【絵本の紹介】「サルビルサ」【237冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

以前、サイン会で直接お会いした絵本作家のスズキコージさん。

お店と息子に向けてサインをいただきました。

 

≫スズキコージ「コーベッコー」出版記念絵本原画展とサイン会に行ってきました。

 

スズキさんの絵本は言語化不可能な独自世界。

常識にとらわれた大人には、「不気味」「意味が分からない」と、敬遠されることもあるかもしれません。

 

しかしそのイラストのド迫力と、作品全体から伝わる音楽的躍動感は読む者の心を惹きつけて離しません。

彼の絵本は頭で理解しようとするより、身体で感じたほうが素直に楽しめます。

 

今回はそんなスズキさんの作品の中でも、我が家の息子のリピート率が特に高い一冊「サルビルサ」を取り上げます。

作・絵:スズキコージ

出版社:架空社

発行日:1996年8月

 

「サルビルサ」ってなんだ? とまず思われるでしょうけど、スズキさんの(例の)造語です。

そして、本文も日本語ではなく、いわばスズキ語で書かれています。

 

もちろん、意味はわかりません。

ですが絵が非常に雄弁で、わりと明確なストーリー展開ですので、内容は容易に想像することができます。

 

異なる民族衣装をまとった二人の兵士が、それぞれ反対方向から駆けてきて、一匹の獲物をしとめます。

彼らの発する言葉は「モジモジモジ」と「ジモジモジモ」。

片方が「サルビ」と言うともう一方が「ビルサ」と返す。

 

つまり互いの言葉が回文になってるわけです。

意味はわからないけど、どうやら獲物の所有権について口論している模様。

 

交渉はまとまらないまま、二人はそれぞれの国に戻り、王っぽいのに報告します。

王は兵士たちに向かって大号令をかけます。

モジ!

するともう一方の国でも、

ジモ!

この有無を言わせぬ迫力、素晴らしいです。

しかし、文字がページ中央の綴じ部にかかって見にくいのが残念……。

 

王はそれぞれ大軍を率いて例の獲物が放置されている場所へ出向き、そこで話し合いが行われます。

ズナカ サルビ

ビルサ カナズ

 

しかし互いに譲らず、とうとう戦争が始まってしまいます。

二国の兵士たちが入り乱れての大乱戦。

ついには両軍とも王が倒れて、残った兵士たちはてんでに退却を始めます。

 

そこへ一羽の黒い鳥(最初からずーっと空から成り行きをうかがっていた)が舞い降りてきて、

サルビルサ

と発しながら、獲物をさらって飛び去ってしまいます。

 

★      ★      ★

 

想像力で読む絵本です。

両軍の激突はユーモラスでありながら、ほんのつまらないことに端を発し、それが戦争にまで発展してしまう馬鹿馬鹿しさ・愚かさを明快に描いています。

 

しかも、争いの原因であった獲物は、結局黒い鳥(他国)に労なくして奪われてしまうという暗示的なオチ。

これはスズキさん流の「反戦」絵本とも言えます。

 

ま、そんな細かいことはおいても、とにかく声に出して読んでると楽しくなる絵本です。

何回繰り返して読んでもストレスのない一冊なので、読み聞かせる側も楽です。

 

ところで、いよいよ世界から注目されている南北首脳会談、米朝首脳会談が行われますね。

様々な思惑が絡み合う中、少しでも平和実現に向けて進めばいいですが。

 

そう、一応時事ネタのつもりでこの絵本を持ってきたわけです。

言わないと誰も気づいてくれないでしょう?

