2018.12.28 Friday
【絵本の紹介】「かさじぞう」【295冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今日で仕事納めの方も多いと思われます。
今年最後の絵本紹介は、暮れの定番昔話から。
瀬田貞二さん再話、赤羽末吉さん作画による「かさじぞう」です。
再話:瀬田貞二
絵:赤羽末吉
出版社:福音館書店
発行日:1966年11月1日(こどものとも傑作集)
昔話絵本は同じ物語でも違う作者による作品が数あり、それぞれの差異を読むのも楽しみの一つです。
そう言いつつ、その中のどれか一冊を紹介するとなると、つい無難というか王道というか、そういうタイプを持ってきてしまいます。
でも、やっぱりいい絵本です。
これまでも度々登場頂いている赤羽さんですが、実はこの「かさじぞう」が彼の最初の絵本になります。
墨絵による雪の描写が秀逸で、これ以外の作品にも、赤羽さんは好んで雪の舞うカットを描かれています。
物語については、今さら細かく紹介するまでもないでしょう。
貧乏だけど清らかな生活を送る老夫婦の、奇跡の物語。
夫婦は編み笠を作っては町で売り歩いて生計を立てています。
ある年の大晦日、じいさんは5つの笠をこしらえて町へ出ます。
「しょうがつの もち かってくる。ことしこさ、いいとしをとるべな」
と、ばあさんに約束して。
でも、年越し市は盛っていますが、じいさんの笠は見向きもされません。
雪も降ってきて、仕方なくじいさんは帰りかけます。
その帰路、6体の地蔵さまが雪をかぶって立っていました。
気の毒に思ったじいさんは、大切な売り物の笠を地蔵さまにかぶせてやります。
しかし、笠は5つしかないので、一人分足りません。
そこでじいさまは自分のかぶっていた笠をぬいで、それを残った地蔵さまにかぶせて帰ります。
もちを買ってくるどころか、一つも売れずに、笠を全部地蔵さまにあげてしまったじいさまの話を聞いても、ばあさまは少しも嫌な顔をせず、「おじぞうさまに あげて よかったな」。
すると正月の明け方、「よういさ、よういさ、よういさな」とかけ声がします。
6人の編み笠をかぶった地蔵さまたちが、じいさまの家の前に山のような俵を降ろして行ってしまいます。
俵には「しょうがつの もちやら さかなやら、いえに かざる たからやら こがねやら」がぎっしり。
それから二人は幸せに暮らします。
★ ★ ★
この絵本はページの中に見開きの本のような構図を用いたユニークな作りになっています。
背景に使われた和紙の切り絵が、いかにも昔話らしい味を出しています。
この話には日本昔話に典型的な「いじわるな隣人」が出てきません。
ただ純粋に素朴で善良な老夫婦だけが描かれます。
「たとえ貧しくとも、心を清く生きて行けば、幸せになれる」
単純にして明解なメッセージを、幾世代を超えて語り継ぐ昔話。
けれども、現代では「清貧」という言葉はもはや死語となりつつあります。
目まぐるしい現代社会でそんなきれいごとを言っていては生きていけないのでしょうか。
また、見方を変えればこうした徳性は権力者に都合のいい労働力を生み出すために利用されかねません。
しかし「素朴であること」は「愚鈍なままで生きること」を意味しているわけではありません。
人間は賢くならなければいけません。
その上で善良な心を持ち続けることが大切であり、難しいことなのです。
人は「きれいごと」を冷笑しますが、「きれいごと」で生きるということは簡単ではありません。
殺伐とした時代ですが、せめて一年の結びくらいは「きれいごと」で締めくくりたいものです。
みなさん、よいお年を。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
お地蔵さまの表情に注目度:☆☆☆☆☆
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