【絵本の紹介】「かようびのよる」【197冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今日は火曜日。

ハロウィンとは関係ありませんが、不思議で怪しい気分を呼び起こしてくれる絵本を紹介しましょう。

かようびのよる」。

作・絵:デヴィッド・ウィーズナー

訳:当麻ゆか

出版社:福武書店

発行日:1992年1月20日

 

毎回「衝撃的」と評される作品を発表し続ける奇才・ウィーズナーさん。

これは彼の最初のコールデコット賞受賞作品です。

 

「最初の」というのは、ウィーズナーさんはこの絵本界最高の賞を三度も受賞しているのです。

これはかなり凄いことです。

 

彼の作品は概して文字が少なく、絵の力のみで物語を構成することが多いのですが、この「かようびのよる」も、テキストは最低限に削られています。

かようび、よる8時ごろ・・・

という一文だけが印象的に差し込まれ、あとは読者自身がここで起こる不思議な現象の「目撃者」となります。

そのワクワク感がたまりません。

突然、カエルが乗った蓮の葉が宙に浮きあがり、無数のカエルたちが空中飛行を始めます。

 

これはカエルたち自身の意思とは無関係らしく、カエルたちも驚いた表情を見せます。

が、すぐにこの空中遊泳を楽しみ始めます。

 

そのカエルたちのユーモラスなこと。

民家の庭の洗濯物の中に突っ込み、シーツをマントにしてスーパーマン気取り。

さらに家の中に侵入し、居眠りしているおばあさんの前で、テレビを鑑賞。

リモコンは舌で操作。

 

犬に見つかって吠えられるも、数の力で逆に追いかけ回します。

しかし、夜明けが近づくにつれ、魔法の力は弱まり……。

蓮の葉は浮遊力を失い、カエルたちは次々に落下し、すみかに帰って行きます。

 

朝が来て、地元の警察やマスコミが街じゅうに散らばった蓮の葉を調べ、この不可思議な現象に首をひねります。

そして、また次の火曜日……。

 

★      ★      ★

 

本文にはありませんが、カバーの袖部分に書かれた「この本にしるしたできごとは、とある町でかようびのよるほんとうにおきたことである」という文句が、読者の想像力をさらに刺激します。

 

で、こうした出来事は本当にあったのです。

突然に上空から魚やカエルなどが降ってくる事例は過去にいくつも報告されており、日本でも2009年にオタマジャクシが降っています。

これらはファフロツキーズ(日本では怪雨)と呼ばれ、竜巻や鳥、飛行機などが原因ではないかと考えられていますが、はっきりしたことはわかっていません。

 

そういう事実は脇においても、ウィーズナーさんの描写のリアリティは、読む者に「本当にあるかも」と思わせるに十分な力を持っています。

ウィーズナーさんはとにかく細部までの圧倒的なリアリティにこだわりを見せます。

それは絵の写実性とは別領域の問題です。

 

映画などでも、せっかく素敵なストーリーや設定があっても、ちょっとした「リアリティの欠如」が目に付くと、とたんに冷めてしまい、物語に入り込めないということがあります。

「どうせフィクションだから」では済まされない。

 

それは子どもも同じことです。

彼らはある意味では大人以上に合理的思考をします。

物語が「ありえるか、ありえないか」が重要なのではありません。

大切なのは「納得感」です。

 

ところで、この物語の中で唯一のカエルの目撃者となる男性ですが、写真で見たウィーズナーさんにそっくりなんですね。

あれはやっぱり、作者本人なのでしょう。

私たちは絵本を読むことで、作者と共に秘密を分け合う存在になるのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

どうしてもジョジョを思い出す度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「かようびのよる

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「やっぱりおおかみ」【196冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

個性豊かな絵本作家たちの中でも、一際異彩を放つ佐々木マキさん。

作家・村上春樹氏が彼を「永遠の天才少年」と称し、自身の初めての小説のイラストを依頼したことでも知られています。

 

そんな佐々木マキさん、長新太さんや馬場のぼるさんと同じく、前身は漫画家。

「ガロ」という雑誌に、他の追随を許さぬほどに前衛的・実験的な作品を発表していました。

 

