【絵本の紹介】「くじらの歌ごえ」【254冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「くじらの歌ごえ」という絵本です。

作:ダイアン・シェルダン

絵:ゲイリー・ブライズ

訳:角野栄子

出版社:ブックローン出版

発行日:1991年6月25日

 

ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した作品ですが、日本での知名度はあまり高くないかもしれません。

まず、写真絵本と見紛うほど精緻で美しい絵に目を奪われます。

キャンバス地の凹凸やざらざらした手触りまで伝わってくる味わいの深さがあります。

 

この超美麗な絵を手掛けているのはゲイリー・ブライズさんというイギリス出身の画家で、これは彼の初めての絵本だそうです。

物語も、彼の幻想的な絵にマッチしています。

主人公のリリーという少女に、おばあさんがくじらの話を聞かせます。

昔、桟橋の上でくじらの歌を聴かせてもらったお話です。

おばあさんは、リリーもくじらに見つけてもらいたかったら、何か贈り物をするとよいと言います。

 

そこへフェデリックおじさんが入ってきて、

くじらがだいじにされてきたのは 肉や骨や脂をとるためだ。リリーにおしえるんだったら もっとやくにたつことを きかせてやってくれ

と不機嫌な様子でおばあさんに言います。

 

おじさんは、普段からおばあさんがリリーに夢のような物語を聞かせるのを、苦々しく思っていたのです。

その後、リリーはくじらの夢を見るようになります。

夢の中のくじらは歌をうたい、跳びあがってリリーの名を呼ぶのでした。

 

リリーは桟橋に行って、黄色い花をそっと海に落とします。

くじらさん、どうぞ これ、あたしのおくりものよ

 

そして一日中桟橋に座ってくじらを待ちました。

夕日が沈むころ、フェデリックおじさんが来て、

そんなばかなまねは もうやめて、うちにおかえり。わたしはおまえに夢ばかりみているような人間になってほしくないのだよ

と諭します。

 

その夜、リリーは月明かりでいっぱいの部屋で、ふと目を覚まします。

家を抜け出し、浜辺へ向かって走ると、海には「おどろくほどたくさんのくじらが 月にとどくほどたかくとびはね とびあがっています」。

リリーは気が付くと裸足で浜辺に立っていました。

もうくじらの姿はなく、いつもの穏やかな海に戻っていました。

 

夢を見ていたのだと思い、家へ帰ろうとするリリーに、風に乗ってくじらの呼び声が聞こえてきます。

 

★      ★      ★

 

夢のような不思議な時間。

でも、本当に体験したこととして、記憶に刻まれている時間。

誰しもが子どもの頃に、そんな幻想と現実の境界に足を踏み入れたことがあるのではないでしょうか。

 

「目に見え、触れることができるものだけが現実である」と頑なに信じる大人たちは、そうした空想を否定し、そればかりかそんな話に腹を立てたりします。

でも、実際にはこの世界には人間の感覚器官によっては感知できないような微細な物質が存在するように、「目に見えるものだけが現実だ」という認識は「妄想」なのです。

 

五感では捉えられないような存在に対しても、実は人間はそれに近づき、認識する手段を有しています。

それが想像力という能力です。

 

もちろん、それは多くの誤謬の可能性を含んだ未熟な能力かもしれませんが、逆にそれがなければ、この世界に対しても人間に対しても、血の通った理解を示すことは不可能です。

 

そしてこの能力は、子どもの間に大切に育んでやらなければ、大人になってからでは取り返すのは絶望的に難しいものです。

 

想像力なんて、そんなに個体差はないだろうと思ったら大間違いです。

二人の人間が、同じ視力で同じものを見たとしても、まったく違う姿を見い出していることは不思議でもなんでもありません。

そこに想像力が介入しているからです。

それが豊かであるか、貧困であるかは、実は人生に関わるほどに重大な問題なのです。

 

