【絵本の紹介】「スモールさんののうじょう」【218冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

若者が農業・漁業・林業などに興味を持たない時代が続き(かく言う私もその世代ですが)、人手不足が深刻になっています。

しかし、華やかな職業ばかりに人気が集中した時代は(現実の生活が苦しくなるにつれ)そろそろ終わりを告げ、「農業をやりたい」という若い人が、少しずつ出てきているらしいです。

 

凄まじい早さで盛衰を繰り返すネット時代の仕事に疲れ、文字通り地に足を付けた仕事をやって充実感を得たいという願望は理解できます。

でもまあ、実際にやってみるとなると、そりゃあもう大変な仕事でしょう。

いくら農業機械が進化したといっても。

 

それに、現実的にはお金の問題、家族の問題、周辺環境の問題、後継者の問題などが山積しています。

よほどの覚悟がないといい加減な気持ちではできません。

 

けれど、やっぱり必要な仕事です。

地方創生とかなんとか言ってますけど、政治家たちは誰も真面目に取り組んでいるようには思えません。

 

さて、今回紹介するのはそんな業界の頼もしい味方「スモールさんののうじょう」です。

作・絵:ロイス・レンスキー

訳:渡辺茂男

出版社:福音館書店

発行日:2005年3月20日

 

「スモールさん」の絵本、このブログで取り上げるのは「ちいさいじどうしゃ」以来、かなり久々の登場です。

 

≫絵本の紹介「ちいさいじどうしゃ」

 

「スモールさん」が毎回何かの運転士として活躍する「ちいさい〇〇」シリーズとはちょっと違い(やっぱり乗り物には乗りますけど)、今作では農場主としての仕事が描かれます。

家畜の世話。

トラクターで牧草地を掘り起こす。

収穫から販売まで、スモールさんは一人でこなします。

どんな超人的体力ですか。

しかもこの涼しげな顔。

 

レンスキーさんの淡々とした説明文はいつもの通りです。

読み聞かせる大人にしてみれば退屈ですらあるこの単調さ。

しかし、これが子どもたちには非常に好まれる文体なんですね。

 

子どものあくなき好奇心や、どんなことでも知りたいという欲求。

それは大人には到底及ばないほどの強さで、ほとんど渇望と呼んでいいくらいのものです。

 

その一つ一つに、丁寧な文と絵で答えてくれるのですから、子どもにとってこんなに真摯な作品もないわけです。

我々大人は、ついつい子どもの質問を適当にあしらったりしてしまいがちです。

レンスキーさんの絵本は、子どもの問いに正面から答えることの大切さを教えてくれます。

 

見返しには空から見た農場の全体図なるものも描かれ、スモールさんがどこでどう仕事をしているかまでがわかるようになっています。

 

それにしても、スモールさんの万能ぶりには毎回感心してしまいますね。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

スモールさんの多忙度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「スモールさんののうじょう

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【絵本の紹介】「つるにょうぼう」【217冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

久しぶりに昔話絵本を紹介しましょう。

つるにょうぼう」です。

再話:矢川澄子

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1979年10月25日

 

冬の定番としてなじみ深い昔話です。

昔話というものは地域によって様々な話型に分かれるものですが、この物語は大きく「鶴女房」verと「鶴の恩返し」verに分けられます。

 

どちらも怪我を負った一羽の鶴を主人公が助けるところは同じですが、「鶴の恩返し」では主人公が翁、「鶴女房」では若者となります。

その後、鶴が美しい娘に化けて訪ねてきて、自らの羽を抜いて機を織り、恩を返すのですが、最終的には主人公が「見てはいけない」という約束を破ってしまい、正体の知れた鶴は飛び去ってしまう……というのが、概ね共通したあらすじです。

 

両者の一番の違いは、「鶴女房」verではタイトル通り、主人公と鶴が結婚する異類婚姻譚である点でしょう。

悲恋的要素が加わることで、より切ないラストとなります。

 