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

エキゾチック度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「サルビルサ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「ゼラルダと人喰い鬼」【236冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはトミー・ウンゲラーさんの「ゼラルダと人喰い鬼」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1977年9月10日

 

その独創性・表現力・物事の本質を見極める目の確かさ・色使いの妙・構成の見事さ……。

他の追随を許さぬ絵本作りの名手、ウンゲラーさん。

 

これまでにこのブログでも何回か彼の作品を取り上げてきました。

 

ウンゲラーさんの唯一無二性は、彼の題材選びにあります。

ちょっと絵本作品としては選びにくい主人公やテーマを掬い出し、鋭い風刺の目と、確かな構成力、画力によって実に鮮やかに仕上げるのがウンゲラーさんの凄いところ。

 

ユーモアを交えつつ、あまりにもさらりと描かれているので、うっかり見過ごしかねませんけど、これは相当難しい作業だと思います。

この「ゼラルダと人喰い鬼」は、そんな作品群の中でも特に異質な題材の絵本です。

 

あっさり説明してしまえば、「恐ろしい人喰い鬼が、純粋な少女の力によって改心する」という、王道的童話なのですが、最初のページの人喰い鬼の恐ろしさと言ったら、とてもとても改心しそうには見えません。

 

血の付いたナイフを手に笑う凄まじい形相。

朝ごはんに子どもを食べるのが、何よりも大好き」という残酷な怪物。

檻から子どもの手だけが見えるのも、一層恐怖を煽ります。

 

町の人々は人喰い鬼を恐れて、子どもたちを隠します。

腹を空かせた怪物の前を通りかかったのは、ゼラルダという料理の得意な少女。

 

これ幸いとゼラルダを取って食おうとした怪物ですが、足を滑らせて崖から滑落。

町から離れた森の開拓地に住むゼラルダは、人喰い鬼の噂など何も知りません。

怪我をし、空腹で動けない怪物を哀れに思い、得意の腕を振るってご馳走を食べさせてあげます。

 

初めて食べるご馳走の味に驚いた人喰い鬼は、ゼラルダを食べる気をなくし、自分のお城に誘います。

人喰い鬼の財力にあかせて、ゼラルダは次々とおいしい料理を作ります。

人喰い鬼は大喜びで、近所の人喰い鬼を招待します。

怪物たちはみんなゼラルダの料理に感激し、子どもを食べることを止めてしまいます。

そして月日が流れ、とうとう人喰い鬼はゼラルダと結婚。

子どもを授かり、末永く幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

どうです、ラストの人喰い鬼の笑顔。

この鮮やかな転換は、「すてきな3にんぐみ」に通じるものがあります。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

しかし、よくよく考えてみれば、この人喰い鬼は改心したというわけではないのかもしれません。

最初から最後まで、彼の動機となっているのは「食欲」オンリーのように見えます。

 

まあ、町の子どもにお菓子を配ったりしてますし、文にない部分の怪物の心情は想像する他ありませんが。

そもそも、いくら子どもを食べることをやめたところで、それまで彼が数々の子どもを喰らった事実は変わりませんし、その罪はどうなるの? という疑問も残ります。

 

これは「すてきな3にんぐみ」も同様で、どろぼうたちは別に改心したわけではないのかもしれないし、最後に善行を施したからといって、それまでの罪が帳消しになるわけではないとも考えられます。

 

私たちはこれらの童話を「悪人が愛によって改心する」という定型に落とし込んで解釈したがるので、このラストにはどうしても釈然としない気分が残ります。

 

ウンゲラーさんはそれを承知の上で、上っ面の勧善懲悪を跳ね除けます。

自分と文化も感覚も異なる、理解を絶した「異邦人」に対し、己の「常識」や「正義」や「道徳」を持ち出してきても、ただ争いが起こるだけです。

そうした「異邦人」と共生する手段として、「食」という身体に根ざした欲求を持ってくるところが、この物語のリアリズムなのです。

 

そういう点を見逃して、「愛は偉大なり」的な読み込みをする大人に対する、ウンゲラーさんのとびっきりの「毒」が、最終ページに仕込まれています。

ゼラルダと人喰い鬼の間に生まれた子どもが、後ろ手に隠し持っているのは……。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

グルメ絵本度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ぼく、だんごむし」【235冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どもの頃、虫は好きでしたか?