私たちには、子どもの想像力の芽を摘み取ろうとする哀れな大人たちから子どもを守り、たくさんの物語を聞かせ続ける使命があると思います。

 

ちなみに、くじらは実際に歌をうたうようです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

絵の印象的度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「くじらの歌ごえ

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【絵本の紹介】「さっちゃんのまほうのて」【253冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは先天性四肢欠損という障害を抱えて生まれた少女を描いた感動作「さっちゃんのまほうのて」です。

作:田畑精一・先天性四肢障害児父母の会

絵:田畑精一

出版社:偕成社

発行日:1985年10月

 

生まれつき右手の指が無いという障害を抱える少女・さっちゃん。

絵本として非常に重く難しいテーマを、田畑さんが先天性四肢障害児父母の会の方々の協力を得て、渾身の筆で描き切った名作です。

 

さっちゃんのお母さんとお父さんの言葉は涙なくしては読めませんが、決して暗くはならず、元気なさっちゃんの明るい未来が想像できるラストは読者の胸にまっすぐ響くでしょう。

 

幼稚園のままごと遊びで、お母さん役を巡って喧嘩になってしまうさっちゃん。

怒った友達の一人が放った一言が、さっちゃんの胸をえぐります。

 

さっちゃんは おかあさんには なれないよ! だって、てのないおかあさんなんて へんだもん

怒ったさっちゃんは友達と大喧嘩の末、幼稚園を飛び出して家に帰ります。

そして、戸惑うお母さんに問いかけます。

 

おかあさん、さちこのては どうして みんなと ちがうの? どうして みんなみたいに ゆびが ないの? どうしてなの?

 

突き刺すような辛い質問に、お母さんは胸がいっぱいになりながらも、さっちゃんを抱きしめ、ごまかさずに真摯に答えます。

さっちゃんは「おなかのなかで けがをしてしまって」指だけがどうしてもできなかったこと。

その原因については、「まだ だれにも わからない」こと。

 

するとさっちゃんは、お母さんにとってはさらに辛い質問を放ちます。

しょうがくせいに なったら、さっちゃんのゆび、みんなみたいに はえてくる?

 

そうだったら、どれほどいいでしょう。

お母さんはどれほど「そうよ」と答えたいでしょう。

 

でも、それは言ってはならないことです。

お母さんははっきりと答えます。

さちこのてはね、しょうがくせいに なっても いまのままよ

でもね、さっちゃん。これが さちこの だいじな だいじなて なんだから。おかあさんのだいすきな さちこの かわいい かわいいて なんだから……

さっちゃんは泣き出します。

いやだ、いやだ、こんなて いやだ

 

それからしばらく、さっちゃんは幼稚園にも行かず、さみしそうに過ごします。

しかし、妊娠していたお母さんが弟を産んだ日、病院からの帰り道に、さっちゃんはお父さんと手をつないで言います。

さっちゃん、ゆびが なくても おかあさんに なれるかな

そこでお父さんは最高に素敵な返事。

 

さっちゃんは元気を取り戻し、友だちとも仲直りします。

そして、明日を夢見ながら眠りにつくのでした。

 

★      ★      ★

 

私は小学生の頃、授業でこの作品に出会いました。

もちろん心に残りましたが、しかし一方、先生からの「道徳観の押しつけ」に少々辟易した記憶も残っています。

 

障害や差別を取り扱うことは非常に難しいことです。

歪んだ優越感や差別意識は、子どもの世界の方がより容赦なく現れているように見えます。

 

しかし、だからといって子どもが差別的であるとは言えないと思います。

彼らは私たちが思う以上に大人の態度や行動を観察しており、それを無意識に模倣します。

 

子どもの世界は大人社会の縮図なのです。

つまり、こうした問題を扱う大人の側の欺瞞を、子どもは鋭く見抜いているのです。

 

ですから、本当の意味での教育は、完全に自由な精神を持った大人が行動で示すことでしか行えません。

もっともそれは遥かな遠い未来の理想でしょう。

 

