2018.09.03 Monday
【絵本の紹介】「ピーターのいす」【268冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
9月に入りました。
もうすぐこの店は2周年を迎え、そして同時に私の息子は5歳になります。
どちらも、少しずつ成長していることを感じます。
それについてはまた改めて記事を書くとして、今回は小さな子どもの成長に心を打たれる名作絵本を紹介しましょう。
「ピーターのいす」です。
作・絵:エズラ・ジャック・キーツ
訳:木島始
出版社:偕成社
発行日:1969年10月
圧倒的に可愛い黒人少年を主人公にした人気シリーズ「ピーターの絵本」。
色鮮やかで楽しくなってくるコラージュイラストもさることながら、子どもの世界の見過ごしてしまいそうな繊細なドラマを的確に描き出している点が、世界的に長く支持されている要因でしょう。
作者のキーツさんの目線は「鋭さ」よりも「あたたかさ」そして「自然体」を感じさせます。
さて、絵本というものは超時間的な作品が多いものですが、実はこのシリーズでは、ゆるやかに時間が流れています。
「ゆきのひ」で、夢中で雪遊びをしていたあのあどけないピーターにも、ついに妹が産まれます。
よく見ると、少し背も伸びたようです。
けれど、ピーターの心中は複雑です。
お母さんは生まれたばかりの赤ちゃんにつきっきりだし、自分のものだったベッドや食堂いすはピンク色に塗り替えられていくし……。
ピーターはまだ塗り替えられていないままの、小さな頃に使っていた青いいすを見つけると、「おもちゃの ワニと、あかちゃんのときの しゃしん」を持って、犬のウィリーと一緒に家出します。
もっとも、家出と言っても本当に家を出ただけで、家のすぐ前に持ち物を並べただけ。
それでも、ピーターは侵されつつあるような気のする「自分の領域」を確保した気分になって、懐かしいいすに腰かけてみようとします。
ところが、お尻がいすに入りません。
「ピーターは、おおきく なりすぎていたんだ!」
お母さんが窓からピーターに呼びかけます。
ピーターはいいことを思いつき、こっそり家に帰って隠れます。
カーテンの下にピーターの靴を見つけたお母さんは、ピーターの「変わり身」作戦にまんまと引っかかります。
大人のいすに座ったピーターは、自分からお父さんに、妹のためにあの小さないすをピンクに塗り替えることを提案するのでした。
★ ★ ★
キーツさんは相変わらずドラマ作りが上手いです。
そしてテーマの選び方も的確です。
「下の子」が生まれ、「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」になる誰しもが経験する、切ないような面白くないような、微妙な気持ち。
特に異性の姉弟が生まれた時は、戸惑いも大きいでしょう。
そういう普遍的でデリケートな感情を、キーツさんはことさらに騒ぎ立てず、絶妙なさりげなさで物語として仕上げます。
作者のこうした手腕は、ちょっと他の作家の及ぶところではないと思います。
小さな頃のいすにお尻が入らないピーター。
ピーターが「自分自身の成長」に気づくという、作品の核部分を、たったこれだけのカットで終わらせています。
それ以上、なんの補足も入れず、心情も語りません。
必要なものはすべて語られたのです。
まさに「詩」です。
そしてその後のお母さんとピーターのやり取りも素敵です。
知的な「かくれんぼ」を披露することで、ピーターは自分の成長をはっきりと示すのです。
両親の愛情が自分ひとりのものではなくなると感じるときの不安と不満。
けれども、それ以上に自分が大人へ近づいたことの喜びは大きい。
必ずピーターは妹を可愛がるお兄ちゃんになるでしょう。
彼がいかに愛されて育ったかは、彼の素敵な両親を見ればわかるからです。
ちなみに、キーツさんのコラージュには、和紙も使われているようです。
ピーターのあの柔らかそうなくせ毛のところでしょうね。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
家族愛度:☆☆☆☆☆
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