜いて機にかける鶴の姿でした。

 

むすめは自分の正体がいつか助けられた鶴であることを明かし、知られた以上人間界には留まれないとして、出来上がった織物を残して飛び去ります。

どうぞ、末長く、おしあわせに

と言い残して。

 

★      ★      ★

 

「見てはいけない」という類型の物語は、世界中の昔話に登場します。

古くは聖書の中にもあります。

 

見てはいけないと言われると見たくなるのは人間の性。

真実に近づくことと、幸福になることは両立しないのでしょうか。

 

おそらくは、真実を知ろうとすれば、それに相応しい準備が必要なのでしょう。

つまり、単純な好奇心や、我欲に負けて真実に近づけば、人は何かを失うということなのかもしれません。

 

バッドエンドとまでは言わずとも、少なくともハッピーエンドとは呼べないような昔話はたくさんあります。

それらを単に「悲しいおはなし」と片付けてしまうのではなく、そこから様々な感情を呼び起こしたり、考えたり、美しさに触れたりすることが、昔話絵本を読む上で大切なことであり、読み聞かせる側もそこを意識することが大事です。

 

昔話を単に教訓的な話型に落とし込むようなことをしても、子どもがそこから学ぶことは表面的な薄っぺらい倫理観だけです。

そんなものよりも、この絵本のラストのページをじっと見ることの方が、よほど深い部分で情緒に働きかける力となるでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

最終シーンの美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】小澤俊夫・赤羽末吉「かちかちやま」【128冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本五大昔話の一つにして、昔話史上最大の問題作でもある「かちかちやま」を取り上げます。

再話:小澤俊夫

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1988年4月20日

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、このおはなし、実は目を背けたくなるほどの残虐かつ凄惨な描写があります。

単なる暴力描写ではなく、心理的にエグいのです。

 

これをどう子供向け絵本にするのか、再話に臨んだ作家さんたちはみんな悩んだことでしょう。

あくまで原作を大事にして、そのままにするのか。

時代や倫理観の変化を考慮して、問題の箇所を削ったり、改編するのか。

この小澤俊夫さん再話・赤羽末吉さん絵による作品は、表現方法をややオブラートに包みながらも、昔ながらのお話をそこそこ忠実に再現しております。

 

むかし、じいさまが畑へ行き、

ひとつぶのまめ せんつぶになあれ

と歌いながら豆をまいていると、切り株に座っていた狸が、

じいのまめ かたわれになあれ

と囃し立てます。

 

怒ったじいさまは狸を捕らえ、縛り上げて家に帰ります。

ばあさまに狸汁をこしらえてくれ、と言い残し、じいさまはまた出かけます。

 

狸はばあさまに粟餅つきを手伝ってやるからと言って縄を解かせ、すきを見て杵でばあさまを撲殺します。

狸はばあさまに化け、戻ってきたじいさまに粟餅と狸汁を出します。

じいさまは、

なんだか ばあさまくさいなあ

と言いながら、狸汁を完食。

 

すると狸が正体を現し、

ばあじる くったし、あわもち くった。ながしのしたの ほねを みろ

と言って逃げます。

 

じいさまが悔しさに泣いていると兎がやってきて、仇討ちを請け負います。

ここから兎は三度に亘って狸に報復を加えます。

まずは、背中に担いだ萱草に火をつけ、大やけどを負わせます。

 

さらに薬だと騙してやけど痕に唐辛子を塗り込み、最後はご存知の通り、泥船を作って狸を誘い込み、沈めてしまいます。

 

★      ★      ★

 

やっぱり、最大の問題部分は、狸がばあさまを打ち殺すばかりか、その肉で「ばあじる」をこしらえ、あまつさえそれをじいさまに食わせるという非道極まりない行為でしょう。

ちょっと、他の昔話にも類を見ないグロテスクさです。

 

いくらなんでもやり過ぎだとして、この部分を完全にカットし、単にばあさまを殺されるだけ(もしくは重傷を負わせるだけ)に改編した作品が多いのも無理からぬ話でしょう。

 

ただし、そうすると、今度は逆に兎の狸に対する仕打ちが、ひど過ぎるように見えるという問題があります。

というわけで、狸も殺されるまでは行かず、最後は改心するというオチを用意したりした作品もあります。

ですが、こうなると、もはや原作の本質部分が失われてしまうようにも思えます。

何とも扱いの難しい昔話なのです。

 

では、この昔話の本質とは何かを考えてみると、これは「量刑」の物語であるということが言えます。

 

兎は「裁判官」であり、「処刑執行人」でもあります。

じいさまが自分で仇を討つなら、それは単なる復讐ですが、代理人を立て、第三者の判断に託すことで、「私怨」を「法の裁き」に変えるわけです。

 