「コマとコマの間に関連性がない」漫画、それでいて全体を通して読むとひとつのまとまりが感じられる、詩のような音楽のような漫画は、「難解だ」「漫画ではない」と批判される一方、熱狂的なファンも獲得しました。

 

そんな佐々木さんが、「こどものとも」編集長の松居直さんの薦めによって初めて描いた絵本が、今回紹介する「やっぱりおおかみ」です。

作・絵:佐々木マキ

出版社:福音館書店

発行日:1977年4月1日(こどものとも傑作集)

 

以前から絵本の上質な印刷を羨ましく感じていた佐々木さんは、松居さんの依頼に応じます。

この真っ黒なシルエットおおかみは、佐々木さんが「ガロ」1968年8月号に掲載した「セブンティーン」や、同じく9月に発表した「まちのうま」に登場したキャラクターです。

 

松居さんが「このおおかみを主人公に、絵本が描けませんか」と提案したそうです。

そして絵本を作ったことのない佐々木さんに、松居さんは「こういう絵本があります」と、モーリス・センダックさんの「まよなかのだいどころ」を紹介しました。

 

コマ割りやフキダシなどのコミック・スタイルを取り入れた「まよなかのだいどころ」を読んで、こういうやり方もあるのなら、自分にも絵本が描けるかもしれないと、佐々木さんは創作を開始しました。

 

≫絵本の紹介「まよなかのだいどころ」

 

そして完成したのが、「やっぱりおおかみ」。

佐々木さんの個性が思い切り発揮された、それまでの絵本の枠組みを越えた作品でした。

その内容に「子どもらしくない」との声が(予想通り)多く寄せられたものの、子どもたちには好意を持って受け入れられたのでした。

 

いっぴきだけ いきのこって いた」子どものおおかみが、仲間を探して孤独に街をうろつく、という物語。

兎の町、豚の町、鹿の町などをさまようおおかみ。

 

どこへ行っても怖がられ、避けられます。

おおかみは、ひとこと「」と、フキダシで発します。

この「け」という言葉も、味わい深いものです。

強がり、諦め、侮蔑、寂しさ……様々な感情を含んでおり、同時に「け」という音でしかないとも取れます。

 

おれに にたこは いないかな

と彷徨い続け、

おれに にたこは いないんだ

と悟るおおかみの、壮絶とも言える孤独。

 

しかし、その認識は、むしろおおかみを「なんだかふしぎに ゆかいな きもち」にさせるのです。

飛んでいく気球を見ながら「」と呟くおおかみ。

この「」は今までの「」とはまた違った意味合いを感じさせます。

 

★      ★      ★

 

悩んだ先にある、これまでと違う景色。

確かに子ども向けとは言えないかもしれません。

 

でも、子どもも大人も、絵本の内容すべてを理解しなければならないわけではありません。

大切なのは心に何かが残ることです。

 

「自由」とひとは簡単に口にしますが、本当に精神的に自由なひとは、そういるわけではありません。

自由な表現を試みれば、それは大抵の場合理解されず、時には批難されたりします。

自由であることは、「個」になることを意味します。

 

やっぱり おれは おおかみだもんな

おおかみとして いきるしかないよ

 

というおおかみの言葉は、常識の枠を飛び越えるような作品を描き続けた佐々木さん自身の声なのかもしれません。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

うさぎの目が怖い度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「くまとやまねこ」【195冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「くまとやまねこ」です。

作:湯本香樹実

絵:酒井駒子

出版社:河出書房新社

発行日:2008年4月30日

 

ラジオドラマなどの脚本も手掛ける小説家・湯本さんと、大人女子から圧倒的支持を集める絵本作家・酒井さんのコラボによる、大人のための感動絵本。

もちろん子どもが読んでもいいのですが、これはやっぱり大人向けだと思います。

 

大好きだった親友の「ことり」を亡くしてしまった「くま」の、再生の物語。

出版は10年近く前ですが、震災などを経た今、改めて多くの人の心に響く名作ではないでしょうか。

 

