【絵本の紹介】「まよなかのだいどころ」【145冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はモーリス・センダックさんの「まよなかのだいどころ」を取り上げます。

作・絵:モーリス・センダック

訳:神宮輝夫

出版社:冨山房

発行日:1982年9月20日

 

20世紀を代表する絵本作家、モーリス・センダックさんと言えば「かいじゅうたちのいるところ」が真っ先に挙げられますが、もちろん、それ以外の作品もそれぞれに魅力的です。

 

≫絵本の紹介「かいじゅうたちのいるところ」

 

センダックさんはわりと作品ごとに手法を変えるタイプの作家で、この「まよなかのだいどころ」では、フェルトペンによるはっきりとした線と色彩を用い、フキダシやコマ割りなどのコミック的スタイルを採用しています。

 

瓶・缶・牛乳パック・ポットなどを模したビルが建ち並ぶ夜の街並みは、未来的でありながらどこかレトロな香りが漂います(たぶん、日本語訳の看板のせいでしょうけど)。

 

そして内容が、かなり難解です。

いや、単純と言えば単純なんですが、「かいじゅうたちのいるところ」でセンダックさんのファンになった多くの方にとっては、この作品にはかなりの違和感を覚えるのではないでしょうか。

 

ともかく、一度読んでみましょう。

主人公・ミッキーがベッドで寝ていると、どこからか騒がしい音が聞こえてきます。

うるさいぞ しずかにしろ!

と怒鳴ったら、突然「くらやみにおっこちて、はだかになっちゃって」、3人の太ったパン職人たちがケーキを焼いている「まよなかのだいどころ」に落っこちます。

職人たちはボウルに落ちてきたミッキーをねりこと一緒に混ぜてオーブンへ。

ミッキー」と「ミルク」を間違えたという、かなり無茶な展開。

 

ミルクがないと、あさのケーキが つくれない!

と慌てる職人に、ミッキーは、

あまのがわには ミルクがいっぱい

と、ねりこで作った飛行機に乗って、夜空へ飛び立ちます。

「あまのがわ」(Milky Way)と言ったけれど、ミッキーが向かった先は、巨大なミルク瓶。

ミッキーが取ってきたミルクで無事にケーキは焼き上がり、ミッキーは夜明けとともにベッドへ戻ります。

 

ミッキー、どうも ありがとう。これで すっかり わかったよ

ぼくらが まいあさ かかさずに ケーキを たべられるわけが

という、さっぱりわけのわからないナレーションで終わります。

 

★      ★      ★

 

私自身がこれを初読したときの感想を率直に申し上げると、

なんか、気持ち悪い

でした。

 

まず3人の太ったパン屋さんが不気味だし、ミッキーが彼らにケーキにされてしまう図は、ほとんどホラーです。

それなのに、登場人物すべてがやたら陽気に、ミュージカル風に(センダックさんの作品はどれもそうなんですが)歌い上げる様子は、どこか観客である読者を置いてけぼりにした自己満足の学芸会じみています。

 

確かにここには「狂気」が存在しています。

 

センダックさんは「子どもの狂気」を「想像力」によって制御するという形式の物語を好んで選ぶようです。

その構図は「かいじゅうたちのいるところ」においては大変な成功を収めています。

翻って、この「まよなかのだいどころ」では、どうしても「かいじゅうたち」に比較して落差を感じずにはいられません。

 

その理由は、「かいじゅうたち」が、ある種普遍的な子どもの衝動(親に対する怒り)を描いているのに対し、この「まよなかのだいどころ」は、より作者自身の個人的な物語だからという気がします。

 

センダックさんは子どものころ、「みなさんが寝ている間に焼き上げます!」というパン屋の広告を見て、それをどうにかして起きて見てやりたいという想いを抱いたそうです。

つまりこれは、「真夜中」という、子どもにとっての憧れや好奇心の入り混じった時間に行われている「秘密」をのぞき見たいという願望から生まれた作品なのです。

 

