【絵本の紹介】「もりのかくれんぼう」【280冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は秋に読みたいしかけ絵本を紹介します。

もりのかくれんぼう」です。

作:末吉曉子

絵:林明子

出版社:偕成社

発行日:1978年11月

 

見事に金色に染まった森の絵が美しいですね。

実はすでにここから仕掛けは始まっています。

気づきましたか?

 

かくれんぼが好きな少女「けいこ」は、お兄ちゃんといっしょに公園から帰る途中、生垣の下をくぐり抜けます。

すると、突然見たこともないような大きな森の中に出てしまいます。

きんいろに けむったような あきのもり」をひとりぼっちで歩いていると、歌が聞こえてきます。

驚いて辺りを見回しても、誰もいません。

すると声が、

あはは、みえなきゃ さかだちしてごらん

 

けいこが足の間から覗いてみると、今まで見えなかった男の子の姿が見つかります。

おいらは もりの かくれんぼう

 

ここで読者も絵本を逆さにしてみると、ほんとに木の枝や葉っぱに溶け込むようにして見えなかった男の子の姿を発見できるはず。

そう、これは巧妙な「隠し絵」絵本なんです。

かくれんぼう」と名乗った男の子は、けいこをかくれんぼ遊びに誘います。

森の動物たちも集まってきて、みんなでかくれんぼ。

 

読者はけいこといっしょに、絵の中に隠れた動物たちを探します。

これまでも探し絵絵本としては「きんぎょがにげた」「うずらちゃんのかくれんぼ」を紹介しましたが、難易度はさらに上がっており、大人も一緒に楽しむことができます。

 

≫絵本の紹介「きんぎょがにげた」

≫絵本の紹介「うずらちゃんのかくれんぼ」

 

全員見つけると、今度はけいこが隠れる番。

息を殺して、じっと茂みの中に身を潜めていると、お兄ちゃんが歌いながらけいこを迎えに来ます。

 

顔を上げると、そこは夕日に染まったけいこたちの団地の敷地の中。

森も、動物たちも、かくれんぼうも、どこかに消えていました。

不思議に思ってけいこがお兄ちゃんに「ここ、もりじゃなかったの?」と訊くと、お兄ちゃんはこの団地ができる前は、ここは大きな森だったんだと教えます。

 

けいこは、まだどこかにかくれんぼうが隠れているような気がして、辺りを見回すのでした。

 

★      ★      ★

 

林さんの絵の上手さは今さら言うまでもないんですが、今回は隠し絵。

ほんとに何でも描けるんですね、この人。

 

そう言えば林さんは「10までかぞえられるこやぎ」では、筋とは無関係に絵の中に人の横顔の隠し絵をこっそり入れるという遊びをしていて、あっちはさらに難しく、そもそも隠し絵があることにすら気づかないような、ほんとの隠し要素になっていました。

 

たまに公園で息子とかくれんぼをやりますが、あれはなかなか頭を使う遊びですね。

それに、じっと気配を殺している時の、あの何とも言えない不思議な感じも、ずっと忘れていました。

 

子どもの遊びは押しなべて人間能力の開発に通じるものですが、「かくれんぼ」が涵養するのは「見えないものを見る」能力なのかもしれません。

 

この作品が描かれたのは今からちょうど40年前、経済成長とともに人口が増え、次々と団地が建設されていた頃です。

子どもたちの遊び場も、今よりは多かったでしょうが次第に減って行き、山や森も潰されていったのでしょう。

ラストシーンに漂うちょっとした秋の寂寥感は、楽しさいっぱいだったかくれんぼ遊びが終わる時にふと感じる寂しさに似ています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

探し絵難易度:☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「もりのかくれんぼう

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「ちいさなねこ」【279冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は絵本界、いや児童文学会の重鎮中の重鎮、石井桃子さんによる絵本を紹介します。

戦後日本の絵本は、様々な方々の尽力と貢献によって発展しました。

 

その中でも船頭的役割を担ったのが、瀬田貞二さんと石井桃子さんだったと思います。

私を含め、今の親の世代で、およそ石井さんのお世話にならなかった人が存在するでしょうか。

 

まだ絵本が子どものおもちゃ程度に認識されていた時代に、石井さんは優れた海外の絵本や児童文学を次々に翻訳されました。

ピーターラビットの絵本」も、「ちいさなうさこちゃん」も、「ちいさいおうち」も、「くまのプーさん」も、石井さんがいなければ私たちにこんなになじみ深いものにはなっていなかったでしょう。

 

それだけ多くの名作の翻訳を手掛けてきた石井さんの創作した絵本が、面白くないわけがありません。

1963年に「こどものとも」で発表して以来、今も子どもたちに読まれ続けている「ちいさなねこ」。

作:石井桃子

絵:横内襄

出版社:福音館書店

発行日:1967年1月20日(こどものとも傑作集)

