【絵本の紹介】「だくちるだくちる はじめてのうた」【219冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

相も変わらず、習慣的に絵本の読み聞かせを行っています。

最近は息子の方から「読んで」と言ってくることが少なく、こちらが絵本を選ぶことが多いのですが、気分じゃない絵本を選ぶと即座に却下されてしまいます。

で、つい同じ絵本(鉄板絵本)ばかりを本棚から引き出すことになりがちです。

 

それ自体は全然悪いことではないんですが、もう全文暗記してしまっているような絵本を、眠たい時間に読んでいると、ついつい自動朗読機械のように無感情な読み方になってしまいます。

 

しかし、読んでもらってる子どもの方は日々成長変化しており、いつまでも同じ反応を示すわけではありません。

新しい絵本を与えるばかりでなく、以前はあまり受けなかった絵本を時期を見計らって取り出してみたり、赤ちゃんの頃に読んでいた本をもう一度開いてみたり。

こちらも変化していかなければ、絵本の「旬」を逃してしまいます。

 

今回は「読み聞かせ」の一つの核部分である「音・言葉との出会い」について描かれた絵本を紹介します。

だくちるだくちる はじめてのうた」です。

原案:V・ベレストフ

文:阪田寛夫

絵:長新太

出版社:福音館書店

発行日:1993年11月15日

 

にんげんが うまれる ずっと ずーっと まえのまえ そのまた ずーっとまえに

イグアノドンが いた

恐竜時代を舞台とした、これは詩の絵本です。

 

イグアノドンは さびしかった

だけど あるひ だくちる だくちる おとがした

ちいさな プテロダクチルスが とんできた

 

だくちる だくちるる」と、プテロダクチルスは鳴き声とも唸り声ともつかぬような音を発します。

他には何にも言えません。

 

でも、「イグアノドンは うれしかった」のです。

それはイグアノドンが初めて耳にした「生き物が発する音」だったからです。

イグアノドンは「だくちる」を聞くと「もう どんどん ばんばん」嬉しくなってしまいます。

イグアノドンにとって「だくちる」は「はじめての うた」だったから。

音の溢れる世界の中で初めて耳にした、生命のこもった「うた」だったのです。

 

★      ★      ★

 

この絵本の原案となっているのはロシアの詩人ベレストフさんの「はじめての歌」という詩です。

それを、童謡「さっちゃん」などの作詞を手掛けた阪田寛夫さんが文にし、長新太さんが絵を描いて作り上げたという、なかなかに豪華なコラボ絵本です。

 

長新太さんの描くイグアノドンはシルエットのみのデザインなのですが、感情と共にシルエットの色が変化し、その喜びが生き生きと伝わってきます。

 

太古の地球で独りぼっちの存在だったイグアノドン。

彼の壮絶な孤独感はいかばかりだったでしょう。

初めて他者が発する音に触れた時の喜びはいかばかりだったでしょう。

 

人間も同じです。

この世界に生まれ落ちた時、赤ちゃんはどれほど不安なことでしょう。

少しでも身近な人間の声を聞きたくて、赤ちゃんは声を振り絞って泣きます。

 

母親の声を聞くと安心します。

この世界で生まれる無数の音の中から、赤ちゃんは母親の声を聴き分けることができます。

それからわずか3年足らずで、赤ちゃんは日常会話レベルの言語を学習してしまうのです。

 

人間が「言葉」を希求する強さは計り知れないものです。

人間と他の動物を隔てるものは思考する点ですが、思考はそもそも言葉がなければできません。

言葉が貧弱だと、思考も貧弱になります。

 

子どもが最も言葉を求める幼少期に、できる限りたくさんの、美しい音楽的な言葉を聴かせてあげることが重要なのです。

これはいくら言っても言い足りないくらい、大切なことです。

 

絵本の大きな存在意義もそこにあります。

 

この「だくちるだくちる」は、声に出して読むべき絵本です。

今の日本では残念ながら詩というものの価値がほとんど見捨てられてしまっていますが、絵本においてはまだかろうじて生き残っていると思います。

 

そういうわけで、初心に帰って、今夜も絵本を読み聞かせたいと思います。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆

音読向き度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「だくちるだくちる はじめてのうた

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「影ぼっこ」【101冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、「影ぼっこ」です。

