【絵本の紹介】「しゅくだい」【132冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

現在、上野の森美術館にて、絵本作家・いもとようこさんの原画展が開催されています(6月11日まで)。

いもとさんは、貼り絵に着色する独自の技法を用いて、柔らかでぬくもりの感じられる色彩の絵本を多数発表しています。

 

今回紹介するのは、「しゅくだい」です。

原案:宗正美子

文・絵:いもとようこ

出版社:岩崎書店

 

宗正さんは学校教員で、その体験をふまえた作品「しゅくだい」が平成14年第33回JOMO童話賞の佳作に選ばれました。

その作品をモチーフに、いもとさんが作ったのがこの絵本になります。

 

めえこ先生(ヤギ)が出した宿題とは。

それは「だっこ」。

帰ったら家の人に抱っこしてもらうこと。

 

みんなの前では「やだ〜」なんて言ってたもぐらのもぐくんは、どこかうきうきしながら家に帰ります。

でも、お母さんは赤ちゃん(双子っぽい)の世話に大忙しで、もぐは宿題のことを言い出すきっかけがありません。

ちょっといじけるもぐ。

夕飯の時間になって、ようやく宿題が抱っこであることを言うと、お母さん、お父さん、おばあちゃんがみんなで順番に抱っこしてくれます。

久しぶりにお母さんに抱かれ、歌を歌ってもらって、もぐは幸せな気分に。

 

次の日、クラスのみんなはとっても元気そう。

しゅくだいを やってきましたか?

はーい

 

★      ★      ★

 

抱っこはいつまでしてあげるものなのか、なんて質問をたまに見かけます。

いつまでだっていいじゃない。

心の中でそう思います。

 

最近では、抱っこはいくらしても問題ないというのが常識になりつつあるように思います。

喜ばしいことです。

この絵本のもとになったという宗正さんの体験がいつのころのことかは存じませんが、少し昔まで、「子どもをいつまでも甘やかしてはいけない」という理由で、抱っこを早めに卒業させようとするお母さんが結構いたみたいです。

 

ま、そうでなくても、下の子が生まれたり、仕事が忙しかったりで、抱っこしてやれなくなるケースは多いでしょう。

でも、子どもの「甘えたい気持ち」を十分に満たしてやらなければ、本当の意味で自立した大人には成長できないと思います。

無理に抑えたり、断ち切ったりした依存心は、心の中でくすぶり続けるからです。

 

今の世の中は、寂しい大人でいっぱいです。

大げさに聞こえるかもしれませんが、すべての悪は、「寂しさ」「不幸」から生まれるものだと思います。

 

私は、息子が求める限り、いつでも抱っこしてやることに決めています(できないこともありますが……)。

それは、どんな時でも絵本を読んでやることと同じです。

そうしてみて思うのは、子どもが親の無条件の愛を求める心は、ほとんど底なしだなあ、ということです。

子どもはひたすら求め続けます。

それはまるで、親の愛を試しているかのようです。

それでも、「もうじゅうぶん」は、こちらから発する言葉ではないと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

近畿圏でももっと絵本展開催して欲しい度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「しゅくだい

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「ぐりとぐらのおおそうじ」【131冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今日は5月30日。

「ごみゼロ」の日ということで、お掃除の絵本を選びました。

久々にあの二匹に登場してもらいましょう。

ぐりとぐらのおおそうじ」です。

文:中川李枝子

絵:山脇百合子

出版社:福音館書店

発行日:2002年2月1日

 

このブログではこれまでに「ぐりとぐら」「ぐりとぐらのおきゃくさま」を紹介しました。

あれこれ勝手なことを書いてます。

 

≫絵本の紹介「ぐりとぐら」

≫絵本の紹介「ぐりとぐらのおきゃくさま」

 

この「ぐりとぐらのおおそうじ」は、初版発行日が2002年と、シリーズの中では比較的新しい作品ですが、もともとは同作者の「おひさまはらっぱ」(1977年初版発行)という童話絵本がありまして、これはいくつかのエピソードに分かれた短編集ですが、その中の一話「ぐりとぐらの大そうじ」を加筆修正し、福音館書店50周年記念出版として刊行されたものなのです。

 

シリーズには毎回ゲストが登場しますが、今回は「ギック」という、ぐりとぐらワールドでは珍しくカタカナ名のうさぎが出てきます。

しかも、他のゲストキャラがその作品を通して初めてぐりとぐらに出会うのに対して、このギックはもともと二匹の友達という設定になっているところも珍しいです。

 

実はこの「うさぎのギック」は、前述の「おひさまはらっぱ」に収録されているエピソードのほか、「たからさがし」など、中川さんと山脇さんの他作品にも登場するキャラクターなのですね。