酒井さんは作品を発表するごとに、画力はもちろん、絵本作りそのものの技量を飛躍的に増していると感じます。

この「くまとやまねこ」では、もはや凄味まで伝わってきます。

あえてグレーの紙にモノクロ画。

ざらざらとした質感に、昏さや憂いを帯びた人物(動物ですが)の表情。

 

確立された酒井さんの独自世界と、湯本さんの繊細な物語と静謐な文章が見事に融合しています。

 

なかよしのことり」が死んでしまい、涙に暮れるくま。

彼は森の木で作った小箱に花を敷き詰め、小鳥をそこに入れます。

もしもきのうの朝にもどれるなら、ぼくはなにもいらないよ

くまの悲嘆は深くなるばかりです。

 

そしてくまは、どこへ行くにも小鳥を入れた箱を持って行くようになります。

森の動物たちは、箱の中身を尋ねますが、くまが中身を見せると、困った顔をして黙ってしまいます。

それから決まって、

くまくん、ことりはもうかえってこないんだ。つらいだろうけど、わすれなくちゃ

と言うのでした。

 

誰にも分かち合えない悲しみにますますくまは塞ぎ込み、自らの心に鍵をかけるように、家に閉じこもります。

 

ある日、久しぶりに窓を開けると、外は快晴。

草のにおいを運ぶ風に誘われるように、くまは外に出て行きます。

空には白い雲が浮かび、川はきらきらと光っていました。

 

土手へやってくると、見慣れないやまねこが昼寝をしています。

傍らにはぼろぼろのリュックサックと、「おかしなかたちの箱」。

 

くまはその箱の中身が見たくなり、やまねこに声をかけます。

長い間誰とも喋っていなかったので、くまの声はかすれています。

 

やまねこは起き上がり、くまの持っている小箱の中身を見せてくれたら、自分も見せてあげると言います。

くまは迷いながらも、箱を開けて小鳥を見せます。

するとしばらくじっと小鳥を見つめていたやまねこは顔を上げて、

きみは このことりと、ほんとうになかがよかったんだね。ことりがしんで、ずいぶんさびしい思いをしてるんだろうね

と言い、くまを驚かせます。

 

やまねこの持っていた箱はバイオリンケースでした。

きみとことりのために、一曲えんそうさせてくれよ

音楽を聴きながら、くまは目を閉じ、小鳥との思い出を次々に思い出します。

小鳥のクチバシの感触、羽のにおい、そうしたものまでありありと蘇らせます。

 

くまはなにもかも、ぜんぶ思いだしました

 

くまは小鳥を日の当たる場所に場所に埋葬します。

それからやまねこは、くまを旅に誘い、古いタンバリンを差し出します。

この汚れたタンバリンは、かつてやまねこの友達が叩いていたものだったのだろうか……と、くまはやまねこに聞いてみたくなりますが、その代わりに、

ぼく、れんしゅうするよ。おどりながら、タンバリンをたたけるようになりたいな

と言います。

 

ふたりは「くまとやまねこ音楽団」として世界中を巡業し、どこへ行っても大人気となります。

 

★      ★      ★

 

愛するひとを永久に失った哀しみは、その相手が大切であればあるほど、深刻なものとなります。

あらゆる気力を根こそぎ奪ってしまうほどに。

 

小鳥の死骸を持ち歩くくまは明らかに病的で、哀しみから立ち直るどころか、さらにその哀しみに沈潜して行くかのようです。

ですから、周囲の動物たちの言葉はくまを心配してのものだし、まっとうな意見と言えるでしょう。

 

しかし、正論が人を生かす力になるとは限らないのです。

いや、この時のくまには、どんな言葉も、本も、音楽も、届かなかったでしょう。

深く傷ついた人が、単純な言葉や出会いによっては癒されないことを、作者は知っています。

 

そこには、「時間」という要素がどうしても必要なのです。

 

くまが涙に暮れる長い時間を、きちんと描いているところが、この物語の丁寧なところです。

その時間があって初めて、くまの心を再生へと向かわせるもの―――美しい自然、そして音楽が響くのです。

 