文:ブレーズ・サンドラール

絵:マーシャ・ブラウン

訳:おのえたかこ

出版社:ほるぷ出版

発行日:1983年12月15日

 

世界的絵本作家、マーシャ・ブラウンさんの絵で、コールデコット賞(一年に一作品だけ選ばれる、アメリカ絵本界最高の賞)も受賞している作品なのに、日本での知名度はいまひとつな気がする、隠れた名作。

 

しかし、これがブラウンさんの仕事だとは、見ただけではわからないのも無理はないでしょう。

何しろ、「三びきのやぎのがらがらどん」が有名すぎるのに、こちらと絵柄が違い過ぎる。

 

≫絵本の紹介「三びきのやぎのがらがらどん」

 

これは別にブラウンさんの画風が変節したというわけではなく、彼女はひとつひとつの作品に対し、毎回違った技法でのアプローチを試みているのです。

どんな画材で、どんなタッチで、どんな構図で、どんな色彩で描くのが、その作品にとってふさわしい表現方法なのかを練り込んでいるのですね。

絵本に対する真摯な情熱と探求心、そして子どもに対する敬意があればこそでしょう。

 

この「影ぼっこ」は、詩人・小説家のサンドラールさんが、アフリカのまじない師や、火を囲んで話す語り手たちの言葉からイメージを広げて書き上げた詩の絵本です。

影ぼっこのすみかは森のなか

夜になるとたき火のそばにあらわれて、おどり手たちに調子をあわせ うろうろ うろつき ふらふら おどる

影ぼっこはねむらない

影ぼっこには声がない

夜になると 影ぼっこは 重く重くなる

だれも 影ぼっこにはさからえない

 

影ぼっこは あそぶ

影ぼっこは おどる

 

★      ★      ★

 

いつも傍にくっついて、離れようとしない影。

なんだか恐いような気もするけれど、いたずら好きの精霊のような、守り神のようなイメージもある。

 

自然への畏敬の念が込められたこの詩を絵で描き表すにあたって、ブラウンさんは実際にアフリカを旅行してきたそうです。

 

そこで受けた鮮烈なインスピレーションを、コラージュ風の手法で表現しています。

 

私は個人的に、アフリカの人々の肉体をシルエットで描いたカットに強く惹かれます。

彼らの身体は、最新の文明に囲まれている我々のそれとはまったく違う生き物のように、生命の躍動感に溢れています。

 

その原始の肉体が、踊ることで、リズムに乗ることで、より自然に近づき、自然の一部となっています。

 

霊や魂といった概念を、私たちは忘れ去ったかのように都会で生活しています。

しかし、誰もが心の奥底では、それら精神世界から切り離された無力感や不安を感じているのではないでしょうか。

 

この絵本に描かれる人々からみなぎる生命力に、ある種の劣等感を感じるのは私だけでしょうか。

そしてその劣等感は、大人が子どもに対して抱くものと似ている気がするのです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

ブラウンさんの引き出しの多さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「影ぼっこ

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絵本の紹介「あかちゃんのうた」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私が息子に絵本の読み聞かせを始めたのは、息子が生後半年ごろのことですが、それまでにも、絶えず話しかけることを意識していました。

 

たとえ反応が無いように見えたとしても、必ず赤ちゃんはこちらの言葉を聴いていると信じていたからです。

 

とは言うものの、返事をしない相手に語り続けるというのは思った以上に頼りないもので、何を話したらいいのやらわからず、ともすれば言葉を途切れさせ、沈黙してしまうことも多々ありました。

 

同じような思いを持つ方へ、今回は「あかちゃんのうた」を紹介しましょう。

文:松谷みよ子

絵:岩崎ちひろ

出版社:童心社

発行日:1971年8月20日

 

いないいないばあ」に代表される、赤ちゃん絵本の名手・松谷みよ子さんと、「子どもの幸せと平和」をテーマに童画を描き続けた岩崎ちひろさんによる、「はじめて赤ちゃんに語り掛けることば」の絵本。

おむつを替えるとき、だっこのとき、散歩のとき、ねんねのとき……。

 

いろんな場面で使える、リズムのある、あたたかい歌の数々が、岩崎さんの可愛らしい水彩画とともに並べられています。

赤ちゃんに見せるには色彩が淡くて、認識しづらい、という意見がありますが、これは読み聞かせ絵本というより、親が読むための本ですから、絵も親が楽しめればいいでしょう。

 

