【絵本の紹介】「だるまちゃんとうさぎちゃん」【306冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

去年から今年にかけ、私の大好きな絵本作家さんが次々と亡くなられました。

トミー・ウンゲラーさん、ジョン・バーニンガムさん。

そして、日本絵本界の長老的存在だった加古里子さん。

 

今回は加古さんの代表作「だるまちゃん」シリーズ第三弾、冬のお話を紹介しましょう。

だるまちゃんとうさぎちゃん」です。

作・絵:加古里子

出版社:福音館書店

発行日:1977年4月1日(こどものとも傑作集)

 

かなり久々の登場ですかね。

前2作の記事も併せてどうぞ。

 

≫絵本の紹介「だるまちゃんとてんぐちゃん」

≫絵本の紹介「だるまちゃんとかみなりちゃん」

 

てんぐちゃん」「かみなりちゃん」と来て今回は「うさぎちゃん」……。

わりと普通。

 

このシリーズは日本の伝説上のキャラクターや民芸品なんかが毎回登場するんですが、このうさぎちゃんも、日本のノウサギがモデルだそうです。

他シリーズのゲスト勢が個性的すぎて、どうしてもインパクトは弱いですが。

 

今回はだるまちゃんの妹の「だるまこちゃん」も大いに活躍します。

兄妹はスキーを楽しみ、雪だるまを作ります。

 

雪だるまの目にしたりんごが転げて、「うさぎちゃんと うさぎこちゃん」にぶつかって止まります。

だるまちゃんたちは一緒になって色々な変わった雪だるまを作って遊びます。

雪うさぎの作り方や、手袋を使ったうさぎ人形。

家に入ればナプキンやりんごや食器までうさぎ型にして遊びます。

お土産は新聞紙でうさぎの帽子。

最後までうさぎ尽くし。

 

★      ★      ★

 

様々な伝統的な遊びを紹介する「だるまちゃん」シリーズ中でも、この作品は特に最初から最後まで遊びの図鑑みたいな構成です。

どれも家ですぐに試せるものばかりで、我が家でも息子が手袋のうさぎ人形を作ってました。

 

加古さんは歌や絵遊びなど、日本に伝わる古い遊びの研究をライフワークにしており、ここに描かれたのはそのほんの一部でしょう。

それにしたって「丹下左膳」とか、もう今の子どもには馴染みがないどころか、親だって知らない人も多いかもしれません。

「座頭市」のほうは映画なんかでまだ知名度がありますが。

 

この作品に出てくるような遊びも、もう子どもたちもやらないし、そもそも誰にも教えてもらえないかもしれません。

何もない時代に、知恵を働かせて生み出した遊びを、下の世代の子どもたちに伝え、残していく。

そんな時代はもう終わってしまったのでしょう。

 

精巧に作られたおもちゃよりも、ただの棒一本、石ころ一つの方が、想像力を制限されない分、子どもたちは長く遊べたりするものです。

しかしそれも、電子ゲーム機には敵わないのでしょうか。

 

面白いでしょうしね。

しかも時間もかかるし。

さらに、面倒見る大人にとっても楽と言えば楽。

怪我も心配ないし。

 

しかしそれでもやっぱり、手間暇をかけて「遊び」を創造する仕方を覚えることは、大人になってからでも必ず役に立つことだと思うのです。

加古さんが未来の子どもたちに残そうとしたものの大切さを、もう一度考えてみたいと思うのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

だるまちゃん博識度:☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「だるまちゃんとうさぎちゃん

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「じゃあじゃあびりびり」【305冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本は大人が読んでも面白い、ということを何度もこのブログで力説していますが、言うまでもなく子どもが読んでも面白いものです。

さらにまだ言葉がわからない赤ちゃんでも楽しめる絵本はちゃんとあります。

赤ちゃんから大人まで、あらゆる世代に門戸が開かれているところが絵本の大きな魅力なのです。

 

というわけで、今回は「赤ちゃん絵本」を紹介するわけですが、これは私の息子の一番最初のお気に入りとなった作品でもあります。

個人的には赤ちゃん絵本の最高傑作だと思っています。

その名も「じゃあじゃあびりびり」。

作・絵:まついのりこ

出版社:偕成社

発行日:2001年8月(改訂版)

 

昨今の研究により、読み聞かせを始めるのは早い方がいいということは広く知られるようになりました。

 

≫読み聞かせはいつから?

