【絵本の紹介】ガルドン「あかずきんちゃん」【251冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は最も有名なグリム童話「赤ずきん」を取り上げます。

様々な作家が絵本化しており、その数はたぶん昔話絵本としても最多クラスでしょう。

 

それらはそれぞれに個性的で、読み比べると非常に面白いのですが、その中から一冊だけを紹介するのは難しいものです。

ですので、いずれまた別の「赤ずきん」を紹介することもあるでしょうけど、今回はポール・ガルドンさんによる割とオーソドックスな「あかずきんちゃん」を持ってきました。

作・絵:ポール・ガルドン

訳:湯浅フミエ

出版社:ほるぷ出版

発行日:1976年4月20日

 

オーソドックス、というのはグリム童話に忠実であり、絵の表現もテキスト内容を過不足なく説明しているという意味です。

しかし、実のところ「赤ずきん」はグリム兄弟のオリジナル作品ではありません。

そのあたりの事情を含め、「赤ずきん」という物語そのものについては後で触れるとして、まずはこの絵本の内容をざっと追ってみましょう。

 

昔々、あるところに小さな女の子が住んでいました。

とても可愛い子で、誰もが一目で好きになるほどでした。

とりわけこの子を可愛がっていたおばあさんがくれた赤い素敵なマントをいつも着ていたので、女の子は「あかずきんちゃん」と呼ばれるようになりました。

ある時、あかずきんちゃんは病気のおばあさんのお見舞いに、お菓子と葡萄酒を持って行くようにお母さんに言われました。

お母さんは道草を食わないように言い含め、娘を見送ります。

 

おばあさんのうちへ向かう森の中で、あかずきんちゃんは狼に会います。

あかずきんちゃんは無警戒に狼と会話します。

狼はあかずきんちゃんをそそのかし、道草を食わせている間におばあさんの家に先回りします。

そして、おばあさんを丸呑みにして、自分はおばあさんに変装してベッドに潜り込み、あかずきんちゃんを待ち伏せます。

 

遅れてやってきたあかずきんちゃんは、妙な胸騒ぎを覚えつつ、ベッドの中の狼と話します。

あら おばあさんのおみみ なんて おおきいんでしょう

おまえの かわいいこえが よく きこえるようにね

まあ おおきな おめめだこと

かわいいおまえが よく みえるようにね

おくちも ずいぶん おおきいのねえ

おまえを ひとくちに たべちゃうためさ!

 

というわけで、あかずきんちゃんは狼に呑まれてしまいます。

その後、狼が昼寝しているところへ、たまたま猟師が通りかかります。

 

猟師はベッドに寝ている狼を見て、おばあさんが食べられているかもしれないと思い、狼のお腹を切り裂きます。

すると、あかずきんちゃんとおばあさんが飛び出してきました。

 

あかずきんちゃんは大きな石を集めてきて、それを狼のお腹に詰めます。

目を覚ました狼は石の重みで倒れ、死んでしまいます。

 

おばあさんはお菓子と葡萄酒で元気になり、あかずきんちゃんはもう二度と言いつけに背いて道草を食ったりしないと心に誓うのでした。

 

★      ★      ★

 

作者のガルドンさんはアメリカで200冊以上の絵本を手掛けた作家です。

鮮やかな色彩と軽やかな線を用い、明るい印象の「赤ずきん」となっています。

 

これは私たちにとって最もなじみ深いグリム版「赤ずきん」ですが、グリム兄弟に先駆けること100年前にシャルル・ペローが「赤ずきん」の物語を書いています。

その内容は、赤ずきんが狼に食われたままで終わるバッド・エンドで、最後に「若い娘が見知らぬ人間の話に耳を貸すことの危険」についての教訓が添えられています。

 

ペロー版では赤ずきんが狼に言われるままに服を脱ぎ、ベッドに入るというエロティックな描写まであります。

割と露骨に「狼=若い娘を誘惑する不埒な男」という図式が示されているわけです。

 

グリムはこのあたりを改変し、子ども向けの童話に仕立てましたが、最後にはやっぱり説教臭い「教訓」が残っており、これはペロー版の名残りでしょう。

 

しかしグリム版も、フェミニズムの観点から非常に多くの「問題点」を指摘されています。

まあ、主人公が美少女で、なおかつ「ちょっとバカ」というだけでも、現代の女性から反発される要素は十分です。

しかも、彼女を助け出すのは結局男性である猟師で、赤ずきんの母親もおばあさんも無力なあたり、やはり当時の女性観はその程度であったと言えるかもしれません。

 