くまは小鳥との日々を余すことなく思い出します。

そこで少しずつモノクロの絵に赤い色が灯り出します。

そして「なにもかも、ぜんぶ」思い出した時、初めてくまは小鳥の死を受け入れることができるのです。

このシーンにおける余白も実に効果的で、酒井さんの表現力に心を揺さぶられます。

 

悲しみの渦中にいる人に対し、気休めの言葉をかけず、適切な距離を保ちながら、見放さずにじっと立ち直るのを待つこと。

それができるのは強くて優しい人です。

 

森の動物たちは優しくはあっても、強くはなかったのです。

やまねこがくまの悲しみに寄り添えたのは、彼がおそらく過去に同じような悲しみを経験したからであり、そしてくまもやまねこの気持ちを知るがゆえに、あえて過去のことを聞こうとはしないのです。

 

悲しみを知ることで、人は強く、優しくなれるということを感じさせてくれる美しい絵本です。

 

推奨年齢:小学校高学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

泣かずに読み聞かせる難易度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「くまとやまねこ

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【絵本の紹介】「14ひきのかぼちゃ」【194冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

もうすぐハロウィン。

すっかり国民的行事として定着した感がありますが、私が子どものころは、友だちの誰も知らないようなお祭りでした。

もともとは秋の収穫を祝う行事のはずなんですが、いつの間にかコスプレ祭りと認識されている気がします。

 

私がハロウィンを知っていたのは、スヌーピーの漫画『ピーナッツ』を読んでいたからで、そこにライナスがハロウィンの日にやってくる「かぼちゃ大王」なる存在を信じて、毎回かぼちゃ畑で待ちぼうけを食わされる、というお約束的エピソードがあるんですね。

アメリカではクリスマスと並んで子どもたちが楽しみにしているイベントのようです。

 

さて、今回紹介するのは「14ひきのかぼちゃ」です。

作・絵:いわむらかずお

出版社:童心社

発行日:1997年4月25日

 

突っ込まれる前に言っておきますが、かぼちゃ以外にハロウィンとの関連はありません。

スヌーピーも関係ありません。

無理矢理ハロウィンに繋げたかっただけ。

 

さて、久々に「14ひき」シリーズの登場となりました。

海外でも人気の高いいわむらさんの絵本。

過去記事と合わせてお読みください。

 

≫絵本の紹介「14ひきのひっこし」

≫絵本の紹介「14ひきのぴくにっく」

 

毎回美しい自然が描かれるシリーズですが、今回はおじいちゃんのかぼちゃの種を、みんなで植えて育てるというストーリー。

 

これは かぼちゃの たね、いのちの つぶだよ

と、大切そうに箱から種を取り出すおじいちゃんが印象的です。

種から芽が出るシーン。

まばゆい命の光が輝いているかのよう。

かぼちゃに「かぼちゃん」と名前を付け、みんなで世話をします。

嵐の日には、ずぶぬれになって守ります。

 

激しい嵐の場面の後には、静かな月夜の場面。

ゆっくりと育まれる命を感じさせます。

そしてついに実った、大きくて立派なかぼちゃ。

 

中身をくりぬいて、ずらりと並ぶかぼちゃ料理の数々。

苦労があったからこそ、収穫の喜びは大きい。

 

★      ★      ★

 

誰もが子どものころ、一度くらいは「種を植えてみた」経験があるのではないでしょうか。

私も公園に色んな種を埋めましたが、もちろん芽吹いたことは一度もありませんでした。

 

ただ埋めればいいってものじゃないですからね。

ちゃんとした知識と、そして根気が必要です。

私はそのどちらもない子どもで、ただ好奇心だけがありました。

 

でも、その好奇心がとても大切なのです。

その最初の衝動を大事に導き、真理に到達する喜びを与えてやるのが大人の務めだと思います。

正しく満たされた好奇心は、主体性につながります。

いずれ学校の授業でやるにしても、そこに主体性がなければ、それはただ言われたことをやっただけになります。

それでは生命の不思議さとか尊さを、心の深い部分に感じることはできないでしょう。

 

いずれ息子がそういうことに興味を持ちだした時に備えて、私も色々と勉強しておかなくてはと思っています。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

