【絵本の紹介】「おしゃべりなたまごやき」【125冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

明後日5月21日は児童文学者・寺村輝夫さんの命日。

今回は氏の代表作「おしゃべりなたまごやき」を紹介しましょう。

作:寺村輝夫

絵:長新太

出版社:福音館書店

発行日:1972年12月10日

 

「王さま」シリーズ誕生となった「ぞうのたまごのたまごやき」と双璧を成す、姉妹作。

挿し絵は同じく長新太さんによるもの。

 

≫絵本の紹介「ぞうのたまごのたまごやき

 

「ぞうのたまごのたまごやき」では青を基調にした配色でしたが、今作は赤をベースに描かれています。

また、「ぞうのたまごのたまごやき」では冒頭に登場するのみだった王さまですが、今作では主役の面目躍如といった活躍を見せます。

王さまのデザインも、そのキャラクターに合わせて、よりとぼけたタッチになっています。

個人的には、内容・絵柄とも王さま「らしさ」がより鮮明なこちらのほうが好みですね。

 

毎朝のようにお城の人々の挨拶を粛々と受ける王さま。

でも返事は「あ、うん」ばかりで、退屈そう。

けれども、「ばんのおかずは、なににしましょうね」というコックさんの質問にだけは「たまごやきがいいな。めだまやきにしてくれ」とはっきり答える王さま。

 

やっと職務(?)から解放された王さまは、ひとりでお城の中を散歩。

ブロイラー飼育場のようなにわとり小屋の前に来て、ぎゅうぎゅう詰めのにわとりを哀れに思った王さまは、小屋のカギが差しっぱなしなのを見て、深い考えもなしに戸を開けてやります。

たちまちにわとりが大挙して飛び出し、大騒ぎになります。

兵隊たちが出動し、ピストルを撃ってにわとりたちを大人しくさせ、犯人捜しを開始。

 

王さまは自分に疑いが向かないよう、持っていたカギを窓から捨ててしまいます。

しかし、その様子を部屋に隠れていたにわとりに見られてしまいます。

それに気づいた王さまは、にわとりに、

だまっていろっ

 

その後、そのにわとりが産んだらしいたまごを拾った王さまは、後で食べるつもりで隠しておきます。

 

さて、兵隊たちの捜査は一向に進捗しません。

おまけに、にわとりたちがピストル音のショックでたまごを産まなくなってしまいます。

晩御飯に目玉焼き、という王さまのリクエストに応えられないことに責任を感じたコックさんは、自ら牢屋に入ってしまいます。

 

驚いた王さまは、隠しておいたたまごを取り出し、コックさんを牢屋から出してやるよう、大臣に言いつけます。

 

そして晩御飯。

王さまが目玉焼きにナイフを入れると……。

黄身の中から、王さまの声が流れ出します。

ぼくが、とりごやを、あけたのを

だれにも、いうなよ

だまっていろっ

 

にわとりは、王さまの秘密をたまごに閉じ込めておいたのです。

王さまは慌てて目玉焼きを吞み込みますが、そばにいたコックさんには全部聞かれてしまいます。

 

そこで、ふたりは顔を見合わせて……。

 

★      ★      ★

 

この作品で、「王さま」シリーズの設定はほぼ固まったと言えるでしょう。

大臣、隊長、コックさんといったおなじみの面々も登場。

王さまのキャラクターも確立されています。

 

浅慮、自分勝手、欲張り、その場しのぎの嘘、責任逃れ……。

大人から見れば性悪とも思えるこれら王さまの特徴は、しかしどこか憎めません。

 

それは王さまが子どもそのものであるからです。

寺村さんは、大人目線の都合のいい「天使のような子ども像」を排し、もっとリアルな、「ありのままの子ども」を書きます。

 

普段は「いい子」を演じている子どもでも、「王さま」を読めば、自分の心の底にある本性に気づきます。

だからこそ子どもは王さまを「自分自身だ」と感じ、深い共感を寄せるのです。

 

