【絵本の紹介】「おばけリンゴ」【272冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年の夏は酷暑が続いたり、大雨や台風や地震の被害もあって、農家の人々も大変だったと思いますが、そろそろ実りの秋ということで、こんな絵本はどうでしょうか。

おばけリンゴ」です。

作・絵:ヤーノシュ

訳:矢川澄子

出版社:福音館書店

発行日:1969年3月31日

 

作者のヤーノシュさんは1931年ポーランド(当時はドイツ領)の工業都市に生まれます。

錠前屋とか織物学校とかを転々とした後、ほとんど独学でデザインを学び、1960年に初めての絵本「うまのヴァレクのはなし」で絵本作家デビューします。

 

200冊を超える作品を発表し、ドイツ児童文学会では最も成功した作家と言われています。

が、実は美術学校を「才能がない」という理由で中退しているのですね。

 

絵本の絵というものは一見子どもが描いたようなラフなタッチのものも多く、この「おばけリンゴ」に代表されるヤーノシュさんのイラストも、「へた」と取られることもあるのかもしれません。

しかし、この表紙の主人公の表情など、じっと見ていると何とも言えない深い味があります。

 

また、ヤーノシュさんの作る物語はユーモラスで可愛らしい中に、どこか「大人の寂しさ」を感じさせる部分があり、そこが魅力にもなっています。

大人でも、つい引き込まれてしまう人も多いのではないでしょうか。

 

さて、内容を見て行きましょう。

主人公はワルターという名のヒゲの男。

貧乏ですが、リンゴの木を一本持っています。

ところが、この木はまだ一つも実が生ったことも花が咲いたこともないのでした。

 

ワルターはベッドで悲しみに暮れながら、心を込めて祈ります。

ひとつで いいから、うちのきにも リンゴが なりますように

すると、その小さな願いは叶えられ、ワルターの木に花が一つ咲きます。

ワルターは喜び、その花を大切に守ります。

花の成長を見守るワルターは幸せで、生き生きとしてきます。

 

ついにリンゴの実が生り、大きく育ちます。

が、ここでワルターにちょっとした欲が芽生えます。

リンゴが日増しに大きくなるので、取り入れを先送りし続けるのです。

 

そうするうちに、リンゴは化け物みたいな大きさになってしまいます。

そうなると、ワルターはこれを誰かに取られないかと心配になり、リンゴの番をするようになります。

やっとリンゴを市場に売りに行く気になったワルターでしたが、おばけリンゴは汽車にも積めず、背負って歩くことに。

おまけにあまりに常識外れの大きさのおばけリンゴは、買い手もつかないのでした。

ワルターは落ち込みます。

 

一方このころ、この国を脅かす一匹のリュウがいました。

国じゅうの作物を食い荒らすリュウを退治するか、贈り物で大人しくさせるか、王様が秘密警察(マフィアにしか見えない)に命じます。

 

秘密警察(マフィアにしか見えない)たちは、ワルターのおばけリンゴを思い出し、それをリュウに差し出すことにします。

リュウはおばけリンゴに猛然とかぶりつき、そしてリンゴをのどに詰まらせてあっけなく死んでしまいます。

国に平和が戻り、そしてワルターも悩みが解消されて元気を取り戻します。

そして今度からは「ふたつで いいから」、かごに入るくらいの小さなリンゴが生るようにと祈るのでした。

 

★      ★      ★

 

リンゴが生ってあんなに喜んでいたワルターが実はリンゴが嫌いだったとか、やたら悪そうな王様とか、あまりにも情けない竜とか、後半の超展開は突っ込みどころ満載で、笑っていいのやらなんやらわからなくなりますが、ワルターの心情の変化は、人間の欲望や期待について普遍的な真理を衝いています。

 

願いというものは叶いつつある時が最も幸せで、実際に叶ってしまうと何故か不幸になってしまったり。

また、何も持っていなかった時のワルターの願いは純粋でささやかなものだったのが、手に余るものを持ってしまってからは打算的な欲に変わり、そして持つことによって不安や心配まで抱え込んだり。

 

