絵本における性差について(の本に対するツッコミ)

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本に関する本なら何でも読む私ですが、この前、とあるグループが発行した「絵本にみる性差別」という小冊子を手に取りました。

いわゆる女性問題を考えるグループですが、小冊子自体わりと古いものだったので、今でもそのグループが活動しているのかどうかは知りません。

 

この冊子では、幼児向き人気絵本から120冊ほどを選んで、「調査結果」を報告するという内容になっています。

「性差」の観点から絵本を読むというのは興味深いことですが、正直なところ、読んでいてだんだん気が滅入ってきました。

 

絵本の主人公に女性が少ないという問題は大いに考える価値がありますが(ほんとにそうかどうかは120冊程度の統計では結論が出せないところですが)、問題提起のほとんどは、

女性ばかりが育児に関わっている

男の子はズボン、女の子はスカートを履いている

男の子は自動車のおもちゃを持っているのに、女の子はぬいぐるみを持っている

とかいう「性差における作者の固定観念」の指摘が主でした。

幼いころに与えられるそうした「刷り込み」が、子どもに「性差別」の意識を植え付けるのだそうです。

 

しかし、別にフェミニストの方を敵に回す気はないのですが、控えめに言って、この筆者の指摘には「?」がたくさん浮かびました。

 

例えば「11ぴきのねこ」において、11ぴきがオスであるかどうかは不明なのですが、筆者はこれを「オスばかりのようである」と判断しています。

男が狩りに行く時には、女は足手まといになるのであろう」とも。

あのう、それってまさに筆者の「男女観」を当てはめているんじゃ……。

 

また「ぐりとぐら」も男の子ですが(これは一応、「ぼく」という一人称なので順当な見方)、料理をしたり帽子に花をさしたりしているところは良い(?)として、作る料理がカステラという手間のかかるものであることは、料理においても男の方が才能や天分があるような過大評価がなされることから来ている、というのです。

なんかもう、こじつけ以上のなにものでもない気がしますが。

 

いたずらきかんしゃちゅうちゅう」は、主人公の機関車が女の子で行動的という点は評価(?)しつつ、燃料切れで助けてもらうというストーリーは「女が一人で行動しようとしても結局うまくいかないのだ」という押さえ込みなのだと解釈されます。

 

スイミー」は「受験競争やサラリーマン社会での出世競争に勝ち抜いて欲しいという母親・妻の願い」の物語であり(なんでそうなるのかの理路は不明)、「のろまなローラー」が結果的にみんなに感謝され、尊敬されるのは「ローラーが男であるから」だと結論づけられます。

 

何というか、よくもまあここまで絵本をつまらなく読めるものだと感心さえしました。

そういう趣旨の企画なのだから仕方ないのかもしれませんが、こういう「検閲」的目線で絵本について語られ続けると、絵本好きとしてはゲッソリしてしまいます。

とらっくとらっくとらっく」に至っては、おじさんの喫煙シーンを「教育上好ましくない」という、もはや性差と何の関係もない批難までなされています。

 

この筆者は、「男の子がスカートを履いて人形遊びをし、女の子がズボンを履いてサッカーをし、父親は家で家事をこなし、母親が外で働く」という絵本を「良い絵本」とするのでしょうか。

それって、筆者らの言う「男優女劣」の価値観はそのままに、男女を反転させただけの世界だと思うのですが。

 

それは結局のところ「性差」にこだわり過ぎる「不自由な精神」の表れだと思います。

 

我が家は一人息子ですが、私は「男らしく」とか「男なんだから」という言葉を使うことはありません。

息子は初めから乗り物絵本が好きでしたし、そういう玩具を選びましたが、ぬいぐるみ遊びもするし、ままごとも好きです。

何度も書いてきたことですが、私は息子に何も強制しないし(歯磨き以外は)、息子がやりたがることは可能な限りやらせてあげます。

「内的に自由」な人間に成長して欲しい。

それが私が息子に望むことだからです。

そして「内的に自由」な人間は、差別や偏見とは最も遠いところにいます。

 

私は別に絵本作家が無謬であるとは思いません。

どんなに優れた作家であっても、時代や環境から完全に自由というわけではないでしょう。

ですが、名作と呼ばれる絵本には、必ずどこかに美しい真実が描かれています。

 