子どもが「自分を客観視すること」ができれば、物語が果たすべき役割の9割方は完了したと言えます。

だから、王さまは大したペナルティを受けないのです。

 

私はそこに、寺村さんの限りない子どもへの理解と優しさを見ます。

 

ちなみに、王さまの一人称はかつて「わし」でしたが(私の子どものころはそうでした)、現在刊行されているものはシリーズ通して「ぼく」に統一されています。

子どもへの共感に対する配慮からの変更でしょうけど、「わし」王さまに親しんできた身としては、むしろ王さまが少し遠くなってしまったようで寂しくもあります。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

ラッパ音の唯一無二度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おしゃべりなたまごやき

■姉妹作→「ぞうのたまごのたまごやき

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「ふたりはともだち」【119冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「ふたりはともだち」です。

作・絵:アーノルド・ローベル

訳:三木卓

出版社:文化出版局

発行日:1972年11月10日

 

がまくん」と「かえるくん」の友情をユーモラスに描いた名作。

5つのエピソードから成る短編集です。

最後の<おてがみ>が、長年に亘って教科書に採用されていることから、この作品を知る人はとても多いでしょう。

 

私自身は絵本を教材的に用いることは好きではありませんが、全編通しての格調高い文章や会話の妙は、子どもに読ませたい名文だと思います。

しかしやはり、<おてがみ>だけを読んでも、がまくんとかえるくんの関係性は掴み切れないと思います。

エピソードを最初から追っていくことで、ふたりの気質・お互いに対する想いなどがより繊細に浮かび上がってきます。

<はるがきた>では、かえるくんががまくんの家を訪ね、遊びに誘います。

でも、まだまだ眠っていたいがまくんは、「5月の なかばごろに なったら、もう 一かい きて おこして くれたまえよ」と、布団をかぶってしまいます。

それでかえるくんは、がまくんのカレンダーを破いて5月にしてしまいます(ちなみにうちの息子はこのシーンが大好きです)。

 

<おはなし>では、体の具合がよくないかえるくんが、がまくんに「ひとつ おはなしして くれないかい」と頼みます。

がまくんは家の前をうろうろしたり、逆立ちしたり、水をかぶったり、果ては壁に頭を叩きつけたりしておはなしを考えますが、思いつけません。

 

<なくしたボタン>は、森の中でなくしてしまったがまくんのボタンを、かえるくんが一生懸命探すおはなし。

自分のではないボタンばかりが見つかり、癇癪を起したがまくんは家に帰ります。

しかし、実はボタンは家にあり、申し訳なく思ったがまくんは、かえるくんにボタンをたくさん縫い付けた上着をプレゼントします。

 

<すいえい>では、川へ泳ぎに行ったものの、自分の水着姿を見られたくないがまくん。

しかし、そう言えば言うほど、動物たちが集まって……。

 

そして最も有名な<おてがみ>。

一度も手紙が来ないことを悲しむがまくんに、かえるくんは手紙を書きます。

それをかたつむりに託して、自分はがまくんの家で一緒に手紙を待ちます。

 

★      ★      ★

 

さて、最後の<おてがみ>ですが、この話を教科書で知った方、子ども心にも「なんか変」と思いませんでしたか?

どこか白々しいんですよね。

 

手紙を欲しがるがまくんに、手紙を書いてやるかえるくん。

けど、手紙はかたつむりが届けるので、当然遅い。

で、結局かえるくんはがまくんにネタバレしてしまうのです。

しかも、手紙の内容まで。

それでも、ふたりは「とても しあわせな きもちで」一緒に手紙が来るのを待ち続けるのです。

 

これを模範とすべき「美しい友情」として教科書掲載しているのだとしたら、少々安直だと思います。

 

全編通して読むとわかりますが、がまくんは相当に出不精で、殻に閉じこもりがちで、わがままです。

かえるくんはおおらかで、前向きで、社交的で、がまくんの甘えを全面的に受け止めます。

 

この「甘え、甘えられる」関係性を、ふたりはお互いに楽しんでいるようにも見えます。

 

