【絵本の紹介】「チムとゆうかんなせんちょうさん」【148冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私が子ども時代に夢中になった冒険小説と言えば、スティーブンソンの「宝島」です。

海と冒険は切っても切り離せないもの。

 

果てしなく広い海。

潮のにおい。

荒っぽい船乗りたちの掛け声。

危険な魅力に満ち溢れた世界。

 

そこへ自分が飛び込んでいくことを想像すると、震えるほどの興奮を覚えました。

いつの時代も、男の子が冒険に憧れる気持ちは変わらないのでしょう。

 

今回は海洋冒険絵本の最高峰シリーズより、「チムとゆうかんなせんちょうさん」を紹介します。

作・絵:エドワード・アーディゾーニ

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1963年6月1日

 

作者のアーディゾーニさんは、イギリスを代表する挿絵画家。

生涯に180冊以上の作品を残しており、この「チムとゆうかんなせんちょうさん」は、35歳の時に息子のために作った物語で、以後シリーズ化し、77歳で全11冊を完結させました。

 

今なお色褪せぬアーディゾーニさんの挿絵の魅力については、一言では語りつくせません。

特徴的なのは、基本的に「引いた」アングルで描くこと。

顔のアップなどはほぼありません。

それでいて、ペン一本で描かれたモノクロカット一枚一枚には、読む者の想像力を刺激し、物語に最大限の効果を添える力が備わっています。

生粋の挿絵職人と呼ぶべきでしょう。

 

ちなみに、こぐま社の創業者・佐藤英和さんは熱狂的なアーディゾーニファンであり、コレクターであることで有名です。

 

さて、作品の内容紹介に入りましょう。

チムは船乗りに憧れる男の子。

港町に住み、浜で遊んだり、仲良しの船長さんから航海の思い出話を聞いたり。

 

そのうちに憧れはどんどん膨らみ、ある日ついに、こっそり汽船に乗り込んでしまいます。

船員に見つかったチムは、船長の前へ連れて行かれます。

 

船長は怒り、チムにただ乗り分の仕事をさせます。

辛い仕事でしたが、チムはよく働き、次第に船長や乗組員たちから認められていきます。

 

コックと仲良くなったり、船の操縦を教えてもらったり。

 

しかしある嵐の夜、船は岩にぶつかって横倒しになり、沈み始めます。

船員たちはボートで脱出しますが、チムは逃げ遅れて、船に取り残されてしまいます。

 

ブリッジに出ると、船長がたった一人で残っていました。

チムを見つけると、船長は彼の手を握り、言います。

 

やあ、ぼうず、こっちへ こい。なくんじゃない。いさましくしろよ。わしたちは、うみのもくずと きえるんじゃ。なみだなんかは やくに たたんぞ

 

その言葉に、チムは勇気を奮い起こし、泣くのをやめ、最後の時を待ちます。

その時、救命ボートが近づいてきて、二人は危ないところで助かります。

 

陸地に戻ったチムは、すっかり有名人扱い。

元気になると家に送り届けてもらい、船長さんはチムの両親に、チムの勇ましかったことを褒め、次の航海にぜひチムを連れて行きたい旨を告げます。

両親の許しを得て、チムはとても喜ぶのでした。

 

★      ★      ★

 

まさに男の子のための冒険物語。

海への憧れを叶え、逞しい船乗りたちに混じって認められ、大冒険を経て無事に帰還し、大人たちに褒められる。

文句なしに痛快で幸せなストーリーです。

 

少し長いですが、5歳くらいからでもおすすめです。

自分で読みふけるもよし、寝る前に読み聞かせてあげれば、ワクワクするような勇ましい気持ちとともに眠りにつけるでしょう。

 

また機会を見つけて、チムの冒険の続きを紹介していきたいと思います。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ボートのおじさんの責任感度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「チムとゆうかんなせんちょうさん

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

【絵本の紹介】「しょうぼうじどうしゃ じぷた」【147冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、久しぶりに山本忠敬さんの乗り物絵本を紹介しましょう。

山本さん作品の中でも人気の高い、「しょうぼうじどうしゃ じぷた」です。

作:渡辺茂男

絵:山本忠敬

出版社:福音館書店

発行日:1966年6月10日(こどものとも傑作集)

 

山本さんの、写実的でありながら血の通った乗り物絵については、過去いくつかの紹介記事の中で触れていますので、ここでは省略。

 

≫絵本の紹介「とらっくとらっくとらっく」

≫絵本の紹介「のろまなローラー」

≫絵本の紹介「ひこうじょうのじどうしゃ」

 

とらっくとらっくとらっく」と同じく、渡辺茂男さんとの名タッグを組んでの今作。

乗り物そのものへの深い憧憬や慕情はそのままに、今回はよりストーリー性も重視した作品になっています。

 

主人公の「じぷた」は、古いジープを改良した小型の消防車です。

小さくても、ポンプもサイレンもついた、高性能の消防車です。

しかし、誰もじぷたのことを気にかけません。

 

同じ消防署の、はしご車の「のっぽくん」や、高圧車の「ぱんぷくん」や、救急車の「いちもくさん」は、大きな火事の時には勇ましく活躍し、町の子どもたちからも大人気なのに。

じぷたはひそかに、

ぼくだって、おおきな ビルの かじが けせるんだぞ!