そう考えれば、特に難解な主題とは言えないでしょう。

それを見えにくくし、この単純な作品を難解に見せているのは、やっぱり絵のインパクトのせいでしょう。

この作品を発表した当時、主人公の男の子が服を着ていないことに対し、いわゆる「良識派」の大人たちからクレームが殺到したそうです。

 

しかし、そういう不自由な見方を取り払えば、この作品と「かいじゅうたちのいるところ」は、本質的に同様のテーマを取り扱っていることに気づきます。

 

センダックさん自身はこの作品を気に入っているようで、その証拠に、主人公の名前を、彼の大好きな「ミッキーマウス」から取っています。

(余談ですが、センダックさんは作品の主人公の多くに、自分と同じ『M』の頭文字の名前を付けています。彼の作品を手に取る際は、気を配って見てください)。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

街並みの楽しさ度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「まよなかのだいどころ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「わたしのワンピース」【120冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

妻が最近欲しいもののひとつはミシンだそうです。

そういえば昔、おばあちゃん家にあったっけ。足で踏むやつ。

 

何となく、今じゃもう使う人も少ないんじゃないかと勝手に思ってたんですが、まだまだ需要はあるようで、最新モデルも生産されているみたいです。

やっぱり子どもがいると、ちょっとした服の修繕や、短くなった裾の継ぎ足しなんかに便利なんでしょうか。

 

でも、これも勝手な思い込みですが、女の子にとってはミシンって、ちょっと憧れの道具でもあるんじゃないでしょうか。

ピアノとかと同じで。

そういう対象も、時代とともに変わっていくのかもしれませんけどね。

 

今回紹介するのは、1969年からずっと変わらない人気を続ける、ミシンが登場するロングセラー「わたしのワンピース」です。

作・絵:西巻茅子

出版社:こぐま社

発行日:1969年12月1日

 

まっしろな きれ ふわふわって そらから おちてきた

ミシン カタカタ ミシン カタカタ

うさぎさんはワンピースを作ります。

真っ白なワンピースを着てお花畑を散歩すると、ワンピースが花模様に。

雨が降ってくると、ワンピースが水玉模様に変化します。

そうして、次々とワンピースは柄を変えて行き、小鳥の模様になって空へ飛んでいきます。

眠ると、ワンピースは星模様に。

ラララン ロロロン わたしの すてきな ワンピース

 

★      ★      ★

 

こぐま社の創立者である佐藤英和さんは、この絵本が出版された当時を振り返り、正直なところ、ここまでのロングセラーになるとは思わなかったと語っています。

 

実際、大人からは「子どもみたいな絵」「何が言いたいのかわからない」「子どものためにならない」などと、評価は芳しくなかったそうです。

 

ところが、刊行されてしばらく後、じわじわと部数が伸び続けて行きます。

理由は、「子どもが手に取る」からです。

大人は選ばなくても、本屋や保育園などに「わたしのワンピース」が置いてあると、子どもは読みたがるのです。

 

子どもは最も率直で最も手ごわい読者です。

読みたくない物には見向きもしない一方、面白そうと感じたら、ちゃんと評価してくれます。

ですから、ロングセラーの絵本というものは、そういう最もシビアな市場を生き抜いてきた価値がある作品と言えるのです。

 

「子どもみたいな絵」ですが、もちろん西巻さんはわざとそう描いています。

それは「下手に描く」ことではなく、「お絵かきの楽しさを全開にして描く」ということだと思います。

 

ラララン ロロロン ランロンロン」など、少ない文の中にも、思わず歌ってしまうような楽しいリズムがあります。

子どもは「楽しそう」「面白そう」なものを、いつでも探し求めているのです。

 

女の子に大人気の絵本ですが、もちろん男の子にも受けますよ。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

子どもからの支持度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「わたしのワンピース

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【絵本の紹介】「セクター7」【115冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、個人的に間違いなく現代の天才絵本作家だと思っているデイヴィッド・ウィーズナーさんの「セクター7」を紹介します。

作・絵:デイヴィッド・ウィーズナー

出版社:BL出版

発行日:2000年11月20日

 

