【絵本の紹介】「アンガスとあひる」【127冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは古典絵本「アンガスとあひる」です。

作・絵:マージョリー・フラック

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1974年7月15日

 

作者のマージョリー・フラックさんはワンダ・ガアグさん(「100まんびきのねこ」の作者)とともに、アメリカ絵本の基礎を築いたとされる人です。

日本での刊行は1974年のことですが、この絵本が発表されたのは実に87年前、1930年です。

 

色も少なく、コストカットなどの理由から片面カラーで、モノクロのページと交互に展開される印刷は、現代の目から見れば少々地味に映るかもしれません。

また、ストーリーも単純で、目を見張るほどのドラマはありません。

 

しかし、注目するべきは、その構成、ページ配分の妙、動きを持たせるための様々な工夫です。

絵本を単なる挿し絵のついた本や画集ではない表現分野にするための腐心とも言えます。

 

アンガスは好奇心旺盛なスコッチテリアの子犬。

見るもの嗅ぐもの、何でも知りたがりましたが、普段は紐に繋がれていて、自由に調べられません。

 

ある日、紐が外れているチャンスを得たアンガスは、以前から気になっていた庭の生垣の向こう側から聞こえる「ガー、ガー、ゲーック、ガー!」という音の正体を確かめに飛び出します。

音の正体は二羽のあひる。

アンガスは吠えたててあひるを脅かし、水飲み場から追い立ててしまいます。

勝ち誇ったように水飲み場を占拠するアンガス。

しかし……。

あひるたちの突然の逆襲に遭い、アンガスは慌てて逃げ出します。

そしてどうにか家に飛び込んで、ソファの下に潜り込みます。

 

★      ★      ★

 

この絵本の軸となっているのは、ひたすらアンガスの「行動」です。

読み手はページをめくることでアンガスの動きを追うわけですが、アンガスの位置(あひるに追われて、だんだん画面隅へ追いやられ、最後には尻尾のみになります)、さりげない文のリード(次のページへまたがる文が多数あります)、クライマックス前の静けさの演出(アンガスが水を飲み、あひるたちが不気味に話し合っている図)など、実によく計算されています。

 

そして、ラストシーンの3連続のアンガスの静止画と、

そして、とけいの きざむ、いち

に、

さんぷんかん、なにごとも しりたいと おもいませんでした

という文の呼吸も見事な効果を生んでいます。

 

派手さはなくとも、こうした様々な試みに成功したことが、のちの絵本作家たちに多大な影響を与えたことは間違いないでしょう。

そしてもちろん、この「アンガスとあひる」は現代でも子どもたちに読み継がれ、じゅうぶんに支持される作品であり続けています。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

静と動の巧みな使い分け度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「アンガスとあひる

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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絵本の紹介【100冊目】「ピーターラビットのおはなし」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はついに100冊目の絵本紹介です。

取り上げるのは、世界的名作「ピーターラビットの絵本」シリーズから、その記念すべき第一作「ピーターラビットのおはなし」です。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:2002年10月1日(新装版)

 

先日、「ピーターラビット展」へ行ってきました。

その時の記事で、ビアトリクス・ポターさんの生涯などを紹介しておりますので、そちらも併せてご覧ください。

 

≫「ピーターラビット展」に行ってきました。

 

上の記事でも触れていますが、私がこのシリーズを読んだのは息子が生まれてからなんです。

読み聞かせするには、サイズが小さいし(縦15×横11程度の絵本です)、文が多くて、どちらかというと自分で読むための絵本という印象を受けます。

 

でも、試しに息子に読んでみたところ、あっという間に「お気に入りの本」扱いになり、特にこの第一作は何度でも繰り返してリクエストするようになりました。

 

そして私自身も、ピーターと、彼を取り巻く世界の虜になってしまいました。

 

この小さな絵本が、どうして36か国語に訳され、4500万部も売れたのか。

大人・子どもを問わず、読む者を惹きつけて離さないその魅力の源は何なのか。

 

私は、それは「リアリティとファンタジーの、究極の結合」にあると思います。

 

