【絵本の紹介】「セクター7」【115冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、個人的に間違いなく現代の天才絵本作家だと思っているデイヴィッド・ウィーズナーさんの「セクター7」を紹介します。

作・絵:デイヴィッド・ウィーズナー

出版社:BL出版

発行日:2000年11月20日

 

作品を発表するたびに「衝撃的」と形容されるウィーズナーさん。

アメリカ最高の絵本賞・コールデコット賞を3回も受賞しています(この作品は次点となりましたが)。


圧倒的迫力と緻密さを兼ね備えた画力。

独自の空想世界。

コミックやアニメーション的な技法を取り入れた前衛的な表現。

 

同じコールデコット賞受賞者のモーリス・センダックさんを彷彿とさせるところもあり、新しい絵本の可能性や方向性の開拓者と呼んでいいでしょう。

 

そして彼の作品のもう一つの特徴は、言語の壁を越えて、グローバルであること。

 

この「セクター7」は特にそれが顕著です。

つまり、「字のない絵本」なんですね。

 

と言っても、赤ちゃん向けの絵だけでできた本ではなく、ちゃんと明確なストーリーが存在します。

この作品の凄みは、絵だけで完全に物語を読み取れるところ。

 

主人公の少年は、課外授業でマンハッタンのエンパイアステートビルを訪れます。

屋上展望台は視界ゼロの濃霧に覆われていました。

 

そこへ、雲の子が現れて、少年と遊び始めます。

仲良くなった少年を、雲の子は空にある雲の工場「セクター7」へと誘います。

ジブリアニメを思わせるこの存在感。

 

セクター内では、マンハッタン上空の雲を設計し、送り出す作業が行われています。

 

こっそり忍び込んだ少年に、集まった雲たちが自分の設計図を手に、何やら訴えます。

どうやら、形が気に入らないよう。

「もっと色んな形になれるのに」

という声が聞こえてきそうです。

 

そこで、魚の絵が得意な(これは扉絵でわかります)少年は、雲たちに新しい設計図を描いてあげます。

雲たちは我も我もと、たちまち整理券まで配られる大行列。

 

仰天したのはセクターの職員たち。

少年は見つかって連行され、エンパイアステートビルに送還されてしまいます。

 

雲の子と別れを惜しみつつ、ビルから出た少年が空を見上げると……。

 

★      ★      ★

 

ひとつの大作アニメ映画を見終えたような読後感。

何度読んでも、幸せなため息が出ます。

 

子どもと読む場合は、こちらがセリフや文章を想像して読んであげてもいいですが、絵本に慣れている子なら、きっと自分でお話を読み上げることができると思います。

 

子どもの自由な想像力に任せて、「読んでもらう」と、自分では気づかなかった意外な発見や、「この場面をそう読むのか」という違った視点に立つ楽しみがあります。

 

大人の一人読みにも、じゅうぶん耐えます。

海外版のまま読むこともまったく問題ありません。

 

文句なしにおすすめできる一冊です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

空想力と画力のスケール度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「セクター7

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【絵本の紹介】「ペンギンきょうだい れっしゃのたび」【114冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

GW間近ですね。

お出かけ予定の方も多いと思います。

 

我が家は、息子が生まれてからの3年間、遠方へ足を延ばすことはなくなりましたね。

たまに意を決して出かけてみても、疲れるだけで……。

子どもが生まれる前に、もっともっと旅行しておけばよかったと思います。

 

というわけで、今回は素敵な旅の絵本を紹介します。

ペンギンきょうだい れっしゃのたび」です。

作・絵:工藤ノリコ

出版社:ブロンズ新社

発行日:2007年5月25日

 

はい、また工藤さんのシリーズです。

大好きなもので。

 

ペンギンのきょうだい、おねえちゃん、ペンちゃん、ギンちゃん

の子ども3人だけでの、列車の旅を描きます。

ペンギンきょうだいの年齢はわかりませんが、たぶんおねえちゃんが6歳くらい、ペンちゃん4歳、ギンちゃん2歳くらいかなと思ってます。

おねえちゃんはかなりしっかりしているので、もう少し上かもしれませんが、いずれにしても、子どもだけの旅行というのはドキドキワクワクだし、一方でそれが許される平和な世界観にも癒されます。

 

お父さんお母さんに見送られて列車に乗った後は、さっそく駅弁タイム。

どうでもいい話で恐縮ですが、私はこの絵本で初めて「フルーツサンドイッチ」なるものを知りました。

列車は綺麗な海の見える駅に到着。

しかし、ここでハプニング。
ペンちゃんが切符を落としてしまった模様。

 

だから おりるまで おねえちゃんが もっててあげるって いったのに……

ない ない ない、どこにも ない!

