【絵本の紹介】小澤俊夫・赤羽末吉「かちかちやま」【128冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本五大昔話の一つにして、昔話史上最大の問題作でもある「かちかちやま」を取り上げます。

再話:小澤俊夫

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1988年4月20日

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、このおはなし、実は目を背けたくなるほどの残虐かつ凄惨な描写があります。

単なる暴力描写ではなく、心理的にエグいのです。

 

これをどう子供向け絵本にするのか、再話に臨んだ作家さんたちはみんな悩んだことでしょう。

あくまで原作を大事にして、そのままにするのか。

時代や倫理観の変化を考慮して、問題の箇所を削ったり、改編するのか。

この小澤俊夫さん再話・赤羽末吉さん絵による作品は、表現方法をややオブラートに包みながらも、昔ながらのお話をそこそこ忠実に再現しております。

 

むかし、じいさまが畑へ行き、

ひとつぶのまめ せんつぶになあれ

と歌いながら豆をまいていると、切り株に座っていた狸が、

じいのまめ かたわれになあれ

と囃し立てます。

 

怒ったじいさまは狸を捕らえ、縛り上げて家に帰ります。

ばあさまに狸汁をこしらえてくれ、と言い残し、じいさまはまた出かけます。

 

狸はばあさまに粟餅つきを手伝ってやるからと言って縄を解かせ、すきを見て杵でばあさまを撲殺します。

狸はばあさまに化け、戻ってきたじいさまに粟餅と狸汁を出します。

じいさまは、

なんだか ばあさまくさいなあ

と言いながら、狸汁を完食。

 

すると狸が正体を現し、

ばあじる くったし、あわもち くった。ながしのしたの ほねを みろ

と言って逃げます。

 

じいさまが悔しさに泣いていると兎がやってきて、仇討ちを請け負います。

ここから兎は三度に亘って狸に報復を加えます。

まずは、背中に担いだ萱草に火をつけ、大やけどを負わせます。

 

さらに薬だと騙してやけど痕に唐辛子を塗り込み、最後はご存知の通り、泥船を作って狸を誘い込み、沈めてしまいます。

 

★      ★      ★

 

やっぱり、最大の問題部分は、狸がばあさまを打ち殺すばかりか、その肉で「ばあじる」をこしらえ、あまつさえそれをじいさまに食わせるという非道極まりない行為でしょう。

ちょっと、他の昔話にも類を見ないグロテスクさです。

 

いくらなんでもやり過ぎだとして、この部分を完全にカットし、単にばあさまを殺されるだけ(もしくは重傷を負わせるだけ)に改編した作品が多いのも無理からぬ話でしょう。

 

ただし、そうすると、今度は逆に兎の狸に対する仕打ちが、ひど過ぎるように見えるという問題があります。

というわけで、狸も殺されるまでは行かず、最後は改心するというオチを用意したりした作品もあります。

ですが、こうなると、もはや原作の本質部分が失われてしまうようにも思えます。

何とも扱いの難しい昔話なのです。

 

では、この昔話の本質とは何かを考えてみると、これは「量刑」の物語であるということが言えます。

 

兎は「裁判官」であり、「処刑執行人」でもあります。

じいさまが自分で仇を討つなら、それは単なる復讐ですが、代理人を立て、第三者の判断に託すことで、「私怨」を「法の裁き」に変えるわけです。

 

さて、そうなると、狸の犯した罪と兎の加える刑罰との「バランスが妥当であるかどうか」が重要になってきます。

 

そしてそれを判断するのは、読者ひとりひとりの感情です。

「法」は神様が決めるものではありません。

アダム・スミスが「道徳感情論」で指摘しているように、量刑というものは、人間の感情が「これくらいが一般に妥当であると受け入れられるだろう」という「共感」を基準に決められています。

 

ですから、人間の情緒的な進化(変化)に伴って、量刑判断も変わってきます。

昔のような、「目には目を」式の判決は、現代では通用しません。

 