まずは、内容をざっと見てみましょう。

おおきなモミの木の下の家に住む、子ウサギのピーター。

父親はすでに亡く、母親と、3匹の妹たちと暮らしています。

 

ある朝、お母さんが買い物に出掛ける際、子どもたちを集めて言います。

おひゃくしょうのマグレガーさんとこの はたけにだけは いっちゃいけませんよ

そして、ピーター達の父親は、マグレガーさんの奥さんに「にくのパイ」にされてしまったという、読者にとってわりと衝撃の事件を語ります。

 

でも、いたずらっ子のピーターはそんなお母さんの言いつけなど聞いちゃいません。

それは絵からすでに読み取れます(妹たちはお母さんの方を向いているのに、ピーターは反対を向いています)。

 

果たして、お母さんがいなくなるやいなや、ピーターはマグレガーさんの畑に侵入し、手当たり次第に野菜を盗み食いします。

食べ過ぎで胸が悪くなったピーターは、パセリを探しに行く途中、マグレガーさんにぱったり遭遇してしまいます。

何しろ捕まったら「にくのパイ」ですから、ここの逃走劇は本当に命がけです。

ピーターは必死に逃げ、途中で上着も靴も無くし、やっとの思いで森の家に辿り着きます。

 

その晩、ピーターはお腹を壊し、お母さんに薬を飲まされ、ベッドに寝ていなければなりませんでした。

 

★      ★      ★

 

「ピーターラビットの絵本」がネット上で「実は怖い!?」などと噂されるのは、「にくのパイ」に代表される、「食べられエピソード」にあると思います。

 

このシリーズにおいて、人間や動物たちは共存してはいても、「みんななかよし」の甘い幻想世界の住人ではないのです。

 

ひげのサムエルに、だんごにされそうになる子猫のトム。

フロプシーの子どもたちをかどわかして食べようとするアナグマ・トミー。

ふくろうのブラウンじいさまに皮を剝がれそうになるりすのナトキン。

人間たちは、ぶたを労働力として使い、時にはベーコンにしてしまいます。

 

しかしその一方で、動物たちは服を着たり脱いだりし、後ろ足で立って歩き、商売をして生計を立て、言葉を解します。

これらの「空想」は、上記の「甘くない現実」の上に構築されるがゆえに、圧倒的なリアリティを生じさせます。

 

リアリティとファンタジーの究極の結合」とは、こうした点です。

 

それは絵の表現においても顕著です。

 

ピーターはある絵では人間の男の子にしか見えません。

しかし、他のカットでは、うさぎそのものとして描かれています。

驚嘆すべきは、それらに何の矛盾も感じないという点です。

 

これは死んだうさぎを解剖して骨格まで調べたというポターさんの精緻な画力によるものですが、ピーターが後ろ足で立つ姿も、

「もしうさぎが靴を履いて後ろ足で立ったとすれば、こういう姿勢になるはずだ」

という、冷静な観察と分析のもとに描かれているから、無理を生じないのです。

 

また、シリーズ通して描かれる美しい自然や建物は、ポターさんが生活した湖水地方やヒルトップ農場の風景を再現したものです。

 

こうした特徴ゆえに、頭の固い大人たちの中からは、子どもがこのお話を読むことで「現実と空想の区別がつかなくなる」という批難の声が上がるかもしれません(現に、当時からそうした批判は多かったようです)。

 

そういう大人たちは、不幸な子ども時代を送ったがゆえに健全な想像力を育てられなかった哀れな人々ですから、そっとしておきましょう。

ただ、将来ある子どもたちの害とならないよう、引っ込んでいて欲しいと願うばかりです。

 

現実と空想は対立するものではありません。

それらは相互補完の関係にあります。

 

子どもはその卓越した想像力を行使して、真実を理解します。

空想は現実の理解を助け、現実は空想を育てるのです。

 

こんなことは、いちいち説明するまでもなく、子どもの成長を見ていればわかることです。

 

磨き抜かれた想像力は、透徹した現実的観察力となる。

 

