【絵本の紹介】「うたいましょうおどりましょう」【471冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「うたいましょうおどりましょう」です。

作・絵:ベラ・B・ウィリアムズ

訳:佐野洋子

出版社:あかね書房

発行日:1999年12月1日

 

かなり前にこのブログで取り上げた「かあさんのいす」から繋がるお話です。

 

≫絵本の紹介「かあさんのいす」

 

(たぶん)カリフォルニアに住む主人公、母、祖母の女ばかりの家族。

下町の人情や逞しい暮らしぶりなどが伝わる物語の雰囲気は健在。

この「うたいましょうおどりましょう」の前に「ほんとにほんとにほしいもの」という作品があり、「かあさんのいす」三部作ということになっています。

 

家に父親はおらず、母親の稼ぎが一家を支えています。

火事に遭って焼け出されたり、なかなか辛い経験をしてきた一家ですが、嘆いたり悲しんだりせず、日々明るく一生懸命。

しかし生活は決して楽ではない。

みんなで貯めたお金で買った素敵な「かあさんのいす」は最近では空っぽ。

母さんは以前よりもっと働かなくてはならず、それなのにあのお金を貯めていた瓶も空っぽという状況です。

その理由はおばあちゃんが病気で寝ているから。

いつも優しく明るいおばあちゃんは主人公の少女だけでなく、その友達からも慕われる人気者。

そんなおばあちゃんが病気とあって少女たちは寂しそうにしています。

 

主人公は前作で買ったアコーディオンの練習を続けています。

その時彼女に名案が浮かびます。

仲間たちと音楽バンドを結成してお金を稼ごうというのです。

 

おばあちゃんに考えを伝えると、「あんたたちならできると思うね」と励ましてくれます。

そこで主人公は仲良し四人組で猛練習を始めます。

音楽の先生やおばさんに演奏を見てもらいながら。

 

そしてついに初めての仕事がやってきます。

友だちのレオラのお母さんから、お店の五十周年パーティーで音楽を演奏してほしいという依頼です。

近所の人たちもみんな集まったパーティーの日、緊張しながらも少女たちは演奏を始めます。

みんなは浮き浮きして踊り出します。

演奏は大成功。

レオラの曽祖父母からも感謝され、レオラは母親からお金の入った封筒を受け取ります。

 

みんなはお金を4等分し、主人公はあの大きな瓶にお金を入れるのでした。

 

★            ★            ★

 

実を言うと私はこの手の話を見ると悲しくなってしまうんです。

上記した通り、作品そのものはとても明るく力強く、惨めさや辛さを微塵も感じさせませんけど、貧しさから働きづめに働かなくてはならない母親とか、そんな家庭の事情を知っているから健気に貯金したり、自分でもお手伝いやお金を稼ぐ手段を考える娘とか、無性に泣きそうな気持になってしまうんですね。

 

どうかこの家族がお金に困らず、幸せに暮らしてほしい。

娘はアルバイトしたお金を自分の好きなように使って欲しい。

主人公がアコーディオンを買う経緯は前作「ほんとにほんとにほしいもの」で描かれていますが、それもまた泣ける。

 

もちろんそれは私の個人的な感傷で、こうした暮らしの中で深まる家族の絆や、町の人々の温かさなど、勇気づけられる物語であることは言うまでもありません。

 

決して暗い雰囲気にならないのは、鮮やかな水彩画の楽しさによるところも大きいでしょう。

人々の表情も実に豊か。

暮らしぶりは現代日本とは違う部分も多いけど、家族や町の人々といった共同体の温かさ、絆といったものはしっかりと読者の心に届くでしょう。

 

絵柄は三部作通してほぼ変化しませんが、一作目に比べると主人公がずいぶんと美人になった気が。

心身ともに成長しているってことでしょうかね。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

一作目からの主人公の成長度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「うたいましょうおどりましょう

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「おんがくかいのよる」【442冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私自身には音楽的素養がまるでないのに、というか、ないからこそ、というか、子どもには幼い頃から音楽に親しんでもらいたいという想いがあります。

音楽に対する理解や感性は勉強で手に入るものではなく、それこそ音楽に埋もれるようにして育つ環境の力によるところが大きいので、まさに文化資産というべきものだと思います。

 

今回はたしろちさとさんの「おんがくかいのよる」を紹介します。

作・絵:たしろちさと

出版社:ほるぷ出版

発行日:2007年9月25日

 

たしろさん、このブログでは初めて取り上げますけど、絵が大変魅力的です。

作品によってタッチを変えていますが、この「5ひきのすてきなねずみ」シリーズの絵の具のかすれ具合とか、細かい描き込みとか、抒情的な色彩とか、特に好きですね。

 