この作品を読んで、子どもがそれぞれに何を思うかは各自の自由であり、いつそれが芽を吹くかも各自の資質によります。

私たち大人ができることは、想像力の種となる物語を、できる限り多くの良質な物語を与えることです。

 

さっちゃんを他人だと思わない心、それはあるいは自分だったかもしれないという想像力。

まずはその想像力を養うことが肝要です。

 

大人になってから改めてこの絵本を読み返した時、私は自然と息子が生まれる時のことを思い出しました。

何もいらない、とにかく健康な身体で生まれて欲しい。

それしか願わなかった時のことを思い返し、さっちゃんの両親の痛みが、強さが、初めて理解できました。

 

あの時私の心に撒かれた物語は、何十年を経て、やっと芽を吹いたのでしょう。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ラストの清々しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「またもりへ」【252冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「またもりへ」です。

作・絵:マリー・ホール・エッツ

訳:まさきるりこ

出版社:福音館書店

発行日:1969年3月1日

 

タイトルと表紙絵を見れば気づかれる方も多いでしょう。

これはあのマリー・ホール・エッツさんの代表作「もりのなか」の続編にあたる作品です。

 

≫絵本の紹介「もりのなか」

 

モノクロで変化のないアングル。

鬱蒼と茂る木々の描写がやけに心に残るところは、前作「もりのなか」と同様です。

 

ただ、続編とは言っても、この「またもりへ」(原題・ANOTHER DAY)は、前作ほどに謎めいた構造をしてはいません。

割とわかりやすいテーマを描いており、この2作品はシリーズでありながら別ジャンルの絵本であると思われます。

 

冒頭の献辞に「ラヴィニアのもりで いつもあそんでいた おとこのこ」という文があります。

ラヴィニアの森というのはエッツさんが病気の夫の最期を看取ったシカゴ郊外の森です。

これによって前作「もりのなか」の舞台もラヴィニアの森であることが推測されます。

 

主人公の男の子が森へ入っていくシーンから始まる点は「もりのなか」と同じです。

テキストにはありませんが、前回と同様の紙の帽子とラッパを身に付けています。

これは「森」という神秘と幻想の世界へ旅立つ際の装備であろうと解釈できます。

 

森では「どうぶつたちが、ぼくを まっていました

彼らはそれぞれの得意なことを披露しあい、誰が一番いいかを会議していたのでした。

居並ぶのはぞう、きりん、らいおん、二匹のさるとくま、かば、あひる、ねずみとへび、おうむ。

前作から引き続き登場している動物もいるし、今回は出てこない動物もいます。

これについては後で触れます。

 

さて、動物たちは交互に腕比べをします。

逆立ちしたり、ピーナッツを放って口で受け止めたり、大声を上げたり、素早く走り回ったり。

最後に男の子が逆立ちして鼻でピーナッツをつまもうとしましたが、おかしくなって笑ってしまいます。

するとぞうが、

これが、いちばん いい! ほかの だれにも、これは できないからねえ。とりも けものも、もりの どうぶつは、だれも わらえないのだもの

と言います。

 

動物たちは男の子に花輪をかぶせ、森の中を行進します。

やがてお父さんの声がして、動物たちは姿を消します。

そう、先日の記事でも登場したあの素敵なお父さんです。

 

≫「絵本に登場するお父さんたち」

 

今回もお父さんは男の子を日常へ連れ帰るのですが、またいい感じのセリフを残します。

おとうさんだって、ほかに なにも できなくても いいから、おまえのように わらってみたいよ

 

★      ★      ★

 

「もりのなか」で一際印象的だった、物言わぬコウノトリとうさぎが出てきません。

このうさぎは、エッツさんの知り合いで、彼女がいつも気にかけていた障害を持った男の子がモデルであろうと推測されています。

 

うさぎとコウノトリは、ただでさえ不思議な「もりのなか」をさらに謎めいたものにしていますが、今回彼らが登場しないことが、この「またもりへ」の「人間と笑い」というテーマをわかりやすくしています。