だから、「そもそも最初に狸を殺そうとしたのはじいさまだし、狸は正当防衛でしょう」という意見が出たり、「兎の火責め、水責め、だまし討ちはやり過ぎ」と思われたりするわけです。

しかしここに「ばあじる事件」を加えると、一気に裁判の行方は変わるでしょう。

 

そんな風にして、我々の感情とともに様々に形を変えることは、むしろこの昔話のあるべき様相なのだと思います。

「かちかちやま」がどのように再話されているかによって、その時代の人間感情を量ることができる、という言い方もできるかもしれません。

そういう意味で、これはやはり、非常にすぐれた昔話だと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

猟奇的度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「かちかちやま

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】今江祥智・田島征三「ちからたろう」【118冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本昔話より、「ちからたろう」を紹介します。

文:今江祥智

絵:田島征三

出版社:ポプラ社

発行日:1967年7月

 

東北地方に伝わる民話です。

わりと有名な話で、再話も多いですが、これは、私自身も子どものころ大好きだった今江祥智さん・田島征三さんによる絵本です。

 

この表紙絵の迫力だけでも、手に取らずにはいられません。

そして構図の妙。

大きな手を広げて娘を守る力太郎の前に、巨大で不気味な怪物の後ろ姿。

ひっくり返して裏表紙を見ると視点が反転し、怪物の恐ろしげな顔がはっきり見えるようになっています。

 

この力強く、土臭い絵を描く田島征三さんは、「じごくのそうべえ」シリーズで知られる絵本作家・田島征彦さんの双子の弟です。

そう言われれば、技法は違えど、その力強さは共通するものがあります。

ちなみに田島征彦さんは「たじま」、征三さんは「たしま」と読みを変えています。

 

この「ちからたろう」の物語は、「ももたろう」「うらしまたろう」「きんたろう」などに比べると若干知名度は下がるものの、主人公の活躍の直球ぶり・痛快さは有名3作品を凌いでいます。

名前に恥じぬ剛力一本勝負を繰り広げる、とってもわかりやすいヒーロー像。

人気児童文学者の今江さんの軽快な文章も読み易く、一度読み始めると止まりません。

 

内容はこうです。

とんと むかし」、風呂にも滅多に入れないほど貧しいじいさまとばあさまは、自分たちの体の「こんび」(垢)を落として、それで赤ん坊の人形を作ることにします。

まさに垢ん坊。

 

すると、なんとこの人形は口をきき、ご飯を「わしわしと」平らげます。

現代のバイオテクノロジーも真っ青のクローン人間を製造してしまったじいさまたちは、この子を「こんびたろう」と名付け、大切に育てます。

 

何年かが過ぎ、こんびたろうは突然じいさまに、「百かんめのかなぼう」を作ってくれと言い出します。

一貫目=3.75kgですから、百貫目と言うと実に375kg。

 

じいさまは無理をしてその金棒を注文してやります。

すると、こんびたろうは金棒を杖にして立ち上がり、たちまち見上げるような大男に変貌。

おまけに375kgの金棒を軽々と振り回し、その力に驚いたじいさまは「こんびたろう」改め「ちからたろう」と改名します。

ちからたろうは武者修行の旅に出かけ、途中で「みどうっこたろう」「いしこたろう」という力自慢の若者二人との勝負に勝ち、彼らを仲間にします。

 

やがて大きな村へ到着しますが、そこで泣いている長者の娘を見つけます。

わけを聞くと、娘をさらい、田畑を荒らす化け物が恐ろしくて泣いているのだと言います。

3人は化け物退治を引き受けます。

その夜、現れたのは館よりも背の高い大入道。

かませ犬的に向かって行くみどうっこたろうといしこたろうをあっさり呑み込んでしまった後、真打ち登場。

 

激闘の末、ちからたろうは化け物に勝利し、呑み込まれた二人も助け出します。

 

長者は3人にほれ込み、それぞれに自分の娘の婿になってもらい、それから先、村は平和に栄えるのでした。

 

★      ★      ★

 

