こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今年亡くなられたジョン・バーニンガムさんとトミー・アンゲラーさんの絵本を読み返す機会が増えました。
私は絵本作家本人とその作品の関連性を考察したりしますが、別に優れた絵本は優れた人間から生まれるとは思っていません(逆も然り)。
けれど、この二人に関しては作品と人間性が実に一致してると感じています。
二人とも、とてもカッコイイ大人の男なんです。
今回はバーニンガムさんの「アルド わたしだけのひみつのともだち」を紹介します。
作・絵:ジョン・バーニンガム
訳:谷川俊太郎
出版社:ほるぷ出版
発行日:1991年12月1日
簡単に内容をまとめてしまえば、孤独で内向的な少女が、「アルド」という空想上のともだちを心の支えとするお話です。
表紙で女の子と肩を組んでいるのがアルド。
マフラーをした巨大なうさぎみたいな外見。
で、率直に感想を申し上げると「暗い」んですね。
書評なんかを見てますと「心温まる」なんてワードが出てきますが、私はあんまり心温まりませんでした。
暗いもの。
大型絵本の体裁で、テキストは少なく、絵の余白が目立ちます。
色彩もどこか暗く儚く、危うい脆さを内包しています。
さらにアルドが無表情でセリフがなく、どこか不気味な点もこの作品が暗い要因のひとつです。
この暗さは、例えばぬいぐるみと少女の交流を描いた林明子さんの傑作「こんとあき」と読み比べると一層際立ちます。
≫絵本の紹介「こんとあき」
他の人の目にも見えて、大いに喋って動いて活躍する「こん」の圧倒的存在感に対し、アルドはあくまでも主人公の心の中にのみ存在し、他者には見えないし物理世界に影響を及ぼすこともできません。
この明確な陰陽はなかなか興味深いところです。
テキストは少女の独白で語られ、のっけから「わたしはひとりきりで すきなように ときをすごすことがおおい」と内向的。
この少女はあまり外へ出かけたり他の子と遊んだりするのが得意ではないのです。
彼女は自分のことを「とてもとてもうんがいい」と思っています。
それは特別な友だちのアルドがいてくれるから。
学校でいじめられた時、夜中に怖い夢を見て目を覚ました時、アルドが来てくれて安心させてくれるのです。
アルドのことは誰にも話せません。
言っても信じてもらえないことは少女にもわかっています。
けれど、本当にアルドはいるのだということを少女は知っています。
時にはアルドのことをすっかり忘れている日もあるけれど、本当に辛いことがあれば、アルドは必ず来てくれるのです。
★ ★ ★
少女の内面世界や、精神分析的な考察はいくらでもできますが、それは於いておきましょう。
ここではバーニンガムさんがどうしてあえてこの物語をここまで「暗く」描いたのかについて考えてみます。
アルドと少女の「遊び」のシーンは幻想的というよりも怪奇的で、はっきり言って私には怖いくらいです。
そして、ここには私のような大人が内心望むところの「少女の精神的成長」が描かれません。
少女は最初から最後まで内気で孤独であり(最後に他の友達と遊ぶ姿もあるけど)、アルドだけが心の支えである、という認識のまま物語は終わります。
そこがこの絵本が「暗い」最大の理由です。
大人としては、子どもが想像上の友だちを持つことは理解するけれど、いつかはそこから現実世界へ踏み出して「強く」生きて欲しいと思うことは避けがたいことです。
つまり、アルドの助けを得て、最終的には少女はアルドなしで世界に立ち向かう強さを手に入れるという物語ならば、こう暗くはならないと思うのです。
以前紹介した「ラチとらいおん」なんか、まさにそういう絵本です。
「らいおん」はアルド同様他者にはおそらく見えませんが、この作品とは比べようもないほど明るい絵本です。
≫絵本の紹介「ラチとらいおん」
それを承知の上でバーニンガムさんはこういう描き方をしたのでしょう。
それは彼の子どもへの「無条件の承認」という限りない優しさから来ているのです。
彼は子どもに「成長しろ」と決して言いません。
内気な子もそうでない子も、そのありのままを受け入れ、認めます。
大人たちは子どもが一人遊びをしているとすぐに心配します。
「友だちと遊ぶことは無条件に良いこと」だと言わんばかりに、一人遊びをやめさせ、大勢の中に放り込もうとします。
大きなお世話です。
でも、たいていの子どもは素直なので、一応他の子と遊んでみます。
しかし、やっぱりそれは自分の正直な欲求とはずれているわけで、辛いわけです。
放っておいたって、友だちと遊びたくなれば遊ぶものを、周りの大人がそういう余計な手出しをするから、子どもは一人でいること・一人でいたいと思うことがまるで悪いことのように思ってしまいます。
で、余計に内向的になって、隅っこで一人になるわけです。
もっと堂々と一人でいたっていいじゃないですか。
一人遊びはちっとも悪いことでも恥ずかしいことでもないんですから。
バーニンガムさんはその懐の深さと本物の優しさから、ある種の子どもたちの救いとも言うべきこの絵本を描いたのだと思います。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
空空寂寂度:☆☆☆☆
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■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「300冊分の絵本の紹介記事一覧」
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