カレンダーのトリックを、がまくんは気づいてたんじゃないかな、おはなしを考えるあまり壁に頭をぶつけるがまくんは、かえるくんの視線を意識してるんじゃないかな……と思いつつ読み進めていくと、ラストに最も白々しい<おてがみ>が来て、「やっぱり」となるわけです。

 

ローベルさんの巧みなところは、この「白々しさ」を、「偽りの友情」とは思わせないところです。

 

「ありのままの自分」で「何でも包み隠さずに言い合える」相手だけが「本物の友達」というわけではないのです。

ふたりは、明らかにある種の演技をしています。

でも、それは互いを思いやり、この関係性を大切に、壊さないようにしようとする気遣いから生まれる演技です。

友情と言うより、愛情に近いかもしれません。

 

手紙が来ないことを嘆くがまくんは、「君が書いてよ」というメッセージをかえるくんに送り、それを過たず受け取ったかえるくんは、大急ぎで家に戻って手紙をしたためます。

かえるくんはわざとかたつむりくんに手紙を託し、がまくんと「待つ時間」を楽しむのです。

 

これはそういう「二重層」仕掛けの作品なのです。

 

小学校の先生方、授業で読む際には、心して取り扱ってください。

絶妙なバランスで成り立っているふたりの関係が、壊れないように。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

微笑ましいバカップル度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ふたりはともだち

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【絵本の紹介】「たいへんなひるね」【107冊目】

 

こんにちは、 絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

だんだん暖かくなってきて、桜も満開を迎えました。

天気のいい日に、外で昼寝をしたら、さぞ気持ちいいでしょう。

 

と思いつつ、なかなか実行には移せない私にカツを入れてくれるのが、今回紹介する「たいへんなひるね」です。

作・絵:さとうわきこ

出版社:福音館書店

発行日:1990年5月10日

 

「こどものとも」や「かがくのとも」に登場する人気者、「ばばばあちゃん」のおはなし。

豪快かつ強引なキャラクターのばばばあちゃんが、様々な活躍を見せるシリーズです。

 

今回は、カレンダーをめくって、4月になったことに気づいたばばばあちゃんが、

いつも 4がつになったら、そとで ひるねするんだっけ

と、ハンモックを持ち出すところから始まります。

 

ところが、外は雪。

 

しかし、これで諦めるようなばあさんではありません。

 

いつまでも うろうろしてる ふゆなんか、おっぱらってやるよ

どうするつもりかというと、まずは森や地面を揺るがすほどの大音量でラッパを吹き、動物たちを冬眠から叩き起こします。

 

それからいっぱいの袋の中に、みんなで大声を詰め込みます。

はるだよう

もう はるだよう

さらに、空の上のかみなりさんをラッパで呼びつけ、「はなびだま」の中に先ほどの袋を詰め込み、空に向かって打ち上げます。

 

爆発した花火から、みんなの大声が広がって、雪雲はびっくりして退散してしまいます。

暖かくなって、桜も咲き、ばばばあちゃんはやっとゆっくり昼寝。

 

みんながワアワア騒ぎながら遊んでも、全然起きないで寝続けます。

 

★      ★      ★

 

ばばばあちゃんは一人暮らしで、訪ねてくる家族もなく、近所づきあいもなく、仲間は森の動物だけ。

本当は寂しいんじゃないか、孤独なんじゃないか、と心配になる環境です。

 

しかし、そんなこっちの心配など吹き飛ばし、むしろ逆に元気を分けてくれるほどエネルギッシュなばばばあちゃん。

 

昼寝ひとつにここまでやるか、という痛快さ。

周囲を強引に巻き込んで、お尻を叩いて、やるだけやったら、さっさと一人で寝てしまうマイペースさ。

 

高齢化社会の星のようなおばあちゃんです。

 

どうかこれからも、このパワーを維持したまま、大暴れして欲しいものだと願います。

 

実際に近くにいたら、迷惑かもしれないけど。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

老人のバイタリティ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ぼくのくれよん」【104冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

そろそろまた、長新太さんの絵本を語りたくなりました。

紹介するのは、「ぼくのくれよん」です。

作・絵:長新太

出版社:講談社

発行日:1993年4月20日

 

