【絵本の紹介】「ちいさいおうち」【269冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

おかげさまで当店もオープン2周年。このブログも2周年。

というわけで、気持ちを新たに、絵本界における歴史的名作を紹介しましょう。

ちいさいおうち」です。

作・絵:バージニア・リー・バートン

訳:石井桃子

出版社:岩波書店

発行日:1965年12月10日

 

1943年度のコールデコット賞受賞作品であるというに留まらず、現在でも「ベスト絵本」企画などでは必ずと言っていいほど上位にランクインし続ける本物のロングセラー。

作者はご存知、巨匠バージニア・リー・バートンさん。

 

当ブログで何度もバートンさんの作品を取り上げておきながら「まだやってなかったの?」と言われそうなくらい有名な代表作です。

綺麗な色彩の表紙絵が目を引きます。

主人公である「ちいさいおうち」を取り囲み、裏表紙にも描かれているのはひなぎくの花。

バートンさんはこの花が大好きだったそうです。

 

以前の記事でも取り上げていますが、バートンさんは1909年のアメリカに生まれました。

彼女の絵本の特徴というか背骨である観察力・分析力、それに巨大なスケールの知性は著名な科学者である父から、歌うようなリズムのある文体、ミュージカルのような躍動感のある人物描写は詩人で音楽家の母から受け継いだものでしょう。

 

さらに、彫刻家の夫からは、肉体の一瞬の動きを捉えて描く技術を学んだといいます。

しかし何と言っても彼女の絵本作りに大きな影響を与えたのは、彼女の息子たちでしょう。

 

バートンさんは絵本の原稿を必ず息子たちに読み聞かせながら推敲したのです。

子どもの絵本を見る目の確かさを、バートンさんは誰よりも信頼していたのでしょう。

 

しかしその一方で、バートンさんはけっして子どものための娯楽には収まらない文化にまで絵本を昇華させています。

彼女の作品にはどこかに「古き良き時代」のアメリカを偲び、文明に対する警鐘とも取れるテーマが含まれています。

 

この「ちいさいおうち」は、アメリカの文明の歴史を早回しで見ることのできる、記録映画的構造をしています。

「ちいさいおうち」を中心に据えた構図を固定し、その周囲で目まぐるしく時が流れます。

静かな田舎町で、自然に囲まれ、季節の移り変わりとともに過ごすちいさいおうち。

住んでいるのは農民の一家。

 

ちいさいおうちは満ち足りてはいますが、「まちって、どんなところだろう」と、遠くに見える灯りを見ながら憧れのように思うこともありました。

 

やがて時間は流れ、ちいさいおうちを取り囲む環境は一変します。

トラックやスチームローラーが続々とやってきて、道路を舗装し、畑をつぶし、高い建物を建設します。

(ここで、「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」のメアリ・アンが友情出演しています。あまりいい役ではないですけど)。

ちいさいおうちは無人の廃墟となり、掃除をしてくれる人すらいなくなってしまいます。

しかしどんなに開発が進んでも、「どんなに おかねをだしても、かうことはできない」という象徴的存在のちいさいおうちは、みすぼらしくなりながらも、そこに在り続けます。

鉄道が通り、高層ビルが建ち、地下鉄が地面の下を走り……。

ちいさいおうちは、もう季節さえわかりません。

都会の真ん中で、打ちひしがれて懐かしい田園に思いを馳せます。

 

しかし、そこにある家族がやってきます。

彼らはこのちいさいおうちを建てた農民の子孫にあたる人々だったのです。

 

彼らはちいさいおうちをそのまま運び、いつかのような静かな田舎の丘へ移されます。

修理され、もとのように綺麗になったちいさいおうちは、もう二度と町へ行きたいとは思わないのでした。

 

★      ★      ★

 

大長編「せいめいのれきし」にも共通する、壮大な時間の流れを描いたドラマ。

じっくり絵を見れば、アメリカの都市化の経過を知ることができます。

 

もちろんバートンさんのことですから、時代に矛盾するような機械や乗り物は登場しません。

バートンさんは、イラストの構図、テキストの位置(テキストの字体)までこだわり抜く職人さんで、その一例が見返し(表紙をめくってすぐのページ)にも表れています。

ここではアメリカの乗り物の発展の歴史をコマ送りのように見ることができます。

 

そうやって見れば、これが記録映画的絵本だと言った意味がわかってもらえると思います。

そして何より、ここに描かれているかつてのアメリカ農民の暮らしぶり、そしてそうした時代への憧れの気持ち、そういったものが確かに存在したことを示す作品でもあります。

 

何年経とうとも読み継がれていくロングセラーの中には、必ず「真実」が含まれています。

それは現実のレベルでの真実であることもあるし、人々の心の中にしかない真実であることもあります。

 

大人は見逃してしまうそうした美しい真実を、子どもはけっして見逃しません。

それを確信しているからこそ、バートンさんは絵本作りに一切の妥協を許さなかったのでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

芸の細かさ度:☆☆☆☆☆

 

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コメント

初めてご連絡させて頂きました。
私、株式会社スプリックスの飯 坂と申します。
突然のご連絡で大変失礼致します。

貴ブログを拝見し、「ちいさいおうち」はやはり、いい絵本だと感じました。
都市化の中で、本当に大切なものは何かを考えさせられる絵本だと思います。

弊社では、学校の先生方向けに授業準備のための無料情報サイト
「フォレスタネット」を運営しております。
この度、貴ブログに投稿されている記事の数々を拝見し、
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ご不明な点も多々あるかと存じますので、何なりとご質問頂ければと存じます。
この度は突然の不躾なお願いとなり、大変申し訳ございません。
ご検討の程、何卒宜しくお願い申し上げます。

ご連絡いただける際は下記のメールアドレスまでお願い致します。
m.iisaka@sprix.jp