 

が、さてさて、子どもに絵本を選ぶのも難しいのに、言葉も理解していない赤ちゃんを相手にどんな絵本を読んだらいいのか、まるでわからないという方も多いかもしれません。

私は息子が生後半年くらいから読み聞かせを始めましたが、一言も感想を言わないし表情もさほど変えない相手に絵本を読むというのは実に頼りない気持ちがするものでした。

 

物言わぬ赤ちゃんがどういう絵本を求めているか、しょせんは大人には完璧に理解することはできません。

そんな単純でありながら非常に難しい「赤ちゃん絵本」というジャンルにおいて、読者(赤ちゃん)からの圧倒的支持を集め、「魔法の絵本」とまで称されているのがこの「じゃあじゃあびりびり」なのです。

 

じどうしゃ ぶーぶーぶーぶー

いぬ わん わん わん わん

みず じゃあ じゃあ じゃあ

かみ びり びり びり びり びり びり

 

そんなリズムの単語と擬音のみで構成されています。

ページとページに関連性はなく、連続的に物事を捉える必要性もありません。

はっきりした色使いと単純化された造形。

かみ びり びり」のページは和紙の切り絵が用いられたりテキストの位置にこだわったりして、随所に工夫が凝らされています。

赤ちゃんにとっては写真よりも余計な情報のない絵のほうが入って行きやすいのかもしれません。

★      ★      ★

 

ま、はっきり言ってほとんどの大人には全然面白くも何ともない絵本です。

だからこれが赤ちゃんに大人気と言われてもよく理解できません。

半信半疑で読み聞かせてみて、予想以上の赤ちゃんの好反応に驚く方が大勢いるようです。

 

その理解できなさが「魔法の絵本」たる所以でしょう。

作者のまついさんは他にも「おたんじょうび」「おはよう」「ばいばい」などの赤ちゃん絵本を作っており、それらは「まついのりこあかちゃんのほん」シリーズとなっていますが、やはりこの「じゃあじゃあびりびり」が桁外れの人気みたいです。

 

初版は1983年、それから2001年に改訂版となった時に、赤ちゃんがかじったり舐めたりすることを考慮して、頑丈なボードブック仕様になりました。

 

我が家でも随分お世話になった一冊ですが、さすがに息子も5歳になったことだし、そろそろメインの本棚から2軍落ちして別の部屋の本棚に移動しました。

ところが、今でもたまに引っ張り出して読んでるんですね。

もちろん赤ちゃんの時のことなど何も覚えていないでしょう。

 

恐るべし、魔法の絵本です。

 

推奨年齢:0歳〜

読み聞かせ難易度:☆

謎の魔力度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ごきげんならいおん」【304冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「ごきげんならいおん」です。

作:ルイーズ・ファティオ

絵:ロジャー・デュボアザン

訳:村岡花子

出版社:福音館書店

発行日:1964年4月1日

 

ルイーズ・ファティオさんとロジャー・デュボアザンさんによる夫婦共作絵本。

彼らによるクリスマスの名作「クリスマスの森」を翻訳して柿本幸造さんが挿絵を差し替えた「サンタおじさんのいねむり」という作品を以前取り上げました。

 

≫絵本の紹介「サンタおじさんのいねむり」

 

やや長めの文章と、示唆に富んだ物語から、5、6歳〜小学校中級向きの絵本です。

デュボアザンさんの絵本は自分で文を書いたものも含めて、割とそれくらいの年齢向きの作品が多いです。

 

だから、有名な作品であるにもかかわらず、うっかりすると読む時期を逸してしまいがちな絵本でもあります。

絵本はいくつになったって読んでもらえば楽しいし、自分で読んだって少しもおかしくはない芸術作品なのだということを、もっと子どもたちに伝えていければと思います。

 