 

―――朝起きて、カーテンを開けるぐりとぐら。

外はいいお天気で、窓を開けると春のにおい。

 

でも、うちの中がほこりだらけなことに気づくと、二匹は「きょうの しごとは、おおそうじ」。

マスクやゴーグルを装備し、掃除道具を取り出そうとしますが、ほうきもはたきもぞうきんもボロボロで使い物になりません。

そこで、二匹は奇想天外な掃除方法を思いつきます。

ぐりは穴の開いたセーターなどのぼろきれを体に巻き付け、床の上を滑って雑巾がけ。

ぐらはシャツやタオルを束にして、足にくくり付け、手に持って、ほうきとはたきを担当。

 

そこへうさぎのギックがやってきて、窓の外から中を覗きます。

ぐりとぐらの姿を見たあわてんぼうのギックは、おばけだと思って逃げ出し、友達を呼んできます。

みんなが来る頃には大掃除は終わっていて、うちの中はすっかりきれいに片付いていました。

ちょうどおやつの時間ということで、みんなは「とくべつ おいしい ぐりと ぐらの にんじんクッキー」を食べます。

 

★      ★      ★

 

こんな大掃除なら、楽しいでしょうね。

小学校で、みんなでふざけながらやる大掃除の時間は、ちょっとしたお祭り気分だったのを思い出します。

 

……ま、実際にぐりとぐら方式で掃除をしても、まずきれいにはならないでしょうけどね。

 

子どもにどうやってお片付けをさせるか、どこの家庭でも悩みどころだと思います。

そもそも子どもには「片付ける」という感覚がありません。

我が家の息子も、散らかしっぱなしの出しっぱなし。

おもちゃ一つを取り出すのに、おもちゃ箱を全部ひっくり返すし。

 

妻などは少々潔癖症なところもあり、普段は我慢していても、時には「イーッ」となってます。

大きな箱を用意して、そこにおもちゃをぶち込めるようにし、「一緒にやろう」と遊びの延長のように誘ってみたり、あれこれ試行錯誤してはいますが、本人は半ば意地になって片付けようとしません。

 

私の結論としましては、「いいんじゃないの、別に」です。

そりゃあ、汚いよりきれいなほうが気持ちはいいし、整理整頓は大切な習慣かもしれませんが、子どもに価値観を強制しないのが我が家の方針ですので、それとなく誘導しても本人がその気にならない以上、諦めるよりないように思います。

第一、自分自身の子どものころを鑑みても、他人のことをどうこう言えるようなもんじゃなかったし。

 

ただし、自分で片付けできる年齢になったら、子ども部屋の掃除は完全に本人に任せるつもりです。

それで本人が汚さに我慢できるなら、つべこべ言う気はありません。

あくまでも自分から、掃除の大切さに気付いてほしいものです。

 

……でも、絶対妻が我慢できなくて掃除しちゃうんだろうなあ。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

参考になる掃除術度:☆

 

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【絵本の紹介】「3びきのくま」【130冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は有名な童話「3びきのくま」を紹介します。

文:トルストイ

絵:バスネツォフ

訳:小笠原豊樹

出版社:福音館書店

発行日:1962年5月1日

 

もともとはイギリスの童話ですが、この福音館書店発行の絵本は、かの世界的大作家・トルストイさんが再話されています。

よって、3びきのくまにはそれぞれロシア名が付けられているのが特徴。

 

いちいち長ったらしくて重々しいんですが、それが面白いんですね。

バスネツォフさんの絵も相まって、異国情緒豊かな作品になっています。

くまはなんか目が怖くて、可愛くはない。

でも、どこかユーモラスです。

 

内容の方は今さらですが、再話者によって細部が違うので、ざっと紹介しておきます。

森で道に迷った女の子が、小さな家を見つけます。

この家は3匹のくまの家。

 

おとうさんぐまは「ミハイル・イワノビッチ

おかあさんぐまは「ナスターシャ・ペトローブナ

くまのこは「ミシュートカ

3びきが外出中なのをいいことに、女の子は家に入り、3つのお皿のスープを味見し、3つの椅子に腰かけ、3つのベッドに寝てみて、ちょうどよい大きさのミシュートカのベッドで眠ってしまいます。

やがて3びきが帰ってきて、侵入者の形跡に気が付きます。

最後にミシュートカが自分のベッドを占領している女の子を発見し、騒ぎ立てますが、女の子は窓から飛びだして逃げてしまいます。

 

★      ★      ★

 

誰でも知っているお話ですが、どこか釈然としない結末でもあります。

私は子どものころ、このお話に出てくる女の子が大嫌いでした。

 