人間の幸福とは何ぞや、と、都会を離れて創作活動を続けた作者は問うているような気がします。

ヤーノシュさんの作品に漂う寂しさは、彼自身の人生に関係しているのかもしれません。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

リュウの恐ろしさ度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おばけリンゴ

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【絵本の紹介】「どうぞのいす」【271冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「どうぞのいす」です。

作:香山美子

絵:柿本幸造

出版社:ひさかたチャイルド

発行日:1981年11月

 

香山さんと柿本さんのタッグ作品では、以前に「ヒッコリーのきのみ」を取り上げたことがあります。

 

≫絵本の紹介「ヒッコリーのきのみ」

 

この「どうぞのいす」は、「交換と贈与」をテーマにした人気絵本。

テンポのいい繰り返し展開が読者を飽きさせず、柿本さんのふんわりとしたタッチと温かい色使いの力もあって、優しい思いやりの気持ちが自然と心に染み入るような素敵な物語になっています。

 

うさぎさんがDIYで椅子を作ります。

この椅子をどこに置こうかと考えたうさぎさんは、大きな木の近くに、「どうぞのいす」と書いた立札と一緒に置きます。

つまり、誰でも座って休める公共物として社会に寄付したのです。

はじめにやってきたろばさんは、どんぐりでいっぱいのかごを椅子に置いて、自分は木陰で昼寝。

 

するとそこにくまさんが来て、どんぐりの乗った「どうぞのいす」を見ます。

これは ごちそうさま。どうぞならば えんりょなく いただきましょう

勘違いしたくまさんはろばさんのどんぐりを全部食べてしまいます。

しかしここでくまさんは、

からっぽに してしまっては あとの ひとに おきのどく

と、代わりにハチミツの瓶をかごにいれて行きます。

 

後にはきつねさんがやってきて、ハチミツをなめて、代わりに持っていたパンを。

その次にやってきた十匹のりすさんたちは、パンを食べ、代わりに栗を置いて行きます。

こんな風に次々と物々交換が繰り返され、ろばさんが目を覚ました時には、どんぐりの代わりにたくさんの栗が、椅子の上のかごに置かれていたのでした。

 

★      ★      ★

 

我が家の5歳の息子は一人っ子。

幼稚園にも行かず、社会経験は皆無に等しいです。

 

家の中では好きなようにやらせてますので、「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」なジャイアニズム。

でも、本来子どもとはそんなもの。

 

私は倫理や道徳を、外的に押し付けないように子どもと接しています。

しかしそれでは、人間を人間たらしめている「どうぞ」の精神を学ぶ機会などないかのように思われるかもしれません。

 

子ども(あとのひと)に対し、大人が「どうぞ」と言い続けると、子どもの人格が曲がってしまうと信じる人たちが大勢います。

しかし、私は見てみたいのです。

本当に心からの「どうぞ」を与えられ続けた子どもが、どう成長するのかを。

 

本心から「どうぞ」と言うためには、「私は十分に満たされている」と思えなければなりません。

だから、「あとのひと」に対し、「私はもういいから、どうぞ」という言葉が出てくるのです。

 

世の中を見ていると、十分に満たされていない子どもたちが、大人からの押しつけによって「どうぞ」と言わされているような光景を度々目にします。

 

子どもたちに「どうぞ」と言わせたければ、まずは子どもたちを完全に満たしてやらなければならないはずです。

それは物やお金ではなく、健全な愛情によってという意味です。

 

そうすることで初めて人間は、「自分には与えられたものを『あとのひと』に贈る義務がある」と感じるのです。

 

そして、この絵本のように楽しく美しい(教訓臭くない)物語を与えてやることも、子どもたちの自然な倫理観を育成する重要な手段だと思います。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

つぶらな瞳度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「どうぞのいす

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【絵本の紹介】「ベンジャミン・バニーのおはなし」【270冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は世界で一番愛されているうさぎ「ピーターラビット」シリーズより、「ベンジャミン・バニーのおはなし」を紹介します。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1971年11月1日

 

このシリーズは私も個人的に大好きでして、全作品を取り上げたい気持ちなのですが、こればっかりやるわけにもいかず、いつになるやら。

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

≫絵本の紹介「パイがふたつあったおはなし」

 