が、実はペロー版「赤ずきん」も、さらに元をたどれば民間の口承に残された昔話から作られていることがわかっています。

そちらにはもっとえげつないカニバリズム表現などもあり、しかし反面、主人公の少女は自力で狼から逃げ出します。

そして驚くことには主人公の女の子は「赤ずきん」をかぶっていないのです。

つまり、昔話絵本界のファッションリーダーのシンボルであるあの赤マントは、ペローによる創作だったのですね。

 

かように、昔話というものは時代の要請ともにどんどん形を変えて行きます。

それ自体は自然なことだと思いますが、一方で改変前の物語を子どもに見せることが「悪い」とまでは私は考えていません。

 

それぞれの時代には偏見と不自由があり、現代から見れば首を傾げたくなるような表現もあるでしょう。

しかし、それらから子どもを遠ざけるよりも、偏らない、多数の物語を与えてやることのほうが、結果として自由で幅広い視野が得られると思うからです。

 

いずれにせよ、「赤ずきん」の物語で、子どもたちが最も喜ぶシーンはおばあさんに扮した狼と赤ずきんのスリリングな掛け合いにあることは明らかです。

最後の蛇足じみた教訓など、忘れてしまっている子どもがほとんどではないでしょうか。

現に私は忘れていました。

 

また機会を見つけて、他の絵本作家による「赤ずきん」も紹介したいと思います。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

美少女度:☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「あかずきんちゃん

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【絵本の紹介】「ランパンパン」【228冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

海外の民話というものは、設定や道具立てが私たちから見ると変わっていて、非常にユニークに思えるものが多い一方で、普通の人々の暮らしや願い、情愛などは国境を越えて共感できるところがあります。

自分以外の国の生活を知り、親近感や理解を育む上で、たくさんの海外民話絵本を読む経験は大きいと思います。

 

今回はインドのお話。

ランパンパン」です。

再話:マギー・ダフ

絵:ホセ・アルエゴ、アリアンヌ・ドウィ

訳:山口文生

出版社:評論社

発行日:1989年6月20日

 

簡単に内容をまとめてしまうと、「搾取される民」の代表存在である「クロドリ」が、己の大事なものを横暴な権力者に奪われ、それを取り戻すために戦うお話。

日本の昔話で言うと、「猿蟹合戦」によく似た話型の物語ですね。

道中で(けったいな)仲間を得る点も共通ですし。

 

さて、主人公のクロドリがとてもいい声で鳴いているのを聞いた王様が、これを捕まえて宮殿に連れて行こうとします。

が、捕まったのはクロドリの女房。

 

クロドリは怒り狂い、「どんなことをしてもつれもどす」ことを決意します。

クロドリは戦いのために装備を整えます。

とがったとげの刀

カエルの皮のたて

クルミのからの兜

そしてクルミのからの残りで作った「たたかいのたいこ」。

 

こう書くとRPGの初期装備みたいに頼りないですが、これらを身にまとったクロドリは滑稽ながらもどこか凛々しく、鋭い眼光に固い意志を感じさせます。

 

クロドリは太鼓を「ランパンパン、ランパンパン、ランパンパンパンパン」と打ち鳴らして行進を始めます。

 

途中、「ネコ」「アリのむれ」「木のえだ」「」を味方につけます。

彼らはそれぞれ、王様の仕打ちを恨んでいるのです。

面白いのは、彼らが全部、クロドリの「耳のなか」に入ってしまうこと。

この荒唐無稽な展開を、絵の力で納得させます。

 

ついに王様の宮殿に辿り着いたクロドリは、門番に通されて王様に直談判します。

しかし、王様は女房を返してくれません。

 

逆にクロドリは掴まって、鶏小屋に放り込まれます。

しかし、夜中にクロドリは耳の中のネコを解き放ち、鶏小屋をめちゃめちゃにし、勇ましく太鼓を打ち鳴らします。

 

怒った王様は馬小屋や象の檻にクロドリを放り込むのですが、クロドリの仲間たちの活躍でこれらの試練を乗り越えます。

最後は川に部屋を水浸しにされて、王様はついに降参。

クロドリは女房を連れ帰り、そののちずっと幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

クロドリの様々な武装は、実際には使用されません。

あれは一種の象徴であり、「民衆の怒り」を表現したものです。

 

クロドリの装備の中で最も効果を発したものは、「ランパンパン」と打ち鳴らされる太鼓です。

あれは横暴な権力者に対する「抗議の声」「怒りの叫び」です。

ちっぽけなクロドリなど王様が恐れるはずはありませんが、彼はあの太鼓の音には我慢できなかったのです。

 

