【絵本の紹介】「ふしぎなえ」【143冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は安野光雄さんの代表作「ふしぎなえ」を紹介します。

作・絵:安野光雄

出版社:福音館書店

発行日:1971年3月1日

 

毎回、やさしいタッチの絵でありながら知性を刺激する実験的な絵本を手掛ける安野さん。

この作品は氏が美術教員を退職して初めて発表したデビュー作にして、海外でも話題を呼んだ一冊です。

 

全編通して文字はなく、タイトル通りの「不思議な絵」が並ぶ画集のような絵本。

いわゆる「不可能図形」で描かれた奇妙な世界を、おなじみの小人たちが動き回ります。

 

表紙は平面なはずのレンガを階段にして上る小人たち。

そして裏表紙はタイトルも含めて表紙を反転させたものになっており、鏡を使って見ると子どもは喜びます。

 

上っても上っても、元のフロアに戻ってしまう階段。

どっちが下かわからなくなる建築物。

下から上へ流れる川の水。

 

などなど、まるで次々に目の前で手品を操られているよう。

 

だまし絵の画家と言えばエッシャーが有名ですが、安野さんはエッシャーの絵に魅了されてこの作品を作ったのだそうです。

こういう絵は緻密な計算がなければ描けないもので、数学分野にも造詣の深い安野さんならではの作品と言えるでしょう。

 

ペンローズの階段」や「ネッカーの立方体」といった代表的な不可能図形の概念を絵本の世界に持ち込んだ安野さん。

これらはいわゆる人間の「目の錯覚」を利用したトリックですが、大人がこういうものを前にすると、「騙されないぞ」と、つい力んでしまうのに対して、子どもの反応は実に素直で、自分の錯覚を楽しんでいるように見えます。

 

それを見ていると、「錯覚」というのは必ずしも「欠陥」とばかりは言えないのかもしれない、と思います。

むしろ、「錯覚できる能力」によって、人間は様々な空想を広げ、不可能に思われていたことを成し遂げてきたのかもしれません。

 

錯覚能力がなければ、絵本の中で繰り広げられるファンタジーを、現実の世界の出来事のようにリアルに楽しむことはできません。

他人の痛みを、我がことのように共感することはできません。

 

一方に数学的で厳然とした法則に貫かれた世界があり、もう一方に詩的で空想的な世界があり、それらが重なり合って私たちの「リアルな」世界が存在しています。

 

こうした認識を子ども時代の間に身に付けないと、私たちは世界や人間に対し、本当に血の通った理解を示すことはできません。

どうして安野さんがこれらの美術作品を「画集」ではなく、子どもにも向けた「絵本」という形にしたのか。

私は何となく、上のような理由を思い浮かべるのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

美術的価値度:☆☆☆☆☆

 

安野さんの他作品についての関連記事

≫絵本の紹介「かず」

≫絵本の紹介「まよいみち」

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ふしぎなえ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「くもさんおへんじどうしたの」【138冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

超絶人気絵本「はらぺこあおむし」の作者、エリック・カールさんの展覧会が、東京世田谷美術館で開催中です。

7月末からは京都会場でも開催される予定で、前売りチケットも販売開始されました。

詳しくは公式HP→「エリック・カール展

 

絵本関連のイベントは、ほとんど首都圏中心で、関西に住んでいるとなかなか行けないものが多くて残念な思いをしているので、もっとどんどん来てほしいですね。

 

さて、今回はエリック・カールさんの「くもさんおへんじどうしたの」を紹介します。

作・絵:エリック・カール

訳:もり ひさし

出版社:偕成社

発行日:1985年11月

 

常に実験的な絵本作りに取り組むエリックさん。

この作品では、「触れる絵本」に挑戦しています。

 

題材は、「はらぺこあおむし」同様、虫の生態を取り扱っています。

科学事実に忠実に、しかしコミカルに。

「色の魔術師」と評される鮮やかな彩色は健在です。

このお日さまを見ただけで、すぐエリックさんの絵だとわかりますね。

画像ではわかりにくいですが、くもと、くもの出す糸が紙から浮き出ていて、指でなぞれるようになっています。

朝から黙々と巣を張るくも。

色々な動物が遊びに誘いますが、くもは忙しくて返事をしません。

ページを追うごとに少しずつ巣が完成していき、最後に飛んできたハエを捕獲。

忙しい一日を終えると、くもはぐっすり眠り、ふくろうが話しかけても、やっぱり返事をしないのでした。

 