さて、そうなると、狸の犯した罪と兎の加える刑罰との「バランスが妥当であるかどうか」が重要になってきます。

 

そしてそれを判断するのは、読者ひとりひとりの感情です。

「法」は神様が決めるものではありません。

アダム・スミスが「道徳感情論」で指摘しているように、量刑というものは、人間の感情が「これくらいが一般に妥当であると受け入れられるだろう」という「共感」を基準に決められています。

 

ですから、人間の情緒的な進化(変化)に伴って、量刑判断も変わってきます。

昔のような、「目には目を」式の判決は、現代では通用しません。

 

だから、「そもそも最初に狸を殺そうとしたのはじいさまだし、狸は正当防衛でしょう」という意見が出たり、「兎の火責め、水責め、だまし討ちはやり過ぎ」と思われたりするわけです。

しかしここに「ばあじる事件」を加えると、一気に裁判の行方は変わるでしょう。

 

そんな風にして、我々の感情とともに様々に形を変えることは、むしろこの昔話のあるべき様相なのだと思います。

「かちかちやま」がどのように再話されているかによって、その時代の人間感情を量ることができる、という言い方もできるかもしれません。

そういう意味で、これはやはり、非常にすぐれた昔話だと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

猟奇的度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】今江祥智・田島征三「ちからたろう」【118冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本昔話より、「ちからたろう」を紹介します。

文:今江祥智

絵:田島征三

出版社:ポプラ社

発行日:1967年7月

 

東北地方に伝わる民話です。

わりと有名な話で、再話も多いですが、これは、私自身も子どものころ大好きだった今江祥智さん・田島征三さんによる絵本です。

 

この表紙絵の迫力だけでも、手に取らずにはいられません。

そして構図の妙。

大きな手を広げて娘を守る力太郎の前に、巨大で不気味な怪物の後ろ姿。

ひっくり返して裏表紙を見ると視点が反転し、怪物の恐ろしげな顔がはっきり見えるようになっています。

 

この力強く、土臭い絵を描く田島征三さんは、「じごくのそうべえ」シリーズで知られる絵本作家・田島征彦さんの双子の弟です。

そう言われれば、技法は違えど、その力強さは共通するものがあります。

ちなみに田島征彦さんは「たじま」、征三さんは「たしま」と読みを変えています。

 

この「ちからたろう」の物語は、「ももたろう」「うらしまたろう」「きんたろう」などに比べると若干知名度は下がるものの、主人公の活躍の直球ぶり・痛快さは有名3作品を凌いでいます。

名前に恥じぬ剛力一本勝負を繰り広げる、とってもわかりやすいヒーロー像。

人気児童文学者の今江さんの軽快な文章も読み易く、一度読み始めると止まりません。

 

内容はこうです。

とんと むかし」、風呂にも滅多に入れないほど貧しいじいさまとばあさまは、自分たちの体の「こんび」(垢)を落として、それで赤ん坊の人形を作ることにします。

まさに垢ん坊。

 

すると、なんとこの人形は口をきき、ご飯を「わしわしと」平らげます。

現代のバイオテクノロジーも真っ青のクローン人間を製造してしまったじいさまたちは、この子を「こんびたろう」と名付け、大切に育てます。

 

何年かが過ぎ、こんびたろうは突然じいさまに、「百かんめのかなぼう」を作ってくれと言い出します。

一貫目=3.75kgですから、百貫目と言うと実に375kg。

 

じいさまは無理をしてその金棒を注文してやります。

すると、こんびたろうは金棒を杖にして立ち上がり、たちまち見上げるような大男に変貌。

おまけに375kgの金棒を軽々と振り回し、その力に驚いたじいさまは「こんびたろう」改め「ちからたろう」と改名します。

ちからたろうは武者修行の旅に出かけ、途中で「みどうっこたろう」「いしこたろう」という力自慢の若者二人との勝負に勝ち、彼らを仲間にします。

 

やがて大きな村へ到着しますが、そこで泣いている長者の娘を見つけます。

わけを聞くと、娘をさらい、田畑を荒らす化け物が恐ろしくて泣いているのだと言います。

3人は化け物退治を引き受けます。

その夜、現れたのは館よりも背の高い大入道。

かませ犬的に向かって行くみどうっこたろうといしこたろうをあっさり呑み込んでしまった後、真打ち登場。

 

激闘の末、ちからたろうは化け物に勝利し、呑み込まれた二人も助け出します。

 

長者は3人にほれ込み、それぞれに自分の娘の婿になってもらい、それから先、村は平和に栄えるのでした。

 

★      ★      ★

 