今回取り上げる「つるにょうぼう」は、再話は「ぞうのババール」シリーズなどの翻訳も多数手がける矢川澄子さん、絵は安定の赤羽末吉さんが担当しております。

最後の鶴が飛び去って行くシーンは、赤羽さん渾身の見開きカットで描かれ、非常に印象深い美しさを放っています。

貧しい独身男「よ平」が、翼に矢を受けた鶴を介抱してやります。

赤羽さんは雪の絵にはなかなかこだわりがあるようです。

 

その夜、「品よく、美しい」むすめが、よ平の家を訪ねてきて「女房にしてくださいまし」。

普通ならどう考えても新手の結婚詐欺を疑うところですが、いつの時代も男は美人に弱いのか、はたまた鶴の魔力か、雪のせいか、よ平はあっさりむすめを家に入れます。

 

それからよ平は幸せな新婚生活を送りますが、貧乏は変わらず、二人が食うのもやっと。

そこでむすめは自分に機を織らせてくれるよう、よ平に言います。

ただし、「けして のぞき見なさいませんように」と妙な条件を出されます。

 

三日三晩かかって織り上げられた一反の布は、驚くばかりの美しさでした。

織物は町で高く売れました。

 

しかしそのお金も底をつき、むすめは「もう一どだけ」と機を織ります。

出来上がった織物はさらに美しい輝きを帯びていました。

しかし反対に、むすめはやつれた痛々しい風情となっています。

 

この織物のことを知ったとなりの男が、よ平にある提案を持ちかけます。

都のお大尽のところへ織物を持って行って売れば、もっと儲かるというのです。

 

この話を聞いたむすめは、

なんでそんなにお金がいります

ふたりして暮らせさえすれば、十分ですのに

 

この言葉に、この絵本の核があるように思います。

 

しかし結局むすめは機を織ることになります。

これが最後で、そしてやはりのぞき見をしないことを条件として。

しかし、よ平はついに好奇心に負けて禁忌を犯してしまいます。

そこで目にしたものは、血にまみれながら自分の羽を引き抜いて機にかける鶴の姿でした。

 

むすめは自分の正体がいつか助けられた鶴であることを明かし、知られた以上人間界には留まれないとして、出来上がった織物を残して飛び去ります。

どうぞ、末長く、おしあわせに

と言い残して。

 

★      ★      ★

 

「見てはいけない」という類型の物語は、世界中の昔話に登場します。

古くは聖書の中にもあります。

 

見てはいけないと言われると見たくなるのは人間の性。

真実に近づくことと、幸福になることは両立しないのでしょうか。

 

おそらくは、真実を知ろうとすれば、それに相応しい準備が必要なのでしょう。

つまり、単純な好奇心や、我欲に負けて真実に近づけば、人は何かを失うということなのかもしれません。

 

バッドエンドとまでは言わずとも、少なくともハッピーエンドとは呼べないような昔話はたくさんあります。

それらを単に「悲しいおはなし」と片付けてしまうのではなく、そこから様々な感情を呼び起こしたり、考えたり、美しさに触れたりすることが、昔話絵本を読む上で大切なことであり、読み聞かせる側もそこを意識することが大事です。

 

昔話を単に教訓的な話型に落とし込むようなことをしても、子どもがそこから学ぶことは表面的な薄っぺらい倫理観だけです。

そんなものよりも、この絵本のラストのページをじっと見ることの方が、よほど深い部分で情緒に働きかける力となるでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

最終シーンの美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ゆきのひのうさこちゃん」【216冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

大阪も寒いですが、首都圏の方は雪で交通規制やら何やら、大変そうですね。

しかし、雪を見て喜ぶ子どもたちの姿はいつの時代も変わりません。

 

まあ、SNSなどで競い合うように雪の写真を投稿しているのを見ていると、今は大人の方がはしゃいでいるような気もしますが。

 

今回は名作シリーズより冬の絵本を選びました。

ゆきのひのうさこちゃん」を紹介します。

作・絵:ディック・ブルーナ

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1964年6月1日

 

前回紹介した「うさこちゃんとうみ」では衝撃のトップレス水着姿を披露したうさこちゃんですが、今回はコートに帽子にマフラー、長靴、手袋としっかり寒さ対策をしています。