それを見い出し、掬い取るためには、真実を感じ取れる自由な目が必要です。

すべての子どもは生まれながらにその素質を持っています。

その素質を伸ばしてやるためには、我々大人が横合いから無粋な口出しをしないことです。

「こういう絵本を読みなさい」と手を回すことは、「男らしさ・女らしさ」の押しつけと精神的には似通っています。

 

やがて子どもが自ら読みたい絵本を選べるようになるまでは、できるだけ多くの、偏らないジャンルの絵本を用意してあげたほうがいいと思います。

「性差と無関係」だからという理由で「はらぺこあおむし」とか「ごろごろにゃーん」ばかりを読み聞かせるのは、それはそれで歪です。

もちろん、どちらも素晴らしい絵本ですけどね。

 

最近はカメラの仕組みに関する本がお気に入りの息子。

 

関連記事≫絵本をどう選ぶか。そして、どう読んであげるか。

≫絵本の紹介「11ぴきのねこ」

≫絵本の紹介「ぐりとぐら」

≫絵本の紹介「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」

≫絵本の紹介「スイミー」

≫絵本の紹介「のろまなローラー」

≫絵本の紹介「とらっくとらっくとらっく」

≫絵本の紹介「はらぺこあおむし」

≫絵本の紹介「ごろごろにゃーん」

 

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「おじいちゃん」【184冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、ジョン・バーニンガムさんの「おじいちゃん」を紹介します。

作・絵:ジョン・バーニンガム

訳:谷川俊太郎

出版社:ほるぷ出版

発行日:1985年8月15日

 

絵本の構造としては少々変わっていて、ページごとのつながりはありません。

おじいちゃんと孫娘の断片的な会話文のみで構成されています。

 

いわば、二人の日々の回想録的絵本になっているのですが、ゆえに、読者はこれらが「終わってしまったこと」だと感じ、ラストに向かうにつれ、切なさを募らせずにはいられません。

老いること、生きること。

それらを考えさせる作品でもありますが、バーニンガムさん一流の淡々とした、それでいて限りなく優しい目線によって、そこに押しつけがましさは一切ありません。

 

おじいちゃんと孫娘の会話は時に嚙み合っていませんが、それが逆に微笑ましい。

二人で遊んだ浜辺、雨の日、雪の日。

おじいちゃんの昔話、孫娘の子どもらしい質問。

時にはケンカも。

 

時系列は不明ですが、孫娘は少しずつ大きくなっているように感じます。

それは、おじいちゃんが少しずつ人生の終わりに向かっていることでもあります。

 

おじいちゃんは きょうはそとであそべない

 

それでも、孫娘は肘掛け椅子のおじいちゃんに抱かれて、明日の話をします。

けれど、次のページにはおじいちゃんはおらず、空っぽになった肘掛け椅子を見つめる孫娘の姿が描かれます。

このシーンは涙無くしては読めませんが、さらに感動的なのは次の最終ページ。

夕暮れの坂道を、孫娘がベビーカーを押して駆け上がっていくカット。

 

弟、もしくは妹が産まれたのです。

 

おじいちゃんがこの世界から消えたのは、次の生命に「場所を譲る」ためなのだという、非常に象徴的で清々しいラストシーンです。

 

★      ★      ★

 

この絵本のテキストのほとんどは、バーニンガムさん自身の娘と、彼女の祖父が実際に交わした言葉から拝借したそうです。

「おじいちゃん」(原題・「Granpa」)はアニメ映画にもなったそうですが、バーニンガムさんは、おじいちゃん役の俳優の声を絶賛しております。

曰く、「引退して、静かな港町でタバコ屋をやってるって感じ」の声だそうです。

 

幼い子どもに「死」の概念を説明することは難しく(というか、不可能かもしれません)、この絵本を読み聞かせた時に必ずと言っていいほど出るであろう質問は、「おじいちゃんはどこ行ったの?」です。

 

しかし、それに対する単一の答えは用意されていません。

そして、どんな答えも、子どもを本当に満足させることはできないかもしれません。

それは、彼らがこれからの長い人生の中で、自分たち自身で感じるしかないことだからです。

 

