【絵本の紹介】「郵便屋さんの話」【472冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはカレル・チャペックさんの童話原作絵本「郵便屋さんの話」です。

作:カレル・チャペック

訳:関沢明子

画:藤本将

出版社:フェリシモ出版

発行日:2008年3月21日

 

カレル・チャペックさんはチェコを代表する劇作家・小説家で、画家・評論家の兄ヨゼフさんと共にチャペック兄弟として広く親しまれています。

「ロボット」という単語の創始者であるともされています。

 

SFから童話まで様々な作品を残しましたが、彼らが生きた時代は大戦の最中で、チャペックさんは作品内でナチズムを痛烈に批判し、そのためにゲシュタポから敵認定され、狙われたこともあります。

 

この「郵便屋さんの話」は1932年に発表された童話集の中の一篇に、イラストレーターの藤本将さんが新たに挿絵を書き下ろして出版された絵本です。

 

主人公のコルババさんは郵便配達人。

このところ自分の仕事にうんざりし始めております。

毎日、二万九千七百三十五歩も歩かなければならないし」「そのうちの八千二百四十九歩は階段をのぼったり、おりたり」と、具体的な数字を持ち出して嘆くユーモアのあるおじさん。

 

ある時郵便局で居眠りしてしまい、仲間たちが帰ってしまった夜更けに目を覚ますと、何やら気配がします。

様子を窺うと、そこには郵便局に住む妖精の小人たちが忙しく働いていたのです。

小人たちは仕事が一段落するとカードゲームを始めます。

 

カードとして用いられるのは郵便局にある手紙。

不思議な遊びに思わずコルババさんは小人たちに話しかけますが、小人たちは悪びれもせずコルババさんをゲームに誘います。

手紙には何の数字も書いてませんが、小人たちは中にある手紙の種類によって札の強さを決めているのです。

一番強いエースは愛情のこもった手紙という風に。

そして小人たちは封を切らなくても中の手紙の内容を温度で知ることができるというのです。

そんなことがあってしばらく後、郵便局に宛名のない手紙が届きます。

差出人も不明で、配達もできないけれど、コルババさんはなんとなくその手紙が温かく感じられ、きっと心のこもった手紙のはずだと思います。

かといって勝手に中を開けることは郵便局員としてやってはならないこと。

 

そこでコルババさんは小人の助力を頼みます。

小人は封を切らずして中の手紙を読みます。

それは若者が恋人にあてた手紙でした。

若者の名はフランチーク、職業は運転手。恋人の名はマジェンカ。

 

ただそれだけの手がかりをもとに、コルババさんはこの手紙をマジェンカのもとに届けてあげようと決意します。

長い長い旅を続け、探し回りますが見つかりません。

一年以上も探し回って、疲れ果てたコルババさんが座り込んでいると、立派な紳士が車を止めてコルババさんを送ってあげようと声をかけます。

コルババさんはありがたくその車に乗ります。

そして話をするうち、車の運転手の素性がわかります。

 

彼こそ探し求めていたフランチークだったのです。

彼は愛する恋人から手紙の返事がこない悲しみに沈んでいました。

そこでコルババさんは手紙を預かっていることを打ち明け、自動車は一路マジェンカの家を目指して走り出します…。

 

★            ★            ★

 

冒頭ではいわゆる靴屋の小人的な童話かと思いますが、そうではない。

人生や仕事の喜びについて、人の想いについて、色々なことを考えさせてくれるハートフルなお話です。

 

コルババさんは実に粋でチャーミングなおじさんですが、そこは藤本さんのイラストの力も大いに作用しています。

センスがあって人物が本当に可愛い。

異国情緒もあり、チェコで描かれた絵本だと言われても違和感がありません。

 

チェコと言えば絵本大国としても知られており、なおかつチャペックさんのような童話作家も生み出した素晴らしい国です。

まだまだ翻訳されてない名作はありそうですね。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

一年がかりの配達の報酬が切手代だけのコルババさん男前度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「郵便屋さんの話

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【絵本の紹介】「りゅうのめのなみだ」【469冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

正月明けからの三連休も終わり、本格的に仕事と日常が始まった感じですか。

もっとも新年そうそうの地震災害で日常どころではない地域もあるでしょう。

本当に大変なことになっているようで、被災された方々の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

 