いつの時代も、独裁的な権力者が最も恐れ、疎ましく思うものは力なき民衆の「声」です。

つまり、クロドリの行進は「デモ」なのです。

古い民話には、時代を超えて貫かれている芯部分があるものです。

 

権力者は手を変え品を変え、この「声」を封殺しようとします。

それは時間が経つとはっきりすることもありますが、時代の只中にあっては幻惑させられてしまうことが多いものです。

 

けれども、あらゆる歴史が教えるものは、独裁者を倒し、人々の暮らしを変える流れは、路上の「声」から始まるのだという事実です。

よくよく見渡せば、まさに今の世の中にも、そうした光景が広がっているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

夫婦愛度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ランパンパン

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【絵本の紹介】「ガラスめだまときんのつののヤギ」【175冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは海外の民話絵本なのですが、ベラルーシという、日本ではちょっと馴染みの薄い国の民話です。

それを「あの」スズキコージさんが挿絵担当しているのですが、彼の絵本としては初期のもので、これまた珍しくコラージュ(切り絵)の手法を用いています。

 

そういう珍しい要素が様々集まって化学変化を起こしたような作品なんですが、これが実にうまく調和して、良質な絵本に仕上がっております。

それがこの「ガラスめだまときんのつののヤギ」です。

作:ベラルーシ民話

訳:田中かな子

絵:スズキコージ

出版社:福音館書店

発行日:1988年5月31日

 

コラージュでもスズキさんの独特のタッチは健在です。

見てください、この表紙の堂々たるヤギの佇まい、目力。

 

ガラスめだま」と「きんのつの」を持つ、やたらカッコイイヤギで、その迫力はかの名作「3びきのやぎのがらがらどん」の大きいやぎを彷彿とさせます。

日本だとヤギって、大人しくて、弱々しくて、ちょっと頭悪い(手紙食べちゃったり)イメージが持たれているように感じますが、北欧やロシアの辺りでは、こういう猛々しいヤギが生息しているのでしょうか。

 

さて、一体どんなヤギなのかと、ワクワクしながら読んでみると……。

めっちゃヤクザもんです。

 

おばあさんが丹精込めて育てた麦畑を、我が物顔で踏み荒らし、おばあさんが、

でていけったら でていけっ! むぎばたけから でていけっ!

と怒鳴ると、逆に凄まじい啖呵を切り返します。

 

よけいなおせわだ、おいぼればあさん! おいらにゃ、ガラスめだまと きんのつのがある。ひとつきすれば、いちころさ!

 

おばあさんは泣きながら歩いて行きます。

そして、大きなクマと出会い、わけを話すと、クマはヤギを追い出してやろうと請け合います。

 

クマはヤギの前に立ち、「でていけったら でていけっ!」。

でも、ヤギが凄むと、口ほどにもないクマは逃走してしまいます。

 

以後、絵本の定型である「繰り返し」モードに突入。

次々と動物たちがヤギを追い出そうとしますが、みんなヤギの迫力に押されて逃げ出してしまいます。

 

このお話が面白いのは、登場する動物が、クマ→オオカミ→キツネ→ウサギとだんだん小さくなっていくこと。

また、ボキャブラリー豊かなヤギは、相手ごとに切れ味鋭い啖呵を切ります。

もじゃげのクマめ!

おんぼろおっぽのオオカミめ!

ずるギツネめ!

もぐもぐウサギめ!

と、読者を飽きさせません。

 

そして、最後に登場するのは小さな一匹のハチ。

ハチだけは啖呵など切らずに、黙ってヤギの鼻に一撃を喰らわせます。

勝負あり。

 

やっぱり喧嘩は口を利く前に先手必勝、ということでしょうか。

 

★      ★      ★

 

小さいものが大きいものをやっつける、定番と言えば定番の民話ですが、上記の通り、文も絵も独特で、非常にテンポよく読めます。

 

スズキさんのコラージュには、ちょっと変わった材料があれこれ使われていて、題字には毛羽立った紐(?)、おばあさんのスカートの柄には宇宙の写真、ところどころに英字新聞など。

 

それにしても、ほとんど神々しいまでに強そうだったヤギですが、実際には口だけだったのがなんとも。

その点、やはり絵本界の最強ヤギの座は「がらがらどん」に譲るしかないようです。

 

≫絵本の紹介「3びきのやぎのがらがらどん」

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

表紙と裏表紙の落差度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「3びきのくま」【130冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は有名な童話「3びきのくま」を紹介します。

文:トルストイ

絵:バスネツォフ

訳:小笠原豊樹

出版社:福音館書店

発行日:1962年5月1日

 