岩崎さんの絵は、見ているだけで優しい気持ちになれます。

 

おつむ てんてん」「かいぐりかいぐり」「とっとのめ」などの、赤ちゃんとのスキンシップ遊びのやり方も説明してくれています。

 

実をいうと私は、息子が生まれた当時、子守唄の一つも歌えなかったのです。

もしかすると、現代のお母さん方には、そういう人も増えているのではないでしょうか。

 

特に男性に言えることですが、子どもを持ったからといって、その瞬間に本当の親として振る舞えるようになるわけではありません。

いくら頭で考えて「親」になろうとしても、経験を通さなくては理解できないことがたくさんあります。

 

親とは何か。

どうあるべきか。

 

それは、子どもから教わるものです。

ものを教わろうと思えば、自らコミュニケーションを図らなければなりません。

 

私が読み聞かせを通じて学んだことは、絵本を開くことは、子どもに何かを教えてもらうための扉を開くことでもある、ということです。

 

読み聞かせが子どもに言葉や知識を与えることは事実ですが、それらはあくまで「おまけ」です。

目に見えないところで、親も子も、絵本からもっと大切なものを受け取っているのです。

 

推奨年齢:0歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

どこか懐かしい言葉度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「あかちゃんのうた

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絵本の紹介「おやすみなさいおつきさま」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

大人にとっても、子どもにとっても、眠りに入る前の時間というものは大切です。

睡眠の直前は、最も暗示にかかりやすいと言われています。

できる限り、眠る前にはストレスや悩みから精神を開放してやって、明日への希望とともに眠りにつくことが、心身の健康のためにも重要です。

 

せめて、子どもが眠る一時間前からはテレビやPCを消し、多過ぎる情報から守ってあげましょう。

眠る前の子どもに絵本を読み聞かせることは、単に寝かしつけるためだけでなく、そうした観点からも良いことと言えます。

 

眠る前の絵本と言えば必ず挙げられる一冊、「おやすみなさいおつきさま」を紹介します。

1947年に発表された、これまた古典中の古典ですが、現在に至るまでずっと支持され続ける、本物のロングセラーです。

オバマ大統領が「人生最初の一冊」とし、雅子妃が「思い出の宝物」とされていることでも有名ですね。

 

作者のマーガレット・ワイズ・ブラウンさんは、自分では絵を描かない絵本原作者ですが、本当に数多くのすぐれた本を書きました。スコット社という出版社のカリスマ的編集者でもあり、たくさんの画家や作家が彼女の周りに集まりました。

 

その中でも、ブラウンさんが最も強く惹かれた画家が、この絵本の挿絵担当のクレメント・ハードさんです。

この絵本の独創的な試みは、場面を「おおきなみどりのへや」に限定しているところでしょう。

そこで、今から眠りにつこうとする子うさぎが、目に映る色んなものに「おやすみ」を言います。

ページをめくるごとに、カラーとモノクロが入れ替わります。

英語の原文では、

GOODNIGHT CHAIR

GOODNIGHT BEAR

といった風に、韻を踏んだ文章になっており、訳者の瀬田貞二さんが、その心地よいリズムを壊さぬよう、心を配っているのがわかります。

また、場面は一つに限定されていますが、ページごとに視座が変わっており、ねずみや子猫やおばあさんといった部屋の住人たちも、流動的にその位置を変えています。

そしておしまいに近づくにつれ、だんだん部屋が暗くなっていく工夫も施されています。

 

幻想的な雰囲気を持つ絵本ですが、よく読んでみれば、ここには非現実的な存在は描かれていません。

おつきさまをとびこしてるうし」の絵も、「にんぎょうのいえ」も、ちゃんと部屋に存在しています。

にもかかわらず、空想的に思えるのは、これが見事なまでに子どもの目に同化している作品だからではないでしょうか。

 

子どもにとっての世界との距離感、空想と現実の淡い境界線、しかし同時に徹底的に現実的な「ありのまま」を見据える目。

子どものとき、確かに世界はこんな風に見えていたのではなかったか……。

そんなことをふと考えさせられる絵本でもあります。

 

 

「探し絵」の要素もある作品ですが、よく見ると、壁にかかっている絵は、同じブラウンさんとハードさんの合作「ぼくにげちゃうよ」(原題・The Runaway Bunny)の一場面です。

さらに、本棚にも……。

 

 

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