現在は講談社から出版されていますが、以前は銀河社から刊行されており、初出を辿れば「月刊絵本フレンド・シリーズ」の1973年4月号まで遡ります。

 

この以前から、長さんは数多くの絵本や児童書の仕事に携わっていますが、それらはあくまで「挿し絵」の担当としてであり、自分で絵本の文まで書いたことはありませんでした。

 

つまり、この「ぼくのくれよん」は、初めての「作・絵:長新太」の絵本作品であり、長さん絵本の原点とも言える一冊なのです。

 

これまでに「キャベツくん」「チョコレートパン」を紹介しましたが、その中で、一見すると人を食ったような、バカバカしいナンセンス作品に思える長さんの絵本が、その実、非常に入り組んだ構造の哲学的側面を持ち合わせている点を指摘してきました。

 

≫絵本の紹介「キャベツくん」

≫絵本の紹介「チョコレートパン」

 

それらを踏まえて、この「原点」たる絵本を読んでみましょう。

 

まずは、画面に橙色のクレヨンが一本。

これは くれよんです

でもね この くれよんは

 

ときて、次のページではクレヨンに乗っかるネコを描いて、

こんなに おおきい のです

なぜなら、「これは ぞうの くれよん」だから。

 

ぞうは青のクレヨンを鼻に持ち、思いっきり「びゅー びゅー」描きます。

すると、大きな池だと思ってカエルが飛び込みます。

 

でも、池ではなかったので、「かえるは びっくりして しまいました

 

さらに赤のクレヨンで描くと……

動物たちは火事だと思って逃げ出してしまいます。

 

黄色で描くと、大きなバナナだと思って動物たちは集まってきます。

 

動物たちを惑わせたぞうは、ライオンに叱られます。

 

でも、ぞうは、

まだ まだ かきたりない みたいで くれよんを もって かけだしました

 

★      ★      ★

 

「チョコレートパン」にも共通する独特の長さん節は、この時すでに完成されていたことがわかります。

 

ぞうのお絵かきのスケールが大きすぎて、動物たちが次々に勘違いする様は笑えますが、それと同時に、なんだか読み手側も作者にたぶらかされているような気持ちになってきます。

時に「人を食ったような」と評されるのは、そうした点を指してのことでしょう。

 

どうも長さん作品は、ある種の大人を怒らせるようです。

 

実際、長さんには熱烈な支持者がいる一方で、手厳しい批判も数多く、当時は「馬鹿にしている」「これは絵本じゃない」「子どもに有害だ」とまで酷評する批評家もいたようです(この作品だけに対してのコメントではないです)。

 

これは他のどんな芸術にも言えることですが、その分野における技術や方法論がある程度確立されてくると、必ずその「枠」を破壊しようとする芸術家が現れます。

そうした革命家は常に批判に晒されますが、すべての芸術はそうした「型を作っては壊す」作業の繰り返しによって洗練されて今日まで生き延びてきたのです。

 

では、長さんが壊そうとした「枠」は何だったのでしょう。

 

ぞうのクレヨン、というありえない物が登場することに対しては「絵本だから」と、あっさり受け入れる我々が、「くれよんで かいた ばななは たべられません」という当たり前のことを言われると、「んなこたぁ、わかってるよ」と言いたくなる。

 

こちらが何かを「そういうもの」だと「思い込もう」とした次の瞬間、長さんはそれを裏切るような展開を用意します。

 

こう書くと、長さんがすごいひねくれものみたいに思われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。

 

ロシアの偉大な詩人、コルネイ・チュコフスキー氏がその著書「2歳から5歳まで」で、子どもが成長過程において、「さかさ唄」などに代表される「概念をひっくり返す」遊びを通過することを指摘していますが、それは子どもにとっては必要な「知的鍛錬」なのです。

 

長さんは大人になっても、そうした「概念遊び」を止めなかった人なんじゃないか、と私は思います。

 

大人たちは「もう、そういうのはいいよ」と、手持ちの概念のみで世界を見たがります。

 