 

また、前回との比較として、最後のお父さんと男の子が去って行くシーンにねずみとへびが描かれており、男の子に贈られた花輪は消滅せずにお父さんの手に持たれています。

これらから、「もりのなか」では、動物たちは完全に男の子の空想世界の住人であったのに対し、「またもりへ」での動物たちとのやり取りはより現実世界に近いものとして描かれていると考えられます。

 

ところで、エッツさんと言えば絵本界の大御所だと私は認識していましたが、実は本国アメリカよりも日本でのほうが知名度が高いようです。

それは「こどものとも」の編集長を務めた松居直さんが、エッツさんの作品に惚れ込み、特に「もりのなか」を推しまくった影響が強いでしょう。

 

松居さんが日本絵本界に残した貢献は数知れませんが、エッツさんという稀代の作家を広く知らしめたことは、その業績の中でも大きいものだと思います。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

やっぱりお父さんが素敵度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「またもりへ

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地震のこと

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

昨日の地震にはびっくりしましたね。

大阪に住んでいる身としては、ずっと大地震が起こる起こると聞かされているので、揺れを感じた時には反射的に「ついに来たか?」と思ってしまいました。

 

私は出先でしたが無事で、家もお店(事務所)も特に被害は受けませんでした。

皆様は大丈夫でしたでしょうか。

被害に遭われた方には心よりお見舞い申し上げます。

 

倒れてきた本棚の下敷きになって亡くなった方もいるそうで、家でも仕事先でも本の多い自分としては他人事ではありません。

一応、我が家では妻が防災に備えて家具のほとんどは固定しているし、いくら本が増えても本棚を高くすることは避けています。

「壁一面の本」には憧れますけど、やっぱりあれは危ないですから……。

 

大きな震災はこれまで何度か経験していますが、昔より今の方が地震を怖いと感じます。

やっぱり、子どもが生まれてからですね。

 

 

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【絵本の紹介】ガルドン「あかずきんちゃん」【251冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は最も有名なグリム童話「赤ずきん」を取り上げます。

様々な作家が絵本化しており、その数はたぶん昔話絵本としても最多クラスでしょう。

 

それらはそれぞれに個性的で、読み比べると非常に面白いのですが、その中から一冊だけを紹介するのは難しいものです。

ですので、いずれまた別の「赤ずきん」を紹介することもあるでしょうけど、今回はポール・ガルドンさんによる割とオーソドックスな「あかずきんちゃん」を持ってきました。

作・絵:ポール・ガルドン

訳:湯浅フミエ

出版社:ほるぷ出版

発行日:1976年4月20日

 

オーソドックス、というのはグリム童話に忠実であり、絵の表現もテキスト内容を過不足なく説明しているという意味です。

しかし、実のところ「赤ずきん」はグリム兄弟のオリジナル作品ではありません。

そのあたりの事情を含め、「赤ずきん」という物語そのものについては後で触れるとして、まずはこの絵本の内容をざっと追ってみましょう。

 

昔々、あるところに小さな女の子が住んでいました。

とても可愛い子で、誰もが一目で好きになるほどでした。

とりわけこの子を可愛がっていたおばあさんがくれた赤い素敵なマントをいつも着ていたので、女の子は「あかずきんちゃん」と呼ばれるようになりました。

ある時、あかずきんちゃんは病気のおばあさんのお見舞いに、お菓子と葡萄酒を持って行くようにお母さんに言われました。

お母さんは道草を食わないように言い含め、娘を見送ります。

 

おばあさんのうちへ向かう森の中で、あかずきんちゃんは狼に会います。

あかずきんちゃんは無警戒に狼と会話します。

狼はあかずきんちゃんをそそのかし、道草を食わせている間におばあさんの家に先回りします。

そして、おばあさんを丸呑みにして、自分はおばあさんに変装してベッドに潜り込み、あかずきんちゃんを待ち伏せます。

 

遅れてやってきたあかずきんちゃんは、妙な胸騒ぎを覚えつつ、ベッドの中の狼と話します。

あら おばあさんのおみみ なんて おおきいんでしょう

おまえの かわいいこえが よく きこえるようにね

まあ おおきな おめめだこと

かわいいおまえが よく みえるようにね

おくちも ずいぶん おおきいのねえ

おまえを ひとくちに たべちゃうためさ!