カブトムシ、クワガタ、セミ、トンボ……。

 

そういう大御所に比べれば目立たないけれど、子どもに人気のある虫と言えば、だんごむしではないでしょうか。

割と簡単に発見できて、観察してて面白い。

見た目もあんまり気持ち悪くなくて、触りやすいし。

 

しかし、その生態については意外と知られていません。

かくいう私も、この絵本を読んで初めて知ったことがたくさんありました。

ぼく、だんごむし」です。

作:得田之久

絵:たかはしきよし

出版社:福音館書店

発行日:2005年4月15日(かがくのとも傑作)

 

作者の得田さんは昆虫少年として幼児期を過ごし、大学時代に昆虫を描き始め、虫に関する絵本を多数発表しています。

どれも深みがあって、大人でも「へえ」と面白く読める作品ばかりです。

 

得田さんは自分でも絵を描きますが、この「ぼく、だんごむし」では、たかはしさんに絵を任せています。

色鮮やかなコラージュで描かれた虫の絵は程よくリアルで美しく、虫嫌いの人にも読み易いと思います。

文はだんごむしくんの一人称で、自己紹介的に語られます。

林や草むらより、町中のほうが棲みやすいというだんごむし。

 

その理由は、彼らのえさ。

枯れた植物や虫の死骸に加え、人間の出す新聞紙や段ボール、コンクリートや石まで食べるのです。

だから、人間の暮らしているところのほうが棲みよいのですね。

敵に襲われたら、その名の通り、体をボールみたいに丸めて身を守ります。

これは有名。

 

でも、脱皮した抜け殻を食べたり、白っぽい赤ちゃんを産むことなどはあまり知られていないのではないでしょうか。

この図はちょっとキモチワルイですが。

そして、意外と盲点なのが、だんごむしが実は昆虫ではないということ。

そう言われたら、足の数が違いますね。

 

なんと、彼らは「かにや えびの なかま」の甲殻類。

水にも強いのです。

 

★      ★      ★

 

いかに自分が何にも知らないかを痛感する一冊でした。

だんごむしのあっぱれな食欲、生命力。

 

単に面白がって虫遊びをするところで終わる子どもと、飽くなき探究心を発揮して、深い科学知識を求める子どもの分水嶺はどこにあるのでしょう。

これは結構大事なところのような気がします。

 

ある程度のところで「まあいいか」と納得するか、とことん調べて、考え抜くか。

わからないことや疑問に感じたことを、そのままにしておいて平気な人と、そうでない人。

そういう姿勢の違いが、その後の人生の様々な場面で、大きな差になるのかもしれません。

 

「すぐに調べる」ことが習慣となっているかどうか、そして「調べる方法」を知っているかどうか。

子どものうちに、「調べて納得する」経験を何度も積んでおくことは、非常に重要だと思います。

 

それをサポートする周囲の大人の役割も大きいでしょう。

子どもの知識欲や探究心に火がついている状態を見逃さず、的確に知的な成功体験をさせてやることが求められます。

 

我が身を振り返ればわかると思いますが、子どもが内面にそうした炎を宿す時間はとても短いものです。

その「旬」を逃してしまえば、もう一度点火することは難しくなります。

けれども、どの子どもにも一度は必ず、その「旬」は訪れるはずです。

 

どんなに忙しくとも、子どもの発する質問には真摯に答えてやりたいものです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

目からウロコ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「おっぱいのひみつ」【234冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は月刊科学絵本「かがくのとも」傑作集より、「おっぱいのひみつ」を紹介します。

作・絵:柳生弦一郎

出版社:福音館書店

発行日:1991年3月6日(かがくのとも傑作集)

 

人体に関する絵本を、平易な文章とインパクトのある絵で描くスタイルの柳生弦一郎さん。

ところどころに「おふざけ」要素を交えながら、実は至って誠実な科学絵本です。

 

どうして おとこのひとは ブラジャーをしないの?