これが真実であることは、作者の人物像が何よりも雄弁に物語っています。

 

ポターさんの子ども時代はけっして幸福なものとは言えず、厳格な両親のもとで、牢獄に繋がれたような毎日を送っていました。

同年代の友達も作れず、自由に外出もできず。

 

そんな中で、少女を孤独から救ったのは想像力でした。

彼女はその類稀なる力で、動物と会話し、自然と触れ合い、自分だけの―――そしてやがて「ピーターラビットのおはなし」に繋がる世界を創造していったのです。

 

ポターさんが若いころに記した暗号日記が残され、解読されていますが、その中には、「実際に」彼女が動物たちと会話していたらしい記述が認められます。

私は、彼女が本当に動物たちの言葉を聴くことができたのだとしても驚きませんが、こうした「空想」を逞しくしていった結果、彼女は現実世界から遊離した、ふわふわと地に足のつかない人間になったでしょうか?

 

ポターさんほど多くの研究者の対象となった絵本作家は稀ですが、それは彼女が単に世界的名作の作者であるというだけではなく、極めて優れた経営手腕を持った女性だったからです。

 

もともとは知り合いの息子に向けて作った「ピーターラビットのおはなし」を絵本化しようと、ポターさんは自ら出版社と交渉し、断られると自費出版に踏み切り、たちまち人気作家となります。

彼女が凄いのは、シリーズの絵本・ぬいぐるみ・おもちゃなどに関する版権をすべて押さえていたこと(弁護士の夫の力もあるでしょうけど)。

そしてその収益をもとに、農場経営や自然保護などの活動に取り組んだのです。

 

これらの現実的生活力や認識力・分析力は、現実と空想を結び付ける想像力を源としているとは言えないでしょうか。

 

もうひとつ、私が気に入っている点は、ポターさんの語り口です。

ピーターは親の言いつけを聞かなかったために散々な目に遭いますが、作者の抑制的な文章によって、それは少しも教訓的な話になっていません。

 

ただ、大人が考えるほどに甘くも平和でもない「子どもの世界」を、完全な形で描いた絵本に巡り会えたことが、子どもにとってどれほど心強い「生きる力」となるかは、想像に難くないのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

現実と空想の絶妙な配合度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ピーターラビットのおはなし

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絵本の紹介「かしこいビル」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

毎回、古典から新作まで、なるべくジャンル問わずに様々な絵本を取り上げているつもりですが、やっぱり古本屋の性か、全体としては古いものが多いです。

今回は(また)うんと古い作品を紹介しましょう。

1926年に描かれ、今なお人気の高い絵本、「かしこいビル」です。

作・絵:ウィリアム・ニコルソン

訳:松岡享子・吉田新一

出版社:ペンギン社

発行日:2003年4月

 

初めて読んだ時、どこかで見た絵と作者名だと思っていたんですが、このブログでも取り上げたクリスマス絵本の名作「ビロードうさぎ」の挿絵の人でした。

 

≫絵本の紹介「ビロードうさぎ」

 

作者のニコルソンさんは、「ビロードうさぎ」の挿絵が好評だったのをきっかけに、自分でも娘のメリーのために絵本を描き始めます。

しかし、その点数は実に少なく、この「かしこいビル」の他には「ふたごのかいぞく」しか残されていません。

 

にもかかわらず、その素晴らしい完成度が後世の絵本作家たちに与えた影響は、とても大きいものでした。

 

ストーリー自体はとてもシンプルで短いものです。

けれども、その構成は見事で、読んでいる者をぐいぐい引き付ける力に満ちています。

おばさんから手紙をもらったメリーは、お泊りの用意を始めます。

 

連れて行くのは、お気に入りの人形やおもちゃたち。

車輪付きの馬「あしげのアップル」。

女の子の人形「スーザン」。

そして、近衛兵の人形「かしこいビル」。

 

それに着替えや身の回りの物などをトランクに詰め始めます。

なかなかきちんと収まらずに、出したり入れたりしているうちに、時間が無くなって、めちゃくちゃに押し込んで蓋をします。

 