作品を発表するたびに「衝撃的」と形容されるウィーズナーさん。

アメリカ最高の絵本賞・コールデコット賞を3回も受賞しています(この作品は次点となりましたが)。


圧倒的迫力と緻密さを兼ね備えた画力。

独自の空想世界。

コミックやアニメーション的な技法を取り入れた前衛的な表現。

 

同じコールデコット賞受賞者のモーリス・センダックさんを彷彿とさせるところもあり、新しい絵本の可能性や方向性の開拓者と呼んでいいでしょう。

 

そして彼の作品のもう一つの特徴は、言語の壁を越えて、グローバルであること。

 

この「セクター7」は特にそれが顕著です。

つまり、「字のない絵本」なんですね。

 

と言っても、赤ちゃん向けの絵だけでできた本ではなく、ちゃんと明確なストーリーが存在します。

この作品の凄みは、絵だけで完全に物語を読み取れるところ。

 

主人公の少年は、課外授業でマンハッタンのエンパイアステートビルを訪れます。

屋上展望台は視界ゼロの濃霧に覆われていました。

 

そこへ、雲の子が現れて、少年と遊び始めます。

仲良くなった少年を、雲の子は空にある雲の工場「セクター7」へと誘います。

ジブリアニメを思わせるこの存在感。

 

セクター内では、マンハッタン上空の雲を設計し、送り出す作業が行われています。

 

こっそり忍び込んだ少年に、集まった雲たちが自分の設計図を手に、何やら訴えます。

どうやら、形が気に入らないよう。

「もっと色んな形になれるのに」

という声が聞こえてきそうです。

 

そこで、魚の絵が得意な(これは扉絵でわかります)少年は、雲たちに新しい設計図を描いてあげます。

雲たちは我も我もと、たちまち整理券まで配られる大行列。

 

仰天したのはセクターの職員たち。

少年は見つかって連行され、エンパイアステートビルに送還されてしまいます。

 

雲の子と別れを惜しみつつ、ビルから出た少年が空を見上げると……。

 

★      ★      ★

 

ひとつの大作アニメ映画を見終えたような読後感。

何度読んでも、幸せなため息が出ます。

 

子どもと読む場合は、こちらがセリフや文章を想像して読んであげてもいいですが、絵本に慣れている子なら、きっと自分でお話を読み上げることができると思います。

 

子どもの自由な想像力に任せて、「読んでもらう」と、自分では気づかなかった意外な発見や、「この場面をそう読むのか」という違った視点に立つ楽しみがあります。

 

大人の一人読みにも、じゅうぶん耐えます。

海外版のまま読むこともまったく問題ありません。

 

文句なしにおすすめできる一冊です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

空想力と画力のスケール度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「セクター7

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絵本の紹介「おつきさまこんばんは」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

昨夜は本当に見事な満月でしたね。

今回は「おつきさまこんばんは」を紹介します。

作・絵:林明子

出版社:福音館書店

発行日:1986年6月20日

 

0歳から読み聞かせられる絵本として人気があります。

古来より、月は幻想的な力の象徴でした。

人の心の眠った部分を揺り動かす、月にはそんな魔力が宿っているのかもしれません。

 

ことに幼い子どもは、夜空に煌々と浮かび上がるお月様を見上げると、もうそれだけで空想の世界へ旅立てるようです。

 

絵本の内容は、人の顔に見えるお月様を相手に、いろいろと話しかけるというもの。

このお月様の表情豊かなこと。

 

ただし、お月様自身は何も喋りません。

話しかけているのが誰なのかも、はっきりとはわかりません。

 

屋根に上った二匹の猫なのか、最後のページに登場する親子連れなのか、それとも絵本を読んでいる自分自身なのか。

お月様以外はシルエットで描かれているところも、幻想的な効果を引き出しています。

 

すべての場面が同じ視座で描かれているのですが、それによって場面ごとの動きや変化がよく見て取れます。

この絵本を読み聞かせていると、お月様の表情の変化に合わせて、子どもの表情も変化していることがあります。

そうなれば、読み聞かせは成功と言っていいでしょう。

 