だって、おっぱいが おおきくないもの

 

子ども目線の素朴な疑問からスタートし、「おっぱい」とは何かに迫ります。

女の人のおっぱいが大きいのは、「あかちゃんに おちちを あげるため」。

その準備として、10歳ごろからおっぱいが膨らみ始めるのだということを教えてくれます。

母乳の出る仕組みについても(とても精密な図とは言えませんが)図解で説明。

 

そして、おっぱいが単に赤ちゃんの食事としての機能だけでなく、「心の栄養分」でもあることに触れます。

それはスキンシップの重要性に繋がります。

乳房に吸い付いたり、舐め回したり、手でぎゅっと触ったりすることは赤ちゃんにとってもお母さんにとっても「とても だいじなこと」。

あったかくて やわらかくて とても いいきもち!!

 

★      ★      ★

 

どの家庭もそうでしょうけど、授乳に関しては、我が家も色々と思い出があります。

産まれたばかりの息子は口が小さくて、うまく母乳を吸えませんでした。

加えて、妻の母乳の出も良くなく、粉ミルクに頼らざるを得ない状況でした。

 

この絵本で言及されているように、授乳行為が重要なスキンシップであること、それが赤ちゃんの情緒面の発達にとって非常に良い影響を及ぼすことは広く知られています。

息子が生まれる前から、妻はできることなら100%母乳で育てること、そして自然に乳離れするまでは母乳を与え続けることを望んでいました。

 

しかし、上記のような事情に加え、数時間おきの授乳による睡眠不足、産後うつ、さらに息子には乳首を噛む癖があって、それがとんでもなく痛いというので、結局1歳過ぎたころに断乳しました。

 

それは仕方のないことでしたが、妻は今でもそのことを悔やむことがあります。

息子の反抗がひどい原因はそこにあるんじゃないか……などという考えがよぎったり。

 

でも、それはあまり生産的でない考え方だと思います。

母乳育児は素晴らしいことには違いありませんが、それが全てではないし、それだけが問題なわけがありません。

 

母乳に限らず、育児に関する母親の神秘性みたいなものを賛美し過ぎると、結局のところ母親一人に負担がかかり過ぎるし、ひどい場合には子育てに積極的でない女性に対するバッシングに繋がったりします。

 

子どもをどう育てるかについての判断は最大限個人の自由に委ねるべきだと思います。

「母乳が素晴らしい」と言うことと「母乳で育てなければならない」と言うことは全然違うことです。

 

この絵本の巻末の「おかあさんによんでもらうページ」には、八王子中央診療所所長の山田真氏の文が掲載されています。

そこに「あかちゃんにおちちをあげることのできないおかあさん」について、「人間はひとりひとりちがっているのですから、そういうおかあさんがいても、ちっともおかしくはないのです」と書かれています。

 

読み聞かせをする際には、必ずこの最終ページを併せて読んで下さい。

この一文があることで、この絵本は真に科学的でありうるのだとさえ言えます。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

照れずに読もう度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」【233冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は巨匠バージニア・リー・バートンさんによる「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」を紹介します。

作・絵:バージニア・リー・バートン

訳:石井桃子

出版社:童話館

発行日:1995年2月1日

 

バートンさんの描く乗り物絵本では、これまでに「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」「はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー」「ちいさいケーブルカーのメーベル」を取り上げました。

 

≫絵本の紹介「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」

≫絵本の紹介「はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー」

≫絵本の紹介「ちいさいケーブルカーのメーベル」

 

乗り物絵本と言い条、どの作品もドラマ性が強く、話も長めです。

しかし、図鑑的な細密性、精緻性も持ち合わせており、子どもの好奇心を存分に満たす内容にもなっているところがポイント。

 

この「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」もその例にもれず、重厚なストーリーに加えて、スチーム・ショベルの働きや各パーツを詳細に解説しています。