 

内容は、わりとシンプルで短いものです。

大人が読むと、何の感慨もなしに読み飛ばしてしまうかもしれません。

 

しかし、ここには子どもが夢中になるリアルなストーリー展開と、そして何度でも繰り返したくなる完璧な構成があります。

横内さんの精緻な絵、石井さんの的確な文、それらが絵本の本質部分をしっかりと捉えているからこそ、いくら古くなろうともこの絵本は子どもたちにとって魅力的であり続けるのです。

 

ちいさな ねこ、おおきな へやに ちいさな ねこ

という最初の見開きで、子猫の周囲の余白を効果的に使っています。

 

そして子猫は縁側から庭に下り、外の世界へ向かって走り出します。

おかあさんねこが みていないまに、ひとりで でかけて だいじょうぶかな

石井さんの語りかけるような文により、読者は子猫を心配し、同時に子猫に自身を投影してワクワクします。

子どもに捕まり、通りで自動車に轢かれそうになり……(町並みの古臭さよ)。

ハラハラドキドキの連続。

そして怖いもの知らずの子猫の活躍は痛快の一言。

自分よりずっと大きな犬にも怯みません。

爪で鼻をひっかいて、怒った犬に追いかけられ、木の上に逃げます。

 

そしてここで絶対的存在のおかあさんねこが登場します。

あそんでいる こどもの そばを とおりぬけ、じどうしゃを よけて

と、ここでさりげなく子猫との違いを描いています。

何という安心感でしょう。

 

さらには木の下で大きな犬を追い払う頼もしさ。

いたずらな子猫を有無を言わせず口にくわえ、危なげなく帰宅します。

この子猫可愛い。

 

最後におかあさんねこのおっぱいを飲む子猫の姿を描き、お話は終わります。

このラストシーンがあるからこそ子どもは安心し、子猫の冒険を幸せな気持ちで楽しむことができるのです。

 

★      ★      ★

 

この子猫は、石井さんが昔拾って育てた、怪我をした子猫がモデルになっているそうです。

 

小さな動物が、ちょっとした冒険に出て、そして帰ってくるという話型は、幼児絵本のひとつの王道です。

同じ形式の絵本は「こすずめのぼうけん」や「アンガスとあひる」などがあります。

 

≫絵本の紹介「こすずめのぼうけん」

≫絵本の紹介「アンガスとあひる」

 

この絵本を「親の言うことを聞かずに一人で出かけると、危ない目に遭う」という「教訓」として読み聞かせるのは自由ですが、そうした捉え方ははっきり言って的外れです。

子どもにとって、自分の分身と思える主人公の冒険と活躍、そして最終的に安心できる場所への帰還という物語をたくさん読んでもらうことは、これからの人生にとって非常に重要な力となるのです。

 

2008年に亡くなられた石井さんは、享年なんと101歳。

彼女が生涯を通して子どものために成された仕事の数々を思う時、私は自然と頭が下がってしまうのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

おかあさんねこの貫禄度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ちいさなねこ

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【絵本の紹介】「クマよ」【278冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はアラスカの雄大な自然に生きるクマ(グリズリー)を追いかけ続けた写真家・星野道夫さんによる写真絵本「クマよ」を紹介します。

文・写真:星野道夫

出版社:福音館書店

発行日:1999年10月31日(たくさんのふしぎ傑作集)

 

星野さんは1996年にTV番組の取材のため滞在していたロシアのカムチャッカ半島でヒグマの襲撃に遭い、亡くなりました。

この作品はその後、星野さんの遺稿やメモをもとに作られた最後の写真絵本です。

 

「写真」絵本とは何か、ということについては、このブログでも何度か触れました。

繰り返しになりますが、単に絵の代わりに写真が使われているという問題ではなく、私はそこに物語が読めるかどうかがポイントだと考えています。

 

そういう意味で、「クマよ」は突出した物語性を持つ傑作だと言えます。

私はもう、1ページ目からただごとじゃない衝撃を受けてしまいました。

いつか おまえに 会いたかった

 

この一文と、クマのアップだけで、作者の内奥から抑えようもなく湧き上がってくる想いが伝わり、圧倒されます。

テキストは全編通して、作者のクマに対する呼びかけで構成されています。

 

その文が素晴らしい。

写真家・探検家でありながら、随筆作品も発表されているのも頷けます。

魂を揺さぶるような詩です。

 

遠い 子どもの日 おまえは ものがたりの中にいた

ところが あるとき ふしぎな体験をした

町の中で ふと おまえの存在を 感じたんだ

 