 

子どもは切符を持ちたがるんですよね。

そして失くす。

 

水筒の中まで確認するおねえちゃんとペンちゃんの慌てっぷりをよそに、状況をよく理解していないっぽいギンちゃん。

子どもたちそれぞれの行動がリアルで、可愛い。

 

結局切符は親切なおじさんが拾ってくれてて、事なきを得ます。

駅の外には、おじいちゃんが犬ぞりで迎えに来てくれていました。

 

★      ★      ★

 

相変わらず、可愛い&おいしそう&描写が細かい。

特に、隠し要素の多さで言えば、このシリーズは工藤さん作品の中でも一番楽しみが多いんじゃないかと思います。

 

各場面でのモブたちの行動を追うだけでも、2度、3度と繰り返して楽しめる構成になっています。

切符を拾ってくれるアザラシの紳士、大きな荷物を背負ったくま、お土産を大量に買うペンギン、家族連れ、ペット連れ……。

 

このシリーズは以降、「ふねのたび」「そらのたび」「バスのたび」と続きますが、その中でいつも同じモブたちが登場し、時には交流があったりして、それぞれのセリフを想像したりするのも楽しい。

 

そして、到着したおじいちゃんの家で、きょうだいたちの荷物がどうなっているのか、お土産の中身は何だったのか、出発前のページと見比べると色々な発見が。

シリーズを通して読むと、荷物の中身が少しづつ変化してたりして、さらに面白いです。

 

ああ、旅したいなあ。

来年こそは……?

 

関連記事:≫絵本の紹介「ピヨピヨスーパーマーケット」

≫絵本の紹介「ノラネコぐんだんパンこうじょう」

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

ペンギンの子どもって言われなきゃ灰色のヒヨコにしか見えない度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「うんちしたのはだれよ!」【113冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、ドイツの作家さんによる、科学的で、高尚で、ためになる、「うんち絵本」を紹介しましょう。

その名も「うんちしたのはだれよ!」です。

文:ヴェルナー・ホルツヴァルト

絵:ヴォルフ・エールブルッフ

訳:関口裕昭

出版社:偕成社

発行日:1993年11月

 

ふざけてませんよ。

もぐらくんは帽子じゃなくてうんちを頭に乗っけてますが、真面目です。

 

……ま、抵抗ある方もいらっしゃるかもしれませんが。

 

「うんち絵本」には色んな種類があって、わりと綺麗な印象でまとまっているものもあれば、どストレートな表現のものもあり、これは後者です。

 

ある日のこと、地面の上に顔を出したもぐらくんに、とんでもない悲劇が(文字通り)降りかかります。

 

なんて ひどいことを!

だれだ、ぼくの あたまに うんちなんか したやつは?

 

というわけで、もぐらくんの犯人捜しが開始されます。

 

通りかかった動物たちに、

ねえ きみ、ぼくの あたまに うんち おとさなかった?

と尋問して回ります。

すると動物たちはそれぞれ、もぐらくんの前でうんちをしてみせます。

自分のうんちの形態が、もぐらくんの頭のものと違うことで、身の潔白を証明するわけです。

この描写がとってもリアル。

 

なおかつ、喩えが食べ物。

ハトのうんちは「ヨーグルト」、ウマは「おだんご」、ウサギは「まめつぶ」、ヤギは「あめだま」……。

最後にもぐらくんが出会ったのは、二匹のハエ。

なんというか、その、お食事の最中。

うんちのことなら彼らに聞け。

ということで、もぐらくんはハエに犯人を尋ねます。

 

ハエたちはもぐらくんの頭の上のものを味見することで、犯人をズバリ言い当てます。

果たして「にくやま にくえもん」とは何の動物……?

 

★      ★      ★

 

私も息子のおむつを替えますけど、最初はやっぱり抵抗ありました。

赤ちゃんのうんちって、真っ黒で粘ついてて。

 

でも、慣れてくると、うんちには色んな情報が詰まっていることがわかります。

 

食べたものがどれくらいで出てくるのか、消化の悪い食べ物は何なのか。

色や硬さに体調の良不良のサインが出ていたり。

 

さらに、子どもとずっと一緒に生活していると、気配でうんちが出ることを察知できるようになります。

そうすると、うんちが愛おしくさえあります。

……まあ、臭いものは臭いけど。

 

うんちは、そこまでタブー扱いされるようなものじゃないはずです。

誰だってするし、しないと大変なことになるわけで。

 