もともとはイギリスの童話ですが、この福音館書店発行の絵本は、かの世界的大作家・トルストイさんが再話されています。

よって、3びきのくまにはそれぞれロシア名が付けられているのが特徴。

 

いちいち長ったらしくて重々しいんですが、それが面白いんですね。

バスネツォフさんの絵も相まって、異国情緒豊かな作品になっています。

くまはなんか目が怖くて、可愛くはない。

でも、どこかユーモラスです。

 

内容の方は今さらですが、再話者によって細部が違うので、ざっと紹介しておきます。

森で道に迷った女の子が、小さな家を見つけます。

この家は3匹のくまの家。

 

おとうさんぐまは「ミハイル・イワノビッチ

おかあさんぐまは「ナスターシャ・ペトローブナ

くまのこは「ミシュートカ

3びきが外出中なのをいいことに、女の子は家に入り、3つのお皿のスープを味見し、3つの椅子に腰かけ、3つのベッドに寝てみて、ちょうどよい大きさのミシュートカのベッドで眠ってしまいます。

やがて3びきが帰ってきて、侵入者の形跡に気が付きます。

最後にミシュートカが自分のベッドを占領している女の子を発見し、騒ぎ立てますが、女の子は窓から飛びだして逃げてしまいます。

 

★      ★      ★

 

誰でも知っているお話ですが、どこか釈然としない結末でもあります。

私は子どものころ、このお話に出てくる女の子が大嫌いでした。

 

勝手に人の家に上がり込み、何の躊躇もなくスープを盗み食らい、無法にも椅子を壊し、図々しくもベッドで眠る。

あまりにも傍若無人なふるまいではありませんか。

3びきの怒りは当然ですし、一番の被害者である子ぐまのショックと嘆きはいかばかりでしょう。

なのに、女の子は少々怖い思いはするものの、あっさりと逃亡に成功し、何の罰も受けません。

 

ということは、本質としてはこれは教訓的なお話ではないと言えます。

 

重要なのは女の子の行動の倫理性ではなく、法則性にあります。

つまり「3」の繰り返しです。

 

幼児向けお話における繰り返しの持つ意味については、「おおきなかぶ」の紹介で触れました。

 

≫絵本の紹介「おおきなかぶ」

 

「3」はグループの最小単位であり、他の様々な昔話や童話にも、たびたびキーワードとして登場します。

この「よくわからないお話」が、時代や国境を越えて読み継がれているのは、典型的な繰り返しの技法を確立しているからでしょう。

 

子どもはパターンを読み取り、結果を予測し、この世界を掴もうとします。

 

ちなみに、ですが。

イギリスでは女の子の名前は「ゴルディロックス」(金髪)。

常に自分に「ちょうどよいもの」を選ぶところから、宇宙における「生命居住可能領域」を指す「ゴルディロックスゾーン」という、中2が喜びそうな用語にもなっています。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

女の子の逃走能力度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ながいかみのラプンツェル」【111冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はグリム童話原作・「ながいかみのラプンツェル」を取り上げます。

原作:グリム童話

絵:フェリクス・ホフマン

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1970年4月30日

 

今ではディズニー版の方が遥かに有名になってしまいましたが、映画は原作とはかなり違いがあります。

原作そのものも、時代の要請に従って、何度も改編されている問題作です(性的描写が露骨だという、例の事情です)。

 

さらに、この絵本も、作者のホフマンさんが細部に変更を加えています。

 

ですので、「ラプンツェル」を知ってる人は数多くとも、どのヴァージョンを読んだかによって、それぞれの思い描くお話は様々だと思われます。

 

まずは、絵本の内容とポイントをざっと追ってみましょう。

 

あるところに、子どものいない夫婦が住んでいて、一人でも子どもが欲しいと願い暮らしていました。

隣の家には人から恐れられている魔女のゴーテルが住んでいて、その庭には立派な畑がありました。

 

ある時、おかみさんは、ゴーテルの庭のラプンツェル(レタスのような野菜)を食べたくてたまらなくなり、旦那さんに取ってきてくれるよう懇願します。

旦那は庭に忍び込んでラプンツェルを盗みますが、魔女に見つかってしまいます。

旦那さんが訳を話して謝ると、ゴーテルは好きなだけラプンツェルを持って行っていいが、もし次にまた来たら、これから生まれる子どもをよこすことを約束させます。

 

しかし、結局おかみさんはまたすぐにラプンツェルが欲しくて我慢できなくなり、再び旦那さんは魔女の庭に侵入。

もちろん見つかって、その後生まれた娘を連れ去られてしまいます。

ゴーテルは娘を人目につかない森の奥の塔で育てます。

ラプンツェルと名付けられた娘は「てんかいちの きりょうよし」に成長します。

 