さて、「ピーターラビットの絵本」は、同じ世界を舞台にした様々なキャラクターの活躍を描くシリーズです。

「ピーターラビットの」とタイトルは付けられていても、ピーターが登場しない作品のほうが多いです。

 

しかし、意外なところでキャラクター同士の繋がりがあったり、ストーリーには絡まなくてもイラストのみに登場するキャラクターがいたり。

こういう群像劇っぽいシリーズは、絵本では珍しいような気がします。

 

この「ベンジャミン・バニーのおはなし」は、シリーズ2作目にあたり、唯一前回からの流れを引き継いで展開される物語になっています。

つまり、「ピーターラビットのおはなし」で、マグレガーさんの畑に侵入したピーターが散々な目に遭い、靴も上着もなくして逃げ帰ってきた後のお話です。

ベンジャミン・バニーはピーターのいとこ。

ピーターのお母さんの兄の息子にあたります。

 

ほっぷ・すきっぷ・あんどじゃんぷ」をしながら登場。

ベンジャミンはおばさんであるピーターの母親は苦手のようですが、ピーターとは仲良し。

 

元気なく赤い木綿のハンカチにくるまっているピーターから、先日の災難について聞き出します。

ベンジャミンは、マグレガーさんたちが馬車で出かけている隙にピーターの服を取り返しに行こうと考えます。

 

二人は連れ立ってマグレガーさんの畑に侵入します。

かかしに着せられていたピーターの上着と靴はすぐに回収できました。

すっかり怯えていて、終始そわそわしているピーターに対し、ひどい目に遭ったことないベンジャミンは怖いもの知らずといった様子で、畑から玉ねぎを失敬し、おみやげにしようとしたり、レタスをつまみ食いしたりします。

 

そしてゆうゆうと帰ろうとした時、二人はマグレガーさんの猫に遭遇してしまいます。

ベンジャミンはとっさに自分とピーターに大きなかごをかぶせ、隠れます。

 

ところが猫が近づいてきて、そのかごの上に乗って昼寝を始めてしまいます(5時間も!)

 

ここで救世主のごとく登場するのが、ベンジャミン・バニーのお父さん。

その名もベンジャミン・バニー氏。

 

くわえパイプに、手には短い鞭を持ち、猫などまったく問題にしない堂々たる態度でやってくると、いきなり猫に飛びかかって温室に蹴り込んで戸に鍵をかけて閉じ込めてしまいます。

ベンジャミンたちはかごから助け出されますが、ベンジャミン・バニー氏に鞭でお尻をぶたれてしまいます。

絵を見ると、ピーターも一緒にぶたれています。

 

二人はお尻を押さえて泣きながら、ベンジャミン・バニー氏はたまねぎの入ったハンケチを持ってゆうゆうと、マグレガーさんの畑を後にします。

 

ピーターのお母さんは、ピーターが上着と靴を取り戻してきたことを喜び、ピーターは叱られずに済みます。

 

★      ★      ★

 

ピーターもベンジャミンも、作者のポターさんが飼っていたうさぎの名前です。

ことに、ポターさんは「興奮しやすく、快活で、愚かしく見えるほどに人懐こくてセンチメンタルで、見下げ果てた臆病者」と日記に評してあるベンジャミンを可愛がっていたようです。

本物のベンジャミン・バニーについては、ポターさんの日記上に愉快なエピソードがいくつも残されています。

 

そして、頼もしくも恐ろしい父親ベンジャミン・バニー氏ですが、息子たちが成人した後のエピソード「キツネどんのおはなし」では、息子の嫁に叱られる子どもっぽいおじいちゃんになってしまいます。

そのあたりの変化も、シリーズ通しての発見の楽しみです。

 

イラストの美しさは言うに及ばず、テキストにおいても相変わらずポターさんの筆は冴えわたっており、必要なこと以外は何も語りません。

その一方で、前回は描かれなかったピーター一家の暮らしぶりなどが描かれ、ピーターのお母さんが「うさぎの毛の手ぶくろ」や「そで口かざり」を編んだり、せんじ薬や「うさぎたばこ」(ラベンダーのこと)を売ったりして生計を立てていることなどがわかります。