また、読み終えた後は、必ず裏表紙まで見せてあげてください。

お月様の意外な顔が気に入る子どもがとても多いですから。

 

推奨年齢:0歳〜

読み聞かせ難易度:☆

いいおかお度:☆☆☆☆

 

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絵本の紹介「てぶくろ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

少し朝晩が冷え込む季節になってきましたね。

寒い日の夜などに街を歩いていると、手袋の落とし物を目にすることがあります。

なぜか、必ず片方だけです。

両方落ちているのは見たことがありません。

 

どうやら、そうした現象は、時代や国が違っても、変わらないようです。

今回紹介するのはウクライナの民話絵本「てぶくろ」です。

エウゲーニー・ミハイロヴィチ・ラチョフさんの作品で、翻訳は「おおきなかぶ」の内田莉莎子さんです。

 

鉛色の空と、白い雪。

北国の厳しい寒さが伝わってくる挿絵です。

 

和洋問わず、昔話には「おじいさん」が必ずと言っていいほど登場しますが、このお話に出てくる「おじいさん」は、少々特殊な扱いを受けています。

というのも、文章には登場するのですが、絵には描かれないのですね(子犬も)。

これは前回紹介した「三びきのこぶた」で、おかあさんぶたが描かれなかったこととは意味合いが違います。

それは後で触れます。

 

≫絵本の紹介 瀬田貞二・山田三郎「三びきのこぶた」

 

物語は、おじいさんが森の中を歩いていて、「てぶくろを かたほう」落としてしまうところから始まります。

そこへねずみが潜り込み、「ここで くらすことに するわ」と決めます。

木の枝で土台を組み、梯子をかけたりして、ちゃんと家として機能しているようです。

そこへかえるがはねてきて、

「だれ、てぶくろに すんでいるのは?」

「くいしんぼねずみ。あなたは?」

「ぴょんぴょんがえるよ。わたしも いれて」

「どうぞ」

というやり取りを経て、てぶくろに同居します。

 

以後、次々にいろんな動物たちが同じ問答を繰り返しては、てぶくろに入居してきます。

文では説明されませんが、ページが進むごとに、てぶくろが段々改装されて、立派な家になっていきます。

 

それにしたって、キツネやら狼やら猪までがてぶくろに入るというのは子ども心にも「ありえない」と思うところです。

しかし、明らかに入れないはずなのに、なぜか絵を見るとちゃんと収まっているのです。

しかし、よく見るとてぶくろの縫い目は裂け始めています。

さらにそこへ熊が「わしも いれてくれ」とやってきます。

 

「おおきなかぶ」での繰り返しは大団円へと向かいますが、この絵本の繰り返しは、より危うい方へ、バランスの崩壊を予感させながら進行します。

 

≫絵本の紹介「おおきなかぶ」

 

いったいてぶくろはどうなってしまうのか。

動物たちは喧嘩にならないのか。

 

そんな期待と不安が最高潮に高まったところで最後のページをめくると、このお話は実に唐突に終わりを告げます。

おじいさんがてぶくろが片方ないことに気づき、戻ってきます。

子犬が先に駆けていき、てぶくろを見つけて吠えたてると、動物たちはあわてて逃げていきます。

そこへおじいさんがやってきて、てぶくろを拾います。

 

この部分を説明する絵は一切なく、冒頭のてぶくろのカットがほぼそのまま、小さく描かれているだけです。

てぶくろに付けられた窓も煙突も梯子も、すべてなくなっています。

おじいさんはてぶくろに起こった異変も、動物たちも、何も見てはいません。

つまり、この絵本における「おじいさん」は(別に物凄い巨人というわけではなく)、現実世界の象徴なのです。

だから、セリフもなく、絵にも描かれないのです。

 

私たちは目に見える現実世界に生きているつもりでいますが、実際には見えない部分の方が遥かに多く、その部分はいわば想像で補っているに過ぎません。

落とした片方の手袋は、そんな見えない、知りえない世界の象徴と言えるでしょう。

 

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