血沸き肉躍る冒険活劇。

大食らいで怪力無双の主人公。

戦いを通じてライバルたちと友情で結ばれ、ヒロインを助け、巨大な悪に立ち向う。

弱い者の味方であり、権力にはそっぽを向く。

などなど、王道少年漫画的な要素がたくさん入っているところが、現代でも子どもたちに受ける理由かもしれません。

 

また、この絵本の巻末にはもうひとつの民話「つぶたろう」も収録されています。

3ページで完結、文章中心です。

こちらもなかなか面白いお話ですよ。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

垢出過ぎ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ちからたろう

■片岡輝・村上豊による別ver→「ちからたろう

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絵本の紹介 水沢謙一・梶山俊夫「さんまいのおふだ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

日本昔話は数あれど、そのスリリングな展開と、構成の見事さ、オチの秀逸さという点で、「さんまいのおふだ」ほどに完成度の高いお話は少ないでしょう。

 

その面白さゆえに何度も再話されている作品ですが、今回紹介するのは水沢謙一さんの再話、梶山俊夫さんの絵による「さんまいのおふだ」です。

再話:水沢謙一

画:梶山俊夫

出版社:福音館書店

発行日:1985年2月15日(こどものとも傑作集)

 

新潟に伝わる有名な昔話です。

方言が出てきたり、すらすら読むには何度か練習が必要かもしれませんが、文章自体はリズムよく、子どもも非日常的な言葉に引き込まれやすいので、親子とも楽しめます。

 

慣れてくると、感じを出して声音を変えたり、怖い場面でうんと間を取ったり、自分なりに工夫する余地がたくさんあるところも魅力です。

 

山寺の小僧が、花を切りに出かけます。

だんだん山奥へ入って行き、日が暮れてしまい、帰り道もわからなくなります。

 

困った小僧は、小さなうちを見つけ、そこの「しらがの おばば」に一晩泊めてもらうことにします。

 

ところが、実はおばばは「おにばさ」(鬼婆)。

夜中に気づいた小僧は、便所に逃げ込みますが、鬼婆が外で見張っているので、逃げるに逃げられません。

 

進退窮まったところに、「べんじょのかみさま」(女神ではありません)が現れて、

この さんまいの ふだを もって、はやく にげていけ

と、白い札、青い札、赤い札を授けてくれます。

ここからがこの物語の最大の見せ場。

鬼婆がターミネーター級の執念の追跡を開始します。

 

小僧が白いお札を投げて、大山を出現させるも、鬼婆はそれを乗り越えて追ってきます。

追いつかれそうになるたびに、小僧は青いお札、赤いお札を投げつけます。

お札はそれぞれ大きな川や大火事に変わって鬼婆の行く手を阻みますが、足止めにこそなれ、鬼婆を振り切ることはできません。

すべてのお札を使い切ってしまい、後がなくなったところで、ようやく小僧はお寺に帰り着きます。

 

ここで実にいいキャラクターの和尚さんが、のんびり焦らしながら戸を開けて、小僧をかくまってくれます。

 

追いついた鬼婆が小僧を出せ、と迫ると、和尚さんは落ち着いて、

じゅつくらべをしよう

と提案します。

 

大入道になれるか、と和尚さんが言うと、「たやすいことだ」と巨大化する鬼婆。

そんなら小さな豆になってみろ、と和尚さんが言うと、「たやすいことだ」と、豆粒になる鬼婆。

 

すると和尚さんはその豆を拾って、口に放り込んで―――

 

いちご さかえた なべのした ガリガリ

 

★      ★      ★

 

人気のある昔話にはたいてい、物語の核となるアイテム(呪物)が登場します。

うちでのこづち」「たまてばこ」「かくれみの」「ききみみずきん」……。

 

さんまいのおふだ」はそんな中でもインパクトの強い道具です。

 

この物語には様々なバージョンが存在し、お札を授けてくれるのは便所の神様だったり、お寺の和尚さんだったり、また、小僧が便所から逃げ出すときに最初の一枚を身代わりに立てたり、最後に鬼婆が焼死したり。

 

いずれにしても、恐ろしい鬼婆からの、手に汗握る必死の逃走劇がこのお話の見どころであることは変わりません。

 

この絵本では、怖い中にもユーモアがちりばめられており、特にようやくお寺に辿り着いた小僧と和尚さんのやり取りは、じれったいやらおかしいやら。

 

地域の伝承によって、ラストにも色んなパターンがあります(鬼婆を壺に封じ込めたり、逃げ帰らせたり)が、私はやっぱりこの絵本のオチが上手くできていると思います。

 

あんなもの食って大丈夫なのか、少しは心配ですけど。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

鬼婆の執念と身体能力度:☆☆☆☆☆

 

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