ところが……

ビルを入れ忘れてしまいます。

 

2ページを「なんと!!」「なんと!!!」の文字のみに使った盛り上げ方と、失意のあまり水たまりができるほどに涙を流すビルの姿が、おかしみと同情を誘います。

 

でも、かしこいビルは決然と立ち上がり、メリーを乗せた汽車を追いかけ始めるのです。

このユーモラスながらも懸命な走りっぷりからは、ビルの実直さや必死さ、メリーへの想いなどが伝わってきて、知らず知らず応援せずにはいられません。

 

そしてとうとうドーバー駅でメリーに追いつき、感動の再会を果たします。

メリーは彼に歓迎の花束を贈り、裏表紙で熱烈な抱擁とキスを交わします。

 

★      ★      ★

 

この絵本が名作と言われるゆえんは、まず文章以上に絵が物語っている点。

「絵本の絵」の、ひとつの理想形と言えます。

 

トランクに物を詰め込むシーンでは、文は「こう つめてみました」「こうしてみて、それから」「こんどは こうやって」と、説明の一切を絵に任せています。

 

そして、結局トランクの蓋をする画面では、すでに入れ忘れられているビルの姿を確認でき、今後の展開を予想させます。

 

ビルの力走は彼の姿がだんだん小さくなっていくことで表され、物言わぬ人形たちは仕草で感情を表現します。

 

また、物語のペース配分も巧妙で、ビルが置いてきぼりをくってからの急転直下の展開はスピード感に満ち、ラストシーンまで一気に(文字通り)駆け抜け、子どもの興味を途切れさせません。

 

初めての(というか、2作しかありませんが)絵本でありながら、絵本というものを知り尽くしたようなニコルソンさんの手腕とセンスには脱帽するばかりです。

 

父親からこんな素敵な絵本を贈られた娘さんは、きっと幸せだったに違いないでしょう。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

絵の雄弁さ度:☆☆☆☆☆

 

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絵本の紹介「しずかなおはなし」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

うまい読み聞かせって、どういうものでしょう。

何千回と繰り返して、毎日のように絵本を読み聞かせていても、いまだに自分がうまいとは思えません。

 

ゆっくりと、歌うように

というのは基本です。

絵本の内容や構造、テーマに応じて、読み方は変化します。

 

それは、声優の仕事に似ているかもしれません。

いくら脚本や映像の出来がよくても、作品に命を吹き込むべき声優の演技がまずかったり、役どころを理解していなかったりしては、作品を殺してしまうことになりかねません。

 

絵本によっては、読み手は自分の存在を消し、抑制的に読む必要もあります。

そうすることで、子どもをうまく想像の世界へ導いてやるのです。

 

これは、子ども自身の性質や、普段から絵本に慣れているかどうかなども関わってくるため、なかなか難しいことですが、それだけに、成功したときは感動ものですよ。

 

今回紹介するのは、そんな絵本「しずかなおはなし」。

文:サムイル・マルシャーク

絵:ウラジミル・レーベデフ

訳:内田莉莎子

出版社:福音館書店

発行日:1963年12月20日

 

ちいさな こえで よむ おはなし。そっと そっと そっと……

という、とても印象的なフレーズで始まるお話。

自然と、読む声を小さくしてしまいます。

 

私も最初は、子どもを寝かしつける絵本かな、と思っていました。

しかし物語の内容は、意外とハラハラドキドキ。

はりねずみの家族が、夜の森を静かに散歩しています。

 

しかしそこへ、二匹の狼が、こっそり忍び寄ります。

はりねずみの両親は気づいて、体の毛を逆立て、丸くなります。

あたまを おかくし まるくおなり!

と、両親に促され、ぼうやも丸まります。

 

狼たちは、はりねずみの家族の周りをぐるぐる回りながら、唸ったり飛び跳ねたり。

ぼうやはじっと耐えます。

諦めきれない狼たちでしたが、猟師の鉄砲の音が響き、急いで逃げて行きます。

 

はりねずみの家族は無事に森の家に帰り着きました。

 

★      ★      ★

 

どこが静かなお話だ?