でも、長さんは、

まだ まだ かきたりない みたいで くれよんを もって

駆け出さずにはいられなかったのでしょうね。

 

推奨年齢:2歳〜

読み聞かせ難易度:☆

お絵かきの爽快感度:☆☆☆☆☆

 

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絵本の紹介「ねむいねむいねずみ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

春眠暁を覚えず。

というほどではありませんが、やっと少し暖かくなってきましたね。

 

今回は佐々木マキさんの人気シリーズより「ねむいねむいねずみ」を取り上げます。

作・絵:佐々木マキ

出版社:PHP研究所

発行日:1979年6月29日

 

見ている方も眠くなってしまいそうな寝ぼけマナコがキュートなねずみの、珍道中。

これはシリーズ第一作。

 

一見、可愛らしい絵柄の、親しみやすそうな本に思えるのですが(事実そうではあるんですが)、読みようによっては相当に難解な作品でもあります。

 

もっとも、佐々木マキさんの描く世界は、基本的に難解です。

そして、どこか不気味でもある。

登場人物の、何も映していないブラックホールみたいな目が、ちょっと怖かったり。

 

というのも、私は子どものころに佐々木さんが挿絵を担当している児童書を読んだことがあり、それが大変怖い内容だったのです(一部では知る人ぞ知るトラウマ本とされています)。

その印象が強烈だったせいか、今でも彼の可愛らしい絵の裏側の、少々の狂気を感じずにはいられません(いい意味で)。

 

佐々木さんは雑誌「ガロ」誌上で漫画家としてデビュー。

つげ義春と並び称される前衛的・実験的な作品を次々に発表しました(その才能は、手塚治虫御大が嫉妬したとまで言われています)。

 

絵本作家に転身してからも、漫画的技法(フキダシ・コマ割りなど)を取り入れ、同じ漫画家出身の長新太さんを彷彿とさせる、ナンセンスの中に哲学的な深みを包含した独自の作風を構築していきます。

 

さて、そろそろ「ねむいねむいねずみ」の内容に入りましょう。

風呂敷包みを結び付けた杖を肩に、という伝統的スタイルで旅をするねずみ。

一日中歩いて、くたびれ果てた状態で見つけたのは、一軒の古い屋敷。

 

中に入ると、荒れ果てており、どう見ても無人。

ねずみはここで一夜を明かすことにします。

 

どう考えても怖いと思うのですが、何しろ眠くてたまらないので、気にしない。

 

ところが、眠ろうとすると次々に怪現象がねずみを襲います。

 

いわゆるポルターガイストで、ベッドやタンス、鳩時計、空き瓶たちが踊り狂い、とてもじゃないけど眠れません。

 

それでもねむいねむいねずみは、逃げ出すことよりも、とにかく横になって眠りたい。

ついには浴槽で眠り込んでしまいますが……。

結局、朝までぐっすり眠ったねずみ。

目を覚ますと、朝ごはんの用意が。

やっぱり ここは おばけやしきなんだねぇ

 

★      ★      ★

 

何とも不思議な読後感。

 

結局何だったの? と大人は首をひねってしまう。

ねずみの旅の目的もはっきりしないし、こちらの想像におまかせ、といった感じがあります。

 

あれこれ起こる事件を、「眠気」で乗り越えてしまうというおかしさを楽しむ絵本。

と捉えればそれでいいんですが、私などはつい「そんな単純じゃないんでしょ」と深読みしようとしてしまいます。

 

人間の意識はどこまで目覚めていると言えるのか、とか。

現実と夢の境界線、とか。

 

でも一方で、そんな風に深読みする姿を、作者に笑われているような気もします。

 

意味なんてないんだよ。

受け取ったものがすべてで、それをそのまんま楽しめばいいんだよ。

 

と。

 

実際、子どもはこの絵本が大好きですし、「そのまんま」楽しんでいるようです。

 

佐々木さんは、絵本というものの在り方そのものを、根本的に問いかけるような作家さんです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

睡眠欲求度:☆☆☆☆☆

 

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