と思っていますが、そういう大火事のときには自分には出動命令が出ないのです。

 

じぷたはのっぽくんの背の高いはしごや、ぱんぷくんの力の強いポンプなどを羨ましく思い、劣等感で悲しい気持ちになっていました。

そんな時、ついにじぷたにも活躍の時が巡ってきます。

山小屋で火災があり、放っておくと山火事になりそうとの電話が。

署長さんは狭い道でも走れるじぷたが適任と見て、出動命令を下します。

何しろジープですから、山道は得意。

すぐに現場に駆け付け、山火事を消し止めます。

 

その活躍が新聞に載り、それからはみんながじぷたに一目置くようになります。

 

★      ★      ★

 

ジープを改良した消防自動車は、1950年代には実際に活躍していたそうです。

当時はまだ、戦後で未舗装のでこぼこ道が多かったのですね。

 

しかし、この絵本が発表された1960年代には、じぷたのような消防車は、すでに姿を消しつつあったようです。

が、近年になってから、震災対策などの視点から、再び小型消防車が見直されつつあります。

 

小さいことで周囲から軽く見られ、悔しい思いをするじぷたが、ある日ついにスポットライトを浴び、大活躍をして認められる。

この話型は絵本における王道のひとつですが、それだけに、いつの時代も子どもたちから支持されるタイプのストーリーだということです。

 

子どもはどんなに幼くても、ちゃんと自尊心を持っています。

しかしそれは人生経験不足ゆえに脆弱で、ナイーブな感情です。

 

大人は(特に教育に携わる人間は)、このことをよく理解する必要があります。

本人はそのつもりがなくとも、何気ない言動のひとつひとつが、小さな自尊心を傷つけているかもしれません。

 

人前で失敗を叱る。

幼さゆえの間違いを笑う(可愛いのはわかりますが)。

あんたは小さいんだから

どうせできないんだから

だから無理って言ったでしょ

等々の言葉。

 

何故わざわざ、伸びる芽を摘むようなことを繰り返すのでしょう。

その一方で、「やればできる!」と、見当違いの激励を浴びせる。

こういう大人を見ていると、潜在的には「子どもの成長」を望んでいないのではないかとさえ疑いたくなります。

 

子どもが求めているものは大人から「敬意を示される」ことです。

上から目線ではなく、対等な存在として認められる経験です。

その経験が、その後の人生に大きな影響を及ぼします。

子どもは無意識的であれ、そのことを知っているし、だからこそその経験を渇望しているのです。

 

そしてもちろん、大人にだって、じぷたの気持ちがわからないはずはないのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

のりもの以外の絵柄の変遷度:☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「しょうぼうじどうしゃ じぷた

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

【絵本の紹介】「へびのクリクター」【146冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「へびのクリクター」です。

作・絵:トミー・アンゲラー

訳:中野完二

出版社:文化出版局

発行日:1974年3月20日

 

すてきな3にんぐみ」で有名なトミー・アンゲラーさんの、こちらも人気のロングセラー絵本です。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

以前の記事にも書きましたが、アンゲラーさんという作家は、非常に鋭いセンスの持ち主です。

「すてきな3にんぐみ」では、赤と黒、それに暗い青を実に効果的に用い、色彩的に非常に目を引く作品に仕上げましたが、この「へびのクリクター」では強烈な色を使わず、むしろ落ち着いた薄いグリーンを基調に選んでいます。

そして、テキストはやや多めです。

 

もちろん「センスの塊」アンゲラーさんのことですから、多いと言っても冗長さは皆無で、表面的な無駄の一切を省いた、洗練された文章になっています。

 

むかし、フランスの ある ちいさな まちに、ルイーズ・ボドと いう なまえの ふじんが すんでいました

ボドさんには、ブラジルで はちゅうるいを けんきゅうして いる ひとりむすこが いました

 

たったこれだけの導入部で、なんと想像を膨らませてくれる文章でしょう。

そして、絵も文と同じく、無駄なく、必要なものを語っています。

 