親が子どもの排便に対して嫌悪感を見せたり、ことさらに「汚い」「臭い」と言い過ぎるのはよろしくないでしょう。

おむつに関しても、無理に卒業を急がせると、将来的に異常性癖の原因にさえなる……というのはフロイトの説で、正しいかどうかはわかりませんけど。

 

それを参考にしてるわけではありませんが、我が家ではトイレトレーニングを急いではいません。

 

……でも、いい加減トイレでしてほしいのが本音ですけど、ね。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

「にっくきにくえもん」の原文が気になる度:☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「バルンくん」【112冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

男の子はみんな乗り物大好き。

私も、子どものころはやっぱり、クルマのおもちゃに夢中だった時期もあったようです。

ただ、大人になるにつれ、乗り物への興味は薄れて行きましたが。

 

もちろん、自動車などへの興味や愛着を持ち続けて大人になった男性も多いでしょうが、同じ自動車好きと言っても、子どもと大人の「好き」のベクトルは違っていると思います。

 

子どもは「動く」機械に対し、純粋な憧憬を抱きます。

それが大人になるにつれ、「自分が操縦する」対象として乗り物を見、その快感や全能感を求めるようになります。

 

それは自然な成長ですが、大人の中には稀に、子どもの持つ純な「自動車愛」を、そのまんま持ち続けたようなひとがいます。

 

そんな大人の一人である絵本作家さん・小森さんの作品が、今回紹介する「バルンくん」です。

作・絵:こもりまこと

出版社:福音館書店

発行日:2003年1月25日

 

何ともあたたかみのある色合い。

まさに血の通ったマシンという絵です。

 

子ども、特に男の子に受けること間違いなしの絵本ですが、読み聞かせのポイントは、もう、いかに何にも考えずに「バルバルバルーッ」とノリノリで読めるかどうかだけです。

なんか懐かしくなる絵なんですよね。

バルンくんのモデルは、イギリスのスポーツカー、オースチン・ヒーレー・スプライト。

登場する他の車たちも、全部実在するようです。

私はさほど詳しくないのですが、自動車好きのお父さんなら、一緒になって楽しめるのでは。

ストーリーもなんにもない。

走るだけ。

 

……「純」です。

男の子がミニカーで遊んでいる光景をそのまんま絵本にするとこうなるんじゃないでしょうか。

 

さあ、世の中のお父さん方、照れることはありません。

子どものころの情熱を呼び起こして、思いっきり叫びましょう。

 

バルンバルン バルバルーッ ブロブローン ウオウオーン

 

だんだん楽しくなってくるはずです。きっと。

 

 

推奨年齢:0歳〜

読み聞かせ難易度:☆

リピート率度:☆☆☆☆☆

 

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■続編も人気→「バルンくんとともだち

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【絵本の紹介】「ながいかみのラプンツェル」【111冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はグリム童話原作・「ながいかみのラプンツェル」を取り上げます。

原作:グリム童話

絵:フェリクス・ホフマン

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1970年4月30日

 

今ではディズニー版の方が遥かに有名になってしまいましたが、映画は原作とはかなり違いがあります。

原作そのものも、時代の要請に従って、何度も改編されている問題作です(性的描写が露骨だという、例の事情です)。

 

さらに、この絵本も、作者のホフマンさんが細部に変更を加えています。

 

ですので、「ラプンツェル」を知ってる人は数多くとも、どのヴァージョンを読んだかによって、それぞれの思い描くお話は様々だと思われます。

 

まずは、絵本の内容とポイントをざっと追ってみましょう。

 

あるところに、子どものいない夫婦が住んでいて、一人でも子どもが欲しいと願い暮らしていました。

隣の家には人から恐れられている魔女のゴーテルが住んでいて、その庭には立派な畑がありました。

 

ある時、おかみさんは、ゴーテルの庭のラプンツェル(レタスのような野菜)を食べたくてたまらなくなり、旦那さんに取ってきてくれるよう懇願します。

旦那は庭に忍び込んでラプンツェルを盗みますが、魔女に見つかってしまいます。

旦那さんが訳を話して謝ると、ゴーテルは好きなだけラプンツェルを持って行っていいが、もし次にまた来たら、これから生まれる子どもをよこすことを約束させます。

 

しかし、結局おかみさんはまたすぐにラプンツェルが欲しくて我慢できなくなり、再び旦那さんは魔女の庭に侵入。

もちろん見つかって、その後生まれた娘を連れ去られてしまいます。

ゴーテルは娘を人目につかない森の奥の塔で育てます。

ラプンツェルと名付けられた娘は「てんかいちの きりょうよし」に成長します。

 