 

そこでさらりと「わたしも、まえに、ばざーで、ひとくみ かったことがあります」とポターさんは言うのです。

こんなふうに、このシリーズでは時折作者自身が作中に登場します。

 

このたった一言で、この世界は単なる空想ではないことが読者に伝わります。

ポターさんは「現実に」ピーターたちと会って、関りを持っているのです。

マグレガーさんからは追いかけ回され、パイにされてしまいそうになるうさぎたちは、一方で人間相手に商売をしているのです。

 

この一文に、大人は戸惑い、子どもたちはワクワクさせられるのです。

ポターさんの絵本の凄みは、このようなさりげない一文にも秘められているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ベンジャミン・バニー氏無双度:☆☆☆☆☆

 

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絵本読み聞かせ育児・5歳まで

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

息子が5歳になりました。

「もう」5歳、「まだ」5歳、どちらの気持ちも等しくあります。

「自由な子ども」「主体的に生きることのできる子ども」を育てることを目指して5年間。

「いつでも、何冊でも、何度繰り返しても」の読み聞かせ、素直な欲求を可能な限り満たしてやること、交換条件を出さないこと、行動を惜しまないこと……。

 

私たちの育児がどういうものかは、過去記事を読んでいただければと思います。

≫3歳までに絵本を1000冊読み聞かせたら

≫絵本の海を泳ぐように。【4歳までの読み聞かせ育児レポート】

 

正直なところ、肉体的にも精神的にもハードな5年間でした。

妻は長い間産後うつに悩まされ、私は甲状腺の病気にかかり。

≫「逃げるは恥だが・・・」【産後うつの対処法】

振り返ってみると、我ながらよくやったなーと思います。

もちろん親としては未熟でしたが、自分にやれる限界に近いところまではやったと言えます。

私の人生において、最も悔いのない5年間でした。

そんな風に思わせてくれた息子には感謝しかありません。

 

過去記事を読み返してみると、子どもに対する考え方は今とほとんど変わっていません。

ただ、息子が3歳くらいの頃にはどこか肩に力が入ってるな、と自分の書いたものを見て思います。

あの当時は、自分たちの育児を、他の誰かにも奨めたいという気持ちが強かったのでしょう。

 

しかし、今では私たちの育児のやり方を、他の人にも奨めようという気はすっかり薄れました。

だって、相当しんどいですから。

親が無理をして倒れたら元も子もないです。

ただ「こんなやり方もあるよ」と示すことができればそれで充分だという気になりました。

 

そして、この5年で、息子の成長に対する焦りや不安といったものはほぼなくなりました。

今まではやっぱり「本当にこれでいいんだろうか」という気持ちが常にあって、そのために肩に力も入ってたんだと思います。

もちろん今でも心配事はありますけど、息子を見ていると「これでいいんだ」と信じられるようになってきたのです。

 

さて、相変わらず絵本の読み聞かせは続けてはいるのですが、実は最近はめっきり回数が減りました。

求めてこないからです。

 

今は一人で図鑑を見ていることのほうが多いです。

ちょっと前に恐竜にはまって、ずいぶんと詳しくなりました。

それに宇宙関係ですね。

ついていけません。

 

あと、絵本よりも漫画を好むようになりました。

ドラえもん」だけですけど。

ちょっと早いかなとは思ったんですけど、バカ受けでした。さすが名作。

まあ、しずちゃんのセクハラ問題とか、ジャイアンの暴力描写とか、気にし出したらきりないですけどね。

 

その影響か、最近描く絵が漫画になってます。

セリフとか擬音とか集中線とか。

やるなーと思うのは、漢字を使うべきところは漢字で書くところ。

「わからないからひらがなで書いとこう」とはならず、本を引っ張り出してきて調べて書いてます。

 

ちなみに、アニメのドラえもんは見ておりません。

この年で漫画版しか知らないというのは、ちょっと珍しいかもしれませんね。

 

テレビも、今はある程度見せてます。

全部録画かDVDで、息子が気が向いた時だけ見ます。

 