と首を傾げたくなる方も多いでしょう。

 

でも、これは前述したように、子どもを物語の世界へ引き込むための、いわば「仕掛け」なのです。

 

さあ、これからおはなしをするよ。静かに、静かに……

と、秘密めいた口調で、声のトーンを落とせば、子どもは周囲のあれこれから感覚を遮断させ、絵本に集中します。

これから始まるお話への期待がそうさせるのです。

 

舞台は森。

絵本において、森の中は神秘の象徴です。

森の中には、非日常の事件があります。

 

はりねずみたちの「とぷ とぷ とぷ」という足音、忍び寄る狼の恐ろしい牙、体を丸めて恐怖に耐えるぼうや……子どもはいつしか物語に入り込み、手に汗を握るようにして次の展開を待ちます。

 

そして、はりねずみたちが無事に帰り着いた後の余韻。

 

読み終えて、子どもがしばらくじっと無言でいれば、読み聞かせは成功したと言えるでしょう。

 

作者のマルシャークさんは詩人です。

この短い物語は、それ自体がひとつの詩なのです。

 

その詩に、レーベデフさんの、静謐さと迫力を兼ね備えた美しい絵が効果を添え、一冊の絵本となっています。

日本語訳は、「てぶくろ」「おおきなかぶ」でおなじみの、安定の内田莉莎子さん。

 

読み聞かせの手ほどきの書」と、私は勝手に呼んでいます。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

夜に読みたい度:☆☆☆☆☆

 

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絵本の紹介「ババールのしんこんりょこう」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、人気シリーズ「ぞうのババール」の続編、「ババールのしんこんりょこう」です。

作・絵:ジャン・ド・ブリュノフ

訳:矢川澄子

出版社:評論社

発行日:1974年10月10日

 

第一作「ぞうのババール」については、以前に記事にしました。

「ババール」シリーズの誕生経緯や、テーマの考察、若くして亡くなられた作者のブリュノフさんに関することなど、色々取り上げておりますので、読んでおられない方は、先に過去記事をどうぞ。

 

≫絵本の紹介「ぞうのババール」

 

シリーズ絵本は数多いですが、たいていは1冊ごとに独立した物語になっており、どの作品から読んでも問題ないものがほとんどです。

ゆえに、シリーズの順番などは、出版年月日を確認しないとわからないものも多く、そもそも「シリーズもの」であることすら気が付かない作品すらあります。

 

そんな絵本界にあって、「ババール」シリーズは、わりと前作からの物語の流れをしっかり受け継いだ大河ロマン的内容になっており、設定なども引き継がれているために、時系列を追って読まないとわからない点もあります。

 

ぞうの国の王さまとなったババールが、妃のセレストとともに、気球に乗って新婚旅行へ……というところまでが前作「ぞうのババール」でした。

 

さあ、第二作となる「ババールのしんこんりょこう」では、前作よりはるかに波乱万丈な展開が待ち受けています。

シリーズの醍醐味とも言うべき最強のご都合主義はそのままですが、今回はババールも結構苦労します。

まず、いきなり嵐に遭遇し、ババールとセレストの気球は墜落します。

幸い怪我もなく、ふたりはとりあえず服を乾かし、食事を作ります。

 

が、この島に住む「ひとくいじんしゅたち」が、セレストの寝込みを襲います。

しかし、すぐにババールがセレストを救い出し、人食い人種たちを蹴散らします。

都会育ちなわりに、なかなか逞しいババール。

 

それから紆余曲折あり、どうにか大きな船に救助されたふたりですが、猛獣使いのフェルナンドのサーカスへ売り飛ばされてしまいます。

芸をさせられるババールとセレストの図。

この画面の左端には、真剣な表情でババールたちをスケッチしている男性がいますが、これは作者のブリュノフさんでしょうか?