おいしそう度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「フレデリック」【193冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はレオ・レオニさんの作品の中でも「スイミー」に並んで人気の高い「フレデリック ちょっとかわったのねずみのはなし」を紹介します。

作・絵:レオ・レオニ

訳:谷川俊太郎

出版社:好学社

発行日:1969年

 

有名な絵本ですから、内容もご存知の方が多いでしょう。

これもまた、レオニさんらしい哲学的物語です(そのせいで一部の読者からは敬遠されたりもしてるようですが)。

 

なじみ深い「アリとキリギリス」っぽい寓話ですが、レオニさん特有の視点により、結末は180度違います。

 

石垣の中の隠れ家で暮らす野ねずみたち。

冬に備えて、野ねずみたちはせっせと食料を運び込みます。

けれど、「ちょっとかわった」野ねずみのフレデリックだけは、全然働かずに座り込んでぼーっとしています。

どうして きみは はたらかないの?

仲間たちに尋ねられて、

さむくて くらい ふゆの ひの ために、ぼくは おひさまの ひかりを あつめてるんだ

とフレデリック。

 

仲間たちにはフレデリックの言っていることが理解できません。

その後もフレデリックは働かずに、

いろを あつめてるのさ

ことばを あつめてるんだ

そんなフレデリックに、忙しく働く仲間たちは少々腹を立て始めます。

 

やがて冬が来て、野ねずみたちは隠れ家にこもります。

はじめのうちは暖かく、食べ物もたくさんあり、話も弾み、楽しく過ごします。

 

けれどやがて食料は尽き、寒さに凍え、口数も減っていきます。

そんな時、仲間たちはフレデリックが集めたもののことを思い出します。

きみが あつめた ものは、いったい どう なったんだい、フレデリック

 

そこでフレデリックは、お日さまの話を始めます。

すると、不思議に野ねずみたちは体が暖かくなってくるのを感じます。

色についてフレデリックが話すと、仲間たちははっきりと色どりを心に感じます。

フレデリックが四季についての詩を紡ぐと、仲間たちは拍手喝采。

おどろいたなあ、フレデリック。きみって しじんじゃ ないか!

みんなに言われて、フレデリックは恥ずかしそうに、

そう いう わけさ

 

★      ★      ★

 

コミュニティにおける異端者が、最終的にコミュニティを救う」というこのお話は、レオニさんが好んで使う物語形式です。

フレデリックのような「変わり者」が一定数含まれているほうが、社会集団としては健全であるということです。

 

それは様々な思想や価値観を互いに尊重し合う、多様性を認める寛容な社会を意味しています。

ファシズムと戦い続けた思想家であるレオニさんだからこそのメッセージでしょう。

 

また、この作品のもう一つのテーマとして「芸術家の持つ役割」というものがあります。

「飯の種」をせっせと運ぶ働き者の野ねずみたちは社会経済を担っています。

それは生きるために必要なことですが、「人はパンのみに生きるにあらず」。

詩人・画家・音楽家・作家などの芸術家たちは、人の精神生活を豊かにします。

 

しかしながら、経済発展至上主義の時代にあっては、精神生活の重要性は忘れ去られがちです。

そして芸術を「しょせんは娯楽」と軽んじ、文化を「金になるか、ならないか」のものさしで量ろうとします。

 

もう一つのテーマ、と書きましたが、「多様性を認めないファシズム」と「文化の軽視」は実はセットになっています。

独裁的な権力者は、多様な文化を好みません。

人権の軽視、差別の推進、企業の保護、メディアコントロール、軍事優先、犯罪の厳罰化なども同様です。

 

ファシズムやマッカーシズムは、遠い過去の出来事ではありません。

それらの怨念は社会の至る所に身を潜め、常に復権の機会を伺っています。

彼らはまず、フレデリックのような者を排除することを志向します。

 

私たちの社会をふと見回し、「フレデリックがいない」ことに気づいたとしたら、その時にはすでに遅いかもしれません。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

シャイな表情が素敵度:☆☆☆☆☆

 

関連記事≫絵本の紹介「スイミー」

 

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