そう言う我々大人も、「生と死」について、明確な答えを持ち合わせているわけではありません。

誰も死んだことはないからです。

おそらくそれは、言葉や論理によってではなく、まさにこの絵本のように、豊かなイメージによって捉えるべきものなのでしょう。

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

ラストの静けさと美しさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おじいちゃん

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【絵本の紹介】「月おとこ」【183冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

月は古代より神秘の象徴。

様々な影響を地球に与え、月をモチーフにした神話や昔話などは枚挙に暇がありません。

 

月の起源に関しては今のところ、地球から分離して誕生したという説が有力視されています。

してみると、月を仰ぎ見るときに私たちの胸に去来する慕情は、かつて自分たちの一部であり、今は遠く離れてしまった存在に対するノスタルジックな想いが含まれているのかもしれません。

 

今回は秋らしく、月の絵本を紹介しましょう。

トミー・ウンゲラーさんの傑作絵本「月おとこ」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1978年7月10日

 

何やらロマンチックな書き出しをしてしまいましたが、作品自体は少しもロマンチックな内容ではありません。

まことにウンゲラーさんらしい、独創的で滑稽で華やかで、そして狂騒的な物語です。

 

月おとこ」原題は「MOON MAN」。

表紙絵の、何やら顔色の悪い太っちょさんが「月おとこ=ムーンマン」というわけです。

 

この月おとこは、毎晩月に座り込んで地球を見下ろし、そこで踊っている人々を羨ましく思っていました。

いちどでいいから、なかまになりたいなあ

 

ある夜、近くに飛んできた流れ星の尾に掴まって、月おとこは地球に飛来します。

隕石の落下に驚いた人々、警察や消防士、それにさっそく見物人を当て込んだアイスクリーム屋などが集まってきて、月おとこを発見します。

 

役人やら政治家やら科学者やら将軍たちは月おとこを「宇宙からやってきたインベーダー」だと決めつけ、投獄してしまいます。

がっかりする月おとこでしたが、月の満ち欠けと共に身体が瘦せてゆき、鉄格子の隙間から脱出に成功します。

 

晴れて自由の身になった月おとこは、仮装パーティーに紛れ込み、念願のダンスを踊ります。

しかし、気難し屋の通報によって再び追われる身となり、月おとこは森の中の古城に辿り着きます。

 

城の主は、300年も前から月に行くための宇宙船の研究をしていたというマッドサイエンティスト風の博士。

博士は月おとこに、完成した宇宙船の乗客第一号にならないかと誘います。

月おとこも、もう好奇心を満足させたし、地球ではゆっくり暮らせないことがよくわかったので、喜んで宇宙船に乗り込み、月へ帰って行きます。

 

その後、博士は世界に認められ、科学委員会の委員長に選ばれます。

 

★      ★      ★

 

辛辣な風刺画家としても有名なウンゲラーさん。

子どもから見ればただただ楽しい絵本の中にも、大人の目からはちょっとドキリとするような毒気を含ませます。

 

地上に憧れて降臨する月おとこは十分に滑稽ですが、さて、その地上で踊り狂う人々のエキセントリックなこと。

ダンスに興じる紳士婦人、月おとこを一目見ようと集まってくる野次馬、しかつめらしい軍人や役人、科学者、さらには犬に至るまで、地球の住人たちはみんな狂気じみており、作者のシニカルな目が光っています。

こんな狂乱の渦中に迷い込んだ、純真な月おとこに同情せずにはいられません。

 

この月おとこが月の満ち欠けに呼応して痩せたり太ったりするアイディアはとても鮮やかで楽しいものです。

「アンパンマン」シリーズの生みの親であるやなせたかしさんは、この絵本に衝撃を受け、

「ムーンマンのようなキャラクターを描きたい」

と強く思ったそうです。

 

そして誕生したのが「アンパンマン」。

顔が欠けたり新しくなったりする、今では国民的人気キャラクターのルーツは、ウンゲラーさんのこの作品にあったのですね。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

アイスクリーム屋さんのあきんど根性度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「おちゃのじかんにきたとら」【182冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は個人的に興味深いロングセラー「おちゃのじかんにきたとら」を取り上げます。