お話は民家を巣にしている5ひきのねずみたちが、ある満月の晩に美しいメロディに惹きつけられて、かえるの音楽会を覗きに行くところから。

見開きから扉にかけてすでにストーリーは始まっており、テキストだけではわからない5ひきの個性もここにしっかりと描かれています。

 

5ひきはかえるの歌声に魅了され、もっと近くで聴こうとしますが、「かえる以外お断り」と、すげなく追い出されてしまいます。

音楽の素晴らしさが忘れられない5ひきは、歌は歌えなくても楽器を使えばと思いつき、さっそく様々な材料から楽器を作り始めます。

家庭で手に入るような身近な物を工夫して利用した楽器の数々が本当に楽しい。

5ひきは練習を重ね、ついに自分たちで音楽会を開くことにします。

 

ねずみ集会所(なかなか立派なコンサートホール)で、たくさんのお客さんを前に、5ひきは熱意のこもった演奏を披露します。

会場は拍手の渦。

と、5ひきは入口の近くでこっそり覗いているかえるたちに気が付きます。

 

客のねずみたちは眉を顰めますが、5ひきは彼らを舞台に呼んで、歌と楽器のコラボに誘います。

素晴らしい演奏と歌唱に、会場に集まったすべてのねずみやかえるは恍惚と聴き入り、音楽会が終わった時には心を一つにし、また一緒に音楽会を開くことを約束するのでした。

 

★                   ★                  ★

 

私たちは息子が赤ちゃんの頃からなるべく部屋にクラシック音楽を流したり、足りないながらも様々な音楽に触れ合う機会を作ろうとしてきました。

しかしながら息子は、「何回でも同じ曲をリピートし続ける」という聞き方をするんですね。

CD一枚とかならいいんですが、1曲だけを無限リピート(落語なんかもこういう聞き方します)。

親の方が「もうその曲はいいよ…」とげんなりしてしまいます。

 

それだけ聞き込めばかなり耳も発達しそうなものですが、どういうわけか息子は音痴です。

歌うことは好きなんですけど、いつも音を外しています。

耳は恐ろしくいいんですが。

 

また、小学生になったらコンサートなども連れて行ってやろうと考えてたんですけど、ウィルスの流行などでそっちもずっとお預けです。

もっとも、じっとしていられない、黙ってられない息子をコンサートホールに連れて行けるとも思えませんが…。

同じ理由で習わせたかったピアノも断念。

 

残念といえば残念ですけど、音楽そのものは大好きなようで、それだけで十分かもしれません。

この絵本のように空き缶や輪ゴムなんかを使って、自分で楽器を作ったりもします。

 

話は逸れますけど、私はこの作品の絵に、ジョン・バーニンガムさんの「バラライカねずみのトラブロフ」っぽさを感じますね。

聴覚を刺激されるような絵本作品は読んでいて最高に心地いいです。

 

≫絵本の紹介「バラライカねずみのトラブロフ」

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

手作り楽器の面白さ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「どんくまさんみなみのしまへ」【437冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

お盆も過ぎ、学校の夏休みも半分以上終わってしまいましたが、我が家の息子は今年も特にどこにも出かけず、基本的に家で過ごしています。

考えてみれば小学校生活そのものがコロナに付きまとわれているようなものなので仕方のない面はあるのですが、親としては何らかのイベントがないと可哀そうだなと思ってしまいます。

 

ただ、本人はそういうことに興味がないのか、今は家でマインクラフトに夢中です。

毎日関連本を読み漁っています。

 

どこにも行けない夏にうんざりして、日常を離れて旅をしたいと思っているのは私の方かもしれませんね。

今回は至光社の人気シリーズより「どんくまさんみなみのしまへ」を紹介します。

作:蔵冨千鶴子

絵:柿本幸造

出版社:至光社

発行日:1986年

 

どうぞのいす」などで知られる柿本幸造さんの作品の中で最も長いシリーズ「どんくまさん」。

素朴で温かみのあるタッチ、そしてキャラクター造形やストーリーも絵の印象通り、のんびりとして優しく、ほっとするような温もりに包まれます。

 

≫絵本の紹介「どうぞのいす」

 

「気は優しくて力持ち」を代表するようなどんくまさん。

不器用で失敗ばかりするけれど、その人柄に自然と人が集まってきます。

 

今回は「ずっと まえから ゆめみてた」という南の島へ、ふらふらになったどんくまさんが辿り着くところからお話がスタート。

船が嵐にでもあったんでしょうか。

砂浜で倒れているところに島のうさぎの子どもたちが集まってきて、食べものをあげたり葉っぱのこしみのを着せてあげたり、すぐに仲良くなって遊び始めます。

 