血沸き肉躍る冒険活劇。

大食らいで怪力無双の主人公。

戦いを通じてライバルたちと友情で結ばれ、ヒロインを助け、巨大な悪に立ち向う。

弱い者の味方であり、権力にはそっぽを向く。

などなど、王道少年漫画的な要素がたくさん入っているところが、現代でも子どもたちに受ける理由かもしれません。

 

また、この絵本の巻末にはもうひとつの民話「つぶたろう」も収録されています。

3ページで完結、文章中心です。

こちらもなかなか面白いお話ですよ。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

垢出過ぎ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ちからたろう

■片岡輝・村上豊による別ver→「ちからたろう

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絵本の紹介 水沢謙一・梶山俊夫「さんまいのおふだ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

日本昔話は数あれど、そのスリリングな展開と、構成の見事さ、オチの秀逸さという点で、「さんまいのおふだ」ほどに完成度の高いお話は少ないでしょう。

 

その面白さゆえに何度も再話されている作品ですが、今回紹介するのは水沢謙一さんの再話、梶山俊夫さんの絵による「さんまいのおふだ」です。

再話:水沢謙一

画:梶山俊夫

出版社:福音館書店

発行日:1985年2月15日(こどものとも傑作集)

 

新潟に伝わる有名な昔話です。

方言が出てきたり、すらすら読むには何度か練習が必要かもしれませんが、文章自体はリズムよく、子どもも非日常的な言葉に引き込まれやすいので、親子とも楽しめます。

 

慣れてくると、感じを出して声音を変えたり、怖い場面でうんと間を取ったり、自分なりに工夫する余地がたくさんあるところも魅力です。

 

山寺の小僧が、花を切りに出かけます。

だんだん山奥へ入って行き、日が暮れてしまい、帰り道もわからなくなります。

 

困った小僧は、小さなうちを見つけ、そこの「しらがの おばば」に一晩泊めてもらうことにします。

 

ところが、実はおばばは「おにばさ」(鬼婆)。

夜中に気づいた小僧は、便所に逃げ込みますが、鬼婆が外で見張っているので、逃げるに逃げられません。

 

進退窮まったところに、「べんじょのかみさま」(女神ではありません)が現れて、

この さんまいの ふだを もって、はやく にげていけ

と、白い札、青い札、赤い札を授けてくれます。

ここからがこの物語の最大の見せ場。

鬼婆がターミネーター級の執念の追跡を開始します。

 

小僧が白いお札を投げて、大山を出現させるも、鬼婆はそれを乗り越えて追ってきます。

追いつかれそうになるたびに、小僧は青いお札、赤いお札を投げつけます。

お札はそれぞれ大きな川や大火事に変わって鬼婆の行く手を阻みますが、足止めにこそなれ、鬼婆を振り切ることはできません。

すべてのお札を使い切ってしまい、後がなくなったところで、ようやく小僧はお寺に帰り着きます。

 

ここで実にいいキャラクターの和尚さんが、のんびり焦らしながら戸を開けて、小僧をかくまってくれます。

 

追いついた鬼婆が小僧を出せ、と迫ると、和尚さんは落ち着いて、

じゅつくらべをしよう

と提案します。

 

大入道になれるか、と和尚さんが言うと、「たやすいことだ」と巨大化する鬼婆。

そんなら小さな豆になってみろ、と和尚さんが言うと、「たやすいことだ」と、豆粒になる鬼婆。

 

すると和尚さんはその豆を拾って、口に放り込んで―――

 

いちご さかえた なべのした ガリガリ

 

★      ★      ★

 

人気のある昔話にはたいてい、物語の核となるアイテム(呪物)が登場します。

うちでのこづち」「たまてばこ」「かくれみの」「ききみみずきん」……。

 

さんまいのおふだ」はそんな中でもインパクトの強い道具です。

 

この物語には様々なバージョンが存在し、お札を授けてくれるのは便所の神様だったり、お寺の和尚さんだったり、また、小僧が便所から逃げ出すときに最初の一枚を身代わりに立てたり、最後に鬼婆が焼死したり。

 

いずれにしても、恐ろしい鬼婆からの、手に汗握る必死の逃走劇がこのお話の見どころであることは変わりません。

 