作・絵:ジュディス・カー

訳:晴海耕平

出版社:童話館

発行日:1994年9月15日(改訂新版)


定番にして人気の絵本です。

確かに楽しくて、可愛くて、ユーモラスなお話です。

 

しかし、私はこの作品を咀嚼するのにずいぶん時間がかかりました。

一読したとき、どこか難解な印象を受けたのです。

 

この作品に対する他の人の感想や評論などを読んでも、わりとバラバラな読解をされているようです。

広く支持されながらも解釈が分かれるということは、その作品の懐の深さを示しているとも言えます。

 

では、問題の内容をざっと読んでみましょう。

 

主人公はソフィーという名前の小さな女の子。

その日、ソフィーはおかあさんと台所で「おちゃのじかん」にしようとしていました。

そこに、玄関のベルが鳴ります。

 

この時間に訪ねてくる人物に心当たりがないおかあさん。

ともかくソフィーはドアを開けてみます。

すると、なんとそこには「おおきくて 毛むくじゃらの、しまもようの とら」が立っていたのです。

とらは礼儀正しく、

おちゃのじかんに、ごいっしょさせて いただけませんか

と言います。

 

おかあさんは驚きもせず、「もちろん いいですよ」ととらを招き入れます。

とらは行儀よくテーブルにつきますが、その食欲は野生そのもの。

サンドイッチも、パンも、ビスケットも、ケーキも、そして飲み物も、テーブルにあるものを何から何まで全部平らげてしまいます。

それでもとらは満足せず、台所を眺め回し、冷蔵庫や戸棚にある食べ物まで、何もかも食べてしまい、さらには水道の水まで全部飲み干してしまいます。

やがてとらは丁寧にお礼を言って、帰ってしまいます。

 

さて、家じゅうのすべてのものを食べられてしまい、夕ご飯の支度ができないばかりか、水道の水まで飲み尽くされてお風呂にも入れないソフィーとおかあさん。

そこにお父さんが帰ってきます。

 

事情を聞いたおとうさんは慌てず騒がず、レストランへ行こうと提案。

そこで家族は幸せな時間を過ごし、次の日、ソフィーとおかあさんは「とらが、いつ また おちゃのじかんに きても いいように」と、たくさんの食べ物と「タイガーフード」の缶詰まで買い込みます。

 

しかし、その後、とらが現れることはありませんでした。

 

★      ★      ★

 

この絵本の面白さは、とらが家にやってくるという非日常の事件に対し、ソフィーと母親がまったく動揺せず、当たり前のように受け入れるところにあります。

とらの豪快な食べっぷりも楽しいですが、その後帰宅した父親が少しも驚きも怒りもしないところも可笑しい。

 

これらを、「馬鹿馬鹿しいナンセンスな笑い」として楽しむこともできるでしょう。

しかし、絵をとっくりと見てみると、また違った「読み」も可能です。

 

このお話において、主人公であるソフィーのセリフは一言も出てきません。

文章も淡々としたもので、人物の心情を説明する部分はありません。

ですから、ソフィーが何を思い、何を感じているのかは、絵から読み取るほかありません。

 

玄関でとらに遭遇したソフィーは後ろ姿で、その表情は見えませんが、その後とらに対するソフィーの目線は常に優しく、慈愛に満ちています。

慇懃な言葉遣いとは裏腹の、傍若無人でさえあるとらの食事の最中にも、ソフィーは毛皮に顔をくっつけたり、尻尾を撫でたりして、愛おしむ仕草を見せています。

 

ですから、ソフィーは「とら」の訪問を内心で待ち望んでいたとも考えられます。

そこからこれを「ソフィーの内面的な物語」として読むこともでき、年頃の子どもの「外界への好奇心や期待や憧憬」を描いた作品なのだと解釈することもできます。

 

そしてまた別の視座から読んでみると、「他者への寛容性」がこの物語の核であると捉えることもできます。

 

ここに登場するのは犬でも猫でもなく、大きな「とら」という、とびっきりの「他者」です。

可愛いと言えば可愛いけど、やっぱり怖さも持っている猛獣です。

 

丁寧な言葉遣いをしていても食欲は旺盛であり、それを満たすためには遠慮はなく、いつソフィーたちに牙を向けるかしれないと、読者は心のどこかでハラハラせずにはいられません。