さて、内容に入ります。

 

美しいフランスの町中の公園内にある動物園に住む「いつもごきげんな らいおん」。

堀をめぐらした岩山を住居とし、町の人々からも愛され、夏になると同じ公園内の野外音楽堂から流れるワルツやポルカを楽しみ、自分の境遇に心から満足しています。

ある朝、らいおんは飼育係がうっかり戸を閉め忘れているのに気づきます。

らいおんはちょっと考えて、せっかくなのでいつも自分に挨拶してくれる町の人たちに会いに行こうと考えます。

いつも むこうから きてくれるのだから、きょうは おかえしにでかけなくちゃ」。

 

町に繰り出すらいおん。

顔見知りの「デュポンこうちょうせんせい」や「三にんの おばさん」「パンソンおばさん」といった人たちに会うたびに、らいおんは礼儀正しくお辞儀をして挨拶をするのですが、彼らはみんな、らいおんを見ると気絶したり逃げ出したり買い物袋を投げつけたり。

楽隊に近づいて行っても大騒ぎが起こります。

らいおんは困惑し、「このまちのひとたちは どうぶつえんに こないときは、いつも こんなふうにしてるんだな」と考えます。

 

一人くらいはまともに挨拶できる友達はいないものかと歩いて行くと、消防自動車が飛び出してきて、消防士たちが太いホースを手に、そろりそろりとらいおんに近づいてきます。

らいおんは何が始まるのかと思って黙って見ています。

 

すると突然後ろから声をかけられます。

やあ、ごきげんな らいおんくん

 

振り向くと、「しいくがかりの むすこの フランソワ」が立っています。

やっと普通に声をかけてくれる友達に会えたらいおんはすっかりごきげんになり、フランソワと一緒に公園へ帰るのでした。

 

★      ★      ★

 

あわや、というところでのフランソワの登場には心からほっとさせられます。

いつの時代も大人は偏見と先入観に囚われ、子どもは本質を見抜くものです。

 

そういう風刺的な物語でもあるのですが、一方、この「ごきげんならいおん」はあまりにも己が他者からどう見られているかを知らず、無邪気すぎるとも言えます。

けれど、この体験を経た後のらいおんの態度は見事なものです。

 

自分が堀の中の家にいさえすれば、会いにやってくる人々は行儀よく理知的に振る舞うのならば、らいおんはもう家から出て行こうとは思わないのです。

「自由に振る舞う」ということは、必ずしも正味の自分をさらけ出して我を押し通すことではないのです。

 

このらいおんは自分にとっての幸せが何かを知っており、外的な価値観や偏見に左右されることがありません。

「動物園の動物は幸せと言えるのか」という問いや、「動物は野生に帰るべきだ」という声も、このらいおんには関係ありません。

 

外的に迫ってくる「こうあらねばならない自分」という概念から自由であること。

それこそが真に自由な精神であり、幸せに生きるための秘訣でもあるのです。

 

続編≫「三びきのごきげんならいおん」

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

飼育係失格度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ごきげんならいおん

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【絵本の紹介】「ゼラルダと人喰い鬼」【再UP】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本界において一つの時代を担ってきた作家さんたちが次々と鬼籍に入られています。

かこさとしさん、ジョン・バーニンガムさんに続いて、異色の天才・トミー・ウンゲラーさんの訃報が届きました。

享年87歳。

 

このブログでも彼の作品を数々取り上げてきました。

彼の才能はもとより、権力者に対する鋭い風刺の目と、その反面子どもやマイノリティに対する限りない優しさが印象的なひとでした。

 

「すてきな3にんぐみ」「へびのクリクター」「月おとこ」など、たくさんのロングセラーを遺したウンゲラーさん。

哀悼の意を込めて、氏の独自性が最も強く表れている異色作「ゼラルダと人喰い鬼」を再UPします。

 

★      ★      ★

 

今回紹介するのはトミー・ウンゲラーさんの「ゼラルダと人喰い鬼」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1977年9月10日

 