この絵本では、怖い中にもユーモアがちりばめられており、特にようやくお寺に辿り着いた小僧と和尚さんのやり取りは、じれったいやらおかしいやら。

 

地域の伝承によって、ラストにも色んなパターンがあります(鬼婆を壺に封じ込めたり、逃げ帰らせたり)が、私はやっぱりこの絵本のオチが上手くできていると思います。

 

あんなもの食って大丈夫なのか、少しは心配ですけど。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

鬼婆の執念と身体能力度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「さんまいのおふだ

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絵本の紹介「だいくとおにろく」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに日本の昔話絵本を紹介します。

だいくとおにろく」です。

再話:松居直

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1967年2月15日

 

以前紹介した「ももたろう」と同じ、松居直さん・赤羽末吉さんのコンビ作品。

やっぱりこの二人が組むと面白いです。

 

≫絵本の紹介 松居直・赤羽末吉「ももたろう」

 

松居さんはこの本を作る時、日本古来の「絵巻」というものをかなり意識していたそうです。

絵巻のように、横へ流れるように追っていける絵物語を作るため、当時としては珍しい横長・横文字の製本を始め、やがてそれが様々な絵本の可能性を広げることに繋がって行ったのです。

 

さて、この「だいくとおにろく」という昔話は、「ももたろう」などに比べると認知度は低いのですが、なかなかスリリングで面白い展開になっています。

何より、全体に非常に謎めいており、単一の解釈を許さない深みがあります。

 

むかし、とても流れの早い大きな川があり、何度橋をかけてもすぐに流されてしまうために、村の人々は困り果てていました。

そこで、村びとたちは、このあたりで一番腕のいい大工に、架橋工事を頼むことにします。

 

大工は引き受けたものの、心配になって川の流れを見に行きます。

すると、川の中から大きな鬼が現れます。

鬼は、大工の目玉と引き換えに、橋を架けてやろうと持ち掛けます。

大工はいい加減に返事をして、帰ってしまいます。

 

ところが、次の日、川に行くと、すでに橋は半分できており、さらに翌日には完成してしまいました。

驚き呆れている大工の前にまた鬼が現れ、

さあ、めだまぁ よこせっ

と迫ります。

大工が「まってくれ」と逃げ出すと、

そんなら、おれの なまえを あてれば、ゆるしてやっても ええぞ

と、鬼が言います。

 

逃げた先の山の中で、大工は遠くから聞こえる子守唄を耳にします。

はやく おにろくぁ めだまぁ もってこばぁ ええ なあ――

次の日、また川で鬼と対峙した大工は、でまかせの名前を口にしますが、鬼は、

なかなか おにの なまえが いいあてられるもんじゃない

と、にかにか笑います。

大工は色々とあてずっぽうの名前を言った後、最後に大きな声で

おにろくっ!

と怒鳴ると、鬼は

きいたなっ!

と悔しそうに言うなり、消えてなくなってしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

鬼(化け物)の名前を当てるという寓話は日本、東洋に限らず、西洋にもあります。

有名なところではグリム童話に、藁を金に変える代わりに娘の最初の子どもを要求する「ルンペンシュティルツヒェン」という悪魔の話があります。

この話でも、悪魔は己の名前を言い当てられることによって滅びる結末になっています。

 

かつては、己の本名を知られることは致命的なことだとされていました。

「陰陽師」では、「名付ける」ことは「呪いをかける」と同義だという風に説明されています。

「真名」「忌み名」などという言葉も、実名の危険性を示すものです。

「ゲド戦記」にもそんな話がありましたね。

 

現在で言えば「個人情報保護」的なものでしょうか。

 

さて、この「だいくとおにろく」には、他にもたくさんの謎が含まれています。

 

ここに登場する「鬼」は何を意味するのか。

どうして鬼は「目」を要求するのか。

大工が山の中で聴いた子守唄は、誰が歌っていたものなのか。

 