食べ物を探すとらの目つきは鋭く、油断なく、獰猛さを内に秘めています。

 

他者に対し恐怖心から疑いの目を向けること、防衛本能から拒絶すること、非寛容になることは、現実世界においても起こることです。

それが差別を生み、暴力を生みます。

 

しかし、この腹を空かせたとらを、ソフィーの母親は温かく迎え入れ、家じゅうの食べ物を食べ尽くされた後でもなお、困惑はしても批難はしません。

父親の対応も非常に理性的です。

 

何故なら、とらは最後まで礼儀正しく振る舞おうとする誠意を見せていたからです。

おそらく、とらにとって品のいい「おちゃのじかん」は苦痛であったでしょう。

しかし、彼は自分のテリトリー外での「マナーと作法」を守ろうと努力し、丁寧な言葉を使って挨拶することを心がけました。

 

たとえ相手が理解できない異邦人であっても、敬意と誠意に対しては敬意と誠意で応えることが人間として成すべき態度なのだと、ソフィーの両親は示して見せたのだと考えられないでしょうか。

 

私がそう考えるのは、作者のジュディス・カーさんが、1930年代、ナチスの圧迫から逃れ、父親とともにドイツを離れた経験を持つ方だからです。

その頃の経験は、カーさんの小説「ヒットラーにぬすまれたももいろうさぎ」にまとめられています。

「他者への非寛容」性の増幅によって最悪の人種差別と虐殺を生んだナチスの存在が、彼女の作品(それはとても明るいものばかりですが)に何の影響も投げかけていないことは想像しにくいのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

タイガーフードの需要性に疑問度:☆☆☆☆☆

 

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【西宮市大谷記念美術館】「2017イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」へ行ってきました。

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

「バベルの塔」展に続きまして、今度は毎年恒例のボローニャ国際絵本原画展を見に行きました。

西宮市大谷記念美術館で開催中。

今週末まで。

例によって例のごとく、終了日間際のレビュー。

 

ボローニャ国際絵本原画展とは、イタリア・ボローニャで毎年行われる絵本原画のコンクールで入賞した作品を展示するもの。

コンクールは絵本の原画を5点1組にすれば誰でも応募できるので、毎回世界各国から多くのイラストレーターたちが参加しています。

もちろん、日本人も。

 

私はこの展覧会に行くのはこれが初めてになります。

夏休みも終わったというのに、多くの来館者。

なかなかの人気です。

 

今回は日本人6名を含む26か国75作家が入選を果たしたということで、すべてを見て回るのには結構時間がかかりました。

以下、個人的な感想。

 

絵本から原画展に行く時は非常にワクワクしますが、原画から入ると、また違った趣があります。

全体として、確かにすごく上手い。

そして、ハイセンスな印象です。

どっちかというと大人向け。

もちろん、子どもがじっと見入るような絵もあるんですけど、単純な楽しさよりも、深いメッセージ性のある作品が多い気がしました。

 

それ自体は全然悪いことではありませんが、これだけ世界中から色んな作家さんの作品を集めているにも拘わらず、展覧会全体にどことなく統一感のようなものがあるのですね。

審査員が意識的にそうしたのかどうかはわかりませんが、私はもっとカオスな展覧会を想像していました。

だって、絵本って物凄く自由度が高く、それゆえに作家の個性が発揮されやすいメディアだからです。

 

その割に、今回の入賞作品はどこか似た雰囲気のものが多い。

あと、コラージュ手法がやたら多い気がしました。

コラージュ好きですけどね。

 

見たこともないような大胆な表現技法とか、思わず力が抜けてしまうようなゆるーいイラストとか、「これが絵本?」と思ってしまうような実験的な作品とか、そういうのを期待してたんですけども。

 

もちろん、そういう作品も多く寄せられていたのかもしれませんが。

繰り返しますが、作品そのものはすごくハイレベルだと思いますし、面白いものもたくさんありました。

 

入選作家の他作品を含む絵本展示ブースもあり、私はそこにいた時間が一番長かったです。

原画もいいけど、やっぱり「絵本」の形で手に取ってみたい気持ちが強いらしいです。

 

 

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