2019.10.28 Monday
【絵本の紹介】「かぼちゃひこうせんぷっくらこ」【344冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
ハロウィン近しということで、かぼちゃの登場する絵本を持ってきました。
北欧の児童文学作家と童画家による「かぼちゃひこうせんぷっくらこ」です。
作:レンナート・ヘルシング
絵:スベン・オットー
訳:奥田継夫・木村由利子
出版社:アリス館
発行日:1976年10月10日
二匹のかわいいクマが巨大なかぼちゃ型飛行船に乗って遊覧している表紙絵。
楽しそうな作品で、読んでみると実際に楽しいんですけど、くまくんたちの会話に差し込まれる哲学的・詩的な表現がやけに心にひっかかって、咀嚼しきれない不思議な読後感を残します。
派手ではないけど、忘れることのできない、独特な作品。
二匹のクマは「おおぐま」「こぐま」というそのまんまなネーミングのキャラクター。
しかし読み進めるうち、そういう呼び名にも意味が込められていることに気づきます。
二匹は親子や兄弟ではなく「ともだち」で、一緒に住んでいるルームメイト的関係。
ある時、こぐまくんの食事の中に何かの種が紛れ込みます。
「うえてみようよ。こぐまくん」
「あめがふっているのに?」
「あめも また たのし、かささせば……」
「おおきなくまは きんのかさ ちいさなくまは ぎんのかさ」
こんな洒落た会話を交わしつつ、二匹は種を庭に埋めます。
やがて種は芽を出し、どんどん大きくなって、かぼちゃを実らせます。
かぼちゃはさらに巨大化していき、家を圧迫し始めます。
二匹はかぼちゃをくり抜き、窓を開け、かぼちゃの中に引っ越します。
やがて嵐の夜にかぼちゃは海に吹き飛ばされ、船になります。
「ぼくたち、うみぐまだ。おおくまくん」
「こんなときは つりにかぎるぞ。こぐまくん」
二匹は魚を釣り、船上生活を楽しみます。
冬が来て雪が降ると、
「このままいくと、ぼくら、しろくまになるぞ」
「ゆき また たのし、ひをたけば……」
火をくべると、暖まった空気によってかぼちゃは空に浮かびます。
「おう。こんどは そらくまだな。こぐまくん」
「そんなくま、どこにもいないよ。おおくまくん」
「えほんのなかに いるじゃない?」
「おおくまくん。ぼくたち、そらをとんでいると、”おもった” から、ぼくたち、ほんとうに いるんだね」
「おもうこと また たのし、か! こぐまくん」
かぼちゃひこうせんは「ぷっくらこぉ ゆったりこ」と空を飛んでいきます。
★ ★ ★
この絵本を特別な印象にしているのは、やっぱり文章の軽妙さ・不思議さでしょう。
幼い子には難解に思われるかもしれない言い回しが多用されますが、子どもにとって重要なのは「意味」以前に「響き」です。
繰り返される「……もまた たのし」という言葉の、本当に楽しくなってくるリズムの良さ。
どんどん大きくなって、船や飛行船になるかぼちゃ。
伸びやかな空想の世界は絵本にはよくあるところのものですが、最終シーンにおける二匹の会話は、ちょっと普通の絵本ではありません。
このくまたちは「絵本の中」にいるのであり、それゆえに「うみぐま」にも「そらくま」にもなれる自由さを持っているのだということ、そしてその自由さはまさにこの絵本を読んでいる読者の「思考」の中にこそ存在しているのだということを、二匹の会話は示唆しているのです。
「ぼくたち、そらをとんでいると、”おもった” から、ぼくたち、ほんとうに いるんだね」というデカルト的なこぐまくんのセリフは、「空想絵本」としてあっさり読み込もうとする大人の鈍った思考に鋭い一撃を打ち込みます。
この不思議な絵本の舞台は「心」であり、その世界は「詩」と「哲学的思考」によって無限に広がっていくのです。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
二匹の精神的豊かさ度:☆☆☆☆☆
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