 

≫絵本の紹介「うさこちゃんとうみ」

 

長い耳がすっぽり入る帽子がとってもキュートです。

マフラーや長靴、手袋の色と合わせて、二色のみでコーディネートしたセンスが素晴らしい。

うさこちゃんの年齢は、描かれる作品ごとに微妙に違っているようです。

この作品では、6歳くらいかな。

 

一人でそり遊びやスケートもこなしています。

そして、寒さに震える小鳥のために、涙を流すことも。

自分以外の誰かを想って泣けるほどに情緒が成長している証です。

 

さらには、かなづちや木切れで小鳥のために立派な家を作ってあげることまで出来るのです。

最初と最後のページは、共にうさこちゃんが家の窓から外を見るカットですが、うさこちゃんの位置が左右違っていたり、服が寝巻に変わっていたり。

 

衣装替えを楽しむこともできる一冊です。

 

★      ★      ★

 

おしゃまなうさこちゃんの語り口調の数々。

倒置法を用いた詩的表現。

ほら ごらんなさい まどから そとを

ゆきが ふったわ あんなに たくさん

 

今回も石井桃子さんの訳文が冴えわたっています。

他の訳者さんだと、うさこちゃんのキャラクターはまた全然違った印象になっているのではないでしょうか。

 

いってまいります」とか、どこの令嬢ですか。

うさこちゃんが、両親のふわふわさんたちに大事に大事に育てられていることが伝わってきます。

……さすがにもう、例の水着は着てないでしょうね。

 

推奨年齢:1歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

うさこちゃんのDIY能力度:☆☆☆☆☆

 

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スズキコージ「コーベッコー」出版記念絵本原画展とサイン会に行ってきました。

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

自由(過ぎる)発想とダイナミックな描写、不思議なキャラクターで異彩を放つ絵本作家、スズキコージさん。

6年前から移り住んだ神戸を題材にした絵本「コーベッコー」出版を記念した原画展が神戸元町の「Gallery Vie」で開かれています。

≫「Gallery Vie」HP

 

期間は今月の28まで(入場無料・月曜休館)。

「コーベッコー」原画の他にも様々な作品展示やポストカードや絵本の販売も行っており、見ごたえ十分です。

 

 

「コーベッコー」というタイトルは、「神戸港」と風見鶏の鳴き声を掛け合わせたもの。

内容はまあ、さすがのスズキコージワールド。

 

風見鶏が「コーベッコー」と鳴くところから物語は始まり、「ロッコーざん」の湖に金星が落ちてきて、船に乗った金聖人「ヴィーナスカ」が、神戸の名所を巡ります。

何だかわけわからないけど、うちの息子には大ウケでした。

スズキさんは子どもの喜ぶツボを心得てらっしゃる。

 

私たちが原画展に行ったのは先日の土曜日で、この日はスズキさんのサイン会も行われていました。

初めてお会いするスズキさん。

何しろあんな絵本を描いてらっしゃる方ですから、内心ちょっと危ない人かも……と怖がっていたんですが、イメージと違い、実にダンディでかっこいいおじさんでした。

お店に向けてサインをもらいました。

スズキさんに「面白い名前だねえ」と言ってもらいました。

 

上の図は神戸の地をかたどったデザインで、一筆書きで出来てるのです。

ブルジオ語(そんな言語初めて知りました)で「コージ」とサインされています。

いいところなんですよー」と目を細めて言うスズキさん。

 

この一筆書きサインが非常に息子の興味を引いて、他の方がサインをもらっている間も、ずーっとスズキさんの手元を凝視していました。

あんまり近すぎて、紙に顔が当たるんじゃないかという距離まで接近するので制止したら、スズキさんは「構わないよ」と素敵な笑顔。

息子は帰ってからこのサインを真似た絵を何枚も描いていました。

 

原画の方はやっぱり凄い迫力で、何と言っても100号キャンバスに描かれた「コーベッコー」の裏表紙の画は圧巻でした。

入場無料ですので、お近くの方は是非どうぞ。

 