気がついたんだ おれたちに 同じ時間が 流れていることに

おれも このまま 草原をかけ おまえの からだに ふれてみたい

けれども おれと おまえは はなれている

はるかな 星のように 遠く はなれている

アラスカの限りなく広がる美しい自然。

そこでの四季の移り変わりとクマたちをファインダー越しに追い続ける作者。

しかしいくらその姿を写真に捉えようとも、決して手の届かぬ存在への身をよじるような憧憬と渇望。

畏敬と畏怖。

 

冬の しずけさに 耳をすます

おまえの すがたは もう見えないが

雪の下に うずくまった いのちの 気配に 耳をすます

 

★      ★      ★

 

日本人にも馴染みの深いクマ。

他の動物に比べ、絵本での登場頻度も多く、その愛らしい姿からマスコットキャラクター化されることも飛び抜けて多いです。

 

その一方で、クマはペットにも家畜にもならず、人間とは一線を引き続けます。

日本でも、毎年クマに襲われて命を落とす人が出ます。

 

そんな近くて遠い野性への焦がれるような思いに突き動かされて、作者はシャッターを切り続けたのでしょう。

 

人間は思考力を手に入れ、自我意識を持ち、自由へと近づきます。

しかしそのことにより、自然から切り離されたような疎外感を感じずにはいられません。

 

人間よりも遥かに強く自然と結びつけられている野性動物を見るとき、その感情はさらに強く私たちを揺さぶります。

芸術家とは、そういう感性を人よりも遥かに強く持ち、そしてそれを外に表現せずにはいられないような人間です。

 

我々はそんな当たり前の事実を忘れ、写真家とは単に写真についての知識を持ち、撮影技術を持っただけの「商売人」のように考えていることがあります。

まあ、現代にはそういう写真家もいるかもしれませんが、少なくともこの作者が「芸術家」であったことは、この作品を読めば容易に理解できるはずです。

 

推奨年齢:10歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

クマへの憧憬度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「しずくのぼうけん」【277冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はポーランドのロングセラー科学絵本「しずくのぼうけん」を紹介します。

作:マリア・テルリコフスカ

絵:ボフダン・ブテンコ

訳:内田莉莎子

出版社:福音館書店

発行日:1969年8月10日

 

しずくから棒状の手足が伸びただけのシンプルなデザイン。

子どもが入って行きやすい絵です。

 

れっきとした科学絵本ではありますが、少しも難しいことは書いていません。

とにかく主人公のしずく(女性)の目まぐるしい冒険にワクワク・ドキドキ、そしてしずくの自由自在な変化が痛快です。

文章はやや長めですが、名翻訳者・内田莉莎子さんによるテンポのいい訳文で一気に読めます。

 

ある すいようびの ことだった むらの おばさんの バケツから ぴしゃんと みずが ひとしずく とびだして ながい たびに でた ひとりぼっちで たびに でた

 

こんな具合に5・7・5調の心地よいリズムが続くんですね。

泥水に混じったり、太陽に照らされて蒸発したり。

雲の上で雨粒になったしずくは、怖い黒雲に再び地面に戻されます。

 

そして今度は寒い夜に氷のかけらに変身。

小川に転げ落ちて水道管に入り、民家へ。

息をつく間もない展開が読者を引き付けて離しません。

何度も状態変化を繰り返し、どんな環境でも生き延びるしずく。

水は不滅なのです。

 

★      ★      ★

 

幼い子どもにとって、水はもっとも身近な自然観察の対象です。

水が蒸発して見えなくなるということを、この絵本は非常にわかりやすい物語の形式で教えてくれます。

 

そこから学べることは、単なる科学知識だけではありません。

目の前にある水は、見えなくなってもちゃんと存在しており、ずっと「旅」を続けているのだという、壮大な物語の想像力を受け取ることができるのです。

 

今、ここにある水は、いつか遠い異国を旅して辿り着いた「しずく」なのかもしれない。

消えてしまっても、見えなくても、必ずいつかは再び大地に戻ってくる。

 

大げさに思われるかもしれませんが、この科学的事実から、人間は「見えないものを見る」力、そして「輪廻転生」の概念をも受け取ることが可能なのです。

 

頭の固い大人たちは、「子どもには実証された科学知識だけを教えるべき」だと思い込みます。

しかし現実には、人間が生命力を得るのは、豊かなイメージの世界からなのです。

「水の不滅性」から、子どもはどれほど力強いイメージを受け取ることでしょう。

それこそが、彼らの長い人生においての真の礎となるのです。

 

正しい自然法則から、美しい想像の世界へ橋を架ける時、科学知識は初めて生命を吹き込まれます。

その崇高な架橋に成功したからこそ、この絵本は世界中で愛され続けているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