番組は「ピタゴラスイッチ」と「ダーウィンが来た」だけ。

DVDは「チャギントン」とか「Caillou」とか「Super WHY!」とかのアニメを英語音声で見てます。

 

絵本からはちょっと遠ざかってしまった感がありますけど、その代わりに今は字の多い児童書を「読んで」と言ってくるようになりました。

私も子どもの頃大好きだった「エルマーのぼうけん」3作品、「ルドルフとイッパイアッテナ」、「ぼくは王さま」シリーズ。

山下明生さんの「ジャカスカ号で大西洋で」、酒井駒子さんが新たに挿絵を描いた傑作童話「きかんぼのちいちゃいいもうと」シリーズ(これ、かなり好きです。私が)。

 

こういうのは読みだすと1時間以上かかることもあって(息子が寝るか「続きは今度」で納得してくれるまで)、こちらとしては疲れはしますが、割と楽しいです。

 

情緒的にも、だいぶ落ち着いてきたのですが、依然として幼稚園には行ってないせいか、知らない人の前に出るとむっつりとしていることが多いです。

たまに(ほんとに年に数回)実家に連れて行ったり、よそ様のお宅へお邪魔した時とかには内心「なんか賢いところ見せてくれんかな」などと親バカ丸出しで念を送っているのですが、そういう時はほんとにただのわがままな幼児になり、恥をかくだけです。

家で見せる知性の輝きなど、欠片もありません。

いいけどさあ……。

 

お隣の韓国で、同じように幼い頃から大量の絵本を読み聞かせて育った子がいて、私たちも大いに参考にしているのですが、その子が本当にその英才ぶりを発揮し出したのは小学校高学年くらいからだそうです。

 

≫読み聞かせという英才教育

 

その子は言語能力や科学知識はずば抜けているはずなのに、小学校に入った当初は全然成績も良くなかったそうです(それでも母親は一切小言を言わなかったし、「勉強しなさい」とも言わなかったところが素晴らしい)。

ただ、やはり理解力が桁違いなので、一度勉強の仕方を身に付けると、常に成績はトップ。

本人は塾にも通わず、遊んでばかりなので、周囲から不思議に思われていたそうな。

 

そんな話を知っているので、私も息子の成長に関しては気長に構えていますが、日常の何気ない言葉や振る舞いから、「おっ」と思わされることも増えており、それで充分満足しております。

些細な事ですけど、息子が「ごめんね」と口にするようになったことが嬉しいです。

何故って、私は今まで息子が何か悪さをしたりしても「謝りなさい」と言うことを自制していたからです。

 

つまり、息子は強制されたり、叱られるから仕方なくではなく、ごく自然に「あ、ごめん」と言えるようになったのです。

普段から私や妻が口にする言葉を真似ることがあっても、どういうわけか「ごめん」とは言おうとしなかったのに。

 

真似て欲しくないことはすぐに真似るけど、真似て欲しいことは真似るまでに時間を要する」というのは真理です。

 

これからも、焦ることなく、息子の成長を見守り続けたいと思います。

そして、もしこれから子どもたちに読み聞かせ育児をしようと考えてらっしゃる方がいれば、

大変だけど、その価値はある」こと、そして「無理をせず、子どもも親も楽しめればそれでいい」ことを伝えたいと思っています。

 

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【絵本の紹介】「ちいさいおうち」【269冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

おかげさまで当店もオープン2周年。このブログも2周年。

というわけで、気持ちを新たに、絵本界における歴史的名作を紹介しましょう。

ちいさいおうち」です。

作・絵:バージニア・リー・バートン

訳:石井桃子

出版社:岩波書店

発行日:1965年12月10日

 

1943年度のコールデコット賞受賞作品であるというに留まらず、現在でも「ベスト絵本」企画などでは必ずと言っていいほど上位にランクインし続ける本物のロングセラー。

作者はご存知、巨匠バージニア・リー・バートンさん。

 

当ブログで何度もバートンさんの作品を取り上げておきながら「まだやってなかったの?」と言われそうなくらい有名な代表作です。

綺麗な色彩の表紙絵が目を引きます。

主人公である「ちいさいおうち」を取り囲み、裏表紙にも描かれているのはひなぎくの花。

バートンさんはこの花が大好きだったそうです。

 