今年は辰年ということで、最初の絵本紹介は浜田廣介さんの名作童話「りゅうのめのなみだ」を読みましょう。

作:浜田廣介

絵:植田真

出版社:集英社

発行日:2005年11月30日

 

1000篇に及ぶ童話を創作し、日本のアンデルセンとも称された浜田さん。

この「りゅうのめのなみだ」は1923年の作品です。

挿絵を描いているのは植田真さん。

現代的で繊細なタッチによって古典名作が一気にモダンなテイストに仕上がっています。

絵の力というのは本当に大きいのですが、例えば主人公の少年が黒髪でないことや、街並みの描写によって、時代や場所の設定が自由に想像できるようになった印象です。

必ずしも日本の話でも、「むかしむかし」のお話でもないというような。

もとより原文でも「南のほうの国」と表記されているので(国家という意味合いは薄そうですが)その辺りはぼかされています。

 

この国の山の中には「大きなりゅう」が棲んでおり、近づいた人間は飲み込まれてしまうと噂され、人々の恐怖の対象となっていました。

けれどある町にちょっと変わった男の子がいて、りゅうを怖がらず、りゅうに興味を持って、自分からりゅうの話を聞きたがるのです。

少年は夜中にりゅうのことを考えて涙を見せます。

母親は息子がりゅうを怖がって泣いているのかと思ったのですが、さにあらず、少年は「りゅうがかわいそう」と泣いていたのでした。

 

皆が恐れ、誰にも優しくしてもらえないりゅうを哀れむ少年を、母親ですらおかしな子だと不審がります。

あまつさえ少年は自分の誕生日にりゅうを招待したいと言い出します。

 

母親は馬鹿なことと相手にしませんが、少年はとうとう一人で山の中に入り、りゅうに会いに行こうとします。

自分を呼ぶ少年の声に、大きなりゅうはいかめしい姿を現します。

何の用かと不思議に思って質すと、少年は自分の誕生会にりゅうを招きたいと言います。

それを聞いたりゅうに気持ちに変化が起こり、温かい涙があふれだします。

 

今まで一度も優しい言葉をかけてこられなかったりゅうの心は閉ざされて、人間を脅したりしていたのですが、本当は悪いりゅうではなかったのです。

りゅうは涙を流し続け、涙が川となります。

 

りゅうは少年を背に乗せて涙の川を下って少年を町へ送ります。

わたしは このまま ふねに なろう

そうして やさしい 子どもたちを たくさん たくさん のせて やろう

あたらしい よい 世の 中に して やろう

その言葉通り流は黒い船に姿を変え、町に辿り着きます。

 

最終カットでは、りゅうの船に乗って遊ぶ子どもたちの姿が描かれます。

 

★            ★            ★

 

皮肉や教訓や説教じみたところは微塵もなく、ただ人の善性や清純を無条件に信じる素直な童話です。

やさしさの連鎖によってよい世界を作ろうという単純で率直な理想を描いています。

 

現代では負の連鎖は簡単に起こりますが、正の連鎖はほとんど見られなくなってしまった気がします。

例えば今まさに被災地に対して何かをしようという善意の輪が動いていますが、それですら様々な配慮をしなければ、逆に迷惑行為とすら言われかねない世の中です。

本人が本当に善意で動いているのかもわかりませんしね。

 

もはや現代はこの絵本のような単純な善が通用しない時代になったのかもしれません。

ですが、私はそれをどうこう言うつもりはありません。

何度も書いていますが、時代は戻らないし、戻す必要もないです。

我々は時代から逃げられないし、どんな名作絵本や童話も時代の影響を受けています。

例えばこの作品中にも「女の子のようにやさしくて」「すぐに涙を見せました」といった表現が使われていますが、これも現代ではもう古すぎる感覚でしょう。

 

かといってそれがこの作品の価値を減じるものではありません。

時代は変わりますが、作品の本質や核は変わりません。

私が思うこの作品の核とは、それぞれの時代において、我々がこの物語での少年であるか、それともその他の町の人々であるかという問いかけです。

 