 

さて、一方そのころ、ぞうの国では幼いアルチュールのいたずらに端を発し、さいの国との戦争にまでもつれ込んでしまいます。

 

そうとは知らないババールたちですが、パリの街での興行中に、やっとサーカスを抜け出し、懐かしい(優しくて大金持ちの)おばあさんのもとへ逃げ込みます。

 

おばあさんはふたりを連れてぞうの国へ。

途中でスキーを楽しんだりして、これまでの辛い出来事から逃れた幸せな時間を満喫します。

 

ところが帰ってみると、ぞうの国はさいの国に攻め込まれて荒れ果てていました。

 

みんなと再会したババールは一計を案じ、さいの軍隊を撃退。

ぞうの国に再び平和を取り戻します。

 

記念式のあと、ババールは国の再建に向けて努力することを決意し、おばあさんにも協力を願います。

 

★      ★      ★

 

これを読んではじめて、「ババール」シリーズについて回る「植民地主義を肯定するような、政治的内容」という批判に思い当ります。

たしかに、「げんじゅうみんの やばんな ひとくいじんしゅたち」という表記や、ババールたちから奪った大きな西洋式の服に頭を突っ込む彼らの滑稽な姿は、差別的表現かもしれません。

 

西洋文化を身に付けたババールが、知恵と勇気で野蛮な人食い人種やさいたちを退治する、という構図から、帝国主義を読み取る大人もいるでしょう。

 

作者も、時代や環境から自由ではなかったのかもしれませんが、それでも私は、こうしたことで大騒ぎする精神が好きではありません。

以前にも書いたことですが、子どもに影響を与えるのは、絵本の内容以上に、それを読み聞かせる大人の人格です。

 

本当に子どもに差別精神を教え込んでいるのは、大人の言動なんです。

絵本の細かい内容が、子どもに「悪影響」を与えるのではと病的に心配する前に、大人は自らの行いを振り返るべきじゃないでしょうか。

 

どうも、最近の世の中の流れを見ていると、むしろこうした絵本の「差別的」と言われる側面をもっと抽出して、子どもに教え込むべきだ、と言い出す大人が出てきそうな気さえします。

 

思想なんてものは、大人が勝手にすがったり、攻撃したり、必死に守ったりしていればいい。

本当は子どもにはそんなもの、屁でもないんです。

面白いか、面白くないか。

子どもの価値判断は本来決して間違うことはなく、その基準に沿って生きていければ、幸せになれるはずなんです。

大人が余計な横やりさえ入れなければ。

 

そして、やはり私は、「ぞうのババール」で考察した、ブリュノフさんの作品に込めたメッセージを、この「ババールのしんこんりょこう」からも感じられるのです。

それはすなわち、

この世界には突然の、避けようもない不幸が存在する。

しかしそれでもなお、世界は楽しく、素晴らしく、幸せに満ちている

という子どもたちへのエールです。

 

楽しいはずの新婚旅行が、トラブル続きで散々な目に遭っても、途中から良い方向へ歯車が回り出し、最終的にはすべてが解決し、大団円となる。

今回もご都合主義で片付いたように見えますが、よく読み込めば、この「幸せへ向かう歯車」には、ひとつの法則というか、条件が存在します。

 

それは不幸の中にあっても、「落ち着いた対応」と「感情の均衡」を保つということです。

ですから、セレストが打ちひしがれているときにはババールがなぐさめ、ババールが我慢できずに怒りを爆発させたときには(ババールが「怒りを爆発させる」というのは、本当に珍しいことなのです!)セレストがなだめます。

 

人生の不幸に吞み込まれないためには、それが最上の態度であることを、作者は子どもたちに伝えようとしているのです。

 

絵本を読み聞かせる大人が、こうしたメッセージやテーマをしっかり汲み取っていれば、それはちゃんと子どもに伝わります。

表面的な表現が子どもに与える影響ばかりを気にする大人は、実のところは絵本というものを軽く見ているのではないでしょうか。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

くじらの記憶力度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入は商品詳細ページからどうぞ→「ババールのしんこんりょこう」「ぞうのババール

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