スズキさん、どうもありがとうございました。

これからも応援しております。

 

スズキさんの絵本紹介記事

≫絵本の紹介「ガッタンゴットン」

≫絵本の紹介「ガラスめだまときんのつののヤギ」

 

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【絵本の紹介】「パイがふたつあったおはなし」【215冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに名作「ピーターラビットの絵本」より、私も息子もお気に入りの一冊を紹介しましょう。

パイがふたつあったおはなし」です。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1988年6月25日

 

昨年、ピーターラビット展へ行き、そのレビューや第一作「ピーターラビットのおはなし」についての記事を書きました。

作者のポターさんの生涯などについても詳しく触れておりますので、ぜひそちらも併せてお読みください。

このシリーズの魅力について語り出すと、いつまでたっても絵本紹介に辿り着けないので。

 

≫「ピーターラビット展」に行ってきました。

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

 

この「パイがふたつあったおはなし」は、息子にとって(そして私自身にとっても)初めて触れたポターさんの世界です。

「ピーターラビットの絵本」は、作者の生まれ育ったイギリスの田園風景を舞台に、そこで生活する様々な動物を描いた作品です。

作品ごとに主人公は変わりますが、ピーターやこねこのトムのように複数の作品に登場するキャラクターも大勢います。

 

この絵本では「ダッチェス」という黒い犬と、「リビー」という猫を中心に物語が展開されますが、リビーは「ひげのサムエルのおはなし」にも登場した、こねこのトムのおばさんにあたるキャラクターです。

シリーズを読み進む上で、こういう人物相関図が出来上がってくるところも、ピーターラビットの絵本の楽しみのひとつでしょう。

 

さて、「パイがふたつあったおはなし」は、64pもあり、小さい子に読み聞かせるにはなかなか長い物語です(だから、初めて読んだ時に息子が最後まで聞いたことに驚きました)。

 

それに、難しいんですね。

文章自体は易しいんですが、「含み」がたくさんある。

ダッチェスとリビーの、表面上は上品で丁寧な会話の裏を、自分の想像力で補わなければ、このお話は読めません。

自分で本が読めるようになった子どもでも、古典的な児童書を手に取ったことがなければ、ちょっと読解に苦しむかもしれません。

 

しかしそれだけに、大人が読んでも面白い物語です。

ユーモアと、そしてちょっとした皮肉とからかいが込められた、よく出来た落語のようなお話です。

 

それでは内容を読んでいきましょうか。

ダッチェス(♀)のもとに、リビー(♀)からお茶会の招待状が届くところからお話が始まります。

とてもおいしいものを ごちそうします」と書かれたその手紙に、ダッチェスは「よろこんで、4じ15ふんに おうかがいいたします」と返事をしたためます。

 

けれど、ダッチェスは内心、リビーが用意しているのが「ねずみのパイ」ではないかと気が気ではありません。

実はダッチェスも、リビーを招くつもりで、「小牛とハムのパイ」を用意していたのです。

 

ねずみのパイなんて、とても とても たべられない! でもたべなくちゃ! およばれなんだもの

ああ、あたしのパイが たべたい! ねずみのパイなんかじゃなくて!

 

ダッチェスは葛藤を繰り返した末に、ある計略を思いつきます。

それは、リビーが出かけている隙を狙って、自分のパイをリビーのオーブンに入れてきてしまうという大胆なもの。

 

リビーが自分ではそのパイを食べないつもりらしいこと、パイ皿もダッチェスのとおそろいであること、リビーがマフィンを買いに出かけるであろうことなどを、手紙から読み取っての策です。

一方、リビーはねずみのパイをオーブンに入れます。

そのオーブンは二段式になっており、パイを入れた下の段は、開けるのに力がいるのです。

 

そうして部屋をきれいにしてから、リビーは自分が食べるマフィンを買いに出かけます。

途中、ダッチェスとすれ違いますが、会釈だけで会話はしません(話はこれからお茶を飲みながらするからです)。

 

さあ、ダッチェスはリビーの姿が見えなくなるや、一目散にリビーの家に駆けて行き、侵入し、オーブンの上の段に持参してきたパイを入れます。

しかし、ダッチェスはオーブンに下の段があることに気が付かず、リビーのパイを見つけることができません。

 