★      ★      ★

 

しかけ絵本には様々な課題があり、いいアイディアが浮かんだとしても、それを実際に制作するとなると大変な苦労があります。

しかけがちゃんと動くのか、ある程度の耐久性を維持できるのか。

製本段階で、作者の意図は再現できるのか。

 

なによりも、現実的なコストの問題が、厳然として立ちはだかっています。

しかけに技術的な工夫を凝らすと、どうしても他の絵本より割高になってしまいます。

 

この「くもさんおへんじどうしたの」は、一枚の紙を折り返して製本し、特殊印刷でくもの巣をデコボコに浮き上がらせています(そのため、ページは袋とじ状態になっており、「中になにかあるの?」と確認したくなりますが、なんにもありません)。

 

たぶん、色々とコスト削減を試行錯誤されたのでしょうけど、やっぱり定価はお高めの2400円(税抜)。

当店では定価より割安で、安心クリーニングのリユース絵本をお買い求めいただけます(宣伝)。

 

繰り返しのリズム、生き生きとした動物たちの絵など、しかけ抜きでもじゅうぶん楽しい作品です。

 

エリック・カール展京都会場には私も足を運ぼうと考えておりますので、その際にはまた特集記事を書きますね。

 

関連記事≫絵本の紹介「はらぺこあおむし」

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

指先の快感度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「100かいだてのいえ」【121冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、画期的なアイディアと楽しさが詰まったイラストで大人気の「100かいだてのいえ」を紹介します。

作・絵:いわいとしお

出版社:偕成社

発行日:2008年6月

 

かつては絵本を作ることは、「絵と文」を考えることだという固定概念があったと思います。

でも時代とともに、絵本本来の自由度の高さというものが作り手にも読み手にも浸透していき、画材の選択から本の形状に至るまで、様々な工夫や試行錯誤がされるようになりました。

 

今では当たり前になった「横長・横開きの絵本」も、「こどものとも」編集長の松居直さんがそうした製本を始めた当初は眉をひそめる向きもあったそうです。

 

が、この「100かいだてのいえ」は、さらに実験的で、「縦長・縦開きの絵本」なのです。

当然、両手で支えて読むことは困難で、床に置いて広げることになります

 

星を見るのが好きな「トチくん」のもとへ、手紙が来ます。

100階建ての家のてっぺんに遊びに来てね、という内容。

地図に書かれた場所へ行ってみると、上の方は霞んで見えないほど高い「100かいだてのいえ」が現れます。

この本は「下から上に」読んでいきます。

1階から始まって、トチくんとともに100階まで上っていきます。

 

この家には10階ごとに違う生き物が住んでいて、各階ごとに細かく描かれた家具や小物、それぞれの生き物らしさが表れた生活感を楽しむのが最大の見どころ。

上に続く階段の形も様々で、「ん? どこから上るの?」と戸惑うこともしばしば。

ひとつひとつの部屋を指で辿っていくのは、まさに探検気分。

外の風景も少しづつ変化していき、70階を超えるころにはもう夜。

 

さて、100階でトチくんを待っていたのは……?

 

★      ★      ★

 

子どものころ、「間取り」の絵を描くのが好きな時期がありました。

独特の面白さがあるんですよね。

 

玄関から始まって、台所、寝室、浴室、遊び部屋……。

特に「遊び部屋」は、こうしたい、ああしたい、こんな仕掛けが欲しい、と、いっぱいに想像力を膨らませました。

 

異常に長い廊下を作ってみたり、忍者屋敷みたいに隠し通路を作ってみたり。

この絵本を見ていると、そんなことを思い出します。

 

作者の岩井さんは様々な分野の仕事に取り組むメディアアーティスト。

絵本はこれが初めての作品になります。

 