特に、見返しの説明図は我が家の息子にも大好評でした。

 

毎回手法を変えるバートンさん。

今回は色彩鮮やかな石版画です。

 

マイク・マリガンは「メアリ・アン」という名前の赤い綺麗なスチーム・ショベルを持っていました。

二人は何年も一緒に働いてきた良きパートナーです。

マイクは「100にんのにんげんが 1しゅうかんかかって ほるくらい」メアリなら1日で掘ってしまう、と自慢していました(もっとも、本当にそんなことをしたことはありませんでした)。

メアリとマイクは観客が多いほど仕事が早くなるタイプ。

今までにたくさんの仕事をこなしてきました。

 

ところが時代の流れとともに新式のガソリンショベルや電気ショベル、ディーゼルショベルが発明され、二人の仕事を取り上げてしまいます。

落ち込む二人でしたが、新聞に、ある町で新しい市役所を建てるという記事を見つけ、自分たちでその地下室を掘りに行こうと出発します。

ポッパビルというその町に着くと、マイクは役人のところへ行き、新しい市役所の地下室を自分たちなら1日で掘って見せると持ち掛けます。

地下室の穴は100人が1週間かかって掘るような仕事です。

役人のスワップさんは信じませんでしたが、

もし、ほれなかったら、かねは はらってもらわなくても かまいません

というマイクの言葉に、とにかくやらせてみることにします。

 

さあ、次の朝早く、マイクとメアリは仕事に取り掛かります。

町の人々が次々と見物に来ます。

観客が増えるほど、二人は早く上手に掘っていきます。

 

時間との戦いの中でも、メアリはきっちりと四角に地下室の穴を仕上げていきます。

日が沈み、立ち込めていた蒸気が消えると、地下室の穴はすっかり完成されていました。

ところがここで問題発生。

なんと、マイクたちはあんまり急いだので、メアリが出る出口を残すのを忘れてしまったのです。

 

途方に暮れる二人と町の人々。

そこで、最初からずっとメアリたちを応援していた小さな男の子が妙案を出します。

それは……。

 

★      ★      ★

 

バートンさんの最初の絵本「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」は彼女の長男のアリスへ、そしてこの「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」は次男のマイケルへ捧げた作品です。

ポッパビルの男の子はどうやらマイケルがモデルのようですね。

 

バートンさんの乗り物シリーズにはもう一つ共通項があって、主人公である乗り物「ちゅうちゅう」「けいてぃー」「メーベル」「メアリ・アン」はどれも女性なんですね。

力強い機関車やショベルカーなどは男性的イメージで捉えがちですし、実際に世の絵本のほとんどがそれらを男性キャラクターとして登場させているのに対し、古典の部類に入るバートンさんの絵本ではその逆を突いているところが面白いと思います。

 

彼女が何を考えてそうした設定にしたのかは私は知りませんけれど、結果として女の子が読む場合でも感情移入しやすくなっているかもしれません。

もっとも、乗り物好きの子どもは、そんな点はさほど気にもせず、ごく自然に受け入れるでしょうけど。

 

バートンさんの絵本には蒸気機関に代表される「古き時代」が「新しい時代」に取って代わられるという話型が多く見られます。

確かに煙を吐き出す蒸気機関は環境にも悪いし、技術の発展と共に淘汰されていくのが定めです。

しかし、その一方で、その黒い煤にまみれた機械と人の間には、現代には失われたつながりのようなものがあったのかもしれません。

 

そう言えば、バートンさんは大変なチェーン・スモーカーで、そのために59歳で肺がんで亡くなっていますが、最近では喫煙家も段々と肩身が狭くなっているようです。

それもまた時代の流れでしょうけど、バートンさんが生きていらしたら、どんな風に感じるのでしょうか。

彼女の絵本に頻繁に描かれる「煙の絵」を見ると、ふとそんなことを考えたりします。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

転職の意外性度:☆☆☆☆

 

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