すなわち世の中の噂、外的な情報、先入観、思い込みによって物事を見ていないか、自分の本当の心に従って動いているのかという点です。

「りゅうは悪いもの」という常識を鵜呑みにせず、自分の心によってりゅうに会いに行った少年なら、今の時代において何がまやかしの善で何が真実の善なのか、きちんと見定めることができると思うのです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

イラストの流麗さ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ねぬ」【461冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「ねぬ」という変わったタイトルの作品です。

作・絵:こしだミカ

出版社:架空社

発行日:2014年1月

 

作者はこしだミカさん。

土臭く力強い画風に引き込まれ、つい手に取って開きたくなりますね。

テキストもコテコテの関西弁で、大阪生まれの私にはとても親しみの湧く作家さんです。

 

さて、「ねぬ」とは一体なんなんでしょう?

主人公は種族は犬ですが、自分ではそれが嫌で「ねこになりたい」と思って、猫になろうと努力してきました。

爪を研ぎ、牙を尖らせ、忍び足。

ねこみたいな いぬ。で、ねぬ ちゅうわけや

しかしながら世間はそんな変わり者に対して冷たく、犬からも、そして仲良くしたいと思っている猫からも、ねぬは仲間外れにされています。

誰一人理解者がいなくとも、ねぬは虚勢を張って自分の生き方を貫きます。

 

ある時、ねぬは捨てられた子猫やケガをした野良犬に出会います。

行くあてのない境遇同士が引き合うのか、彼らは何故かねぬのねぐらの周りに住み着きます。

ねぬは保健所の人間から仲間たちを守り、森へ逃げ込みます。

森には先客がいて、彼らのリーダーは猫のような犬のような変な見た目の動物。

縄張り争いとなり、ねぬは森のリーダーと対決します。

勝負はつかず、息を切らせたねぬは「おまえ いったい なにもんや?

わたし、いぬみたいに はなが きくし ねこみたいに みが かるい。そやから いぬの「い」とねこの「こ」とって いこ。かっこええやろ?

初めて見た自分と同じような相手。

しかも世間から外れた自分を誇りにさえ思っているような堂々たる振る舞いに、ねぬはいたく感動し、涙を流します。

 

ねぬたちは仲間となり、一緒に森で暮らし始めます。

やがて仲間の中から家族ができ、子どもが生まれ、幸せな共同体を作り上げます。

 

★                   ★                  ★

 

物語の読み解きようは自由ですが、やはり真っ先にこの作品から思い浮かぶのは性的マイノリティの存在でしょう。

ことに最近、LGBT法案が話題に上ることが多く、今この絵本を紹介しておきたいと思った次第です。

 

私の思想を述べるなら、件の法案そのものはまだまだ内容に不備が多いものの、大事な一歩ではあると思っています。

色んな時代遅れな意見(伝統的家族観がどうとか)が当然のようにまかり通る社会ですが、人権を基盤とする先進国を自称するのであれば、いずれは性的マイノリティの人権を認めて行かなければなりません。

 

法案は可決されたと言っても依然として性的マイノリティに対する差別と偏見は根強く、追い込まれて自ら命を絶った人も多くいます。

私にしてみれば何故性という個人的な問題に、他人がやたらと興味を持って首を突っ込みたがるのか意味が分かりません。

放っておけばいいんじゃないでしょうか。

犯罪がどうとか劣情を煽る手法も見かけますが、犯罪は犯罪として取り締まるだけの話であり、それは昔から同じことです。

 

人間は「自由になろうとする」勢力と「現状に留まろう」とする勢力の綱引きで、常にわずかずつ「自由」側が勝利することで先へと進んでいくものだと私は考えています。

もちろん急激な変化には副作用もありますが、少なくとも人権という分野においては日本はすでにかなり遅れを取っているのが現状です。

 

私は若い世代ともよく話をするのですが、彼らは明らかに我々の年代よりも性に対してフラットです。

性的マイノリティについても、「ふーん」といった程度の反応で、むしろそれが健全なのではないかと思います。

やたらに拘ったり、肩ひじを張ったりしているのはおじさん世代ばかりです。

 

これからの未来を担う子どもたちには偏見を持ってほしくはありません。

すでに偏見にまみれた大人たちによる「教育」よりも、様々な本との出会いこそが、未来への希望だという気がしています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

タイトルのインパクト度:☆☆☆☆☆

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【絵本の紹介】「としょかんライオン」【457冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

初めて図書館に入った時のことを覚えていますか?

