こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
保育園に入れない、待機児童問題がなかなか改善されませんね。
予算が云々と言ってますが、オリンピックやらなにやらで使うお金があるなら、もっと子どものために税金を使って欲しいものです。
口では育児支援とか言ってますけど、本気度がまるで伝わってきません。
それに、単純に施設の数を増やせばいいのかという気もします。
数が増えた分だけ、そこで働く人の資質が問われるべきです。
幼い子どもの生活を預かることが、どれほど重い責任を伴うかを、政府も、保育士の方も、親も、もっと真剣に考えて欲しいと思います。
今回紹介するのは、1974年出版の、保育園を舞台にしたロングセラー絵本「おしいれのぼうけん」(作:ふるたたるひ・たばたせいいち、童心社)です。
私自身、両親が共働きで、1歳から保育所で一日の大半を過ごしていましたので、いろいろと思い出したり、共感したりする一冊です。
カラーの数ページ以外は、鉛筆一本で描かれた絵が、より子どもに身近な世界として感じられます。
お昼寝の時間に、おもちゃの取り合いで喧嘩になったあきらとさとし。
みずの先生は二人を懲らしめるために押入れに閉じ込めます。
反省して謝るまで出してあげない、というわけです。
少し気の弱いあきらは泣きそうになりますが、喧嘩相手だったさとしに励まされます。
二人は押入れの中で遊び始めますが、だんだん怖くなってきます。
そのとき、保育園の子どもたちから恐れられている「ねずみばあさん」の声がして、二人は押入れの奥の世界へ迷い込みます。
必死に逃げる二人ですが、ねずみばあさんに捕まって、謝るなら許してやろうと迫られます。
しかし、二人は手をつなぎ、絶対に謝らないと意地を張りとおします。
とうとうみずの先生は押入れを開き、一方的に閉じ込めたことを、二人に向かって謝ります。
保育園の子どもたちは、最後まで謝らなかった二人に尊敬のまなざしを向けます。
それ以来、保育園では、子どもが押入れに閉じ込められることはなくなりました。
二人の緊張感や恐怖、互いにしっかりと握り合った手の温度が、読んでいる側にも伝わってきて、手のひらにじっとりとした汗を感じるような、臨場感あふれる描写が秀逸です。
言うことを聞かない子どもを押入れに閉じ込める、というお仕置きは、今の保育園や幼稚園ではもうほとんど行われていないでしょうけど、その代わりにもっと陰惨で悪質な虐待が増えたようにも思います。
どちらにせよ、私としては、「子どもを力でねじ伏せる」ような人間に、子どもを預かる仕事はしてほしくありません。
このお話に出てくるみずの先生の年齢はわかりませんが、おそらくまだ若いと思います。
彼女には、「脅かし、怖がらせる」以外に、子どもに言うことを聞かせる有効な手段が見つからないのです。
しかし、子どもを強制的に謝らせることに、一体何の意味があるというのでしょう。
そういう大人は、子どもが「ごめんなさい」と口で言いさえすれば、心の中がどうあれ、構わないのです。
しかしそれは子どもの心を分裂させ、自分の心を偽っても平気な(世の大半の大人と同様の)人間に育てようという行為です。
子どもは本来、自分の心に嘘をつきません。
いくら叱られても、叩かれても、頑として謝らないような子どもは、実は問題児なのではなく、正直な子どもなのです。
叱られる苦痛と引き換えに自分の心を差し出すことが、これから先の自分の人生にどんな影響を与えるか、理屈抜きに知っているから、意地を張るのです。
われわれ大人は、力を持っているからこそ、もっと子どもの立場に立って考える必要があります。
どうやって子どもに言うことを聞かせよう、ではなく、そもそも本当に全員が同じ時間に昼寝する必要があるのか、という風に、考える次元を変えてみるのです。
そんなことを言い出したら、現場の保育士さんたちの負担が大きすぎる、という声が上がるでしょう。
しかし、本来、子どもに関わる仕事というのは簡単なものではないはずです。
そこをどう補助するかが、国の仕事でしょう。
冒頭の話に戻りますが、保育園が足りないからと言って、質を落としてまで数を増やせばいい、というものではありません。
私個人としては、保育士さんの月給が50万でも高いとは思いません。
そしてもちろん、これらの問題は、それ以前に家庭の、親ひとりひとりの意識の問題であることは言うまでもありません。
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