その独創性・表現力・物事の本質を見極める目の確かさ・色使いの妙・構成の見事さ……。

他の追随を許さぬ絵本作りの名手、ウンゲラーさん。

 

これまでにこのブログでも何回か彼の作品を取り上げてきました。

 

ウンゲラーさんの唯一無二性は、彼の題材選びにあります。

ちょっと絵本作品としては選びにくい主人公やテーマを掬い出し、鋭い風刺の目と、確かな構成力、画力によって実に鮮やかに仕上げるのがウンゲラーさんの凄いところ。

 

ユーモアを交えつつ、あまりにもさらりと描かれているので、うっかり見過ごしかねませんけど、これは相当難しい作業だと思います。

この「ゼラルダと人喰い鬼」は、そんな作品群の中でも特に異質な題材の絵本です。

 

あっさり説明してしまえば、「恐ろしい人喰い鬼が、純粋な少女の力によって改心する」という、王道的童話なのですが、最初のページの人喰い鬼の恐ろしさと言ったら、とてもとても改心しそうには見えません。

 

血の付いたナイフを手に笑う凄まじい形相。

朝ごはんに子どもを食べるのが、何よりも大好き」という残酷な怪物。

檻から子どもの手だけが見えるのも、一層恐怖を煽ります。

 

町の人々は人喰い鬼を恐れて、子どもたちを隠します。

腹を空かせた怪物の前を通りかかったのは、ゼラルダという料理の得意な少女。

 

これ幸いとゼラルダを取って食おうとした怪物ですが、足を滑らせて崖から滑落。

町から離れた森の開拓地に住むゼラルダは、人喰い鬼の噂など何も知りません。

怪我をし、空腹で動けない怪物を哀れに思い、得意の腕を振るってご馳走を食べさせてあげます。

 

初めて食べるご馳走の味に驚いた人喰い鬼は、ゼラルダを食べる気をなくし、自分のお城に誘います。

人喰い鬼の財力にあかせて、ゼラルダは次々とおいしい料理を作ります。

人喰い鬼は大喜びで、近所の人喰い鬼を招待します。

怪物たちはみんなゼラルダの料理に感激し、子どもを食べることを止めてしまいます。

そして月日が流れ、とうとう人喰い鬼はゼラルダと結婚。

子どもを授かり、末永く幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

どうです、ラストの人喰い鬼の笑顔。

この鮮やかな転換は、「すてきな3にんぐみ」に通じるものがあります。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

しかし、よくよく考えてみれば、この人喰い鬼は改心したというわけではないのかもしれません。

最初から最後まで、彼の動機となっているのは「食欲」オンリーのように見えます。

 

まあ、町の子どもにお菓子を配ったりしてますし、文にない部分の怪物の心情は想像する他ありませんが。

そもそも、いくら子どもを食べることをやめたところで、それまで彼が数々の子どもを喰らった事実は変わりませんし、その罪はどうなるの? という疑問も残ります。

 

これは「すてきな3にんぐみ」も同様で、どろぼうたちは別に改心したわけではないのかもしれないし、最後に善行を施したからといって、それまでの罪が帳消しになるわけではないとも考えられます。

 

私たちはこれらの童話を「悪人が愛によって改心する」という定型に落とし込んで解釈したがるので、このラストにはどうしても釈然としない気分が残ります。

 

ウンゲラーさんはそれを承知の上で、上っ面の勧善懲悪を跳ね除けます。

自分と文化も感覚も異なる、理解を絶した「異邦人」に対し、己の「常識」や「正義」や「道徳」を持ち出してきても、ただ争いが起こるだけです。

そうした「異邦人」と共生する手段として、「食」という身体に根ざした欲求を持ってくるところが、この物語のリアリズムなのです。

 

そういう点を見逃して、「愛は偉大なり」的な読み込みをする大人に対する、ウンゲラーさんのとびっきりの「毒」が、最終ページに仕込まれています。

ゼラルダと人喰い鬼の間に生まれた子どもが、後ろ手に隠し持っているのは……。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