以前の記事でも取り上げていますが、バートンさんは1909年のアメリカに生まれました。

彼女の絵本の特徴というか背骨である観察力・分析力、それに巨大なスケールの知性は著名な科学者である父から、歌うようなリズムのある文体、ミュージカルのような躍動感のある人物描写は詩人で音楽家の母から受け継いだものでしょう。

 

さらに、彫刻家の夫からは、肉体の一瞬の動きを捉えて描く技術を学んだといいます。

しかし何と言っても彼女の絵本作りに大きな影響を与えたのは、彼女の息子たちでしょう。

 

バートンさんは絵本の原稿を必ず息子たちに読み聞かせながら推敲したのです。

子どもの絵本を見る目の確かさを、バートンさんは誰よりも信頼していたのでしょう。

 

しかしその一方で、バートンさんはけっして子どものための娯楽には収まらない文化にまで絵本を昇華させています。

彼女の作品にはどこかに「古き良き時代」のアメリカを偲び、文明に対する警鐘とも取れるテーマが含まれています。

 

この「ちいさいおうち」は、アメリカの文明の歴史を早回しで見ることのできる、記録映画的構造をしています。

「ちいさいおうち」を中心に据えた構図を固定し、その周囲で目まぐるしく時が流れます。

静かな田舎町で、自然に囲まれ、季節の移り変わりとともに過ごすちいさいおうち。

住んでいるのは農民の一家。

 

ちいさいおうちは満ち足りてはいますが、「まちって、どんなところだろう」と、遠くに見える灯りを見ながら憧れのように思うこともありました。

 

やがて時間は流れ、ちいさいおうちを取り囲む環境は一変します。

トラックやスチームローラーが続々とやってきて、道路を舗装し、畑をつぶし、高い建物を建設します。

(ここで、「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」のメアリ・アンが友情出演しています。あまりいい役ではないですけど)。

ちいさいおうちは無人の廃墟となり、掃除をしてくれる人すらいなくなってしまいます。

しかしどんなに開発が進んでも、「どんなに おかねをだしても、かうことはできない」という象徴的存在のちいさいおうちは、みすぼらしくなりながらも、そこに在り続けます。

鉄道が通り、高層ビルが建ち、地下鉄が地面の下を走り……。

ちいさいおうちは、もう季節さえわかりません。

都会の真ん中で、打ちひしがれて懐かしい田園に思いを馳せます。

 

しかし、そこにある家族がやってきます。

彼らはこのちいさいおうちを建てた農民の子孫にあたる人々だったのです。

 

彼らはちいさいおうちをそのまま運び、いつかのような静かな田舎の丘へ移されます。

修理され、もとのように綺麗になったちいさいおうちは、もう二度と町へ行きたいとは思わないのでした。

 

★      ★      ★

 

大長編「せいめいのれきし」にも共通する、壮大な時間の流れを描いたドラマ。

じっくり絵を見れば、アメリカの都市化の経過を知ることができます。

 

もちろんバートンさんのことですから、時代に矛盾するような機械や乗り物は登場しません。

バートンさんは、イラストの構図、テキストの位置(テキストの字体)までこだわり抜く職人さんで、その一例が見返し(表紙をめくってすぐのページ)にも表れています。

ここではアメリカの乗り物の発展の歴史をコマ送りのように見ることができます。

 

そうやって見れば、これが記録映画的絵本だと言った意味がわかってもらえると思います。

そして何より、ここに描かれているかつてのアメリカ農民の暮らしぶり、そしてそうした時代への憧れの気持ち、そういったものが確かに存在したことを示す作品でもあります。

 

何年経とうとも読み継がれていくロングセラーの中には、必ず「真実」が含まれています。

それは現実のレベルでの真実であることもあるし、人々の心の中にしかない真実であることもあります。

 

大人は見逃してしまうそうした美しい真実を、子どもはけっして見逃しません。

それを確信しているからこそ、バートンさんは絵本作りに一切の妥協を許さなかったのでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

芸の細かさ度:☆☆☆☆☆

 

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