いかにもフランスの上品で知的な貴婦人という佇まいのボド夫人。

写真立てには夫の写真が飾ってあり、おそらく夫はすでに亡くなっていることが想像できます。

また、一人息子はブラジルで爬虫類の研究をしているわけですから、ボドさんは一人で暮らしているのでしょう。

 

この見た目も風変りな息子が、ボドさんの誕生日に、郵便でなんと蛇を贈ってきたのです。

一人で寂しい思いをしているであろう母親に、ペットをプレゼントしようという、変わってはいるけど優しい息子のようです。

 

けれど、ボドさんは何しろ貴婦人ですから、蛇を見たとたん、金切り声を上げます。

当然の反応ですね。

その後で、ボドさんは動物園へ行って、「どくへびか どうかを たしかめ」ます(まあ、普通は毒蛇を送りつけるなんてアサシンみたいな真似はしないでしょうが、何しろ変わった息子ですからね)。

 

毒蛇でないことがわかったので、ボドさんは蛇に「クリクター」という名前を付けて、ペットとして飼います。

ボドさんは子どものようにクリクターを大切に可愛がります。

クリクターのためにヤシの木を何本も買い、専用の長いセーターを編み、長いベッドを用意してくれます。

 

クリクターは大事にされて、幸せに成長します。

学校の先生であるボドさんは、クリクターを学校へ連れて行きます。

クリクターは自分の身体を使ってアルファベットや数字を覚え、子どもたちと楽しく遊び、人気者になります。

 

ある夜、ボドさんの屋敷に泥棒が侵入すると、クリクターは勇ましく戦って主人を危機から救います。

その活躍が認められ、クリクターは勲章をもらい、銅像を建てられ、町には「クリクター公園」が造られます。

 

まちじゅうから あいされ、そんけいされて、クリクターは ながく しあわせに くらしました

 

★      ★      ★

 

「すてきな3にんぐみ」では強盗、そしてこの作品では蛇。

アンゲラーさんは、自分の絵本にちょっと変わった主人公を据えます。

 

しかし、一体どんな蛇かと思って読むと、これが実にいい子なんですね。

賢いし、親切だし、勇敢だし。

 

そんなクリクターが活躍し、愛され、尊敬され、幸せになる。

これ以上ないハッピーエンドの絵本です。

 

しかし、この作品で最も重要なのはクリクターの母親役であるボドさんの存在です。

おそらく、アンゲラーさんが子どもたちに伝えたかったことは、ボドさんの「知性的な振る舞い」ではないでしょうか。

 

上品で育ちの良さそうな婦人であるボドさんは、最初こそクリクターに驚きますが、そこで偏見や差別に囚われることなく、「どくへびか どうか」を確認するという、実にもっともな行為に出ます。

で、毒さえなければ、「蛇である」ことは問題にしないんですね。

もちろん、愛する息子のプレゼントだから、ということもあるでしょうが、この偏見のなさが素晴らしい。

 

真の知性は、偏見や差別思想とは無縁なのです。

 

大事なのは中身であり、評価されるべきは知性・優しさ・勇気といった、人間的美徳なのだということを、アンゲラーさんは子どもたちへ向けて発信しています。

 

アンゲラーさんと言えば、いわゆるエロ・グロな、辛辣な風刺絵を描くことでも知られています。

しかしその対象となるのはいつでも、上流階級やマジョリティーであり、反対に社会的な弱者や子どもたちへ向ける視線は、この絵本のように、限りなく優しいものです。

 

挑発的で、反抗的で、シニカル。

そんなアンゲラーさんだからこそ、その優しさは弱々しいものではなく、「筋金入り」とでも言うべき、本物の真心を感じるのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

クリクターの万能度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「へびのクリクター

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

【絵本の紹介】「まよなかのだいどころ」【145冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はモーリス・センダックさんの「まよなかのだいどころ」を取り上げます。

作・絵:モーリス・センダック

訳:神宮輝夫

出版社:冨山房

発行日:1982年9月20日

 

20世紀を代表する絵本作家、モーリス・センダックさんと言えば「かいじゅうたちのいるところ」が真っ先に挙げられますが、もちろん、それ以外の作品もそれぞれに魅力的です。

 

≫絵本の紹介「かいじゅうたちのいるところ」

 

センダックさんはわりと作品ごとに手法を変えるタイプの作家で、この「まよなかのだいどころ」では、フェルトペンによるはっきりとした線と色彩を用い、フキダシやコマ割りなどのコミック的スタイルを採用しています。

 

瓶・缶・牛乳パック・ポットなどを模したビルが建ち並ぶ夜の街並みは、未来的でありながらどこかレトロな香りが漂います(たぶん、日本語訳の看板のせいでしょうけど)。

 

そして内容が、かなり難解です。

いや、単純と言えば単純なんですが、「かいじゅうたちのいるところ」でセンダックさんのファンになった多くの方にとっては、この作品にはかなりの違和感を覚えるのではないでしょうか。

 

ともかく、一度読んでみましょう。

主人公・ミッキーがベッドで寝ていると、どこからか騒がしい音が聞こえてきます。

うるさいぞ しずかにしろ!

