2019.08.27 Tuesday
【絵本の紹介】「算数の呪い」【335冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
夏休みも終わり、新学期が始まりますね。
憂鬱な気持ちの子どもたちも多いかもしれません。
私はあまり勉強の好きな子どもではありませんでしたが、中でも数学は苦手で、ほとんど苦痛でした。
面倒な式、難解な用語、集中力のない自分には辛い計算。
そして最終的には「いったいこれが何の役に立つの?」という、数学を放棄する子どもたちの常套句を口にするのでした。
さて、今回紹介するのはそんな難解な数学用語がたくさん登場する珍しい絵本です。
そのおどろおどろしいタイトルと、若干ホラーテイスト漂うイラストに、ちょっと手に取るのをためらいがちな作品ですが、あにはからんや、これが数学アレルギーの私でさえ最初から最後まで楽しんで読める傑作なのです。
「算数の呪い」。
作:ジョン・シェスカ
絵:レイン・スミス
訳:青山南
出版社:小峰書店
発行日:1999年1月12日
私の息子にも絶対にウケると確信して読んでやったところ、予想以上の高評価。
我が家に数千冊ある絵本の中でも栄えある「リピート率高い絵本」にランクインしました。
特に様々な単位がびっしりと書かれている見返しがお気に入りの様子。
「楽しく数学を学べる」系の絵本かと言えばそうでもなく、どっちかというと悪ノリのユーモア絵本という印象で読んでいると、割にマジな数学知識が登場したり、なかなか一筋縄では行かない作品です。
算数の授業中「フィボナッチ先生」がいった「たいていのことは、算数の問題としてかんがえられるんですよ」の一言がきっかけで、目の前の現象すべてが算数の問題として現れるようになってしまった(ちょっと神経過敏ぎみの)少女。
「おきたのは7:15」
「服をきるのに10分で、朝ごはんを食べるのに15分で、歯をみがくのには1分かかる」
「1 バスは8:00にきますが、まにあいますか?」
「2 1時間は何分ありますか?」
「3 1つの口に歯は何本ありますか?」
この調子で問題責め。
「1ガロンは何クォートですか?」なんていう、耳慣れない単位も飛び出します。
ピザを分ければ分数の問題、英語の時間なら「mail+box=mailbox」、図工の時間は古代マヤの数字。
ちょいちょい算数と関係ない問題を混入し、油断してるとすぐに足をすくわれます。
有名なフィボナッチ数列や、4進法、2進法などの考え方もさらりと登場。
問題の出し方は非常にユニーク、そしてイラストはハイセンス。
次から次に出てくる問題に少女はふらふら、読者であるこっちの頭もごちゃごちゃ。
夢の中で少女は最大の危機に襲われますが、よくわからない機転で切り抜け、ついに呪いを解きます。
晴れ晴れとした気分で目覚める少女。
ところが平和な気持ちは束の間、今度は「ニュートン先生」が「たいていのことは、理科の実験としてかんがえられます……」
★ ★ ★
子どもには、いや大人にだって難しすぎる問題を、いちいち立ち止まって解こうとする必要はありません。
最後まで読んだら、時間と余裕がある時にじっくりと一人で考えてみましょう。
裏表紙にはとてもありがたい「こたえ」が掲載されています。
答え合わせをしながら、必ずもう一度笑えることをお約束します。
さて、数学に悩まされた頃の私が発した「これが何の役に立つの?」というあのワードこそが、実は自分自身に対する「呪いの言葉」だったことに気づいたのは大人になってからです。
一度その言葉を口にすれば、あらゆる学習意欲は削がれます。
それは無知で無力な子どもにとっては恐るべき呪いです。
私の周りにはその呪いを解いてくれるような大人はいませんでした。
彼らの答えは「受験に必要」だから「今は我慢して」勉強しろ、というものだったのです。
いくら無知な子どもでも、彼らの人生観の空虚さだけはわかりました。
けれども、そういう大人から逃げたつもりで、結果的に「学び」を放棄してしまったことは、とてつもなく大きな代償だったと思います。
受験という制度が子どもたちから奪ったもの(これからも奪い続けるもの)の多さは深刻です。
遠い未来にはこんな制度はなくなるでしょう。
愚かだからです。
子どもは本来「受験のために」勉強などしません。
そんなことを心からしたがる子どもはいません。
彼らは自分の生を充実させてくれる「知」を求めます。
かつてプラトンは、自分のもとで哲学を学ぼうとする弟子に、必ず数学を学ぶことを義務付けたといいます。
それは数学の持つ「真理」の概念を学ばせるためだと思います。
「1+1=2」という概念はすべての人間に平等に顕現する真理です。
明晰な思考はそうした真理という土台の上に構築しなければなりません。
いずれは子どもの学びというものが、上記のような理念のもとに考え直されなければならないと思います。
その根っことなるのは、幼児期から知的好奇心を自然な形で満足させてやることです。
子どもが本来持っている「おもしろいか、おもしろくないか」の基準は、実は非常に正確であり、その後の人生にとっても重要な意味を持つのです。
子どもたちがこの絵本を読みたがるのは数学の勉強のためではなく、「おもしろいから」という理由でしかないはずです。
そして、それで良いのです。
推奨年齢:7歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
学校の成績貢献度:☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「算数の呪い」
■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「300冊分の絵本の紹介記事一覧」
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