けれども、ラプンツェルは塔から一歩も外へ出ることを許されません。

塔には階段もなく、ゴーテルが塔に入る時は、ラプンツェルの長い髪を梯子替わりに使うのでした。

 

そんなある時、森へ来た王子が、ラプンツェルの歌声を耳にし、心を奪われます。

王子は塔に近づき、ゴーテルが窓から垂らされた髪の毛を掴んで出入りするのを見て、同じように窓に向かって呼びかけ、侵入します。

初めて見る男性に、ラプンツェルは驚きますが、王子が若くて美しいのを見て、「このひとなら、ゴーテルばあさんよりも わたしを かわいがって くれるだろう」と考え、王子の愛を受け入れます。

 

何度か魔女の目を盗んで逢瀬を重ねるうちに、ラプンツェルはうっかりと、ゴーテルに

あなたを ひきあげるほうが、おうじさまを ひきあげるより おもいのですもの

と口を滑らせてしまいます。

 

ゴーテルは怒り、ラプンツェルの長い髪をばっさり切り取ってしまいます。

 

そして、やってきた王子を塔の下へ落とします。

王子は「いばらで りょうめを さしつぶしました」。

 

これを見たラプンツェルは塔から飛び降りますが、怪我一つ負わず、王子を見つけて抱きしめます。

ラプンツェルの涙が王子の目を治し、ふたりは王子の国へ帰って結婚します。

 

残された魔女は塔から降りることもできず、小さくしぼんでしまい、最後は大きな鳥にさらわれてしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

一読しただけでは、釈然としないお話です。

登場人物はそれぞれ業が深く、単純に「いい人」「悪い人」が存在せず、勧善懲悪のストーリーでもありません。

 

・娘が奪われるのを知った上で、よそ様の畑の野菜を盗み食らう夫婦。

・何の目的かわからないけどラプンツェルをさらって、でも結構大事に育ててる魔女。

・でも、あっさりと初めて会った男になびいてしまう、チョロいラプンツェル。

・なんか情けない王子。

 

ディズニー映画は、上記の点をすべて納得のいく物語になるよう、変更しています。

 

なお、原作と絵本との違いで最も顕著なのは、「ラプンツェルが妊娠しないこと」「魔女の最後が描かれていること」の2点です。

 

原作では、ラプンツェルは王子と性行為を繰り返し、妊娠することによって密会を魔女に知られます。

絵本ではここを改編していますが、p24〜25のカットは、わりと如実に性的なものを暗示しています。

 

つまり、これは基本的に「性的な物語」なのです。

 

そのつもりで読み解くと、ラプンツェルの長い髪は「処女性」を示し、王子の失明は「去勢」を示していると推測できます。

 

そして物語のテーマは、「娘を支配する母親」です(これは「核」ですので、ディズニー映画においても継承されています)。

 

魔女ゴーテルがラプンツェルを幽閉し、人目に触れさせないのは、娘の若さと美しさへの嫉妬からです。

こういう感情は、現代でもないとは言えないでしょう。

 

老人は、常に若者に嫉妬を抱くものです。

ことに、若者同士の自由な性交を、老人は危惧します。

なぜなら、それは自分が若いころに欲しても手に入れられなかった自由であり、悦びであるからです。

 

妊娠の恐れとか、勉学の妨げとか、世間体とか、様々なもっともらしい理由の奥底には、そうした嫉妬の念があります。

 

グリム童話にたびたび「継母」という形で登場する母親たちは、実の母親の心のどこかに潜む、娘への嫉妬と支配欲を象徴していると考えられます。

それが「母親と娘」であるのは、単に女性の方がより性的に抑圧されているからです。

 

これだけ時代が流れても、いまだにその抑圧の連鎖は断ち切れていません。

 

しかし本当に、老人の世代が言うように、若者に自由な性交を許したら、人間は堕落するのでしょうか。

世間に蔓延る様々な病は、性的奔放ではなく、性的抑圧の結果ではないでしょうか。

 

青春を謳歌できなかった魂は、かつての自分である子ども世代に、呪いをかけ続けます。

「ラプンツェル」は、そうした母親の呪縛から逃れる娘の物語なのです。

 

そう読まないと、

この魔女、別にそんなに悪いことしてないんじゃないの

と思ってしまいがちです。

 

だからこそ、ホフマンさんが、わざわざ原作にない魔女の末路を描いて、

いんがおうほう、とうぜんのむくい

とまで書いているのではないでしょうか。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

構成力と画力度:☆☆☆☆☆

 

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