「川」に「橋」を架けるためには「鬼」の力が必要です。

しかし、「鬼」の力を借りる代償は「目」です。

「目」を奪われないためには、「鬼の名前」を言い当てなければなりません。

 

個人的には、「川」「橋」「目」が重要なキーワードになっているような気がします。

しかし、この手の昔話は咀嚼しきれないところに面白みがあると思うので、野暮な解釈をここで展開するのは差し控えましょうか。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

タイトルがネタバレ度:☆☆☆☆☆

 

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絵本の紹介 松居直・赤羽末吉「ももたろう」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむ店主です。

 

私は息子に1000冊以上の絵本を読み聞かせましたが、楽しい反面、難しくも感じるのが日本の昔話というジャンルです。

 

独特の方言や言い回しが出てきたり、耳慣れない単語が飛び出したり。

もっとも、読み聞かせにおいて、子どもから質問されない限り、いちいち説明するのは無粋というものです。

 

昔話というものは、何世代にもわたって語り継がれる中で、余計なものが極限にまで削ぎ落とされた究極の物語です。

その一方で、誰もが知っているという気軽さから、雑に扱ってしまいがちな面もあります。

 

本当は、私自身は、昔話をするにはまだ人生経験が足りないと感じています。

こういうものは本来的には、年寄りが孫の世代に向かって(できれば寒い夜に、囲炉裏の火でも囲みながら)するのが「作法」だと思うのですが、もうそれが難しい時代ですし、力不足ながらも、親の世代が語り部となるしかないでしょう。

 

幸いにして、絵本というものが、昔話を語る上でも頼もしい味方となってくれます。

もし絵本がなければ、自分の力で昔話を一本、演じ切れるという人は少なくなってきているのではないでしょうか。

 

さて、今回ご紹介するのは、もっとも有名な日本昔話、「ももたろう」です。

文・松居直、絵・赤羽末吉、福音館書店が出版しています。

松居さんは月刊絵本「こどものとも」などを手掛けた編集長で、日本の絵本界の発展に多大な貢献をした方です。

赤羽さんは「スーホの白い馬」などで有名な絵本画家。

 

松居さんはこの「ももたろう」の在り方というものを真剣に考えてこられた方で、彼が再話した「ももたろう」は、われわれになじみ深いお話とは細部において少々違いが目立ちます。

桃から生まれた桃太郎が鬼ヶ島へ鬼退治へ、という筋はそのままですが、鬼退治にゆくのは、一羽のカラスが、

おにがしまの おにがきて、あっちゃむらで こめとった。 があー があー

こっちゃむらで しおとった。 があー があー

ひめを さろうて おにがしま

と鳴くのがきっかけになっています。

 

お姫様が出てくるところが珍しい。

また、鬼ヶ島へ行こうとする桃太郎を、おじいさんとおばあさんが懸命に思いとどまらせようとする点も特徴的です。

それでも反対を押し切って、桃太郎は鬼ヶ島へ。

途中で犬・猿・雉をお供にして、見事に鬼をやっつけます。

 

この後の展開が最大の違い。

鬼が差し出す宝物を桃太郎は断り、

たからものは いらん。 おひめさまを かえせ

と、連れて帰ったお姫様と結婚し、おじいさんおばあさんと末永く幸せに暮らしました……という結末。

 

どうしてこういう構成にしたのでしょう。

実は松居さんは第二次世界大戦中、「ももたろう」が軍国主義的物語として政府に利用されていた「負の歴史」を拭いたかったのだといいます。

 

つまり、桃太郎が自分から鬼ヶ島(敵国)へ攻め込んで宝物を奪うというのでは「侵略」となってしまうと考え、その点を苦慮して、カラスやお姫様を登場させたのですね。

 

もちろんそれだけではなく、昔話につきものの擬音語・擬態語も、

つんぶく かんぶく

じゃくっ

ほおげあ ほおげあっ

など、独特ながらどこか懐かしく、楽しいです。

文章のリズムもよく考えられており、赤羽さんの墨絵も風情たっぷりです。

 

昔話をする歓びというものを教えてくれる一冊です。

 

 

絵本専門の古本屋 えほにずむ

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