私は割と鮮明に思い出せます。

 

街の喧騒から一歩館内に足を踏み入れると、一瞬にして流れるあの静謐。

埃一つ落ちてない清潔な床、整然と並んだ本棚。

まだ読んだことのない本がこんなにもあるというだけで無性に胸がわくわくしたものです。

あの独特の空気は、本屋さんとはまた違いますね。

 

昨今、商業施設と一体になった大きな本屋さんが増えていますが(というか小さな町の本屋さんが消えて行ってますが…)、お洒落なカフェと合体していたり、あれはあれでいいと思うんですけど、図書館の空気はやはり図書館でしか味わえないようです。

 

今回紹介するのは「としょかんライオン」です。

作:ミシェル・ヌードセン

絵:ケビン・ホークス

訳:福本友美子

出版社:岩崎書店

発行日:2007年4月20日

 

作者のミシェル・ヌードセンさんは図書館員の経験者。

ある日、突然一匹のライオンが図書館に入ってきます。

受付に座っていた図書館員のマクビーさんは慌てて駆け出し、館長のメリウェザーさんのところへ報告に行きます。

 

するといかにも図書館長といった風情のメリウェザーさんは「はしっては いけません」。

ライオンがいることを知らされても少しも慌てず、そのライオンが図書館の決まりを守らないのかとマクビーさんに問います。

マクビーさんは困ってしまって「べつに そういうわけでは……」。

それなら そのままにしておきなさい」。

 

さて、ライオンは図書館の中を静かに歩き回り、お話の時間が来ると子どもたちに混じってお話を聞こうと座ります。

お話をするお姉さんはびくびくもので読み進めますが、ライオンは大人しく聞いています。

 

やがてお話の時間が終わると、もっと聞きたかったのか、ライオンは不満そうな大声を上げます。

とたんにメリウェザーさんが歩いてきて、ライオンに注意を与えます。

ライオンはしょんぼり。

でも、子どもたちはライオンが好きになったよう。

 

決まりを守れば明日からも来てもいいと言われ、その日からライオンは毎日図書館に通うようになります。

そのうちにライオンは図書館の仕事を手伝ったりして、最初は怖がっていた大人たちも次第にライオンを認めるようになってきます。

もはやライオンは図書館になくてはならない存在となってきたのです。

 

ただ、マクビーさんだけは仕事を取られたような気分で面白くありません。

 

そんなある日、メリウェザーさんが高い位置の本を取ろうとして踏み台から落ちて怪我をします。

骨を折って動くこともできません。

見ていたライオンはマクビーさんを呼びに走り出しますが、この状況でも決まりにうるさいメリウェザーさんは「はしっては いけません」。

 

ライオンはマクビーさんのところへ行きますが、マクビーさんはライオンが伝えたいことを理解してくれません。

業を煮やしたライオンは大きな声で吠えます。

びっくりしたマクビーさんはメリウェザーさんのところへ行き、そこでメリウェザーさんが怪我をして動けないことに気づきます。

メリウェザーさんは助けられますが、決まりを破ってしまったことを気にして、ライオンはその日以来図書館に姿を見せなくなります。

なんとなくみんなが元気がない様子。

 

マクビーさんは町中を探し回り、雨に濡れて寂しそうにしているライオンを見つけます。

そこでマクビーさんは、図書館の決まりでも、ちゃんとした理由がある時は別だということを伝えてそのまま立ち去ります。

 

次の日、ライオンが再び図書館に来たことを教えられた時、あのメリウェザーさんが思わず決まりを忘れて走り出してしまうのでした。

 

★                   ★                  ★

 

とにかくメリウェザーさんとマクビーさんの人物造形がいい。

杓子定規だけども差別をしない知的なメリウェザーさん。

偏屈で素直になれないけど人情味あるマクビーさん。

ラストは思わずにっこりしてしまいます。

 

