【絵本の紹介】「ババールといたずらアルチュール」【366冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに「ババール」の続編を持ってきました。

これまで5回にわたって順に作品紹介記事を書いてきましたので、よろしければそちらも併せてご覧ください。

 

≫絵本の紹介「ぞうのババール」

≫絵本の紹介「ババールのしんこんりょこう」

≫絵本の紹介「おうさまババール」

≫絵本の紹介「ババールのこどもたち」

≫絵本の紹介「ババールとサンタクロース」

 

さて、最後に紹介した「ババールとサンタクロース」が作者ジャン・ド・ブリュノフさんの遺作となりました。

結核に侵され、病魔に蝕まれながら描き続けた「ババール」の精神は息子のロランさんへと受け継がれます。

数年後、画家の道を歩んだロランさんの手によって、再び「ババール」は命を与えられることになります。

 

それがこの「ババールといたずらアルチュール」です。

作・絵:ロラン・ド・ブリュノフ

訳:矢川澄子

出版社:評論社

発行日:1975年6月20日

 

いやあ、絵柄、色使い、画面構成、文体(矢川さんの訳文しか知りませんけど)まで、見事に完コピですね。

もちろん玄人の目には違いがあるのでしょうけど、私にはブリュノフさんのものとまるで区別がつきません(ちょっと線が太くなったかな)。

作者名に気を付けていなければ、途中で作者が入れ替わっていることに気づかない読者も多いのではないでしょうか。

 

偉大な父が描いた世界的人気絵本を手掛けることについては、想像もつかないプレッシャーがあったのだと思います。

しかしそれ以上に、幼い頃に母が語り、父が絵本にした「ババール」を蘇らせる喜びと使命感は大きかったのではないでしょうか。

 

今回はババールのいとこ「アルチュール」が主役となって活躍します。

そのことによりいっそう物語の世界は広がりを見せます。

 

夏のバカンスに、家族を連れて海辺の別荘へ出かけるババール。

モノレールと汽車が同時に止まるワクワクするような駅が描かれます。

ババールの三人の子どもたちも順調に成長している様子。

 

海辺の別荘で、子どもたちは初めての海遊びに夢中になりますが、アルチュールは一人で飛行場を見に行きます。

そこで調子に乗って飛行機に上って遊んでいるうちに、飛行機が動き出し、離陸してしまいます。

アルチュールは降りるに降りられず、下で見ていた人々は大騒ぎ。

しかし勇敢さも持ち合わせているアルチュールは、パイロットの投げ渡したパラシュートを使ってダイビング。

風に運ばれながら、カンガルーの国に着地します。

誰とでもすぐ仲良くなるアルチュールはカンガルー、らくだ、かばたちの助けを得て、様々なトラブルを乗り越え、無事に砂漠の村で自分を探しに来たババールと巡り会うことができます。

ババールは喜びの余りお小言も忘れてしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

人生における避けようのない困難、不幸や悲しみ(例えば父の死といった)を、いかにして乗り越えるべきなのか。

ジャン・ド・ブリュノフさんが「ババール」に託したメッセージは次のようなものです。

どんな時も落ち着いた態度と、前向きな知性を持ち、時には勇気をもって戦い、礼儀を重んじ、友を信じ、家族を大切にすること。

 

それは少しも目新しい知見ではなく、むしろ古風で当たり前とも言える人生観です。

でもそれを正しく人に伝えることは意外に難しいのです。

 

何故なら、メッセージはそれを発する人間の資質や発する手段によって変化するからです。

同じ内容が時には真実となり、時には空虚になるからです。

 

ブリュノフさんはその稀有な才能によって、絵本という形で、上質なユーモアを纏わせて、そのメッセージをまっすぐに子どもたちの内部に響かせました。

それは当然のことながら、息子であるロランさんが誰よりも深く受け止めたはずです。

 

この「ババールといたずらアルチュール」を読めば、単に絵や文を真似ただけでは再現できない、シリーズにおけるある種の気高さ、「品性」をも受け継いでいることがわかります(それが「ユーモア」という資質です)。

 

そう考えれば、何故ロランさんがシリーズ再開となる最初の作品の主人公にアルチュールを据えたのかが理解できます。

いたずら者でトラブルメーカーだけど、勇敢で人から愛されるアルチュールの活躍を描くことで、ロランさんは「ババール」の魂と精神が正しく受け継がれたことを示しているのです。

メッセージは正しく伝わった」と発信しているのです。

もちろん天国にいる父に向けて、です。

 

再び「ババール」に会えた読者たちの歓びは大きく、ロランさんは以後、次々とシリーズを刊行していきます。

その数は現在約50冊に及びますが、残念ながら日本ではその一部しか翻訳されていません。

願わくはすべて日本語版で読んでみたいですが、矢川さんも亡くなられた今では、あの名訳文を再現できる翻訳者がいるかどうか、ですね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ゼフィールの身長意外に高い度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ババールといたずらアルチュール

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