 

というわけで、あかずきんちゃんは狼に呑まれてしまいます。

その後、狼が昼寝しているところへ、たまたま猟師が通りかかります。

 

猟師はベッドに寝ている狼を見て、おばあさんが食べられているかもしれないと思い、狼のお腹を切り裂きます。

すると、あかずきんちゃんとおばあさんが飛び出してきました。

 

あかずきんちゃんは大きな石を集めてきて、それを狼のお腹に詰めます。

目を覚ました狼は石の重みで倒れ、死んでしまいます。

 

おばあさんはお菓子と葡萄酒で元気になり、あかずきんちゃんはもう二度と言いつけに背いて道草を食ったりしないと心に誓うのでした。

 

★      ★      ★

 

作者のガルドンさんはアメリカで200冊以上の絵本を手掛けた作家です。

鮮やかな色彩と軽やかな線を用い、明るい印象の「赤ずきん」となっています。

 

これは私たちにとって最もなじみ深いグリム版「赤ずきん」ですが、グリム兄弟に先駆けること100年前にシャルル・ペローが「赤ずきん」の物語を書いています。

その内容は、赤ずきんが狼に食われたままで終わるバッド・エンドで、最後に「若い娘が見知らぬ人間の話に耳を貸すことの危険」についての教訓が添えられています。

 

ペロー版では赤ずきんが狼に言われるままに服を脱ぎ、ベッドに入るというエロティックな描写まであります。

割と露骨に「狼=若い娘を誘惑する不埒な男」という図式が示されているわけです。

 

グリムはこのあたりを改変し、子ども向けの童話に仕立てましたが、最後にはやっぱり説教臭い「教訓」が残っており、これはペロー版の名残りでしょう。

 

しかしグリム版も、フェミニズムの観点から非常に多くの「問題点」を指摘されています。

まあ、主人公が美少女で、なおかつ「ちょっとバカ」というだけでも、現代の女性から反発される要素は十分です。

しかも、彼女を助け出すのは結局男性である猟師で、赤ずきんの母親もおばあさんも無力なあたり、やはり当時の女性観はその程度であったと言えるかもしれません。

 

が、実はペロー版「赤ずきん」も、さらに元をたどれば民間の口承に残された昔話から作られていることがわかっています。

そちらにはもっとえげつないカニバリズム表現などもあり、しかし反面、主人公の少女は自力で狼から逃げ出します。

そして驚くことには主人公の女の子は「赤ずきん」をかぶっていないのです。

つまり、昔話絵本界のファッションリーダーのシンボルであるあの赤マントは、ペローによる創作だったのですね。

 

かように、昔話というものは時代の要請ともにどんどん形を変えて行きます。

それ自体は自然なことだと思いますが、一方で改変前の物語を子どもに見せることが「悪い」とまでは私は考えていません。

 

それぞれの時代には偏見と不自由があり、現代から見れば首を傾げたくなるような表現もあるでしょう。

しかし、それらから子どもを遠ざけるよりも、偏らない、多数の物語を与えてやることのほうが、結果として自由で幅広い視野が得られると思うからです。

 

いずれにせよ、「赤ずきん」の物語で、子どもたちが最も喜ぶシーンはおばあさんに扮した狼と赤ずきんのスリリングな掛け合いにあることは明らかです。

最後の蛇足じみた教訓など、忘れてしまっている子どもがほとんどではないでしょうか。

現に私は忘れていました。

 

また機会を見つけて、他の絵本作家による「赤ずきん」も紹介したいと思います。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

美少女度:☆☆☆

 

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