と怒鳴ったら、突然「くらやみにおっこちて、はだかになっちゃって」、3人の太ったパン職人たちがケーキを焼いている「まよなかのだいどころ」に落っこちます。

職人たちはボウルに落ちてきたミッキーをねりこと一緒に混ぜてオーブンへ。

ミッキー」と「ミルク」を間違えたという、かなり無茶な展開。

 

ミルクがないと、あさのケーキが つくれない!

と慌てる職人に、ミッキーは、

あまのがわには ミルクがいっぱい

と、ねりこで作った飛行機に乗って、夜空へ飛び立ちます。

「あまのがわ」(Milky Way)と言ったけれど、ミッキーが向かった先は、巨大なミルク瓶。

ミッキーが取ってきたミルクで無事にケーキは焼き上がり、ミッキーは夜明けとともにベッドへ戻ります。

 

ミッキー、どうも ありがとう。これで すっかり わかったよ

ぼくらが まいあさ かかさずに ケーキを たべられるわけが

という、さっぱりわけのわからないナレーションで終わります。

 

★      ★      ★

 

私自身がこれを初読したときの感想を率直に申し上げると、

なんか、気持ち悪い

でした。

 

まず3人の太ったパン屋さんが不気味だし、ミッキーが彼らにケーキにされてしまう図は、ほとんどホラーです。

それなのに、登場人物すべてがやたら陽気に、ミュージカル風に(センダックさんの作品はどれもそうなんですが)歌い上げる様子は、どこか観客である読者を置いてけぼりにした自己満足の学芸会じみています。

 

確かにここには「狂気」が存在しています。

 

センダックさんは「子どもの狂気」を「想像力」によって制御するという形式の物語を好んで選ぶようです。

その構図は「かいじゅうたちのいるところ」においては大変な成功を収めています。

翻って、この「まよなかのだいどころ」では、どうしても「かいじゅうたち」に比較して落差を感じずにはいられません。

 

その理由は、「かいじゅうたち」が、ある種普遍的な子どもの衝動(親に対する怒り)を描いているのに対し、この「まよなかのだいどころ」は、より作者自身の個人的な物語だからという気がします。

 

センダックさんは子どものころ、「みなさんが寝ている間に焼き上げます!」というパン屋の広告を見て、それをどうにかして起きて見てやりたいという想いを抱いたそうです。

つまりこれは、「真夜中」という、子どもにとっての憧れや好奇心の入り混じった時間に行われている「秘密」をのぞき見たいという願望から生まれた作品なのです。

 

そう考えれば、特に難解な主題とは言えないでしょう。

それを見えにくくし、この単純な作品を難解に見せているのは、やっぱり絵のインパクトのせいでしょう。

この作品を発表した当時、主人公の男の子が服を着ていないことに対し、いわゆる「良識派」の大人たちからクレームが殺到したそうです。

 

しかし、そういう不自由な見方を取り払えば、この作品と「かいじゅうたちのいるところ」は、本質的に同様のテーマを取り扱っていることに気づきます。

 

センダックさん自身はこの作品を気に入っているようで、その証拠に、主人公の名前を、彼の大好きな「ミッキーマウス」から取っています。

(余談ですが、センダックさんは作品の主人公の多くに、自分と同じ『M』の頭文字の名前を付けています。彼の作品を手に取る際は、気を配って見てください)。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

街並みの楽しさ度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「まよなかのだいどころ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

【絵本の紹介】「11ぴきのねこ」【144冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はいよいよ、というか、

え、まだこのブログでやってなかったっけ

と意外に思うほど有名なあのシリーズを初紹介します。

 

ご存知、「11ぴきのねこ」です。

作・絵:馬場のぼる

出版社:こぐま社

発行日:1967年4月1日

 

今年で発行から50周年、シリーズ累計部数400万部以上という大人気ロングセラー絵本。

 

作者の馬場のぼるさんは漫画家出身で、手塚治虫・福井英一とともに「児童漫画界の三羽烏」と呼ばれた方。

同様に漫画家から絵本作家へ転身した長新太さんややなせたかしさんらと共に、「漫画家の絵本の会」という会を結成しています(ここに挙げた方々、よく考えたらみんなすでに亡くなられましたね……)。