けれどもその様子を双眼鏡で見ていた物知りうさぎがやってきて、よそものの「かいぶつ」であるどんくまさんを警戒し、子どもたちを家に帰してしまいます。

ひとりぼっちになったどんくまさんは美しい海を泳いで綺麗な魚を捕まえ、子どもたちに見せようとしますが、それも大人たちに咎められ、しょんぼり。

でも子どもたちはどんくまさんと遊びたくて家を抜け出して集まってきます。

その時島をハリケーンが襲います。

 

どんくまさんは大きな体で子どもたちを守り、一晩中砂浜に伏せてハリケーンをやり過ごします。

朝になって大人たちが子どもたちを心配して出てきますが、子どもたちはみんな無事で、どんくまさんは倒れたヤシの木を起こして島の復旧に働いていました。

大人たちもすっかりどんくまさんを見直し、どんくまさんは晴れて島の一員として迎え入れられます。

楽しい日々を過ごした後、ふと帰りたくなったどんくまさんは、物知りうさぎから友だちの印にもらった双眼鏡を持って帰路に就くのでした。

 

★                   ★                  ★

 

南国への漠然とした憧れは昔も今も変わりませんね。

行ってみたいです。

 

ろくなニュースが流れない、土地も人の心も狭苦しい日本を離れて、ヤシの木陰で昼寝したい。

まあ仮に行けてもどうせすぐに帰ってこないと駄目なんですけどね。

だからこそいいのかもしれませんけど。

 

私が子どもの頃はまだ日本が今ほど貧乏でなくて海外旅行も何度か経験できましたが、やはり子どもにはその有難さがあまりわかってなかったし、大人になった今こそ主体的に旅行を楽しめる気がしています。

そう考えると、息子に旅行やイベントを経験させてやりたいという親心も、単なる自己満足なのかもしれません。

 

早く元の生活に戻って心置きなく旅行できるようになって欲しいですね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

優しい気持ちになれる度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ひとつふたつみっつ」【430冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私は今江祥智さん&長新太さんのペアによる児童小説で育った口で、小学生の頃は「さく:いまえよしとも、え:ちょうしんた」と表紙に書かれていればとりあえず全幅の信頼をおいて読み始めたものです。

今江さんのユーモアあふれる文章、ほっとするような、それでいてどこかに寂しさを感じるような語り口。

挿絵の時の長さんは、いつものナンセンスな作風を控えめにしていますが、とぼけた表情のキャラクターが今江さんの物語を膨らませており、何度読んでも飽きさせません。

 

今回はその二人による作品「ひとつふたつみっつ」を紹介します。

作:今江祥智

絵:長新太

出版社:BL出版

発行日:2002年11月1日

 

初出は1968年といいますから実に50年以上も前のお話になります。

その時も挿絵を担当した長さんが10年後に新たに絵を描き、新版として出版され、さらに20年の月日を経て一冊の絵本として世に出たのがこの作品です。

 

「黒」をテーマにした作品ということで、絵には黒が多く用いられ、テキストのページも黒に白抜き文字。

そのためにどこか暗く、寂しい印象を受けますが、それは削りに削られた多くを語らない詩のような文による効果でもあります。

主人公の少年の父親が帰らない朝が「ひとつ ふたつ みっつ」続きます。

母親によると仕事で帰らないそうです。

少年にはよくわかりません。

 

ある時、黒い車に乗せられて、少年は母親と広いホールのある建物に連れていかれます。

舞台上に現れたのは黒いタキシードに身を包み、指揮棒を持った父親。

指揮棒を振るうと、大勢の楽士が揃って動き出し、音楽が広がります。

まっくらなそらに あおいほしが ひとつ ふたつ みっつ……と ひかりはじめたような きがした

 

★                   ★                  ★

 

手持ちの語彙が少ないとは、世界を認識するのに必要な言葉の量を持たないということです。

自分を包括する世界の現象、自分の心情、そうしたものに名前がない(わからない)ゆえに、子どもは境界線がぼやけた夢のような世界に生きることになります。

だからこそ、そこで起こる出来事は何の障壁もなくまっすぐに心に届き、突き刺さるのです。

 

今江さんの文はまさにそんな子どもの世界を的確にとらえており、それゆえ子どもの心を掴んで放しません。

私は子どもの頃、今江さんの書くお話を読みながら「もっと話してよ」「もっと突っ込んで説明してよ」という気持ちを覚えたものです。

何かを感じた時、それを言い表す言葉を求めて本を読み漁り、結局言葉は見つからず、心に何かが残るだけ。

しかしそれを繰り返すことによって子どもは手探りで言葉を拾い集め、自我を形成していくのです。

 

今江さんのような児童作家がいて、長さんのような絵を描く人がいてくれた私の子ども時代はきっと恵まれていたのでしょう。

 

余談になりますが、今江さんの古い作品って登場人物のセリフが「」でなくて頭に――という表記で書かれているんですね。

時代なのかもしれませんが、私の感覚だとこの――から始まるセリフは実際に発した言葉ではなく、心の中で思ったセリフと受け取る癖がついているため、どうしても音の感覚から遠くなります。