我が家の息子も本好きな子どもに育ちはしましたが、図書館通いはしていません。

例のADHD特性があって、ライオンのように静かにしていられないのと、じっとしていられないのであの空間は合わないようです。

もっぱら妻が代わりに予約した本を取りに行くという形で利用はしていますが。

私としては図書館は単なる本の借り出し場ではなくて、あの雰囲気こそ醍醐味だと思っているので残念ではあります。

仕方ないですけどね。

 

そういう私も予約システムと通販で本を借りたり買ったりするのが習慣になって(便利には勝てない)、めっきり図書館や本屋に足を運ぶことがなくなりました。

たまに行くと子どもの頃の昂揚が蘇ってきて、懐かしさから「まだあの本あるかな?」と児童書のコーナーばかり眺めてしまうんですけどね。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

マクビーさんツンデレヒロイン度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「百年の家」【456冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は国際アンデルセン賞画家賞受賞作家、ロベルト・インノチェンティさんと、経済学者であり絵本作家であるJ.パトリック・ルイスさんによる大作「百年の家」を紹介します。

作:J.パトリック・ルイス

絵:ロベルト・インノチェンティ

訳:長田弘

出版社:講談社

発行日:2010年3月12日

 

緻密で重厚で雄弁な絵と、詩のような文章によって構成されています。

小さなカットとテキスト、そして見開きによる迫力ある絵が交互に展開されます。

 

構図はずっと同じで、ペストが流行した1656年に建てられた古い家と、そこに住む人々を見つめ続けます。

「私」による一人称で物語は語られますが、この「私」とは古い家そのものなのです。

 

長く廃屋となっていた「私」は二十世紀になって発見され、人の手を入れられ、修繕されることになります。

再び人が住むようになった「私」の周囲は活気づき、果樹園に取り巻かれ、そこで結婚式も開かれます。

 

しかし穏やかで幸せな日々は長くは続きませんでした。

やがて戦争が「私」の周囲に暗い影を投げかけていきます。

夫は第一次世界大戦で戦死し、妻は嘆き悲しみます。

第二次世界大戦では「私」は何もかもなくした人々の避難所となります。

 

出会い、旅立ち、惜別。

やがて子どもたちは巣立っていき、残された母親も息を引き取ります。

住む人のいなくなった「私」はまた廃屋に戻り、だんだんと荒れていき、ついには土に戻ります。

二十世紀を生きた家は跡形もなくなります。

 

けれども「私」は感じています。

なくなったものの本当の護り手は、日の光と、そして雨だ」と。

 

最終ページでは全く新しくなった家とそこに暮らす人々の幸せそうな様子が描かれます。

ここからまた新たな歴史が紡がれていくことを予感させ、物語は幕を閉じます。

 

★                   ★                  ★

 

「家」視点で壮大な時の流れを描く大作絵本。

やっぱり思い浮かぶのは巨匠バージニア・リー・バートンさんの不朽の名作「ちいさいおうち」でしょう。

 

≫絵本の紹介「ちいさいおうち」

 

この絵本は現代版「ちいさいおうち」と位置付けるべき作品かもしれません。

けれども、両作品から伝わるメッセージや印象はわりと違います。

 

悠久の時の流れと土の香りと共に生きる暮らしと、そこに対比される近代文明の急ぎ足に警鐘を鳴らす「ちいさいおうち」に対し、この「百年の家」は、取り壊され、土に還り、そこに近代的な住居が建てられることに否定的ではありません。

むしろ未来への祝福さえ見られます。

 

それは「百年の家」がリアルな現実の戦争、人々の死を経験してきたことによるのでしょう。

いままでの暮らし方を継がない。それが新しい世代だ」という一文には深く考えさせられるものがあります。

 

時の流れは止められませんが、私たち自身は時には立ち止まって自らの来し方行く末を見つめる時間も必要です。

自分たちが何を得て、何を捨ててきたのか。

 

そして何よりも雄弁なのはこの絵の力でしょう。

本当に1カット1カットが細密で物語が想像でき、描かれている人々ひとりひとりの喜怒哀楽までが伝わってきます。

 

何度読んでも新しい発見がある絵本です。

そして読み終わる度に、人々の暮らしの中にある力強さ、生命の尊さが、腹の底に落ちるような心地よい重さをもって響いてきます。

 

推奨年齢:小学校中学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

画集的芸術価値度:☆☆☆☆☆

 

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