 

さて、「11ぴきのねこ」を読んでみましょう。

表紙がとても印象的です。

赤い夕焼け空に、魚やタコの形をした雲が浮かび、11ぴきのねこ(とらねこたいしょうは裏表紙にいます)が、実に幸せそうな顔で空を見上げています。

11ぴきはいつもお腹を空かせています。

 

ある時、じいさんねこに「かいぶつ みたいな おおきな さかな」の存在を教えられた11ぴきは、その巨大魚が棲む湖へと向かいます。

11ぴきは筏を造り、湖に漕ぎ出します。

何日も魚を探し続け、ついに遭遇。

一斉に飛びかかるも、あえなく返り討ちに。

 

それでも諦めずにチャンスを窺ううち、島の上で眠っている巨大魚を発見。

11ぴきは、以前に巨大魚が歌っていた「ねんねこさっしゃれ」の子守唄を歌いながら近づき、不意を突いてついに巨大魚を捕獲します。

 

勝利に酔う11ぴきは、帰ってこの魚をみんなに見せるまでは、食べるのを我慢することを約束し合います。

たいりょうぶし」や「ねんねこさっしゃれ」を歌いながら、帰路につく11ぴき。

しかし、内心では巨大魚が食べたくて仕方ありません。

 

そして、夜が来て……。

ああ! のらねこたち! たべちゃった!

11ぴき みんな みんな たぬきのおなか

 

★      ★      ★

 

子どもたちに展開を予想させ、「まっくらやみ」のシーンを挟むことで盛り上げ、そして期待を裏切らないオチと、「たぬきのおなか」の可笑しさ。

特筆すべきは、これらをすべて余すことなく絵で伝えている点です。

まさに絵本ならではの表現で、絵本界に燦然と輝く見事なラストシーンと言えるでしょう。

 

11ぴきは家族でも親戚でもなく「仲間」で、縞模様のとらねこたいしょうを除いては、外見も言動も個体識別ができません。

これは「ぐりとぐら」の2ひきが見分けがつかないことと共通しますが、「11ぴきのねこ」には、シリーズ通して人間の「集団心理」も描かれています。

 

11ぴきは仲間を思いやり、力を合わせて努力もしますが、欲深いところやずるさもあり、約束やルールを破っても平気です。

それは大勢の仲間がいるからこそ生まれる「個人的責任感の希薄さ」です(そのために、続編作品ではひどい目に遭ったりします)。

 

こういう「天使ではない、生身の子ども」の化身としてのキャラクターを描くのは、当時としてはなかなか勇気のいることだったと思います。

何しろ、巨大魚は何にも悪くないのに寝込みを襲われて食べられてしまうのです。

 

馬場さんとともにこの絵本を作ったこぐま社の佐藤英和さんは、大人からの批判も覚悟していたようです。

 

けれども、馬場さんも佐藤さんも、たとえ大人がどう思おうとも、この絵本を子どもが喜んでくれると信じていたのです。

 

何故なら、子どもにとってこの絵本は、紛れもない「ハッピーエンド」だからです。

11ぴきは大人の「こうあって欲しい」願望が投影された子ども像ではなく、子どもたちが「これは自分だ」と思える「現実の子ども」です。

その11ぴきが、いつもお腹を空かせ、腹いっぱいになりたいと思っている。

そして最後に、その願いが叶うのです。

 

こんな単純な話はありません。

だからこそ、子どもはこのラストシーンに快哉を叫ぶのです。

 

しかし、大人は何故か、子どもの願望をストレートに満たすことに心理的抵抗を覚えます。

そして、条件を付けたり、待たせたり、別の形に変えたりして、「小出しに」望みを叶えてやります。

子どもの欲望は不完全燃焼のままくすぶり続け、いずれ欲求不満の歪な大人に成長します。

 

馬場さんは、常に「子どもはだませない」と言っておられたそうです。

それゆえに、子ども向けの本を作ることの難しさを熟知し、「11ぴきのねこ」シリーズは、毎回、非常な試行錯誤と苦労の末にやっとの思いで誕生した作品ばかりでした。

 

「子どもだまし」が真に愚かしいのは、「子どもしかだませないような手を使う」からではなく、そもそも「子どもをだませる」と思っているからです。

 

いつも「子ども」のありのままの姿を見つめてきた馬場さんが、日本の絵本界に与えた影響は、計り知れないほど大きなものだったと思います。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

ラストシーンの秀逸さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「11ぴきのねこ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com