グルメ絵本度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ゼラルダと人喰い鬼

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【絵本の紹介】「くまのコールテンくん」【303冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私の仕事場には絵本のキャラクターたちのぬいぐるみがいくつも飾られています。

好きなものに囲まれているとテンションが上がります。

 

息子も割とぬいぐるみ好きです。

 

しかし、子どものぬいぐるみの愛し方は大人のそれとは違いがあるようです。

大人はやっぱり大事に綺麗に飾っておきたがるものですが、子どもにとってぬいぐるみは飾るものではないんですね。

 

常に引っ張り倒し、いじりたおし、こねくり回します。

時には乱暴な扱いに見えても、それが子どもにとってのぬいぐるみの可愛がり方なのでしょう。

 

今回は「くまのコールテンくん」を紹介します。

作・絵:ドン・フリーマン

訳:松岡享子

出版社:偕成社

発行日:1975年5月

 

ビロードうさぎ」や「こんとあき」と並んで「子どもとぬいぐるみの絆」を描いた名作です。

 

≫絵本の紹介「ビロードうさぎ」

≫絵本の紹介「こんとあき」

 

コールテンくんは、大きなデパートのおもちゃ売り場に陳列されているくまのぬいぐるみ。

他のぬいぐるみや人形たちと同様、早く誰かのうちに連れて行ってもらえるのを楽しみにしています。

ある日、母親に連れられた女の子が、コールテンくんに目を留めます。

あたし、ずっとまえから こんな くまが ほしかったの

 

でも、母親はコールテンくんのズボンのボタンが取れているのを見て「しんぴんじゃないみたい」と買ってくれません。

がっかりしたコールテンくんは、夜になってからボタンを探しに行くことにします。

 

深夜、誰もいなくなったデパートで、コールテンくんはこっそり動き出します。

エスカレーターに乗ったり、家具売り場に迷い込んだり。

 

コールテンくんは初めての冒険に興奮しながら、最後は売り物のベッドに付いているボタンを引っ剥がそうとして電気スタンドを倒してしまいます。

音を聞きつけた警備員のおじさんが飛んできます。

ベッドの上のコールテンくんを見つけて、

こいつあ おどろいた! どうして おまえが、こんなところに いるんだ?

と、コールテンくんを元の棚に戻します。

次の朝、デパートが開くと同時に昨日のリサという女の子が来店します。

コールテンくんを見つけてにっこり笑い、

あたし、あなたを つれに きたのよ

 

リサは自分の貯金をおろしてコールテンくんを買いに来たのでした。

彼女はコールテンくんを箱にも入れずに抱いて帰り、ズボンのボタンを付けてあげます。

 

★      ★      ★

 

フリーマンさんの絵がとても素敵です。

はっきりした線と色で、どのカットからも生き生きとした動きが読み取れます。

 

一枚の絵からコールテンくんの動きの先までちゃんとわかるのです。

コールテンくんや他のデパートのぬいぐるみたちの微妙な表情の変化が、子どもにとってのリアリティを生んでいます。

 

ぬいぐるみたちはあくまで物言わぬ存在として描かれる一方で、最終シーンではリサとコールテンくんは会話を成立させています。

リサもコールテンくんも、「ずっとまえから……してみたかったんだ」という言い回しを繰り返しますが、最後に二人の願いが通じ合うのです。

「運命の出会い」というものは「ずっと前から待っていた」誰かに巡り会うことですが、ぬいぐるみと子どもには確かにこの「運命の出会い」が存在するのでしょう。

 

私が持っていた「こぐまちゃんとしろくまちゃん」のぬいぐるみはすっかり息子のお気に入りとなり、しょっちゅう話しかけています。

何故か何度直しても服は全部脱がせてしまうし、放り投げるし、折り曲げるし……。

 

壊されそうでハラハラしてしまいますが、これも息子の成長に必要なことなのだろうと、今はもう諦めています。

あるいはそれこそが正しいぬいぐるみの可愛がり方なのかもしれません。

 

でも、新しく買ったぬいぐるみたちは、息子に見せずに仕事場に飾ることにしています。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

絵と物語と人物の素直さ度:☆☆☆☆☆

 

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