そうしてるうちにリビーが帰ってきて、ダッチェスはねずみのパイを始末できないまま、退散します。

リビーは家の様子が変だと思いつつも、ダッチェスのパイには気が付きません。

 

ダッチェスは改めてリビーの家を訪問します。

そこでダッチェスは、リビーがオーブンからパイを出す瞬間を見逃してしまいます。

さあ、ダッチェスは自分のパイだと思い込んでねずみのパイを食べ始めます。

とても上品に会話を交わす二人ですが、二人とも食欲は旺盛。

特にダッチェスはあっという間にパイを平らげてしまいます。

 

しかし、ダッチェスは妙なことに気が付きます。

自分が入れておいたはずの焼き型(パイが型崩れしないように入れておく金属)が出てこないんですね。

 

リビーの方は「焼き型なんか パイにいれては ありませんよ」と言います。

リビーの親類のおばさんは、クリスマスのプディングに入れる「幸運の指ぬき」を呑み込んで死んだので、自分はパイやプディングに金気のものは入れないのだ、と主張(また出ました、ピーターラビットシリーズにおける事故死ネタ)。

 

これを聞くとダッチェスは自分が誤って焼き型を呑んでしまったのだと思い込み、唸り出します。

リビーの方では焼き型なんか最初から入ってない、と言い、ダッチェスは何しろ自分のパイだと信じてるわけですから、確かに焼き型が入っていたのだ、と言い、不毛なやり取りが繰り広げられます。

 

気分が悪くなってしまったダッチェスに、リビーは医者を呼びに行きます。

一人残されたダッチェスは、オーブンの音で、焼き上がった自分のパイに気づきます。

真相を理解したダッチェスは、「こんなこと とても きまりわるくて、リビーには はなせない」と思い、自分のパイは裏庭に出しておいて、後で持って帰ることにします。

 

やがてリビーが「カササギ先生」を連れて帰ってきます。

この先生が実にぶっ飛んだキャラクターでして、喋ることは何故か「ばきゃたれ」とか「うすのろ」とか、悪い言葉ばっかり。

(表向きは)上品なリビーとダッチェスと、誠に対照的です。

 

ダッチェスはもう具合が良くなったから、と逃げるようにリビーの家を後にし、それから例のパイを回収しに裏庭へ回ります。

ところが、パイはカササギ先生が食べてしまった後でした。

 

ダッチェスは自分のしたことが恥ずかしくなり、うちへ駆けて帰るのでした。

 

★      ★      ★

 

このシリーズの魅力は「現実とファンタジーの究極の結合」にあると以前の記事に書きましたが、ここでもダッチェスたちは動物としての特性は保ったまま、実に人間臭く描かれています。

 

この物語の核は登場人物たちの「本音と建て前」です。

ダッチェス、リビー、タビタはそれぞれ表面上は仲良く、上品に振る舞っていますが、所々で本音を覗かせます。

これはお高く止まった上流階級の婦人たちの社交生活を皮肉っている点で、鳥獣戯画のような可笑しみを生んでいますが、ポターさんの筆には辛辣さはほとんど感じられません。

 

むしろ、登場人物に対するあたたかみすら感じられるのですね。

考えてみれば、リビーたちのような「本音と建て前」は、社会で生きて行く上で、誰しもが使い分けているところかもしれません。

 

その人間理解とリアリティゆえに、この話は「難しい」わけです。

はっきりとした悪人が出てきたり、わかりやすい教訓が示されるわけではないからです。

 

そしてやっぱり、絵の美しいこと。

花でいっぱいのダッチェスの家は素敵だし、リビーはおしゃれだし。

タビタさんは割と登場回数の多いキャラですが、彼女の子どもたち(トム、モペット、ミトン)は、今回は絵のみの登場となります。

 

トムたちの出てくるお話も大変面白いので、いつかまた取り上げたいと思っております。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

カササギ先生には診てもらいたくない度:☆☆☆☆☆

 

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