勝手に人の家に上がり込み、何の躊躇もなくスープを盗み食らい、無法にも椅子を壊し、図々しくもベッドで眠る。

あまりにも傍若無人なふるまいではありませんか。

3びきの怒りは当然ですし、一番の被害者である子ぐまのショックと嘆きはいかばかりでしょう。

なのに、女の子は少々怖い思いはするものの、あっさりと逃亡に成功し、何の罰も受けません。

 

ということは、本質としてはこれは教訓的なお話ではないと言えます。

 

重要なのは女の子の行動の倫理性ではなく、法則性にあります。

つまり「3」の繰り返しです。

 

幼児向けお話における繰り返しの持つ意味については、「おおきなかぶ」の紹介で触れました。

 

≫絵本の紹介「おおきなかぶ」

 

「3」はグループの最小単位であり、他の様々な昔話や童話にも、たびたびキーワードとして登場します。

この「よくわからないお話」が、時代や国境を越えて読み継がれているのは、典型的な繰り返しの技法を確立しているからでしょう。

 

子どもはパターンを読み取り、結果を予測し、この世界を掴もうとします。

 

ちなみに、ですが。

イギリスでは女の子の名前は「ゴルディロックス」(金髪)。

常に自分に「ちょうどよいもの」を選ぶところから、宇宙における「生命居住可能領域」を指す「ゴルディロックスゾーン」という、中2が喜びそうな用語にもなっています。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

女の子の逃走能力度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「3びきのくま

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【絵本の紹介】「おなかのすくさんぽ」【129冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どもの遊びを観察するのは面白いものですが、時には発散させるエネルギーが大人の目からは常軌を逸しているように見えて、「この子大丈夫かな」と心配になったりもします。

 

我が家の息子はひとたび公園へ行くと、8時が9時になろうと帰ろうとしません。

メインは砂遊びですが、泥をこねるのは嫌がります。

何をするのかと言うと、ひたすら砂を撒き散らかすのです。

そのうちに自分の身体に砂をかけ始め、しまいには手足を砂の中に埋めてしまいます。

表情を見ていると、真剣で、特に笑いもせずに黙々とやってたりする。

 

片山健さんは、普通の大人には理解しがたい、子どもの一種グロテスクとも言える内的なエネルギーを掬い取ることに長けた作家です。

今回は「おなかのすくさんぽ」を紹介します。

作・絵:片山健

出版社:福音館書店

発行日:1992年4月10日(こどものとも傑作集)

 

ラフな色鉛筆のスケッチ風の絵ですが、主人公の男の子の表情と目力の強烈さといったら。

片山さんは子どもを動物的に描く人ですけど、この男の子は特にその傾向が顕著で、ほとんど人間離れしています。

 

男の子が歩いていると、動物たちが水たまりで遊んでいます。

男の子は一緒になって、

バッチャン バッチャン バッチャン バッチャン

なんだか うれしくなって エヘヘヘヘー

 

泥をこね、穴に潜り、男の子はさらに野生化し、ますます目の光は強くなっていきます。

そして洞窟探検。

もはや完全に動物化してます。

ワーオ ワーオ ブギャー、ギャーオ ギャーオ クアー

 

もう誰にも止められません。

その後でくまが、

きみは おいしそうだねえ。ちょっとだけ なめて いーい?

なんて、ドキッとするようなことを言いますが、最後にはみんなお腹がペコペコになって、

おなかが なくから かーえろ

 

★      ★      ★

 

フランスの児童文学者、ルネ・ギヨは、

子どもは、大人の中に入っていくよりも、動物たちの中に入っていく方が、ずっとずっと安心するのだ

と語っています。

 

確かに、空腹や快不快といった感覚に対する反応で生きているあたり、子どもは動物に近い存在です。

動物ならばそうやって生きることに何の不安も疑念もないでしょう。

でも、子どもはやはり人間です。

自分の感情や衝動を制御できないことに、無意識的にであれ、恐怖と不安を抱えているのだと思います。

 

子どもを注意深く観察していると、子どもの内部で凄まじい葛藤とせめぎ合いが渦巻いているのを感じられます。

ほとんど目にも止まらぬ速度で成長し続ける子どもは、常に内的な戦いに晒されているのです。

私はこの絵本を読むと、モーリス・センダックさんの「かいじゅうたちのいるところ」のマックス少年を思い出します。

 

≫絵本の紹介「かいじゅうたちのいるところ」

 

大人には理解不可能な子どもの遊びに込められた情念は、まさに、大人の目には呑気で牧歌的に映っている「子ども時代」が、いかに困難な戦いの時代であるかを物語っているのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