しずくのネガティブ思考と立ち直りの早さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「しずくのぼうけん

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【絵本の紹介】「ぼくを探しに」【276冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は「ぼくを探しに」(原題:The Missing piece)を紹介します。

作・絵:シルヴァスタイン

訳:倉橋由美子

出版社:講談社

発行日:1977年4月24日

 

おおきな木」(原題:The Giving Tree)に並ぶ、怪人シェル・シルヴァスタインさんのもう一つの哲学的名作。

≫絵本の紹介「おおきな木」

 

サインペン一本で描く手法は「おおきな木」と同様ですが、今作はさらにシンプルさの極致のような絵になっています。

主人公は円形に口と点の目がついた、何だかわからないモノ。

 

彼が「何かが足りない」「それでぼくは楽しくない」、そこで「足りないかけらを探しに行く」物語です。

この「ぼく」の移動方法は転がること。

大地の上をずんずん進み、雨や雪、草藪や坂道を乗り越え、花の香りを嗅ぎ、かぶとむしと追いかけっこをし。

彼の旅は実に楽しそう。

 

やがて「ぼく」は彼の欠落部分(つまり口)の形に合いそうな「かけら」たちに出会いますが、彼らは「ぼく」のかけらとなることを拒否したり、サイズが合わなかったり、落としてしまったり、壊してしまったり。

 

様々な経験や失敗を繰り返しつつ「ぼく」の旅は続きます。

その果てに、ついに「ぼく」にぴったりなかけらに出会います。

 

はまったぞ」「ぴったりだ」「やった! ばんざい!

 

完全な円となった彼は調子よく転がり出します。

けれど、あんまり早く転がれるので、今までのようにみみずと話したり、花の香りを楽しむこともできません。

口がふさがって、歌も歌えないのです。

 

なるほど つまりそういうわけだったのか

何かを悟った「ぼく」は「かけらをそっとおろし」、また元の欠けた自分に戻って旅を続けるのでした。

 

★      ★      ★

 

この単純な絵と文を見て、「これなら自分でも描けそう」と思った人もいるかもしれません。

絵本とはなんて簡単なんだと思った人もいるかもしれません。

 

でも、よくよく考えてみると、物語も絵も、そんなに単純ではありません。

 

こんな白黒の線だけで絵本を作ってしまう大胆さ、しかもそれが子どもから大人までどの年代が読んでも「自分の物語」として読めるというストライクゾーンの広さ。

なおかつユーモアがあり、リズムがあり、思想があり、何故か勇気づけられる力強さまでがある。

何よりも凄いのは、これを読む人に「単純で簡単」だと思わせてしまうところです。

 

そして「おおきな木」と同じく、この作品にも無限の解釈可能性が残されています。

 

自分に足りないものを埋めたいという願いは普遍的な感情ですが、実際にはその「足りないもの」こそが自分のアイデンティティであったり、「足りないもの」を求めて冒険している間が人生の幸せだったり、「足りないもの」があるからこそ、人生が豊かであったり……。

 

など、この物語をどう汲み取っても間違いではないし、どう汲み取っても汲みつくせない部分が残ります。

それこそがこのシンプルな線の絵と文の力であり、計算された効果なのです。

 

私も何度もこの絵本を手に取っていますが、最近は「パートナー探し」の物語として読んでいます。

「理想の恋人」「運命の一人」を探して、出会いを求め続ける人がいます。

出会いを斡旋する商売まであります。

 

けれども、自分の欠落感が「たった一人の運命の人」の出現によって埋められると信じている限り、彼らがそんな出会いに辿り着く可能性は極めて低いでしょう。

「ぼく」のように「かけら」という他者による自己完成を求めている限り、それは決して果たされない、満たされぬ欲望であることをこの物語は示しています。

 

私の妻はおよそ私と正反対の気質と性格を持ち、育った環境から価値観からまるで共通点のない人でした。

「合わない」ものを「合わせよう」と悩んだ時期もあります。

 

しかし今になって思えば、もし出会った当初から私と妻が「ぴったりと合う」かけら同士だったとすれば、私はそれで満ち足りて、結果として今の自分はいなかったでしょう。

「ぴったり」でないからこそ、私は変化できたし、そして妻も大きく変化できたのだと思います。

 

今でも私たちはちっとも「ぴったり」ではありませんが、おかげで互いを認め合うことができています(まだまだ衝突はありますが)。

 

本当に相手と繋がりたければ、相手に何かを求めるのではなく、互いが互いの「個」を自ら引き受けるしかない。

今の私にとって、これはそんな物語です。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

パックマン度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ぼくを探しに

■続編→「続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い

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