岩井さんがものづくりに目覚めたエピソードが佳話で、子どものころに母親から「もうおもちゃは買いません」と言われ、代わりに工作道具や材料を与えられたのがきっかけだそうです。

いいお母さんだと思います。

 

我が家でも、経費削減目的で新幹線や電車を紙工作で作り始めたのをきっかけに、今ではほとんどおもちゃを買うことはなくなり、何でも作るようになりました。

私は不器用で、そういう知識もスキルも皆無だったんですが、現代はインターネット上でちょっと検索すれば、懇切丁寧に簡単な作り方を指南してくださるサイトがいくらでもあり、本当にお世話になっています。

 

息子も、外出先で欲しいおもちゃを見かけても「買って」とは言わなくなり、「作って」と言うようになりました。

 

最近は「自転車」とかを欲しがるようになってきて、限界を感じておりますが。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

途中で目的を忘れる度:☆☆☆☆

 

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絵本の紹介「コロちゃんのクリスマス」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

クリスマス絵本特集第9回は、しかけ絵本「コロちゃんのクリスマス」(作・絵:エリック・ヒル、評論社)を紹介します。

これは「コロちゃんのびっくり箱」というしかけ絵本の人気シリーズです。

しかけ絵本には様々な種類があり、ヒモを引っ張ってキャラクターを動かしたり、ページを開くと絵が立体的に飛び出したり、最近ではもっと凝った作品がどんどん出ています。

 

けれど、このシリーズのしかけは「扉を開いて隠れた絵を見る」という、至ってシンプルなもの。

その一貫したけれんのなさが、人気の秘密かもしれません。

 

主人公は茶色の毛に黒いブチ模様がトレードマークの子犬・コロちゃん。

今日はクリスマスイブ。

ママと一緒に準備にかかりますが……。

 

コロちゃん、ちゃんと おしてる?

とママ。

そりを隠している木の絵をめくると……

押すどころか、乗っかって歌ってます。

その後も、コロちゃんは舞い上がって、はしゃぎ続けます。

 

そしてやっと疲れて眠ると、窓にはサンタクロースが。

 

しかけ絵本というジャンルは、ややもすると邪道と受け止められがちですが、その意義は子どもに「ページをめくる楽しみ」を伝えることにあります。

それは言葉を変えれば「自らの手でドアを開いて、向こう側の世界を見る」歓びを伝えるということです。

 

初めのうちは大人に任せていた「ページをめくる」行為を、子どもが自分でやりたいと思うとき、それは自発的な読書への第一歩だと言えるでしょう。

 

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絵本の紹介「まどから おくりもの」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

クリスマス絵本特集第6回は、「まどから おくりもの」(作・絵:五味太郎、偕成社)を紹介します。

きんぎょがにげた」のような探し絵本、「みんなうんち」のような科学絵本、五味太郎さんの手掛ける作品はどれも創造性に富んだユニークなものばかりです。

 

≫絵本の紹介「きんぎょがにげた」

≫絵本の紹介「みんなうんち」

 

今回は穴あき絵本。

各画面にある窓に穴が開いていて、次の画面の一部を見ることができます。

あれは たぶん サンタクロースさん

きょうは どうやら クリスマス

あれは きっと おくりもの

という、なんだかあやふやなオープニングが、さっそく笑いを誘います。

 

ヘリコプターで登場するスタイリッシュなサンタさんですが、その仕事っぷりはかなりおっちょこちょいです。

というより、雑。

 

窓から部屋をのぞいて、

「ここは○○さんのおうち」

と即断し、おくりものをチョイスして、窓から投げ入れます。

けれども、窓から見えるのはあくまで部屋の一部。

ここが巧妙なトリックでして、ページをめくってみると予想に反した画面が広がります。

 

ねこさんだと思ったらぶたさんのパジャマの柄だったり、しまうまさんの模様だと思ったら白鳥さん兄弟の首だったり、きつねさんの耳だと思ったらわにさんの背中のとげだったり……。

とにかく次のページをめくったり、また戻ったり、楽しさいっぱいの傑作です。

 

これだけ間違いだらけでも、なんだかんだでみんな満足。

そんなあったかなラストも幸せな一冊です。

 

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