男の子の目力度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】小澤俊夫・赤羽末吉「かちかちやま」【128冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本五大昔話の一つにして、昔話史上最大の問題作でもある「かちかちやま」を取り上げます。

再話:小澤俊夫

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1988年4月20日

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、このおはなし、実は目を背けたくなるほどの残虐かつ凄惨な描写があります。

単なる暴力描写ではなく、心理的にエグいのです。

 

これをどう子供向け絵本にするのか、再話に臨んだ作家さんたちはみんな悩んだことでしょう。

あくまで原作を大事にして、そのままにするのか。

時代や倫理観の変化を考慮して、問題の箇所を削ったり、改編するのか。

この小澤俊夫さん再話・赤羽末吉さん絵による作品は、表現方法をややオブラートに包みながらも、昔ながらのお話をそこそこ忠実に再現しております。

 

むかし、じいさまが畑へ行き、

ひとつぶのまめ せんつぶになあれ

と歌いながら豆をまいていると、切り株に座っていた狸が、

じいのまめ かたわれになあれ

と囃し立てます。

 

怒ったじいさまは狸を捕らえ、縛り上げて家に帰ります。

ばあさまに狸汁をこしらえてくれ、と言い残し、じいさまはまた出かけます。

 

狸はばあさまに粟餅つきを手伝ってやるからと言って縄を解かせ、すきを見て杵でばあさまを撲殺します。

狸はばあさまに化け、戻ってきたじいさまに粟餅と狸汁を出します。

じいさまは、

なんだか ばあさまくさいなあ

と言いながら、狸汁を完食。

 

すると狸が正体を現し、

ばあじる くったし、あわもち くった。ながしのしたの ほねを みろ

と言って逃げます。

 

じいさまが悔しさに泣いていると兎がやってきて、仇討ちを請け負います。

ここから兎は三度に亘って狸に報復を加えます。

まずは、背中に担いだ萱草に火をつけ、大やけどを負わせます。

 

さらに薬だと騙してやけど痕に唐辛子を塗り込み、最後はご存知の通り、泥船を作って狸を誘い込み、沈めてしまいます。

 

★      ★      ★

 

やっぱり、最大の問題部分は、狸がばあさまを打ち殺すばかりか、その肉で「ばあじる」をこしらえ、あまつさえそれをじいさまに食わせるという非道極まりない行為でしょう。

ちょっと、他の昔話にも類を見ないグロテスクさです。

 

いくらなんでもやり過ぎだとして、この部分を完全にカットし、単にばあさまを殺されるだけ(もしくは重傷を負わせるだけ)に改編した作品が多いのも無理からぬ話でしょう。

 

ただし、そうすると、今度は逆に兎の狸に対する仕打ちが、ひど過ぎるように見えるという問題があります。

というわけで、狸も殺されるまでは行かず、最後は改心するというオチを用意したりした作品もあります。

ですが、こうなると、もはや原作の本質部分が失われてしまうようにも思えます。

何とも扱いの難しい昔話なのです。

 

では、この昔話の本質とは何かを考えてみると、これは「量刑」の物語であるということが言えます。

 

兎は「裁判官」であり、「処刑執行人」でもあります。

じいさまが自分で仇を討つなら、それは単なる復讐ですが、代理人を立て、第三者の判断に託すことで、「私怨」を「法の裁き」に変えるわけです。

 

さて、そうなると、狸の犯した罪と兎の加える刑罰との「バランスが妥当であるかどうか」が重要になってきます。

 

そしてそれを判断するのは、読者ひとりひとりの感情です。

「法」は神様が決めるものではありません。

アダム・スミスが「道徳感情論」で指摘しているように、量刑というものは、人間の感情が「これくらいが一般に妥当であると受け入れられるだろう」という「共感」を基準に決められています。

 

ですから、人間の情緒的な進化(変化)に伴って、量刑判断も変わってきます。

昔のような、「目には目を」式の判決は、現代では通用しません。

 

だから、「そもそも最初に狸を殺そうとしたのはじいさまだし、狸は正当防衛でしょう」という意見が出たり、「兎の火責め、水責め、だまし討ちはやり過ぎ」と思われたりするわけです。

しかしここに「ばあじる事件」を加えると、一気に裁判の行方は変わるでしょう。

 

そんな風にして、我々の感情とともに様々に形を変えることは、むしろこの昔話のあるべき様相なのだと思います。

「かちかちやま」がどのように再話されているかによって、その時代の人間感情を量ることができる、という言い方もできるかもしれません。

そういう意味で、これはやはり、非常にすぐれた昔話だと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

猟奇的度:☆☆☆☆☆

 

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