今江さんの作品にどこか寂しい印象を受けるのは、もしかするとこれが原因のひとつかもしれません。

個人的な話ですけど。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

黒の印象深さ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「グロースターの仕立て屋」【422冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

前回「くつやさんと10にんのこびと」を紹介しましたが、よく似た話型のクリスマス絵本があったのを思い出したので持ってきました。

グロースターの仕立て屋」です。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1974年2月28日

 

この絵と表紙を見ただけですぐわかるでしょうけど、ご存じ「ピーターラビットの絵本」の15作目です。

このブログで取り上げるのは5回目。過去記事も是非目を通していただければと思います。


≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

≫絵本の紹介「パイがふたつあったおはなし」

≫絵本の紹介「ベンジャミン・バニーのおはなし」

≫絵本の紹介「ひげのサムエルのおはなし」

 

このシリーズの魅力を語り出すとキリがないうえに毎回同じことを繰り返してしまうので、どうか過去記事も併せてお読みください。

15作目とは書きましたが、それは福音館書店から翻訳刊行された順でして、原書としてはシリーズ3作目にあたります。

 

このシリーズは統一された世界観の中で、毎回がらりと違った印象を与えるのが特徴で、それは作者の巧みな文体の使い分けにも影響されています。

この作品では特にそれが顕著で、石井さんもその意をくんでか、訳文の文体をこれまでとはかなり変えてきています。

 

具体的な町の名前や時代背景が描かれ、「昔話」として語られるため、いつものように他作品のキャラクターがゲスト出演するということもありません。

 

グロースターの町に住む、一人の仕立て屋。

眼鏡をかけた貧相な男で、毎日働きづめですが貧乏な暮らしをしています。

クリスマスが迫る寒い冬、仕立て屋はグロースター市長が婚礼に着る上着とチョッキを仕立てる仕事を請け負っていました。

仕立て屋はシンプキンというねこと一緒に住んでおり、仕立て屋が店で仕事をしている間、シンプキンは家事を切り盛りしていました。

家に帰った仕立て屋は、今回の仕事で金が入るかもしれないが、今はもう4ペンスしかないことをシンプキンに告げ、その銀貨で食料と、仕事に使うあな糸を買ってくるように言いつけます。

シンプキンが出て行ったあと、仕立て屋は疲れ切って座り込み、うわごとのように仕事の内容を呟きます。

すると伏せてあった紅茶茶碗から妙な音が聞こえ、仕立て屋が茶碗を開けてみると中から婦人や紳士のねずみが出てきます。

 

帰ってきたシンプキンは自分が捕まえておいたねずみが逃がされていることに腹を立て、買ってきたあな糸を隠してしまいます。

仕立て屋は心労と疲れから高熱を出し、仕事もできずに寝込んでしまいます。

それでもシンプキンはまだ腹を立てていました。

 

そしてクリスマスイブの夜、腹をすかせたシンプキンは町へさまよい出ます。

仕立て屋の店の前まで来ると中から明かりが漏れており、覗いてみるとねずみたちが歌いながらハサミや糸を使って服を仕立てていました。

帰ったシンプキンは自分の行いを恥じ、あな糸を出して仕立て屋の掛布団の上に置いておきます。

目を覚ました仕立て屋はあな糸を見つけますが、市長の服の期限は今日の昼前。

とても間に合いません。

 

絶望しながら店に行った仕立て屋が仕事台の上を見ると、そこには見事に仕上がった上着とチョッキが置かれているのでした。

 

★                   ★                  ★

 

前述したように文体はシリーズ他作品とはかなり違い、ミュージカルのような絵本になっています。

何度も繰り返される「あな糸がたりぬ!」(No more twist!)のフレーズが印象的。

 

しかし歌うようなリズムで綴られるお話は、小さな子どもには読解が追い付かないかもしれません。

ポターさんは簡潔であっても決して平易な文章や単語だけを用いるわけではないからです。

 

けれども、そこはポターさん。

絵を見ればそこにテキストに語られていない部分が完璧に補完されていることに気づきます。

仕立て屋の店に出入りするねずみたちが普段から仕立て屋の裁ち屑で自分たちの小さな服を作っていたことや、仕立て屋のうわごとを聞いて仕事内容を理解し、店に入り込んで糸を使いだす様子など、ちゃんと絵を読めば理解できます。

 

シンプキンのキャラクターも実に人間臭く、いかにも作者らしい造形。

ポターさんの絵本には珍しく(?)はっきりと心温まるハッピーエンドになっているのも特別な感じがします。

 

ポターさん自身も、この作品を一番気に入っていたそうです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ねずみたちの服の優美度:☆☆☆☆☆

 

 

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