けれども、ラプンツェルは塔から一歩も外へ出ることを許されません。

塔には階段もなく、ゴーテルが塔に入る時は、ラプンツェルの長い髪を梯子替わりに使うのでした。

 

そんなある時、森へ来た王子が、ラプンツェルの歌声を耳にし、心を奪われます。

王子は塔に近づき、ゴーテルが窓から垂らされた髪の毛を掴んで出入りするのを見て、同じように窓に向かって呼びかけ、侵入します。

初めて見る男性に、ラプンツェルは驚きますが、王子が若くて美しいのを見て、「このひとなら、ゴーテルばあさんよりも わたしを かわいがって くれるだろう」と考え、王子の愛を受け入れます。

 

何度か魔女の目を盗んで逢瀬を重ねるうちに、ラプンツェルはうっかりと、ゴーテルに

あなたを ひきあげるほうが、おうじさまを ひきあげるより おもいのですもの

と口を滑らせてしまいます。

 

ゴーテルは怒り、ラプンツェルの長い髪をばっさり切り取ってしまいます。

 

そして、やってきた王子を塔の下へ落とします。

王子は「いばらで りょうめを さしつぶしました」。

 

これを見たラプンツェルは塔から飛び降りますが、怪我一つ負わず、王子を見つけて抱きしめます。

ラプンツェルの涙が王子の目を治し、ふたりは王子の国へ帰って結婚します。

 

残された魔女は塔から降りることもできず、小さくしぼんでしまい、最後は大きな鳥にさらわれてしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

一読しただけでは、釈然としないお話です。

登場人物はそれぞれ業が深く、単純に「いい人」「悪い人」が存在せず、勧善懲悪のストーリーでもありません。

 

・娘が奪われるのを知った上で、よそ様の畑の野菜を盗み食らう夫婦。

・何の目的かわからないけどラプンツェルをさらって、でも結構大事に育ててる魔女。

・でも、あっさりと初めて会った男になびいてしまう、チョロいラプンツェル。

・なんか情けない王子。

 

ディズニー映画は、上記の点をすべて納得のいく物語になるよう、変更しています。

 

なお、原作と絵本との違いで最も顕著なのは、「ラプンツェルが妊娠しないこと」「魔女の最後が描かれていること」の2点です。

 

原作では、ラプンツェルは王子と性行為を繰り返し、妊娠することによって密会を魔女に知られます。

絵本ではここを改編していますが、p24〜25のカットは、わりと如実に性的なものを暗示しています。

 

つまり、これは基本的に「性的な物語」なのです。

 

そのつもりで読み解くと、ラプンツェルの長い髪は「処女性」を示し、王子の失明は「去勢」を示していると推測できます。

 

そして物語のテーマは、「娘を支配する母親」です(これは「核」ですので、ディズニー映画においても継承されています)。

 

魔女ゴーテルがラプンツェルを幽閉し、人目に触れさせないのは、娘の若さと美しさへの嫉妬からです。

こういう感情は、現代でもないとは言えないでしょう。

 

老人は、常に若者に嫉妬を抱くものです。

ことに、若者同士の自由な性交を、老人は危惧します。

なぜなら、それは自分が若いころに欲しても手に入れられなかった自由であり、悦びであるからです。

 

妊娠の恐れとか、勉学の妨げとか、世間体とか、様々なもっともらしい理由の奥底には、そうした嫉妬の念があります。

 

グリム童話にたびたび「継母」という形で登場する母親たちは、実の母親の心のどこかに潜む、娘への嫉妬と支配欲を象徴していると考えられます。

それが「母親と娘」であるのは、単に女性の方がより性的に抑圧されているからです。

 

これだけ時代が流れても、いまだにその抑圧の連鎖は断ち切れていません。

 

しかし本当に、老人の世代が言うように、若者に自由な性交を許したら、人間は堕落するのでしょうか。

世間に蔓延る様々な病は、性的奔放ではなく、性的抑圧の結果ではないでしょうか。

 

青春を謳歌できなかった魂は、かつての自分である子ども世代に、呪いをかけ続けます。

「ラプンツェル」は、そうした母親の呪縛から逃れる娘の物語なのです。

 

そう読まないと、

この魔女、別にそんなに悪いことしてないんじゃないの

と思ってしまいがちです。

 

だからこそ、ホフマンさんが、わざわざ原作にない魔女の末路を描いて、

いんがおうほう、とうぜんのむくい

とまで書いているのではないでしょうか。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

構成力と画力度:☆☆☆☆☆

 

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